SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
シンケン・Rからの教えを受けて早3時間。二人はそれまでとは見違えるほどに実力をつけていた。
一つコツをつかむとそこからは呑み込みが早く、細かなテクニックも順調にマスターしていった。
特に重要なテクニックである≪スイッチ≫を手にしたのは大きいだろう。
これはSAO側、つまり茅場晶彦が用意したシステムではなく、βテスターたちがプレイしている中でソードスキルの弱点を補う方法を考えた結果編み出された技だ。
弱点。それすなわち硬直時間。スキルを一度放った後は、その強さに比例するように身体が硬直する時間が長くなるのだ。恐らく、連撃の使用によりモンスターに何もさせずに戦闘が終わってしまうという事を避けるため、そして強すぎる力にはそれ相応の代償があるという事を再現するためではないかと考えられている。
身体が動かなくなるというデメリットは、モンスター単体と戦う時はまだしも、複数のモンスターと戦う場合においては即ゲームオーバーになってしまう要因となりうる重大な欠点。これを何とかしなければ長い先にあるゲームクリアなんて至難の業。
そこで、βテスターが編み出した技、それが≪スイッチ≫であるのだ。
スイッチは、複数人のプレイヤーが協力し、一度ソードスキルを放った後別のプレイヤーが硬直時間をカバーするためにモンスターの攻撃役を変わる方法の事を差すのだ。その性質上ソロ、つまり一人でプレイする者には使うことのできない技法であるのだが、それ以外の複数人でプレイする者たちにとっては最も有利な技であると言える。
「それじゃ、クラインさんは他のゲームで知り合ったプレイヤーと一緒にゲームに入ったんですか?」
「おう。今は、皆このゲームに慣れるために単独行動中だけどな。VRゲーム自体、これが初めてだしな」
どうやら、クラインはその他のゲームの中で知り合ったメンバーのギルドのリーダーを務めていたらしい。ギルドとは、ゲーム内で作ることのできるグループの事で、コレを作ることによって様々恩恵を受けることが出来るのだ。
だが、もしかしたら一番のメリットは自分がその世界では一人ボッチじゃないと実感できることなのかもしれない。
「このゲームでもギルドを作れるようになったら、そいつらと組もうって話してんだ。どうだ? ナデシコも入らないか? 紅一点ってことで」
「え?」
クラインが前に作っていたギルド。そしてこのゲームにログインした仲間は全員が男性のプレイヤーである。それが悪いというわけではないのだが、一人くらい女っ気のあるプレイヤーがいればもう少しギルドの雰囲気が男臭くなくなるんじゃないかとクラインは考えていた。
ナデシコが本当に女性であるのかはこの時点では分からないが、しかし女性の姿でプレイしているというのは変わりないため自分のギルドに加わってもらおうと誘ったのだ。
女性プレイヤーであるという事ならば近くにはシグナムやリーファたちもいたのだが、彼女たちの仲の良さは少ししか見ていないクラインにも分かっていたため引き抜くことは現実的ではない。そのため、一人フリーであるナデシコを誘ったのだ。
が、しかし。あいにく彼女もまたフリーではなかった。ギルドという物が何のことか分からずに困惑しているナデシコに、近づく女性プレイヤー。
「ナデシコは私の家臣だ。勝手な引き抜きは許さんぞ」
「姫!」
シンケン・Rは、凛とした表情を崩さずにそう言った。例えここがまがい物の世界であったとしても、ナデシコをこの世界で家臣にした。そのことに何ら変わりはないのだ。
残念ながら、クラインの小さな野望は成就することなく断念することになった。
「二人とも、かなり上達したようだな」
「はい! 姫!」
「もうボス戦に挑んでもいいくらいだぜ!」
「フッ、そうか……」
シンケン・Rは、二人の横に立つ。
彼女が二人のように座ることをしないのは、突然敵モンスターが現れた時に遅れを取らないようにするためだ。とはいえ、周りでは今もリーファやシグナム、そしてシンケン・Mが戦闘を行なっているためそう簡単にモンスターが近づくと言うことはないのだが。
この世界では、疲れがHPに反映されることは当然のことだがない。しかし、疲れは集中力の低下を招き、もしソレが戦闘の途中にピークに達してしまえば、つまらないミスにつながる要因ともなる。そのため、今はシンケン・Rが特訓の途中に設けた休憩時間のような物だ。
「にしても、何度見ても信じらんねぇよな。ここがゲームの中なんてよ」
「うん、夕日がこんなに綺麗に再現できるなんて……」
「……確かにそうだな」
日がもうすぐ落ちようとしていた。といっても、この世界の夕陽は本物ではなく、ゲームのグラフィックが作り出す偽物のソレであるのだが。
しかし、自分達が見ている太陽が本物ではなかったとしてもその現実によく似た景色という物は心にしみわたって美しい物と感じ取れる嬉しさがある。
遠くにはドラゴンが空を飛び、近くに目を向ければ湖が夕陽を反射して、オレンジ色の光を放っている。
空想の存在たるドラゴンと、現実にもありそうな湖の色彩のコラボ。この二つを一緒に見る事ができるのは世界広しといえどもここぐらいしかない。
そんな光景を、自分達は独り占めしているのだ。正確にいえば、一万人のプレイヤーだけがこの景色を見る権利を有しているのだ。なんていい眺めなのだろう。そして、なんと心地よく禍々しいものなのだろう。この優越感は。
「はやくみんなとこの景色が見たいなぁ……」
「皆とは、現実の世界の友達の事か?」
「うん! 皆もこのゲームが通常販売されたら買って、一緒にやろうって約束しているんです!」
「そうか、その時が楽しみだな」
「はい!」
そう、未来のことを夢に見ているナデシコ。そんな少女を見て、少しでもこのゲームの開発に関わる事ができたことを、少しでも誇ってもいいのかもしれないと思うようになってきた。
最初は、茅場晶彦の思惑がどうのという理由を持ってこの世界にやてきたが、しかしログイン開始から何かが起こるという気配がないので、今のところ楽しむ事ができているのは、ある意味幸運であろう。
それに、こうしてこの少女の笑顔を作れたことは、人々の平和を守る侍としては、少女以上に嬉しくなってくる。
「なぁ、姫さん。βテストの時どこまでいけたんだ?」
と、クラインがシンケン・Rに聞く。このゲーム、ソードアート・オンラインは百層あるステージを次々にクリアして最上階に達してゲームクリアを目指すという目的が存在する。当然のことだが、βテストで百層まで到達することは不可能。しかし、二か月ものテスト期間の間にどれだけの階層がクリアされたかは参考までに知っておいたほうが良いとクラインは思ったのだ。
「第八層……だな」
「えっと、2ヶ月で八層だから……1週間に一層ずつ?」
「そう言うことになるな」
シンケンRは思い返す。βテストの時の記憶を。そして戦いを。
あの時、各階層のボスと他のプレイヤーと協力して闘う必要があったのだがあまりにも強く、現実の世界での戦闘経験が豊富にある彼女であったとしても、何度もゲームオーバーになった末にボスをギリギリで倒すことに成功したというゲームバランス崩壊スレスレだった。
それだけの敵を相手にして、二ヶ月でたったの八層しか進めなかったと考えるか、八層も進めたのかとどちらを考えるかは自由だが、しかし事実として八層を超えたところで二ヶ月のβテストの期間が終わったのだ。
「二ヶ月に八層……貴方ほどの腕を持つ人間がそれほどとは……フフッ、腕がなるな……」
そうこう話をしていると、シグナム達が帰ってきた。どうやら、そろそろ頃合いであると見て戻ってきたらしい。
ちなみに、この間のモンスターとの戦いでリーファ、フィアッセはレベル2に、シグナム、レイアース、シンケン・Mはレベル3となったらしい。随分と早い成長スピードのような気もするが、休みなくモンスターを狩っていたらいつの間にかレベルアップしていたらしい。
「お前たち、随分とのめり込んでいるようだな」
「あぁ、最初はただの遊びのつもりだったが、いざ戦ってみるとなかなか奥が深い」
「うん。それにここだと、どれだけ敵を倒しても本当に動物を殺してるわけじゃないから少し気が楽になる」
「? そうか」
シンケン・Rは、レイアースのその言葉に何か引っ掛かりを感じた。
ここだと本当に動物を殺してるわけじゃないから気が楽、という言葉からは、現実で動物を頻繁に殺しているという文面も垣間見える。
それが、仕事や趣味でやっている猟の様な可愛いものであることを願わざるを得ない。もし、猟奇的な何かであった時、その時はーーー。
「でも、本当にすごいですね、この世界は」
と、リーファは手に取ったスモールソードを見つめるとそう呟いた。
「この剣があれば、どこまでもどこまでも進むことができる。剣一つで自分がどれだけ戦うことができるのか試したくなってくる。お兄ちゃんも、そんな世界に惚れたのかな……」
「リーファの、兄?」
「βテスターなんです、お兄ちゃん。今日は体調不良でログインが遅れるみたいなんですけど」
「そうなのか。もしかしたら、私とも会っているのかもしれないな。名前は?」
「すみません。お兄ちゃんを驚かせようと思って私がログインしていることも知らないんです。だから、βの時の事とかはよく聞いていなんです」
リーファの兄、和人はネットリテラシーに関しては彼女を超えた知識を有している。そのため、本名でプレイしているという事も、容姿を変えることなくプレイしているという事も考えられないので、あっても双方が正体に気が付くという事は口を滑らすという事さえなければありえない。
だが、幸いにもこのゲームの現在のプレイ人数は一万人と少ないと言ってもいい人数。だから、偶然何かのクエストで知り合ったプレイヤーが兄である。そんな奇跡的な出来事が起こりえることもある。
この少女の兄、しかもβテスター。一度このゲームの世界で手合わせを願いたいところだと、シンケン・Rは思っていた。
「ん?」
「どうしました?」
「いや、なんでもない」
全く、思ってもみなかったことだ。
最初はただ茅場晶彦の裏に潜んでいる可能性がある外道衆の調査のお名目でこの世界に入り込んだのに、いつの間にかこの世界での戦いにのめり込んでいる自分がいる。この世界での出会いに、戦いに心を躍らせている。
血で血を争う戦いだとか、憎しみを抱えた戦いだとか、そういった血生臭い世界から切り離されたこの世界。
数多くの仲間と出会い、数多くの戦い、数多くの敗北を得て、ここで自分は更なる境地に立てるかもしれない。
たかがゲームだと思っていた。ただの遊びだと思っていた。でも違う。プレイしてみると、そこには多くの人間の熱意があり、野望があり、また多くの向上心がある。それは、現実における一つの夢に向かう人間のソレとなんら変わらない。
もし、このまま何も起こらなくても、侍の勘が外れていたとしても、しばらくこのゲームを続けてみてもいいのかもしれない。
もしかしたら、見つかるのかもしれない。自分の中にある、誠の侍としての道が。
育むことができるかもしれない。≪彼≫と同じくらい強くて、切っても切れない絆を。
ここにいる、仲間達とともになら。
「さて、どうする? そろそろ休憩を切り上げるか?」
「おう! もっともっと戦ってレベルアップしてやるぜッ! と言いたいとこだけどよ……」
シンケン・Rの提案に一度立ち上がって答えたクラインはしかし、再び座り込むと腹を押さえて言う。
「腹減ってよ……一度落ちるわ」
「そうか、この世界ではいくら食べても空腹感が紛れるだけだからな」
落ちる、というのはネット用語の一つでログアウトを意味する物だ。
このSAOの世界には、データ化された食べ物や飲み物が幾つも存在している。しかし、例えそれらをいくら飲み食いしたとしても空腹感が多少紛れるだけで現実の胃の内容量が増えることはないのだ。
だから、もしゲームの中に入り浸りすぎると、栄養失調やヘタをすれば餓死するという恐れも存在するのだ。
「あ、それじゃ私も。夕ご飯にはちょっと早いけど、そろそろお母さんが帰ってくる時間だから」
「そっか」
リーファもまた、夕ごはんを理由としてログアウトするようだ。それに、兄が今現在SAOをプレイしるのかどうかの確認もしたいらしい。
「みなさんは、どうするんです?」
「もう少し試したいことがある。しばらくはここでモンスターと戦おうと思う」
「私達も、似た感じね」
「うん! 私もまだ遊んでいたいし!」
どうやら、二人以外の面々はまだプレイし続ける様だ。
「んじゃ、一端お別れだな」
「あぁ、また一緒にプレイしよう。今度は、そっちの仲間と一緒にな」
「おう! 頼んだぜ!」
「それじゃ、リーファさん! キャンプに行く約束、忘れないでくださいね!」
「うん、もちろん。これからもよろしくね!」
「はい!」
そう、これからも、いつでも、ナーヴギアとパソコンがありさえすれば繋がることができるのだ。だから、これはさよならじゃない。だからこそ彼女たちは清々しかった。
これが、ゲームであるからこそ、こうして笑い合うことができたのだ。
その時までは、ただのオンラインゲームであるとしか思っていなかったからこそ、クラインもいつものように気軽にネット用語である落ちるという言葉を使えていたのだ。
自由にこの想像の世界と、現実の世界を行き来することができると信じていたからこそ、出会いと、別れを噛み締めて喜び合うことができたのだ。
それが、本来あるべきオンラインゲームの世界だから。
それが、現実という地獄のような世界を生きる人間たちの特権だから。
それが、今を生きている生き物に与えられた性だから。
それが、そのゲームを手に入れることができたという奇跡の代償だから。
それが、彼彼女たちに与えられた運命だから。
抗うことはできる。反抗することはできる。しかし、逃れられない運命に縛り付けられてしまうのは避けられない。
メニュー画面を開いた。その瞬間。
そのゲームは、遊びではなくなった。
「あれ?」
初めに気がついたのは、リーファである。
おかしい。さっきまでは確かにここにあった文字が消えている。それも、このゲームにおいて最も大切な文字が。
「どうした、リーファ」
そんなリーファの様子にいち早く気がついたのはシンケンRである。
「あ、いえ……あのシンケン・Rさん。ログアウトって、確かメニュー画面の一番下にあるんでしたよね?」
「あぁ……《オプション》や《ヘルプ》のすぐ下に……」
と、シンケン・Rもまたメニュー画面を開く。そしてβテストの際何度も操作したそのボタンが《あった》場所を探す。
だが、そこには彼女の見覚えのある文字は存在していなかった。
「な……ログアウトが、消えている?」
「え?」
確かに、ここにあったはずのログアウトのボタンが消えている。あったのは、ログアウトを示すアイコンだけ。当然その項目に触れても反応することはない。これは、一体どう言うことだ。
「茉子、メニュー画面を見てくれ。一番下、ログアウトの文字はあるか?」
「ちょっと待ってください」
と、ただならぬ事態であると感じたシンケン・Rは、シンケン・Mに本名をぶつけてそう聞いた。この事象。もしかしたら自分やリーファの二人にだけ起こっている可能性もあったからだ。
彼女のこの言葉で動いたのはシンケン・Mだけではない。周りにいたクラインたちもまた、メニュー画面をひらいてそこにあるはずの文字を探し始める。
果たして、メニューウインドウを開いたシンケン・Mは一言、残酷な真実だけを告げる。
「ありません……」
「こっちもだ……」
「嘘、私のメニューにもない……」
ログアウトの文字が消える事象は、三人だけにとどまらずその場にいた全員にも同じことが発生していたようだ。つまり、今ここにいるものたちはログアウトという選択肢を失ってしまったと言うことになる。
「ま、今日は正式サービス初日だからな。こんなバグも出るだろ。今頃運営は半泣きだろうな」
と、クラインは冗談めかして笑いながら言った。
だが、これが笑い事で済まされない問題であるのは、彼女が一番理解していた。
「ありえんな」
「へ?」
元βテスターであるシンケン・Rだ。
「βテストの二ヶ月間、ログアウトの項目が消えるというバグなんて一度も発生しなかった。それが、正式サービスされてからいきなり出ると言うのもおかしな話だ」
「けどよ、βの時はたった千人ぽっちだろ? それが十倍に増えたからその分何かしらのシステムに負荷がかかるってこともあり得るんじゃねぇか?」
「仮にそうだとして、なぜ強制ログアウトがなされない」
「強制ログアウト?」
「そうだ。このバグがいつ発生したのかわからないが、ゲームの運営の手でメンテナンスのためにプレイヤーを外側から強制的にログアウトさせることも可能だ。そう、茅場は言っていたが……こんな今後の運営をも左右する初日に発生して、なぜいまだに何の対処もなされていない」
「確かに……」
普通のオンラインゲームでも、ゲームの進行上多大なる影響を与えかねないバグが生じた時にはプレイヤーを強制的にログアウト、もしくは一度ゲーム自体を落としてゲームを終わらせる手段をとる。その後で、バグを取り除くためのメンテナンス期間を設け、はやければ数時間、長ければ何日もかかってゲームを再開させるために動く。
だが、彼女の言う通りこのバグがゲーム開始当初か、はたまた何時間か経った後で発生したとしても、それに気がついた時点で上記の対応をとっていなければゲーム会社への信用問題にも発展する自体だ。
ログアウトできない。ゲームを終わらせることができないなど、次の予定をいくつも持っているような現代社会を生きる人間たちにとっては致命的なバグになる。
「あ、俺17時30分にピザとジンジャーエールの配達を予約してんだけど……」
「……」
時刻はすでに17時25分。あと5分以内にバグが治るというミラクルが起こらない限り、残念ながら彼の元にピザが届くことはないだろう。
いや、そんなことよりもだ。
「他に、ログアウトする方法はないのか?」
そう、レイアースが聞く。例えば、特定の場所に言ってセーブする。宿屋に泊まる等他のゲームではありそうなログアウト方法が浮かびそうなものだが、しかしシンケンRは首を振って言う。
「ないな……」
このゲーム内においてその項目に触れること以外でのログアウトの手段など存在しない。それは、説明書にも書いていることであるし、βテスト時代に遡ってもそれ以外の方法でログアウトをしたというプレイヤーの噂など耳にしたことがなかった。
「あ、けどよ! ナーヴギアを外しちまえばどうだ? そうすれば、いくら何でもゲームを終わらせられるんじゃねぇか!?」
「確かに、そうだが」
クラインの言うことも最もであり、可能だ。SAOとは、そもそもナーヴギアというコントローラーを介して無ければ辿り着くことができない世界。なので、そのコントローラーを外してしまえばそれまで。ゲームをプレイすることは出来なくなり、プレイヤーは瞬く間に現実の世界に戻されることなる。だが、たとえそれが出来たとしてもナーヴギアが脳から身体に伝わるはずの電気信号を脳幹の部分で遮ってしまっているため今の自分達にはその方法を取ることができない。
「運良く、外にいる者が外してくれるか、このバグが解消される時を待つか……」
これがただの不具合であればいいのだが。そうシンケン・Rは願う。
「いや外にいる人間って言ってもよ。俺、一人暮らしなんだぜ? 他のみんなは? リーファは、おっかさんが帰ってくるとして……」
と、クラインが聞くと、どうやらシグナムとシンケン・M以外の面々は家族と一緒に暮らしているためもし長い時間ゲームの世界から帰らなかったら心配して外すことは考えられるらしい。
また、家族と一緒に暮らしていない二人に関しても、フィアッセやシンケン・Rと言った現実の世界の知り合いがいるため、もし先にゲームの世界から抜け出したら外しに行けるそうだ。
「ってことは、どうにもならないのは俺だけってことか……」
「住所を教えてもらえれば、私たちの誰かが現実に戻ったときに外しにいくことができるけれど……」
「……いや、それは遠慮しとく。ゲームする前にドアに鍵かけちまったし、それに……女の子を家に入れれるほど綺麗じゃねぇしよ」
本当は、クラインもレイアースの申し出を受け入れたかった。と言うよりもそれしか方法がなかった。
しかし、自分の部屋は色々と散らかっている上、女の子に見せられないようなものまで散乱している。だから、ここは渋々申し出を断り、バグが解消されるのを待つことにした。
「………」
バグが解消される。本当にその時が来るのだろうか。リーファは、言いようのない不安に陥る。
もしも、このままゲームの世界から出ることが出来なかったら。そんな、ありえない心配まで押し寄せてくる。
見ず知らずの地に、友達と取り残された気分というのは、まさしくいまこの時のことを言うのだろう。
海外に旅行に行って、旅券やパスポートをなくして、財布も落として、どこに行けばいいのか、誰に話しかければいいのか、話しかけても言葉が通じるかどうか。そんな、世界に自分が一人ぼっちになってしまったかのような、そんな感覚。
不幸中の幸いとして、自分にはフィアッセやレイアースといった、現実の世界でも友達だった者や、ナデシコやシンケン・Rといったこの世界でできた友達がいるから心細さと言うものはさほどなかった。
だが、バグが解消されず、ログアウトもできずに、永遠にこの世界にいることになってしまったら。もう、二度と両親や兄に会うことができなくなってしまったら。
そんなことを考えると気が気ではいられない。
シンケン・Rは、他にログアウトログアウトする方法がないと言っていたが、もしかしたらそれはβテストの時のみと言うことで、正式にリリースさればバージョンでは他にログアウトの方法があるのでは無いだろうか。いや、もしかしたらそちらの方が正規のログアウトの方法なのでは。そんな希望的観測をしてみたくなるほどに、彼女の不安は大きくなっていた。
不安、怖い、恐ろしい。
一体、自分達はこれからどうなってしまうのか。
無事に家族の元に帰ることができるのか。
そして、元通りの生活に戻ることができるのか。
たかがゲームのバグ。確かにそうだ。
しかし、そのたかがバグでこれほどまでに不安になってしまうのは、これがVRゲームであり。今自分達が実際にそのVRの世界に入り込んでいるからに相違ないだろう。
できれば、このまま何事も起こることなくゲームが終わりますようーーー。
「ッ!?」
「これって!?」
「鐘?」
その時、アインクラッド中に轟くかのように、鐘の音が鳴り響いた。
本当のゲーム開始を知らしめすかのように、大きく。そして凄まじいまでの迫力の鐘が、全てのプレイヤーの耳を貫き、偽りの脳を揺らす。
その時、黒鉄宮の中に一つの大きな黒い石碑が出現したことに、気がつくプレイヤーは誰もいなかった。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい