SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第一章 4話

「本当にそれでいいの?」

「うん。大きな剣は使うのが怖いし……料理が好きだから包丁ぐらいの大きさなら扱えるから」

 

 ナデシコは、先ほど購入したばかりの短剣≪スモールダガー≫を振りながら言った。

 ナデシコと出会った後、まずは剣を買わなければ話にならないということで、案内人兼護衛の意味を込めて、リーファが付き添って始まりの街に戻り、自分たちが剣を購入した露店に立ち寄った。

 最初は、自分たちと同じ片手剣を勧めのだが、本人が長い剣を使用することを怖がったため、短剣を使用することになった。

 本人としては、現実で料理が好きだから包丁をよく使用しており、その関係で短い剣なら扱いやすいと思ったそうだ。しかし、短剣はその名前の通り刃が小さくリーチが短い。そのため、普通の剣よりもより敵に近づく必要があるので、使うには度胸が必要な武器である。

 ログインした当初の始まりの街は、プレイヤーのほとんどが同じ場所にいたためにかなり窮屈に感じていたが、ゲーム開始から時間が経つにつれて徐々に人の波もばらけていき、その街の大きさが徐々に際立ってきていた。

 自分たちが見つけた穴場のお店も、すでに一般のプレイヤーの知るところになっており、この店で買えばよかったという声がつらつらと聞こえてきて、少しだけ優越感に慕っていたのはナイショだ。

 

「え、それじゃナデシコって本名なんですか?」

「そう。プレイヤーネームって奴の設定の方法とかよくわからなかったから、容姿も全く変えてないの」

 

 この言葉を信じるとするのならば、現実の彼女もまた、今自分が見ている彼女と同じく可愛らしい女の子なのだろう。

 しかし、リアルと同じ名前、同じ姿というのは少し危険だ。VRゲームであるこのゲームでは特にだ。

 身バレの危険性がある。それにゲーマーというのは嫉妬深い人間やら、粘着行為を行ってくる人間やらと面倒な性格を持った人間が多い。もしナデシコがこのゲームの中で、本人も自覚がないまま他のプレイヤーの琴線に触れるような行為をしてしまえば、ナデシコの名前や容姿がネットにさらされる恐れがある。

 もしそうなれば、下手をすれば彼女の人生は終わってしまう。

 幸いにも、彼女が現実と同じ名前、同じ容姿でゲームをプレイしていると知っているのは自分ただ一人。ナデシコには、このことは他言しないように言って、フィールドへと歩いていく。

 と、その時ナデシコは、目線から紫色の≪INNER AREA≫の文字が消えたのに気が付いた。先程は景色を見るのに夢中だったためそんな文字があったことすらも知らなかったのだが、これは何なのだろう。リーファが答える。

 

「≪INNER AREA≫、簡単に言えば安全エリアの事で街の中にいれば、HPが減少することは無いんです。デュエルっていう例外はありますけど、それも双方の同意が必要ですし」

「へぇ……」

 

 つまり、フィールドの外では例え戦闘を行なっているという自覚がなかったとしてもモンスターに襲われてゲームオーバーになる可能性があるということ。

 いや、敵がモンスターだけとは限らない。対人戦闘を好むプレイヤーがいるのならばPK、プレイヤーキルをする人間がいるかもしれない。どちらが危険であるかと考えれば、どう試算しても後者の方である。

 とにかく、何の対策も無しにフィールドに出るのは得策ではない。だからこそ、先程のナデシコの行為は危険極まりないものだったのだ。

 と、ここでナデシコは気がついた。

 

「はっ! と言うことはフィールドでキャンプはできないのでは!?」

「キャンプ?」

「うん。私向こうでは友達とキャンプに行ったり、ソロでキャンプをしてたり。楽しいよ。リーファちゃんもやろ?」

「うーん……」

 

 キャンプ、か。確かに大自然の中にテントを張って友達と火を囲んで楽しく過ごすのは魅力的に映るかもしれない。しかしキャンプ場というのは人が多いし虫がたくさん出るし暑いしでいいイメージが少ししかないのだが。

 

「大丈夫。冬にやるキャンプもあって……というより、私も冬のキャンプから始めたんだけど、そっちだったら虫もそんなにいないし、キャンプ場も人が少なくて混雑していないし。それに、何より夏には見れない冬の景色って、すごく綺麗なの」

「そうなんですか」

「少し寒いのが玉に瑕だけど。でも、寒さなんて楽しんでたらすぐ忘れちゃうんだよ」

「へぇ……」

 

 そこまで言われてしまうと冬のキャンプ、少し行ってみたいなと思ってしまう。SAOをする傍で、一度この子と一緒にキャンプをするというのも悪くはないかもしれない。

 それに、こんないい子のお友達も一緒ならもっと、きっと楽しいだろう。

 

「でも、私キャンプ道具とか……」

 

 考えるだけでもテントや寝袋、椅子等色々と用意する必要のものがある。そんなもの、中学生の自分が一から用意できるのだろうか、

 

「大丈夫! レンタルもあるみたいだし、なんなら友達に借りれないか頼んでみるから!」

「レンタル、そういうのもあるんですか……」

 

 キャンプをしたい時に一番のネックとなるのが、道具がないというだ。

 一式揃えるのにもお金がかかるし、なにより買ったはいいものの一回、二回使っただけですぐ倉庫行き、なんて可能性もある。

 それを考えると購入するのを躊躇してしまう。

 しかし今の時代、格安でレンタルを行っている会社が至る所に存在しているので、お試し感覚でキャンプをしてみるのならば、その辺りからキャンプ道具を借りるのも吉である。

 キャンプ、一度行ってみてもいいかな。そんな風なリーファが思っていた頃、メッセージが届いた。

 

「あ、メッセージ」

「シグナムさんたちからかな?」

「そうみたい。えっと……」

 

 メッセージによると、自分たちが離れた後他のプレイヤーにソードスキルを教えているプレイヤーを見つけたのだとか。

 話を聞くと、どうやら事前にゲームをプレイしていたβテスターであったらしく、ソードスキルの使い方も熟知しているらしい。

 シグナムたちもまた交渉して、そのプレイヤーから戦い方を学んでいるそうだ。

 なるほど、元βテスターであるならば、SAOの事を他のプレイヤーよりも知っている。そんなプレイヤーに指導してもらえれば、より一層ソードスキルを、SAOの事を知れるであろう。そうと決まれば、自分もそのβテスターの元に向かい教えを受けなければならない。

 二人は、シグナムたちからその場所のことを教えてもらい、直行した。

 

「えっと、シグナムさんのメッセージによると、この辺だと思うんだけど……」

「ぬわぁァ!? ガハッ!」

「え?」

 

 声が聞こえる。男性プレイヤーの声だ。この小高い丘の向こうからだろうか。

 二人がそちらの方向に駆けていくと、そこにはイノシシ型のモンスターと戦う男性プレイヤー、そして周りにはシグナムたち三人の姿、二人ほど見知らぬプレイヤーがいるのだが、状況からするとあの二人の女性プレイヤー、あるいはどちらかがβテスターなのだろうか。

 

「い、痛ってぇ」

「戯け者。SAOに痛みを再現するシステムは搭載されていない」

「あ、そうだった……」

 

 と、先程まで痛みを堪えていたような男性プレイヤーがスッと立ち上がる。

 やはり、実際に自分の体を動かしている感覚だからなのか、反射的に身体が痛みを再現してしまうのだろうか。取り敢えず、リーファはシグナムに声をかける。

 

「シグナムさん!」

「ん、来たな」

 

 と、その時男性プレイヤーの事を罵倒していた女性プレイヤーが近づいて来る。凛々しく、長い黒髪を持った女性のアバターだ。もし、現実にもこんなかっこいい女性がいれば、きっとモテた事であろう。

 

「お前達がシグナムの言っていたプレイヤーか」

「はい、リーファです」

「ナデシコです!」

「≪シンケン・R≫……この紹介も恥ずかしいな。短い間だが、よろしく頼む」

「「はい!」」

 

 シンケン・アールさん。本人は付けた後にこの名前にしたのを後悔したそうだ。しかし、彼女の友達だと言う女性プレイヤーはどういうわけかそれを気に入り、自分も≪シンケン・M≫と名づけ、さらにさらに彼女の知り合いの中でも同じようなプレイヤーネームをつけることが流行ったそうな。ということは、彼女のようなプレイヤーネームをしたプレイヤーが彼女の知り合いの見分けにつながるという事だ。

 とにかく、二人もまた≪クライン≫という男性プレイヤーと一緒にレクチャーを受けることとなった。シグナムたち三人に関しては、元から剣術の心得があったためか飲み込みが早かったらしく、だいぶ上達したので教えは必要なくなったそうだ。

 クラインは、シンケン・Rがこの世界にやってきた時、自分たちが赴いた露天へと迷いなく向かう姿を見てβテスターであることに気がついたらしい。自分も同じように迷いなく走っていたプレイヤーを追いかけてあの露天にたどり着いたわけだから、βテスターの動きというのは参考になり易いのかもしれない。

 リーファがシグナムたちと合流して10分後。

 

「ハァッ!」

 

 リーファは、目の前にいた猪型のモンスター、≪フレンジー・ボア≫に向けて水平斬りのソードスキル、ホリゾンタルを繰り出した。

 フレンジー・ボアは、攻撃を受けた後も再び後ろに通り抜けたリーファの方に向こうとしたが、HPが全消失すると同時にその動きを止め、青白いガラス欠となって砕け散った。

 最初はなかなか苦労したソードスキルだが、コツを掴めば後は思いのままに出すことができる。

 

「ほう、リーファもだいぶ飲み込みが早いようだな」

「ありがとうございます!」

「リーファちゃんも剣道をしてるんですよね?」

「はい! 流石にレイアースさんやフィアッセさんには及びませんけど」

 

 リーファは、謙遜しながら言う。だが、実力差に関してはそもそもフィアッセとは年齢が違い、レイアースはー彼女たちの知らぬことではあるがー実戦の経験があったために少しくらい劣ってても仕方がないのだ。

 しかし、それでもリーファの伸び代は凄まじいものがある。シンケン・Rはそう考えていた。

 剣術の経験者が次々とスキルをマスターしている最中で、二人のプレイヤーは苦労していた。

 

「キャァ! 痛った〜い」

「痛ってぇ……」

「だから痛みはないんだって」

「「あ、そうだった」」

 

 VR系のゲームはこれが初めてというクライン。そして、VR系どころかゲーム自体初心者のナデシコの二人だ。

 敵モンスターに攻撃を受ける。痛がるふりをする。誰かに突っ込まれる。このテンプレートがもはや確立されるぐらいにお約束になって来た。というか、まるで兄妹かのように息ピッタリである。

 

「くっそーどうなってんだ! スキルが発動したと思って斬ったのによぉ、全然ダメージが入らねえじゃねえか!」

 

 ソードスキル発動時には、剣に光のエフェクトが纏われる。クラインは剣が光るのと同時に斬撃を繰り出していた。しかし、そうすると途端に光のエフェクトは拡散。斬撃は、ただの普通の攻撃となってしまう。

 シンケン・Rやシグナムたちがするには問題ないのに、どう言うわけなのだろうか。もはや、自分のソフトだけに不具合があったのかとも思ってしまうほどだ。

 

「タメの問題だな」

「タメ?」

「ナデシコは、初動のモーションの問題だ」

「モーション?」

 

 そう言うと、シンケン・Rは剣を構える。だが、ソードスキルが発動している雰囲気はない。

 

「このように、何気なしに剣を構える人間がいる。ソードスキルがその度に発動すれば、戦いがしにくくなる。だから、ソードスキルを使用するには初動のモーションが大事となる。タメも同じ理論だ」

 

 つまり、ソードスキルの暴発を防ぐために一定の長さのタメ、そして最初の体制からきちんと構える必要があると言うことだ。

 クラインは、そのタメが短かかったためにスキルが発動してもシステムがスキルを発動しないと誤認して自動でキャンセルされてしまったのだ。

 ナデシコの場合、姿勢が安定していなかったため初動のモーションとしてシステムに認識されなかったらしい。

 

「「なるほど」」

「さすがβテスター、何でも知ってますね」

「いや、茅場晶彦からそう教えられただけの受け売りだ」

『え!?』

 

 何気なしに呟いた発言。しかし、その言葉は周りにいる人間全員を驚かせるのには十分すぎるものだった。

 

「アンタ、茅場晶彦に会ったことがあるのかよ!?」

「あの人、メディア嫌いでインタビューも一、二回しか受けたことないって話なのに……」

 

 ゲームディレクターでありナーヴギアの開発者でもある茅場晶彦は人前にあまり出ることはせず、このゲームの開発、販売が決まった後でさえ雑誌などの取材を受けることはごく稀だった。そのため、茅場晶彦と実際に話をしたことがある人間なんて、茅場晶彦の知り合いか、そのインタビュアー、もしくはゲームの開発に関わった人間くらいしか居ないのではないだろうか。

 

「あぁ、実はこのゲームの≪片手剣≫と≪両手剣≫のモーションは私のものを一部使っている」

『えぇ!?』

 

 開発に関わった方の人間であった。

 

「モーションって、それじゃソードスキルの動きは、シンケン・Rさんの動きを使っているってことですか?」

「モーションキャプチャー、と言ったか。それを使って幾らかのデータを取られたな」

 

 ソードスキルを発動すれば、後の動きは全てシステム側が自動で行ってくれる。その動きのモーションをシンケン・Rから取ったと言うことだ。

 

「凄いんですね、シンケン・Rさんって!」

「これでもこの子、お姫様だから」

「お姫様?」

「なんだ? そう言うロールプレイか?」

「ロール?」

「そう。そして私は家臣、よろしく」

 

 ロールプレイ。ロールプレイングゲームというものがあるがこれは、それをもう少し自由な発想に繋げたものだ。

 自分で役割(role)を決めて演じる(play)。

 元々は学習方法の一つであり、複数人の人物が役割と場面をに目で立ち回ることにより、実際にその状態に陥った時にどう行動するのかを練習できる学習。予行演習のようなものだ。

 ゲーム用語としてのロールプレイは、別のキャラクターになり切ると言うこと。自分じゃない自分になりきる、もしくは自分が憧れるキャラクターになりきる事を言う。

 彼女達の場合シンケン・Rが姫、シンケン・Mがその家臣。らしいのだが、家臣というのはどうにも古めかしい和風の印象を持つネーミングだ。姫を守る者という意味であるのなら騎士のほうが適切なのではないか。

 というより、シンケン・Mがロールの話をした直後、当の本人が不思議そうな顔をしていたが、ロールプレイを提案したのはシンケン・Mの方なのだろうか。

 

「面白そう! 私もシンケン・Rさんの家臣になります!」

「いやしかし……」

「いいじゃないですか。ゲームの世界のことなんですし」

「……そうかもしれないな。ナデシコ」

「ハイ!」

「私の家臣になるからには、教えを少し厳しくせねばならないが……覚悟はいいな?」

「頑張ります! 姫様!」

 

 と、言うわけでナデシコもまたゲームの世界限定てはあるが家臣となることになったようだ、

 しかしシンケン・Mのその言い方だと、彼女は現実の方でも家臣であるということになるのだが、本当にそれでいいのだろうか。

 まぁ、ナデシコや彼女達が納得してるのでいいのであろう。

 

「よっしゃ! そんじゃ早速ソードスキルの練習と行くか!」

「おぉ!!」

 

 と、クラインもまたナデシコと盛り上がる。

 実際にはその場にはいない人達とここまで繋がりを持つことができる。

 この世界でできた繋がり、ナデシコと現実の世界でキャンプをしようと言った約束。

 この世界に来てまだ一時間程度しか経っていないのにここまで繋がりを感じ取れるなんて。

 MMORPGとは、なんてすごいところなのだろうか。兄が夢中になるわけも分かる気がする。

 この繋がりは、いつまでも大事にしておきたい。

 この世界でできた絆は、決して忘れることがない。

 この世界は、自分に大切な事を教えてくれる秀逸な世界だ。

 しかし、彼女が見ているのはMMORPGの正の面。本来MMORPG、いやネット全体で言えることであるが、本来は負の面が大きい物。嫉み、恨み、辛み、嫉妬。そんな物を含んだ物のことを言う。

 そして、彼女達が気がつくはずもない。

 今まさに、ゲームの世界からも、現実の世界からもログアウトした一人の人物がいたと言うことを。

 彼女達は気がつかない。その瞬間、メニュー画面からログアウトの文字が消え失せたことを。




プレイヤーNo.6 ???(シンケン・アール【Sinken・R】)
プレイヤーNo.7 ???(シンケン・エム【Sinken・M】)
プレイヤーNo.8 ???(クライン【Klein】)

タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
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