SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第九十四話

「一課長、入ります」

「ムッ……」

 

 警視庁にある、捜査一課長の整然とし、夜の光をかき消す明かりに満ちた部屋に小山田が入って来た。あの発表から今日で六日、つまりこの日は、ディレイログイン開始日と茅場晶彦が明言した前夜なのである。

 彼が持ってきたタブレットの中には、現状警察の機密事項とされているSAOプレイヤーに関する全データが詰まっている。これは、SAOに囚われている人間の中に大金持ちや大企業の御曹司等の部類に属する人間が多く、居場所を知られるだけでも危険と思われるような情報が多いからだ。

 当然バックアップも存在しているが、日本の主要都市にバラバラに置かれており、普通の人間では必ず手に入れることができないと断言できる。そんなデータの大本を、彼は一番信頼できる部下である小山田に任せていたのであった。

 そんな小山田に大岩は緊張の面持ちで聞いた。

 

「山さん、プレイする人数の最終的なデータは?」

「全部で、二百八十七名もの人間がプレイすると」

 

 まだそれでも思いとどまらせた方なのだろう。茅場晶彦から送られてきたSAOの届先である住所、並びにSAOをプレイすることができずゲーム機とソフトを持ったままだった人間たちを周った自分たちの努力はいくばくかは報われるはずだと信じたい。

 それでも、説得に失敗した人間が二百八十七人、SAOに遅ればせながら向かうのだ。

 

「そうか、分かった」

「あまり驚かないんですね」

「こうなるだろうとは予想していた」

 

 大岩は毅然とした態度で言い放つ。そう、どれだけ自分たちが声を上げても、人の意思は止められない。特に今回は法律でまだちゃんと規制ができていなかったゲームを取り上げる、その法的な根拠に乏しかった。

 ≪あの≫、警視庁の中でも最も正義感に溢れていると己が思っている特命係の二人ですらも、ある少女たちがSAOに向かうのを止めることができなかったと言う。杉下右京が誰も揺るがすことのできない正義が敗北した。それだけで、どれだけディレイログインに、残されたプレイヤーたちの希望が詰まっていたことか分かる。

 その中でのことで、彼らも手探りで説得し、回収に回って、七百名近くを思いとどまらせることができたのは快挙ともいえるのではないだろうか。

 ともかく、自分達が動く動かざる無しに多くのプレイヤーがSAOに参加すると分かっていた節があったのは確かだ、だから。

 

「我々は我々にできる、ゲームプレイヤーへの手助けをするだけだ。受け入れ先の病院はどうなっている?」

「万全に、行われてます。どの病院も、非情に協力的です」

 

 大岩を中心とした一つのグループは、各地に点在している病院に対し、ディレイログインを予定するプレイヤーたちの受け入れの準備をする様、願い出ていたのだ。今回のディレイでプレイする人間に対しての補償は全く無い。ソレを承知で協力してくれる病院はかなり少なくて、地元から離れざるを得ない人間も数多くいる。

 だが、それでもかろうじて二百八十七名もの人間の受け入れ先を確保することに成功していた。これで病院に受け入れてもらえずに停電やインターネット接続のミスを覚悟で家からログインする、という最悪の事態はま逃れるはずだ。

 彼らもまた、最低限やれることをやっていたのである

 彼女と、同じように。

 

「山さん、大福の行方については情報はあるのか?」

「それは……」

 

 しばらく情報を交換した後、大岩が思い出したかのように小山田に聞いた。自分の部下の一人、腹心ともいえる部下の平井刑事の事を。

 だが、小山田はやや顔を暗くしていた。当然だ。なぜなら、彼女は現在消息不明となっていたのだから。

 それが判明したのは、大岩が彼女にプリキュアたちの所に向かうよう指示を出した日の夜の事であった。星空家へと向かうと一度だけ連絡をした後に音信不通となってしまって、嫌な予感がした彼は忙しい職務に没頭している部下の内数名に星空家へと向かう様に指示を出した。

 そして、平井の運転していたであろうパトカーが、プリキュアの一人である星空みゆきの家の前から見つかった。星空家のドアは開きっぱなしであり、玄関には≪子供の靴≫が四つ、≪大人の靴≫が二つ置いてあった。

 家の中は生活感に溢れている、というほど日常的な風景が広がっていた。テレビの置いてある居間では、畳みかけの洗濯物が置かれていて、台所には炊き立てのご飯の入った炊飯器、そして洗い立ての皿がきれいに並べられていて今まで人がいたのだとよく分かる様になっていた。

 二階に向かうと、ひらっきっぱなしのドアが目に入り、中に入るとそこは星空みゆきの部屋だったようで、大量の紙の束が床一面に散らばり、本棚から本が数冊落ち、そして、誰の姿もなかった。

 事件性を感じた大岩は、その後捜査を開始した。最初は個人的なことであったが故に一課長自ら現場に赴き少ない捜査官と共に捜査を開始。海外に出張中であった星空家の主人や、並びに大福が訪ねたはずの星空みゆきのプリキュア仲間である四葉家にも星空家の事を伝え、協力を仰いだ。

 だが、有力な情報は得られなかった。

 それどころか、奇妙なことがあった。それはパトカーに常設されていた車載カメラの映像に記録されている映像。

 そこには、確かに平井とプリキュアであるという少女≪雪城ほのか≫の二人がパトカーに乗って星空家の前に来て降りる様子、そしてその後、星空家を訪れる様子が映っていた。それからしばらくして、悲鳴のようなものが聴こえて来て、玄関に出てきていた星空育代も含めて慌てて家の中に入る様子、並びに遅参した、こちらもプリキュアであり星空みゆきの友達の≪青木れいか≫と≪黄瀬やよい≫の二人が慌てて家の中に入って、そして以降は何も映っていなかった。

 そう、誰も家の中から出てこなかったのである。であるのならば、合計六名もの人間がどこに消えたと言うのか、謎である。

 エスパー犯罪に巻き込まれた、という可能性がある。そう、それぞれの家族には伝えたが。

 

「プリキュアも一緒に消息不明となった……なら、ソレと関連した事件に巻き込まれた可能性もある」

 

 大岩はその可能性も高いと判断した。聞くところによると、プリキュアというのは頻繁に様々な事件に遭遇し、時には異世界に行ったりもしているそうだ。後から現場に来た接触感応能力者も、はっきりとした映像を拾う事はできず、負の感情、正の感情と言ったあいまいな物しか拾う事ができなかったと言うが、これはプリキュアが原因となって発生した事件現場に置いてよく遭遇する事象のような物であるそうだ。

 そして、今回行方不明になった人間たちの中にプリキュアが四人もいる。で、あるのならば彼女たちは何らかのプリキュア関連の事件に巻き込まれて、そして平井と星空育代もまたその謎の事件の渦の中に巻き込まれたのでは無いか。

 それが、状況証拠から導き出された大岩の推理である。

 これを小山田に言った後、大岩は自信を持って言った。

 

「しかしアイツは、絶対に帰ってくる。何があろうともな」

「一課長それは、刑事の勘ですか?」

「いや、信頼だ。やまさんはどう思う?」

「同じ気持ちです一課長」

 

 信じる事。それが、プリキュアやヒーロー、エスパー達のような強大な力を持たない普通の人間である自分達ができる抵抗、そしてSAOをこれからプレイすることになる人々へのエールとなるのだ。そう、大岩は思っていた。長期出張中の星空家の主人である星空博司にも電話で伝えた後にはやや取り乱してはいたものの、その後星空みゆきの祖母であるタエから諭されて落ち着き、大岩にわざわざ電話をかけて自分たちは彼女達を信じるだけだと、そう言葉をもらった。

 誰もが強い人間というわけではない。しかし、強がりを見せることができる。そして、他人を信頼できることもできる。もしかしたら、それが人間という生き物がここまで発展することのできた要因なのではないだろうか。

 そう、大岩は思っていたとか。

 

「それで、プレイする予定の人間たちは、今何を?」

 

 話をSAOプレイヤーたちに戻すことにしておこう。

 ディレイログインを明日に控え、果たして件のプリキュア、麻帆良学園、武偵などの複数個のSAOが送付されたとされている面々はどうしているのだろうかと。

 すると、小山田は朗らかな笑みを浮かべる。

 

「どうやらその……パーティーをしているそうです」

「パーティー?」

「えぇ、勿論警察を代表して行く国際警察の陽川咲也を含めて、多くの人間は、家で身支度を整えているそうですが……数十名規模の人間で集まっての決起集会のようなものを様々な場所で催していて、身辺警護をしている捜査官もそれぞれパーティーに誘われたらしく。私からは、誘われたからには断るなと、言っておきました」

 

 報告曰く、プリキュアの中高生たちと麻帆良学園の子供たち、そしてバベル所属の人間、他多数の組織や友人知人で集まって大規模なパーティーを行っているらしい。

 別れの宴、ではない。少しだけの旅立ちと、また会う事を約束するための宴を、それぞれに行い、再会することを誓い合うための祭りを行い、それぞれにそれぞれの覚悟を決めていた。

 なお、小山田が言う様に数名の、集団でSAOに入るわけではない人間たち―主に天道総司と陽川咲也の事であるが―はそれぞれに家で身支度を整えて居たり、近親者のみでの最後の晩餐を行っていた。そう言ったパーティーには目ざといはずの桜蘭高校のホスト部の面々もまた、今回ばかりは数名の友人知人とともにいた。

 まぁ、数名の友人というかプリキュア組や麻帆良組を除いたグローウィングアフターティータイムのメンバーや彼女たちを守るために戦った人間たちがCRに集まって細やかにパーティーを開いている、ともいえるのだろうが。

 

「……そうか」

 

 大岩は、思わぬ一言に一瞬だけ笑みをこぼした後、ため息をこぼしたと言う。まったく、≪子供たち≫の順応性というのは目を見張るものがある、と。

 

「子供……か」

「何か?」

「いや……」

 

 と、言いながらも大岩はこの時、頭の片隅の方に違和感を覚えた。いや、覚えるのは当然だ。なぜなら、彼は警視庁捜査一課長。数多くの事件を解決に導いた人間なのだから。

 蛇足だが、この時彼の頭の中に浮かんだ疑問に関しては、後日≪国際警察≫のノエルの方から直接話を聞くことで解決したとかなんとか。

 それはともかく、最後の晩餐の方に話を戻そう。

 集団でSAOに向かう面々はともかくとして、個々でSAOをプレイする予定の人間たちは、細々とした最後の夜を過ごしていた。

 

「母さん、ご飯おいしいよ」

「ありがとう、和人」

 

 桐ヶ谷家、である。何とも、重苦しい空気が広がっているリビングに置いて、彼は母の作ってくれた和食のご飯を食べながら思う。もしかしたら、これが自分が食べる最後の母の手料理なのかもしれないと。

 この日の昼間、彼の家に博多南がやって来た。そして、和人本人から母にSAOに入ることを伝えるのと同時に、ディレイログインプレイヤーの支援をカラットを含めた複数の企業、グループが行うと言う話をした。最初は和人がSAOをプレイすると言う話を聞いて戸惑いを隠せなかった翠は、しかし徐々に冷静になって博多南から諸々の説明を受け、彼を見送って、そして―――。

 

「……」

「……」

 

 この、空気である。怒っているのかもしれない。そう和人は思っていた。無理もない、彼女にとって娘の直葉がSAOに閉じ込められた、その後一か月もしないうちにもう一方もまたSAOをプレイするなんて言い出すのだから。きっと表面は涼やかに見えてもお腹の底では煮えたぎるような怒りを抱えているのかもしれない。

 

「……あの、俺は!」

 

 なんとか釈明しよう。何かを、言おう。そう思ったのかもしれない。彼が口を開いた次の瞬間だった。

 翠は、茶碗と箸をゆっくり机の上に置くと言う。

 

「止めたって、無駄なのでしょう?」

「え?」

「あなたの性格は、よくわかってるわ。お母さんだもの……」

「母さん……」

 

 和人は、胸が撃たれたような気がした。そう、何故ならこの≪母さん≫という言葉には、とても深い意味が込められているから。母が知り、父が知り、そして自分も知っているとある裏の意味が込められているのだから。

 

「私達も、あなた達を待つことにした、だから……」

 

 きっともう、彼女は夫にも連絡したのだろう。だから、その言葉を使えたのだろう。待つことにしたと、そう言う事によって後顧の憂いを断とうとしてくれっているのだろう。安心して、和人がSAOの世界に行くためにも。

 そう、だから。

 

「行ってきなさい……そして、ゲームの世界で、たくさん学んで、直葉と一緒に帰ってきなさい。和人……」

「……うん、ありがとう……母さん!」

 

 こうして、最後の夜は、思い思いにすぎていくのだった。

 ≪最後にしない≫。その覚悟を持たせることによって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うことで桐ヶ谷和人君は無事SAOに向かうらしい」

「ご報告感謝するネ」

「未来の様子はどうだい?」

「予想通り、キリトの参戦でやや安定してるみたいアル。まぁ、崩壊した映像なのは相変わらずネ」

「そう……ところで、聞きたいことがあるんだけど」

「何アル?」

「君と一緒に来たはずの、他の仲間達との連絡先……今後はその人達と連絡を取り合わないと、いけないからね」

「……そうアルネ、特にあの会社の人たちとは、顔を合わせておいた方がいいアル」

「会社?」

「ノエルさんと同じ、スーパー戦隊の戦士が経営している会社ネ」

「オララ~……」

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