SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第八十九話

「えっと、ここ……だよな?」

 

 桐ケ谷和人が鏡飛彩からある場所の住所を受け取った次の日の事。彼が訪れたのは、一点を除けば普通の高層ビルといってもいい場所だった。と言っても、その一点があまりにも異質すぎるのでソレを除くのも無理目な外観をしている建物。

 まるでヤシの木を思わせる形をした細長い建物は、その頂上には本当に自分を木と思い込んでいるように枝が四方八方に伸び、おまけに実のような外装の部屋も見える。

 色々と物理法則を無視しているような外観に心の中でツッコミながら、和人はその会社≪ココナッツベイ≫の中に入っていく。そして、病院の時と同じように受付に向い飛彩の紹介で来たと言うと、やっぱりこっちもテンプレ的な言葉を発して、どこかに電話をかける。

 一度奥に下がった受付嬢は何かカードのようなものを取り出すとそれを和人に丁寧な様子で手渡す。

 

「これを、奥のエレベーターの中でご使用ください。社長の部屋は最上階となっており、直通となっております」

「しゃ、社長!?」

「はい、そうです」

 

 こんな大きな会社の社長に会う事になるなんて思っても見なかった。けど、だったら尚更どうして飛彩はこんなところに己を呼び出したのかと、彼はやはり絢爛豪華なエレベーターの中であれこれと考える。

 この会社は宝石品を売っている会社だ。百歩譲ってここがゲームの開発会社だったら、そこで何かしらのことをする事を条件に、なんて希望的観測ができるのだが、しかしあの人の言葉の使い方からして、そもそも自分にSAOをプレイさせるつもりなんてさらさらないのかもしれない。

 だから、ここもまた自分をプレイさせないために適当に知り合いの社長を紹介した、そんな可能性すらよぎってしまう。

 もしもそうだったら、もう一度あの病院に行くだけだ。何度も頼み込んで、説得をして、そしてあの世界への道標を築き上げる。

 でも、社長なんて肩書きの人間に会う約束をさせられたのだから、一旦は話をしなければならない。基本的に内気な普通の少年が、そんな立場の人間に会う機会なんてあるわけなく、これでも実は緊張で足がすくんでるほどだったりする。

 いつのまにかエレベーターは止まり、彼はとても広い廊下に出た。そこは基本的には一本道で、しばらく進むと大きなドアがあり、その前に立つとまるで魔王の部屋の前のように自動で両方に開く。

 そして、彼の前に現れたのは。

 

「うわぁ……」

 

 なんとも、子供心をくすぐる内装だ。入り口から見て中央には大きなテーブルがあり、その部屋に入るための通路は、どこか未来的なSF感のある壁で包まれている。少し進んだ先の左手側にはシャッターで閉じられた窓が、そして右手側はソファやバーの椅子のような物が置かれていて、この部屋の主人の私物だろう物がいろいろ置かれていて、なんだか秘密基地のように思える。

 これが、社長室なのか、とてもそうには見えない。

 

「やぁ、よくきたね桐ヶ谷和人君」

 

 この、カラフルな私服感あふれるアロハシャツを着ている人間が社長であるとも、とてもは思えない。

 

「あ、はい。初めまして……桐ヶ谷和人です」

「私は、博多南無鈴。この会社の社長をやってる。よろしく」

「ど、どうも」

 

 やや挙動不審となってしまった和人。自分の想像してなかった社長像を持った人間を前にして逆に警戒心を強めているのか、博多南を取る手にも緊張が伝わってくる。

 博多南は、そんな和人を見ながら、どこか≪彼≫に似ているなぁと、今はゲームの世界にて戦っている戦士の姿を思い浮かべながら言う。

 

「さて! 早速だけ君には、シミュレーターを使ってもらう」

「シミュレーター?」

「そう、わが社が作り上げたシミュレーターさ」

 

 来てくれ、というその言葉で和人は、先ほど歩いた廊下を歩き、博多南と共に再びエレベーターに乗り込んだ。

 そして、それからわずか数分後の事。たどり着いたのは建物の地下深くの部屋だった。

 

「ここは……」

 

 銀色の、素材そのものを使ったと思われる廊下を進んだ先。両端には其々に扉が設置されていて大体十部屋はあるだろうか。和人は、そのうちの一つの部屋に通された。シャワー併設のロッカールームを抜け、何やら近未来的な司令室を思わせる物を通り過ぎた先、そこが博多南が案内したかった場所なのは明白だった。

 部屋の大きさは、大体バスケットコートくらいはあるだろうか。かなり広い。四方を緑の幕に囲まれていて、地面はラバーコートのように衝撃を吸収してくれる。一体、ここは。

 

「ここがシミュレーター……SAOディレイログインプレイヤー専用のシミュレーターさ」

「ッ!?」

 

 そう、和人は聞いた後に、思い出す。昨日の、飛彩の言葉を。

 

『ここでゲームを最高レベルまでクリアしろ』

 

 と。まさか、そう言う事なのか。和人は一つの可能性を思い浮かべると同時に、まるで博多南がその和人の思考を補強するかのように言う。

 

「この場所は、SAOをこれからプレイする予定の人たちに無料開放する予定なんだ。弱いレベルの敵から高レベルの敵までフォログラムで投影もできるし、カメラによる自分の動きの確認までできる。SAOディレイログインプレイヤーへと一番寄り添った施設、ともいえるのかもしれないね」

「ここが……」

 

 その発言で、和人はついに確信に至った。自分は、ここで、最強になる事、それが飛彩からの指示だったのだ。それにしても、驚きである。

 

「まさか、宝飾品メーカーの地下にこんなものがあるなんて……」

「ビックリしたでしょ? 本当は別の理由で用意した施設にちょっとばかし手を加えただけなんだけどね。これと同じ部屋が、他にもいくつかあって、特に君にはある人からVIP級の対応をしろ、って助言されてね、ここで一日中シミュレーションをすればいい」

「ある人?」

 

 その人物は、どうやら飛彩の事ではないらしい。しかしこの施設は色々な意味でプレイヤーにとってメリットとなるはずだ。

 SAOはただ指をこねくり回したり、キーボードを操作するような普通のゲームじゃない。自分の身体を、脳を、常に動かしてプレイする物。元々、SAOの世界に入る前にどこかで身体の勘を鈍らせないようにしなければならないとは思っていた。幸か不幸か、自分の家には道場があったのでその場所自体は確保できるのだが、実際に敵を前にして戦う練習ができるなんて、願ったりかなったりだ。

 でも、和人には二つの疑問があった。

 

「こんな場所を提供して……いいんですか?」

「ん? 何がだい?」

「だって……SAOの開発に協力した会社や企業はことごとくバッシングを受けてるでしょ? こんな、SAOのプレイを助長させるような施設を作ったりなんてしたら……」

「君の心配はもっともさ。でもね、それよりももっと最悪なことは、戦ったことのない人がSAOをプレイしてなすすべなく死んで行くこと……そして、ソレをただ見守ることしかできないと言う事、そう言う事じゃないかなと思ったんだ」

「……」

 

 なるほど、自分たちの会社の評判じゃなくて、止めても止まらないSAOのディレイログインプレイヤーの命を取ったと言うわけか。この辺り、博多南の人となりという物がよく分かる。

 事前に調べたところこの会社の総収入はかなり多いと聞く。もしもバッシングを受けて少しばかり売り上げが落ちても平気であるとも考えて居るのだろう。

 その心遣い、確かに受け取った。で、あるのならば残る問題はただ一つ。

 

「あの、このゲームの最高レベルは……」

「……レベル二十。普通の人間だと絶対に到達できない戦いが待っている」

「普通の……人間だと……」

 

 これもなるほど、だ。飛彩の考えが少し読めて来た。この試練はただの試練じゃない。自分に≪SAOのプレイをさせないための手段≫であるのだ。決して到達不能の難易度を提示することによって、自分がSAOをできない状況に持っていくこと、それが狙い。むろん、時間をかければいいのかもしれないが、そんな物ない。

 今日も含めると後≪五日≫。それが、自分にもたらされたタイムリミット。彼は、ぎゅっと手を握ると博多南に言った。

 

「博多南さん……このシミュレーターを使わせてください」

「勿論さ、この施設は一人でも使用できるようになっているけど……今日の所は私がサポートしよう」

 

 と言って、自分たちが一度通った緑色の扉を開けた博多南は、ガラスの向こうにある操作室に入ると和人に言う。

 

「足元にある緑色の棒が剣の代わりだ。重さは三キロ。それくらい振れないと話にならないからね」

「……はいッ!」

「では、始めるよ」

 

 と、その言葉と同時に部屋が一瞬の光に包まれ、気がついたときには地下駐車場に彼はいた。

 

「これは……」

「敵だけじゃなくて景観も変えることができる。その方が、臨場感があるだろ?」

「……そうですね」

 

 見ると、手元の棒も剣に変わっていた。なるほど、見た目もソレになれば確かに重量感というか、本物の剣を振っている気分になれる。それに、よく見ると棒の長さよりも幻想の剣の方がやや長いようだ。これは、安全性の問題なのだろうか。そんなことを考えながら、和人は何度か剣を振って、ゲーム世界での感覚を、ソードスキルを発動させるあの動きを思い出していた。

 それから、いくばくか経った後、程よく汗をかいてきたところで博多南が言う。

 

「いい感じにウォーミングアップができたみたいだね。それじゃ、本番……始めるよ」

「待っていてくれて、ありがとうございます」

 

 いつまでたっても敵が出てこないと思ったら、自分の準備を待っていてくれたらしい。どうやら、根はやさしい人間であるようだ。そんな人の優しさに甘えながら、自分もまた、SAOの世界に赴くための力を蓄えることとしよう。そう思った時、目の前に珍妙な何かが現れる。

 

「ベチャ!」

「ベチャ!!」

 

 熊手のような何かを武器に持つ仮面をかぶった敵。SAOの世界でも見かけることのなかった造形の敵に和人はつい目をパチクリとさせた。

 

「その敵はベチャット。レベル1はまずソレを倒すことからだ。敵の攻撃を受けても身体がしびれるだけだから安心して戦ってくれ」

「分かりました!」

 

 と言い、和人はフゥと長く息を吐く。

 そして―――。

 

「ハァァァァ!!!」

 

 一息に吸い込んだ空気とともに、ベチャットの群れに向って言ったのだった。

 SAOプレイ。そのための試練の中へと。

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