SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第九十一話

 天道総司の戦いが始まった。相手は、博多南が言うには≪ヨドン皇帝≫という敵キャラクターらしい。

 

「ウオォォォ!!!」

 

 その攻撃方法は伸縮自在の左腕の尻尾の形をしたムチ。勿論相手に振るう一辺倒ではなく、縦横無尽に動いて攻撃をしている。規則性は、ないらしい。普通の敵の様に攻撃パターンは無いのか、博多南曰くあえて攻撃パターンを作らなかったらしい。

 その場その場で敵、つまり今回で言うところの総司の事だが、ソレを追う様に攻撃をするとプログラミングしてあるらしい。つまり、乱数によるランダムな攻撃。ソレを避けながら攻撃を当てるタイミングを計らなければならない。これは厳しい相手だ。

 さらに言えば、今回の≪ヨドン皇帝≫が使用してくるのはそのムチともう一つの武器だけだが、本来はもっと技を増やすことを博多南は画策していたらしい。だが、突貫工事でプログラミングをしたためにそのようなことができなかったと。

 つまり、本来はこれよりももっと強い敵であったと言う事だ。

 こんな、自分が敵わないような相手が。

 見て、すぐに動いて、そうやって目視で確認してから行動するしか回避方法はない。安心して傍観者の立場として見ているからこそ、和人はその攻撃を果たして自分が避けることができるかと頭の中で何度もシミュレーションができる。だが、どれほど自分に都合よく行動を起こしたとしても、必ずその足を、あるいは手を取られてしまう想像しかできなかった。

 多分、今の自分があのヨドン皇帝の前に立ったとして、本気を出したとしても、すぐに倒されていたであろう。それほどに強い敵だ。

 

「甘いな」

 

 そんな相手と、天道総司は戦っている。自分から見て右から来た攻撃を鮮やかに側宙で交わしたと思えば、下を通り過ぎようとしたそのムチが自分を狙おうとしていることを察知するとすぐに剣で攻撃を防ぐ。

 あるいは、三本に分身したかのように見えるムチのどれが本物であり、どう動けばいいのかを即座に判断して回避する様は、まさしく一流の戦士。見ているだけで惚れ惚れとするものだ。

 これがレベル二十の敵。そしてその敵を相手にして周回を続けている強者、なのか。リアルの自分じゃ決して届かない頂に、その男は立っているのだ。そんな人間が、果たしてこの世にどれほど存在しているであろうか。

 

「博多南さん……」

「何かな?」

「あの人と同じように、レベル二十に到達した人はいるんですか?」

 

 できるなら、一人だけであってもらいたい。和人の質問に、博多南は少しだけ考えてから言う。

 

「まだ彼一人だけど、この施設が開かれてから一日足らずだからね。彼が異常に早すぎるだけだよ。他にシミュレーターに来た人たちもハイペースでそれぞれのレベルを攻略しているから、レベル二十に到達するのもすぐかも知れないね」

「そう……ですか」

 

 文字通り、レベルが違いすぎる。ゲームの世界ならまだしも、リアルでそこまでの動きをするなんて常識はずれにもほどがある。そしてその度胸も凄い。

 当然のことだが、この敵の攻撃を受けても別に死ぬわけじゃない。身体にちょっとした電流が流れて、数秒間だけ動きが悪くなるくらいのペナルティーしかない。だが、それでも何度も何度も身体にソレが流れるたびに本当に自分が攻撃された気分になって、恐ろしくなって、動きを止めて。

 そんな自分が恥ずかしくなるくらいに、天道総司の身体の動きには一切の躊躇も、無駄もなかった。恐怖何て微塵も感じないで、攻撃を避け乍らヨドン皇帝へと走り寄った彼の剣先がもうすぐ、ヨドン皇帝に届こうとした。

 その時だった。

 

「ッ!?」

「……」

 

 総司は、地を滑った。それと同時に彼の真上を通過していった紫色の光線。ビーム、なのだろうか。まさかあんな隠し技があったなんて、いやそれと同じくらいに驚きなのは、ノーモーションの攻撃を察知して避けた天道総司の方だろうか。

 通常、どのゲームのモンスターでもその攻撃には前動作となるモーションが組み込まれている。これは、プレイヤー側にこんな攻撃をするぞと教えることによってそのための動作をさせるための開発者側の配慮だ。

 だが、皇帝、ひいては開発者たる博多南はそんな配慮なんて知ったことないと言わんばかりに光線に大きな攻撃モーションを付けなかった。それでも軽々と彼はその攻撃を避けてヨドン皇帝に攻撃を喰らわした。恐らく彼は何度もこの場所でヨドン皇帝と戦って、微細な動きの変化に気がついたのだろう。

 果たして、それが二度目に戦った時なのか、それとも一度目に戦った時なのか、何にせよ、冷静さと観察力を研ぎ澄ませてなければできない芸当だ。

 

「俺も……あのくらい強くならないといけないんですね……」

「あれは、流石に極端な例だけれど……けど一番はそうなる事、になるね」

「……」

 

 あの人並みに強くなる。例え、それが極限を極めた人間であったとしても、ソレを目標としなければあの世界への扉を叩くことすらもできない。和人は、改めて身に沁み込まされた気がした。

 それから十数分。天道総司とヨドン皇帝の戦い、というよりも天道総司が避けて攻撃すると言う一方的な戦いが繰り広げられた後、先も聞いた断末魔の叫び声を上げながらヨドン皇帝は倒れた。

 

「フッ……」

 

 残心を纏っていた総司は、ソレを見るとスッと剣を下ろして操作室の方へと歩み寄る。

 

「お疲れ様、総司君」

「博多南か……」

「どうかな、私のシミュレーターは?」

「まぁまぁだな」

 

 といって、涼しい顔で、しかしその額に大量の汗をかいた男は椅子の上に置いてあるタオルでその汗を拭い、タンブラーの中身を飲む。

 まぁまぁ、か。流石極限を極めた男。自分が敵わないと思った敵を、そしてそんな敵を作り出した装置をそう評価するなんて。

 

「あのッ!」

 

 和人は尊敬と嫉妬が入り混じった感情のまま総司に声をかけた。しかし、はたと気がついてしまう。

 しまった、俺はこの人とは初対面だったと。

 和人から見れば、総司はずっと最高レベルのシミュレーションをクリアできる存在として認識できる。

 しかし、総司の方からすればそんな事一切知らないので和人の存在は突然テリトリーの中に入って来た子供。

 当然、ゲームプレイ前で気が立っている状態の人間に声をかければどうなる事か、想像するのは簡単だろう。果たして、和人が声をかけてから数秒、何も言葉を発しない和人を訝しんだのか総司が言う。

 

「誰だ?」

「き、桐ケ谷和人……えっと、その……SAOをプレイする予定、です……」

 

 いけない、どもってしまった。見ているだけでプレッシャーを放ってくる、と感じるほどの声色に、怒らせてしまったと思った和人は、親に怒られる時のように肩をすぼめる。

 すると、総司は。

 

「そうか」

 

 と、一言だけ呟くと、立ち上がり再びシミュレーションを再開しようとする。

 怒らないのか、ひょっとして、そんな性格の人間じゃないのか。そう思った和人はいっそのこと思い切って聞いてみることにした。

 

「あの、総司さんはどうしてSAOに?」

 

 するとだ。恐らく藪蛇の質問であったのだろう。スッと立ち止まった総司は顔を和人に向けることもなく言う。

 

「何故そのような事を聞く」

「あ、いや……ちょっと興味があっただけです……」

 

 好奇心は人を殺す、何て言葉があったっけなぁと頭の中にある引き出しをこじ開けながらこの後どうするべきかと、どう謝るべきかと考えて居る最中、総司はフッと息を吐いて言う。

 

「SAOには俺の妹がいる。二人と一緒にゲームをクリアしてこの世界に帰る。それが、俺がSAOをプレイする理由だ」

「妹……さんですか……」

「そう言うお前はなんでだ?」

「……俺も、同じです」

「……」

 

 そう言うと、和人は手のひらを見つめた後、ぎゅっと握りこぶしを作って言った。

 

「俺も、SAOに妹を連れていかれた。だから……妹のいる場所に行くために俺は……」

「同じじゃない」

「え?」

 

 総司は和人の言葉に対してそんな言葉をぶつけると、天を指さして言った。

 

「おばあちゃんが言っていた。例え見た目が同じでも、料理人次第でその味の評価は変わる……とな」

「え……え?」

「お前と俺の目的を一緒くたにするな。俺はお前とは違う……そう言う事だ」

 

 そう、最後につけたして、再び総司はシミュレーターの中に入っていった。

 その後、こちらもまた同じくシミュレーターの中に入り、レベル二の敵を相手にする中で、和人が考えていたのは、天道総司の言葉、その真意がどのような物であったのか、であった。

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