SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第八十五話

 終わるの、コレで。私の、レヴューが。

 落ちていくマントを見つめながら華恋はどこか他人事のような気持ちでソレを見つめていた。

 強かった。一方的だった。圧倒的だった。敵うわけ、なかったのだ。最初から決まっていたことじゃないか。そう誰もが言ってくれると思う。

 当たり前だ。彼女、まひるは未来の一流劇団に所属しているれっきとしたプロ。いくつもの苦しみや悲しみ、挫折を乗り越えて来て、成長したプロの団員なのだから。

 対して、自分はどうだ。

 記憶も、体験も、今の自分以上の物を持ち合わせていない。彼女たちからみたら童で、世の中の事を何も知らず、綺麗事しか知らないありふれた人生を送っているだけの子供。劇を知り始めたばかりのアマチュアなのだから。負けるのは、当然のことだ。当然の事なのに、とても悔しい。

 負けるのが正しいのか、いや違う。勝った負けたに正しいも何もない。あるのは、結果という揺るぐことのない真実だけ。

 自分は、その真実を追い求めていたか。追っていた。追っていたはずだ。でも、どこかで諦めていたのかもしれない。

 彼女たちと同じ舞台に立つことはもうできないのだと。彼女たちとの力の差は歴然であるのだと、そう思い込まされていたのかもしれない。

 でも。

 嫌。

 嫌。

 嫌。

 負けるのは。

 嫌だ!!

 

「ッ!」

「え?」

「華恋!!」

 

 華恋の取った行動は、あまりにも突飛な物だった。その光景を見ていた観客席にいた面々もまた、そんな彼女の姿を見て唖然となる。何が起こったのか、それはこの後の亀山の台詞がすべてを物語っているだろう。

 

「あの子、腕を刺しやがった!!」

 

 このレヴューはマントが地面に落ちたら終了、敗北となる。逆を言えば、絶対にマントを落とさなければ敗北とはならないのだ。ソレを踏まえた上での咄嗟の行動だった。華恋は自分の肩に剣を刺し貫き、自分の肩から落ちようとしていたマントをつなぎとめたのだ。

 瞬間、溢れ出したのは鮮血。それも滝のように溢れ出すそれに、危険だと判断した亀山は、舞台の上に向かう勢いで立ち上がった。しかし。

 

「落ち着いてください、亀山君。どうやら、あれは舞台装置の様です」

「へ? 舞台装置?」

 

 杉下に言われて冷静になった亀山は目を凝らしてみる。すると、確かに舞台の脇の方、暗いところに巨大な機械が置かれていて、そこから鮮血のように真っ赤な液体、絵の具だろうか、それが彼女に向けて発射されているように見える。

 

「どうやら服と身体の間を縫って剣を刺しているようです。恐らく、それを舞台が察知して、視覚的に分かりやすくするようにしてくれているのでしょう」

「な、なんでそんな事を……」

「決まってるじゃないですか。マントを落とさない為ですよ」

「ッ!」

 

 右京は冷静に推理した。そしてその推理は正しい物。事実、他の舞台少女たちも口々に呟く。

 

「マントが落ちない限りレヴューは続く。今まで私達もソレを考えたことはあった。でも……」

 

 そう、レヴューが終わりを告げるのは、その羽織っているマントを落とされたその時。つまり、そうならないように自分の武器で、最初からマントと服を貫いて、縫い合わせればそれで地面にマントが落ちることはないのだ。

 あの時の、自分たちにとっては数年前、華恋にとってはちょっと前のオーディションの時に、誰しもが考えて居たこと。しかし、誰も実践しようとしなかった事。

 危険だから。いくら殺傷能力のない偽物の武器、小道具であったとしてもひとつ間違えてしまえば他人を、自分を傷付ける刃物となってしまう。それを分かっていたからこそ彼女たちはその方法を取ることはなかった。

 逆に言えば、その方法を取ったと言う事は。

 

「華恋……」

 

 それだけ、彼女の決意が固いと言う事。

 

「華恋ちゃん、どうして……」

 

 そして、それは華恋の目の前にいたまひるにも容易に想像することができた。

 どうして、か。愚問のはずだ。知っていたから、彼女がどれだけ舞台に憧れを抱いてきたのか。彼女がどれだけキラめきを追い続けて、どれだけのキラめきを他者に与えて来たのか。

 その恩恵を一番受けていた自分だから、知っていた。彼女は絶対に、諦めることはないのだと。

 

「約束、したんだ。ひかりちゃんとスタァライトするって……約束、したから!!」

 

 少女の頃の約束。もう、年数を数えても仕方がない。オーディションやレヴューや舞台少女の事なんて全く何も知らなかった童の頃に交わしたひかりとの約束。

 一緒に見たあのスタァライトの舞台。そこに一緒に立とうという夢、希望、そして目標。ソレがあったから今の自分があって、今のひかりがいて、そして今のまひるたちがいる。

 多くの人の人生を変えて来た、彼女自身の目標。ソレがあるからこそ、彼女はあのオーディションの時に挫けなかった。挫けても、ちゃんと顔を上げて、立ち向かって、そして最後には誰も予想だにしなかった新しいスタァライトを見つけ出した。

 それが、愛城華恋。

 それが、舞台少女。

 それが、自分の憧れ、そして、ライバル。

 

「華恋ちゃん……潔くない、よ!!」

「そうだよ!」

「ッ!!」

 

 そう叫んで華恋に刺さった、正確に言えば華恋の服に刺さった剣を抜くために手を伸ばしたまひる。今のこの状況、華恋は武器を失ったことによって何の反撃手段も持っていない。だから、まひるは手を伸ばして、その剣を抜くだけ。

 そのはずだった。しかし、華恋は叫んだ。自分は、彼女の言う通り潔くなんてないのだと。

 その瞬間だった。

 

「舞台が……」

「崩壊する……」

 

 彼女たちを囲っていたかきわりが、そして天井から吊るされていた小道具類が、ひび割れ、崩れ、落ちていく。どこか知らない奈落の底に。深い深い、遥か地下に降りてきたはずなのにそれ以上に地下深くに落ちていくソレらに目を配ることなく華恋は叫び続ける。

 

「潔くない。格好良くない。自分が未来で何を思ったのか、考えたのか知らない! でも、これだけは知ってる!」

 

 そう言うと、華恋はまひるが伸ばした手を掴んだ。必死の力で、そして吠えた。自分の思いを。自分が知っている、たった一つの舞台の大原則を。

 

「舞台は、一人で作るものじゃないから!」

「ッ!」

「これは!!」

 

 その時、右京はスッ、と立ち上がった。彼には見えたのだ。彼女の肉体が、一瞬だけ光り輝いたのを。舞台装置じゃない。正真正銘、彼女自身から放たれた輝き。それは、一つの色だけじゃない。たくさんの色、赤や青や黄色や緑。それ以外、自分の知っている限り、知らない色まで混じった欠片のようなキラめきが彼女の中からあふれ出している。

 一流の舞台女優が魂を込めて叫んだかのような、そんな雰囲気を彼は幻視したのである。

 舞台は、一人で作る物ではない。勿論、舞台の上に出ている人間たちだけでカタチづくる物ではない。その裏には多くの人間の働きがある。

 舞台の台本を作る人間。舞台の演出をする人間。はたまた舞台を成功させるためのプロモーション活動を行う人間。それに舞台の公演中にも、たくさんの裏方が走り周り、舞台から一端下りた女優の衣装を交換したり、ライトを照らしたり、時には音楽を奏でたり、そう言ったたくさんの裏方のおかげで舞台という物は成り立っている。

 彼女は理解している。知っている。その、舞台女優として最も理解するべきことを。人間として、覚えていなければならない大切なことを。

 持っている。自分自身の正義を。自分のように、ハッキリと。

 

「その世界が間違っているとするのなら、私は……世界を変える!!」

 

 刹那、世界は一変した。

 

「私の革命は、ここから、始まる!!!」

「これは……」

「舞台が、変わる……」

 

 舞台が突如として動き出し、二人がいる一画を除いてすべての床が、天井が、かきわりが入れ替わった。まるで、元からそんな世界なかったかのように。まるで、彼女の言葉に応えるかのように。

 瞬間、暗闇にまみれたステージ。まひるは、華恋の手が自分の腕から離れた感覚を感じた。彼女はその後すぐに華恋の事を手探りで探した。でも、触れることはできない。暗中模索とはこのことだ。

 いくら手を動かしても何も当たらない。誰にも触れることはできない。当然だ。まひるは、華恋よりもずっと高みにいたのだから。

 彼女たちの距離は、離れていたのだから。自分が経験した舞台女優としての年月も、心も。

 離れていた。二人とも、≪同じ距離≫を。その間を埋める物は人生経験や、練習じゃない。ましてや、キラめきでもない。

 ソレを埋めることができるのは―――。

 

「ッ!?」

 

 決して、負けないと言う気持ち。

 誰かが言った。

 強者であると言う事は、絶対的な負けず嫌いであるのだと。

 誰かが言った。自分が負けだと思っていないうちは負けていないのだと。

 華恋が、十数本ものライトをレーザーのようにその身に受け、ソレらが舞台を薙ぎ払う様に何度も何度も横切り、叫んだ。

 

「星屑溢れるステージに、華麗に咲かせる愛の華! 咲かせた華の名は忘れたけれど、新たな若芽をまたつける!」

 

 それは、光。

 

「99期生、愛城華恋!」

 

 それは、希望。

 

「皆で、スタァライトしちゃいます!!」

 

 それは、夢。

 舞台少女愛城華恋は、今もなお進化中なのだ。舞台の上でなくても、舞台の上であっても。舞台の上であるからこそ、進化することができる。

 だから彼女は、ここにいる。




 流石に、このレヴューで使用されてきた曲の共通点に、気がついてますよね?
 と言うことは、次回は残ったうちの『どちら』か。
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