SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
「ちょっと!」
「え?」
ハートが、キリトと話している最中。突如としてもう一人の金髪ヘアの女の子が割って機は言って来た。この少女も知っている。確か、件の最終決戦の時にプリキュアと一緒に戦っていた人間の一人の、名前は。
「えっと、レジーナさん?」
「そう! アンタ、私のマナから離れなさい!」
「え、あ、いや……」
離れろと言われても、先に話しかけられたのはこっちなのだが、そう困惑している中、ハートはいたって冷静に。
「レジーナ、私は誰の物でもないから安心して」
やんわりと、彼女の手を取り呟いた。その表情は、どこか聖母のようにも思えた。これが、相田マナ、か。キリトは彼女がプリキュアという戦士に選ばれた理由がなんとなくわかった様な気がした。
「全く、マナもレジーナもゲームの世界に来ても変わらないんだから……」
「でも、それがお二人らしいですけれどね」
そうこうしているうちに、更に三人の女性が現れた。そして、キリトは困惑してしまった。その内の二人もまた、プリキュアだったから。確か、キュアダイアモンドと、キュアロゼッタ、だっただろうか。そんな二人も含めて、ここには三人のプリキュアと、そしてレジーナというプリキュアではないが戦う事の出来る戦士がいるのだ。
それと同時に、これまで三人以上の女の子に囲まれ、それに好意的に接してくれるなんてシチュエーションが皆無だったキリトは非常に戸惑ってしまった。多分、彼女たちがップリキュアだからだ。そうキリトは思った。
けど違う。彼女がマナであり、尚且つ彼女たちがマナの友達であるが故にここまでフレンドリーに接してくれているのだ。博愛の化身ともいえるハート。その行き過ぎた行動を咎めるためのダイアモンド。ハートを溺愛しているともいえるレジーナと、そんな三人の事をほほえましく見守る少女ロゼッタ。そんな少女たちだからこそ、すぐそばに≪ちょっと前≫の戦いでロゼッタと一緒に戦ったオーズが気さくに話しかけている。ただそれだけの理由でキリトに近づいて、そして友達の事を褒められたから嬉しくなって。そんな普通の女の子達だったからこそプリキュアになれたのである。
故に、これだけの関係性にとどまるほどに彼女たちの心が冷たいわけがない。デスゲームというSAOの特性上、これからもキリト、そして自分たちは必然的に共闘していくことになる。やや後ろ側でお姉さん的立ち位置にいる女性はそう思ったとか。
という事で、意外なことで接点を持った両者は、その瞬間を、ほとんど隣同士で迎えることとなった。
「ッ!?」
「何、あれ……」
赤い≪WORNING≫の文字が浮かび上がった瞬間、空、いや正確に言えば第二層の底である天井が一瞬のうちに様変わりする。ミツバチの巣のように均等に並んだ六角形のウインドウが一面に広がり、さながら地獄に堕ちたような雰囲気を演出がされ、そのすぐ後に流血がそのウィンドウの隙間から流れ落ち、さながらホラーゲームのような濃い赤い液体が空中でとどまった。そして、出来上がった血だまりの中かから引っ張り上げられたかのようなロープを着た巨人が現れる。
あのロープ、確か―――。
「あのロープ……」
「えぇ、βの時にGM……ゲームマスターの使用していたアイテムですね」
「ッ!」
ゲームマスター。簡単に言えば、ゲームの運営を担当している人間を指す名称だ。そして、事デスゲームの世界になってしまった現状その担当になっている人間は、一人しかいない。
いや、そんなことは関係なくキリトは絶句した。その理由は、ロゼッタの発言に関係があることであった。
「君も……元βだったのか……」
「はい、発売当日は既にSAOを返却していたのでログインできてませんでしたが、少なくともいくつか上の層の事は分かってます」
「そう、何だ……」
キリトは、念を押すかのようにそう言ったロゼッタの言葉に、只々鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするしかなかった。
βは≪本来嫌われてしかるべき存在≫である。そんな固定概念が強かったからだ。
どの場所に、どんな種類のモンスターがいて、どのように攻撃を避けて与えればいいのか。どのアイテムがどこのフィールドで入手出来て、マップの配置もある程度分かっていて、自分だけが強くなることのできるイベントの場所を大方把握して。
そんなに多くの事前情報を持ち合わせて、独占している。そんなゲーマーにとっては有益な、しかし妬みの存在となる自分を含めたβは、決してその存在を認知されてはならない。そう思っていたから。
けど、彼女は違う。あえてその嫌われるはずのβであるという情報を惜しげもなく披露して、それでいて笑顔を見せることができる。こんなの、ゲームチャットの中でも見たことがない、キリトにとっては、ロゼッタが聖人君主のように見えたと言う。
≪私の名前は茅場晶彦≫
「ッ!?」
対照的な、地獄の鬼とも言わんばかりの男の声が、空から聞こえてくるまでは。
それは、ローブを纏った巨人の言葉であった。その巨人は語る。このゲームから、任意でのログアウトができなくなったと言う事。
既に現実世界でも多くの視認が出て、パニックになっていると言う事。
今後、HPがゼロ、すなわちゲームオーバーとなったら、ナーヴギアの発火装置が作動して、プレイヤーが死亡すると言う事。
ゲームをクリアするまで、ログアウトができないと言う事。
プレゼントと称して、各々のプレイヤーに手鏡というアイテムが与えられ、それを手に持った瞬間にキャラクターエディットされたプレイヤーたちが、どうにも現実味に溢れたモノー一部を除いてーに変化した様子。
そして、最後にはどこか癪に障る≪検討を祈る≫の言葉と同時に巨人の身体は崩れ去り、次の瞬間には半透明のプレイヤーたちは半狂乱状態に陥って、嘆き、叫び、そして怒号が木霊する暴動の現場へと移行した。
そんな映像は、数分間映し出されて、そのうちまるでテレビの電源でも落とされたかのようにプツンと途切れてしまい、またもや前面白色の空間に戻されてしまった。
「今の、何?」
まるで何事もなかったかのようにシンとしずまり変える中で、誰かの声が響いた。だが、キリトはこの時既に察していた。いや、彼だけではない。ロゼッタも、そして他にもいる多くのβテスターが悟っていただろう。もしかしたら、そうでなくても分かっていたのかもしれないが、まるでその空想が事実であると確認するかのように、先の声とまるっきり同じ声が流れた。
『今見てもらった映像は、あの日。十一月六日のSAO正式サービス開始直後のプレイヤーたちの様子を移した物だ』
「ッ!」
果たして、それが耳にとどいったのが早いのか、それともキリトの顔が回転したのが速いのか。ともかく、先の映像とは違って地面がまるで地震を起こして隆起したプレートのように浮かび上がり、蠢く中で人型の何かを創造していった。その人型は、やはりゲームマスターと同じローブを身に纏っている。大きさは、さっきのような巨人ではないが、しかし威圧感だけはまるっきり同じものを感じていた。
間違いない、このGMは。
「かや」
「フッ!!」
「え!?」
その名前を叫ぼうとした刹那、キリトの横を鬼の形相をした男性、天道総司が通り過ぎた。あまりの速さに今度は目で追うのがやっとだったキリトだが、そんな事関係ないと言う様に彼はGMの顔を殴る。
「ッ!」
『ほう……』
どうやら、感嘆の声を上げたらしい男に、攻撃は通っていなかった。天道総司の攻撃は、紫色をした六角形のバリアのようなものの集合体によって防がれて、目前数センチから向こうに決して進まなかったのである。
キリトは、すぐにそのローブの男への攻撃が無意味なものだと理解した。βであるが故に。しかし、天道総司はその理由も知らないままに男の事を殴り、蹴り、しかし紫色のそれに防がれてしまう。
「ッ! フッ!」
「総司君落ち着いて!」
「離せ!」
誰もが、天道総司の気迫と勢いに押されて言葉を失い、十数秒の沈黙が続いた。その間に何発拳と足が放たれたのか、もう数えていなかったがしかし、最初に動き出したのは現実世界でも知り合いであるらしいオーズだった。
オーズは、総司を後ろから羽交い絞めにして何とかGMから離そうとするが、しかし総司はしつこくそれを振りほどこうとする。そんな彼に対して、キリトはつい声を上げてしまった。
「無駄です総司さん! システムに守られている以上、アイツに攻撃することはできない!」
「キリト君!」
「何?」
この情報を知っていること。それが、何を意味しているのかを理解したうえ柄で叫んでしまったのは、もしかしたら≪目の前にいるあの男≫の演説や、ゲーマーとしての矜持よりもハートの笑顔が心に残り続けていたからなのかもしれない。
あるいは、ロゼッタの言葉を聞いてそもそも隠していることに何か馬鹿馬鹿しいとまで思ってしまったのかもしれない。
もしくは、自分がやりたくても頭の中で完結してしまっていてやれなかったことを先にしてくれた総司に、強者であると知っているが故に半狂乱状態にまで陥るほど心を乱される男の姿をみて決意をしたのかもしれない。
総司は、意外なことにその言動でとまり、そして流れるようにキリトは説明する。
「ソイツの頭上には〈Immortal Object〉の表示が出ている。それは≪システム的不死≫を意味していて、この世界では地面や壁みたいな絶対に壊すことができないオブジェクトに対して使用されているシステム……そうだよな」
キリトは、一度自分の心を落ち着かせるために深呼吸をした。そして、目と口を吊り上げ、静かな怒りを宿らせるとその男に向けて言う。
「茅場晶彦……!」
この事件の全ての元凶たる、その男の名前を。