SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
アリアの背後から現れたのは、アリアと同じくらいの身長の、青髪の少女。空―多分この屋上と病院内を繋ぐ扉の上からなのだろうが―から現れたのは、黒い長髪をなびかせた少女。マミは、その二人からただ者ではないオーラのようなものを感じていた。
二人とも、東京武偵高の人間だ。マミはそう判断した。自分が進学先にしようと決めていた学校なのだ。間違えるわけがない。
二人の少女の内、黒髪をたなびかせる少女がマスクのようにしている布越しに言う。
「お初にお目にかかるでござる。某、風魔陽菜。東京武偵諜報科所属の一年にござる」
「ござる、それにその風貌に名前って……もしかして」
「そうよ、この子は忍者の家系なの。キンジと戦姉妹契約を結んでいて、それなりの実力もあるのよ」
やっぱり、というか見た目からして言葉使いからしてまさしくステレオタイプの忍者その物だ。もし、ソウルジェムの真実、魔法少女の正体などを知らない状態の自分であったのならば、喜んで食いつきそうな人種でもある。
「そして、こっちの子はレキ。私と同じ二年で、狙撃科に所属する武偵よ」
「……」
「あ、えっと……」
無口、というものなのだろうか。いや、それどころか表情が一切変わらないところから、まるでサイボーグか何かのような印象を持ってしまった。そんな困り顔をしているマミに対して、アリアは言う。
「大丈夫。心を開いてくれたら意外と話してくれるわよ。ね、レキ」
「……」
とてもそうとは思えないのだが。それがマミからレキに対する第一印象であった。
だが、どうしてアリアは二人をマミに紹介したのか。その理由が、彼女の中で思い当たりそうで思い当たらなかった。きっと、根っこの方で優しすぎるが故に。まったくもって、不器用な女の子だと思いながらアリアは言う。
「二人とも、これまで危険な依頼を沢山こなしてきた、私の信頼できる武偵。≪これまで≫のように、力を分け与えてくれれば、一緒に戦えるはずよ」
「え……」
それって、まさか。マミの中に不安がよぎった瞬間だった。
「話はアリア殿から聞いたでござる。と言っても、マミ殿が危険な怪物と日夜戦っていると言う話でござるが」
「それと……貴方と一緒に戦ってもらいたいとも……」
「ッ……」
マミは、凍るような大気を一瞬吸い込んで、止まった。自分が魔女、彼女は怪物とぼかしているようだがソレはまだいい。この世界では、スーパー戦隊の敵の怪物や、仮面ライダーの敵の怪物、そのほか多くの怪物が跋扈しているのだから、ソレを知られるだけならばまだいい。
でも、一緒に戦うなんて、そんな、危険な事させられない。いや、アリアは危険な依頼をこなしてきたと言っていた。きっと、自分がそうやって拒否することも見越しての言葉だったのかもしれない。けど。
「ッ、でも……」
「武偵にとって、命の危機は常に承知の上、怪物との戦いもこれでも何度か経験しているでござる」
そう、陽菜も、レキもこれまで依頼を多くこなしている中でマミが想像したような怪物、怪人との交戦経験があった。それ以上の化け物との戦いも、幾度となく経験した。勿論全部の依頼で無傷とまではいかないが、しかし人外の敵との戦いには慣れている。そう、彼女に伝えるだけの意味でもあったのだ。
アリアは、とても凛々しい表情を浮かべて言う
「マミ、貴女は十分頑張ったわ。一人ぼっちの戦いを、一人きりで、たくさんの人の命を救ってくれたこと、感謝している……私だって、マミに救われた……だから、今度は、私たちがマミを救う」
「先輩……」
「貴方を、一人きりにはさせない。ソレを許さない。私はそばにいることはできない、でも手を貸すことはできるから」
「……」
マミは、なんとなくわかった様な気がした。そうか、それが彼女の償いなのだ。例え、他人を利用しても、いや利用するしかなかったとしても、それでも自分を助ける方法を考えた末の結論。そして、彼女からの救い。
ズルイ人だ。自分が、断ることができないと分かりきっているのに。ここで、断れるくらいに勇気と決意があったら、この場所に来ていないと言うのに。本当に、聡明な人。そして、そんな人が厳選してくれた二人の仲間であるのならば、信頼に値するのだろう。
ならば、とマミはアリアに告げる。
「分かりました。ですが、その代わり約束を……私の依頼も受けてください」
「依頼?」
「はい……数年後、東京武偵高で先輩と……あかり先輩たちとも一緒に、皆で会うと……約束してください」
「……」
アリアは、ソレをマミの覚悟であると感じた。己が、東京武偵高に入学するのだと言う決意、そしてデスゲームをする者たちがクリアする、その時まで絶対に生き残るのだと言う宣言。
言わずもなが、武偵校の偏差値という物はどこもかしこも高い。拳銃や刃物などの危険物を扱い、そして警察と同じ権限を持つわけなのだから、そこらの平凡な学校とは比べ物にならないくらいの学力、そして運動能力が求められる。
初めて会った時もマミは言っていた。自分は、アリアがいる学校に、憧れている人がいる学校に入学したいのだと。そのために勉学に励んでいるのだと。でも、ちょっと前にマミの家で彼女の学力を試してみたのだが、彼女のソレは少しだけ劣っているように感じた。
勿論悪いわけではない。むしろ平均的な高校であるのならば容易に合格することができるレベルではある。しかし、如何せん目標が高すぎる。
夜の自習の時間を、魔女退治に使っているのも響いているのだろう。
毎日、その命を危険にさらす、魔女退治に。
少しのストレスですぐに濁ってしまうソウルジェムという爆弾を抱えたまま生きる、女の子に、果たしてそこまでの猶予が残されているだろうか。
分からない。そう、分からないのだ。何も。だったら、自分ができる返事はこれだけだ。
アリアは、フッと微笑むと言った。
「なら、その時には私は後輩になっているかもしれないわね」
「えぇ、そうですね」
一年後、あるいは二年後、最悪でも三年。その時を、待ちわびるのだと。マミが自分の本当の意味での後輩になる時を、あるいは先輩となる日を、SAOの世界で楽しみにして戦うのだと。そう言う事で、彼女の心の闇を少しでも払う事ができるのならばと。
「マミは、どこの科を選ぶ予定なの? レキと同じ狙撃科? それとも、私と同じ強襲科?」
「アリア殿の話だと、マミ殿の動きは忍者の様だと、諜報科に欲しい人材なれども、アリア殿と同じ強襲科が良いのでは? もしそうなら、某も力になれるでござる。あぁ、でも勉強の方はイマイチでござるが」
と、陽菜は困り顔で言う。とはいえ、武偵校に通えている時点でそれなりの学力があるのは間違いないことだ。それにレキだって同じく。言葉数少ないが故にあまり伝わっていないのだが、彼女もまたマミの進学の手助けをしてくれるだろう。そんな、優しさを持った子なのだ。だから、きっと―――。
ひしひしと、先輩たちの気持ちを感じたマミが、彼女たちの願いを、依頼を、断れるわけがなかった。
「風魔先輩、レキ先輩……若輩者の身ですが、改めて……よろしくお願いします」
と、頭を下げたマミ。すると。
「貴方の方が、先輩」
「え?」
レキが返す刀で無表情のままそう言ったのだ。
「そうでござる。マミ殿が戦っている怪物に関して、某たちは何も知らない故……怪物退治に関しては、マミ殿が先達にござるよ」
「言われてみればそうね」
「マミ殿、こちらこそ……よろしく頼むでござる」
「……はい!」
愚かな、選択と言われるかもしれない。孤独に耐えきれずに一般人を巻き込んでしまった、魔法少女の中でも一番みっともない者と言われるかもしれない。でも、彼女は知っていた。一人ぼっちの痛みを、そして助けてくれる者のありがたみさを。そして武偵という、自分がかつて憧れ、夢に見た希望の強さを。
確かめたかったのかもしれない。
友情という、本来魔法少女同士では芽生えるはずもない強さの正体を。
受け入れたかったのかもしれない。
受け入れるべきだと、そう信じたのである。
自分自身の下した選択を。
「アリア、そろそろ時間だよ」
「……」
時が、来た。