SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第一章 7話

 光に包まれたのは、一体何秒程であっただろうか。

 視力が回復するまでの間、目に映るのは白い世界ばかりで、でも白銀の雪景色を直視しているかのような痛みを感じることは無かった。

 けど、それは逆に違和感となり重くのしかかる。当たり前である物が当たり前に来ない感覚。それが、とても恐ろしい物であると改めて分かった。

 だから、早く終わってくれ。そんな願いにこたえるかのように徐々に光は収まっていき、そして目は再びまがい物の世界を映し出す。

 

「一体、何なの〜?」

 

 ナデシコの目に最初に映ったのは、手鏡の中に映る≪何ら変わりない自分の姿≫だった。

 特に姿形には異変は起こっていないし、もしかしたらこの場所に来た時のように別の所に飛ばされた可能性も考えたが、そうではないようだ。

 一体、あの光は何だったのだろう。茅場晶彦のプレゼントの意味って何なのだ。ナデシコの困惑は、隣にいる少女を見るまで続いた。

 

「ッ……今のは……」

 

 その時、ナデシコの隣にいたリーファ≪であったはずの≫人物の声を聴いた。

 しかし何か妙な違和感がある。声色が少し変わっているようだ。ナデシコは、ゆっくりとリーファの姿を見た。が、そこにいたのは―――。

 

「あ、ナデシコさん。大丈夫?」

「え? あ、あの……」

 

 見知らぬ女の子だった。

 

「? どうしたの?」

「えっと……リーファちゃん、でいいんだよね?」

「え?」

 

 リーファは、何故ナデシコが疑問形で自分の名前を確認したのか、意味が分からなかった。なんだか待ち合わせしていた人間と別の人間が来た時のような、そんなしどろもどろした感情。一体どうしたというのだろう。

 

「えっと……ほら!」

「え?」

 

 と、ナデシコが見せたのは自分の手鏡だった。そこに映っているのは、≪リーファの現実の顔≫である。どこもおかしな所はないような。

 

「って、え!?」

 

 いやおかしい。なんで現実の顔に戻っているのだ。確かに先ほどまでこのゲームの開始の為に作成したアバターの顔付きであったはず。

 それなのに、顔の形、目や鼻立ち、口に頬、おまけに身長や体型に至るまでの全てが現実のソレと同じものとなってしまっている。変わらないのは髪形と色、それから耳の形と言ったものくらいだ。一体どうしてこうなったのか。

 

「リーファ、お前か?」

「え?」

 

 混乱するリーファは、声をかけられた方向に顔を向けると、そこには先ほどまでいなかった凛々しい顔付きの女性がいた。

 それだけじゃない。他にも数名かの見覚えのない女性たち、そして野武士のような男性が立っていた。先ほどの口調から察するに、もしかして自分に声をかけてきたのは―――。

 

「えっと、もしかして……シンケンR・さん?」

「……そうだ」

 

 やはり、シンケンRだった。それじゃ、近くにいる野武士のような男性は―――。

 

「おいおい、どういうことだよこれ! なんで、現実の俺の顔が……」

「クラインさん?」

「お、おう……」

 

 クライン、か。

 あたりを見渡すと、それまでゲームのキャラクターのような顔の作りをしていたプレイヤー達は、そのほとんどが消え去り、現実的な顔つきの人間ばかりとなっていた。察するに、すべてのプレイヤーの顔が現実のそれと同じ物となってしまったとみていいのだろうか。

 ナデシコが自分の顔を見た時に違和感を感じなかったのは、彼女はそもそもアバターの容姿を一切変更することなくゲームをプレイしていたからなのだろう。

 ふと、ここでクラインが言った。

 

「というか、疑ってたわけじゃねぇけど、本当に全員女だったんだな……」

「なんだ?」

「いや……ほら、周りを見渡してみろよ……」

「ん?」

 

 促された少女たちは、改めて周囲の様子をみる。だが、顔付きがそれぞれに変化したこと以外は特に変わったところはないような気もするが。

 

「え、お前男だったの?」

「俺をだましたのか!?」

 

 いや、ところどころから阿鼻叫喚の声がしている。恐らく、性別を偽っていたプレイヤーが現実と同じ顔付きになったことによって、詐称がばれ、女という事でペアを組んでいたプレイヤーから非難を受けているのだろう。

 そういえば、先ほどまで見渡す限り男女半々だったプレイヤーが、真実が明かされた後では圧倒的に男性の方が多くなっているような気がする。

 

「な、俺の見立てじゃ女がこのゲームをプレイする割合ってのは意外に少ないって思ってたからよぉ……一人くらいはネカマが混じってんじゃねぇかって、そう思ってたんだよ」

「なるほどな……」

 

 ある意味クラインは不幸中の幸いだったのかもしれない。いや、あまりにも不幸の方が大きすぎて幸いと言っていいのかは分からないが、とにかく出会った女性アバターを使用しているプレイヤー全員が本当に女性だったなんて、運が良いにもほどがある。

 にしても、一体どうして、いやどうやって現実の顔と同じ顔付きにすることが出来たというのだ。

 当然だが、自分たちが事前にアバターを作成した時に現実の顔を登録するなんてしていない。する理由もないし、しても意味がないはずだったからだ。

 そう考えると、何故ナデシコは現実と同じ顔と身体でプレイすることが出来ていたのだろうか。今更そんなことを思い返すのも無駄ではあったが、何故彼女に会った時点でそこに気が付かなかったのか。

 考えられるとしたら、ゲームのプレイを開始した時点で顔や体格がSAO側にインプットされてしまっていたという事なのだが―――。

 

「なるほど、スキャンという物か」

「え?」

「茅場晶彦から以前聞いたことがある。ナーヴギアはフルフェイス、つまり顔全体を覆っている。そのため信号素子というものを利用することで顔の表面の形も鮮明に把握できるのだと」

「いや、けど身長とか体格はどうなんだよ」

「キャリブレーションがある。モーションを取った時に教わったが、自分の身体に触れることによって、≪手をどれだけ動かしたら自分の身体に触れるのか≫を測ると……」

 

 なるほど、その技術を応用することによって身長や体格を現実の姿そのまま鮮明に再現することが可能となるわけだ。

 髪型に関しては複顔と同じで顔の形をスキャンするのみでは再現することが不可能であるため、それはアバターを作成した時の髪形と据え置きになってしまっているのだろう。

 

「けど、けどよ! 納得いかねぇよ! なんでこんなこと……茅場晶彦は一体何がしたいってんだ!」

 

 確かに、何故茅場晶彦は現実にこれほどまでこだわるのか。いや、何故空想の世界で現実を求めるのか。全く理解できない。

 

「私は、なんとなくわかる……」

「レイアース?」

 

 が、レイアースには分かっていた。茅場晶彦の狙いが何なのか。

 

「きっと茅場は、現実感のないアバターの姿のままじゃダメなんだと考えたんだと思う。偽物の身体のままじゃ、現実味がなさ過ぎて、命を賭けて戦っている気になれないんだって考えたんじゃないか? だから、姿かたちを現実と同じにすることで、命がけの戦いをしているという認識を持たせようとした。想像だけど、きっとそうだと思う」

 

 理解はできない。だが、意味は分かる。もしも、自分たちが偽物の身体のままだったら、本当に命がけの戦いをしているという実感がなくて、人によってはただのゲーム感覚で敵に突っ込んで、玉砕する者もいることだろう。

 だが、これが現実の身体とそっくりであればどうだ。本当に自分自身の身体で戦っているような感覚になることで、そんな無茶をするような人間は少なくなるのではないか。一見して、プレイヤーを守るための行為のようにも見えなくはないが、しかしその奥底には間違いなく茅場晶彦の狂気が隠れ住んでいる。

 

『諸君は今、何故、と思っているだろう』

 

 赤い血のような空から、重々しく響く声が再開した。恐らく、茅場晶彦はプレイヤーが理解する時間を作っていたのだろう。いらぬおせっかいなような気もする。何故なら、どれだけ時間を消費したとしてもプレイヤーがそれを受け入れることなど不可能であるのだから。

 

『何故私は―――SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか? これは大規模なテロなのか? あるいは身代金目的の誘拐事件なのか? と』

 

 違う。きっと、どれも違う。テロであるというのなら、プレイヤーのゲームオーバーを待つなんてまどろっこしいことをせずに今すぐここで全てのプレイヤーの脳を焼き切ってもいいはずだ。

 身代金目的の誘拐であるとするのならば、ゲームクリアなんてものを求めていないハズ。恐らく、茅場晶彦の狙いは、考えたくもない、しかし最もあり得る狂気的な理由は。

 

『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。何故なら……この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創りだし、鑑賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』

 

 やはり、神の真似事をするためか。それも、最も質の悪い神、邪神のまねだ。

 人の人生なんて何にも思っていない邪神が、自らの欲求を満たすためだけに人間たちに苦行を強い、それによって苦しむ者たちを傍観する。ただ、それだけのためだけに地位や名誉をかなぐり捨てる狂気は、人間のそれをはるかに超えた悪魔的な発想を感じる。

 

『……以上で、≪ソードアート・オンライン≫正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の―――健闘を祈る』

 

 茅場晶彦がそう言葉を締めくくるとその姿はヒドイノイズとともに崩れ去っていき、次第に周囲は先ほどまでのような夕方の景色と、そして始まりの町の軽やかな音楽が流れ始めた。

 その場にいたプレイヤーは皆かたまり、動けなかった。自分の置かれた状況をちゃんと理解するための時間が必要だった。だが、理解なんてできるはずがない。ただ、普通にゲームをプレイしていたただの人達が、こんな異常事態を理解せよと、茅場晶彦の考えを理解しろと言われるのは無理があった。

 その時、誰かが手に持っていた手鏡を落とした。

 瞬間、起こるのは怒号、悲鳴、そして嘆き。すべてを奪われた怒りが、現実に帰れないという悲鳴が、そして家族のことを想う嘆きが、その広場を包み込んでいた。

 そして、プレイヤーが一斉に背後から押し寄せてくる。怒りを向けるべき茅場晶彦はもうこの場にはいない。そう分かっていてもなお、いや分かっているからこそのパニックが発生していた。

 シンケン・Rは思った。まずい、このままこのパニックに巻き込まれてしまえば皆離れ離れとなってしまう。

 特に、うつろな目をしているナデシコとリーファを放置することは危険だ。早くこの場から脱出しなければ。

 

「ナデシコ! リーファ! 手を!」

「え?」

「広場の外に出る! 走れ!」

 

 シンケン・Rは半ば強引に二人の手を掴むと、広場の外縁部に向けて走り出そうとした。だが、他の人間の姿はいつの間にかいなくなっていた。≪茉子≫は、皆は何処に行ったのだ。なんとか彼女たちを救い出すことが出来ても、他の者と逸れてしまっては―――。

 

「姫! 私たちのことはいいですから! 二人を!」

「ッ!」

 

 遠くから、そんな言葉が聞こえてきたような気がした。それに対して返事を返す間もなく、シンケン・Rは人々の群れの合間を次々と針の穴に糸を通すかのように走り抜ける。

 怒号と怨念の轟く戦場で、鳴り止むことのない恨みの連鎖。本当は、そのすべてを救ってやりたい。しかし、自分は神ではない。完全な人間ではない。すべての人間を救う事なんて、絶対にできない。

 残念だ。

 果たして、三人がたどり着いたのは市街地の路地裏。この世界に静かな場所なんて存在しない。

 広場から聞こえてくる怒号もそうである。しかし、このゲーム内のBGMはプレイヤー側が設定でカットすることがなければ、夜中を除いて永遠に聞こえ続ける。

 だが、それでもこの場所はNPCが周りにいないため比較的静かな場所であると言えるだろう。

 

「大丈夫かナデシコ、リーファ?」

「……」

 

 返事は、なかった。

 いや、返事をする気力もなかったのだろう。無理もない。今、彼女たちはありとあらゆる絶望をその一心に受けているのだから。

 友と共に歩む時間。それがどれだけ大切で尊い物であろうか。

 友と共に笑う時間。それがどれだけ愛おしく、豊かな物であろうか。

 家族と一緒にいる時間。それが、どれだけかけがえのなく、そして刹那的なものであろうか。

 彼女たちは奪われたのだ。過去も、今も、未来も、全てをたった一人の狂気に奪われたのだ。

 その気持ちを考えると、身が引き裂かれる思いだ。

 特に、その狂気に、知らなかったとはいえ協力してしまった自分としては、どれだけ彼女たちに謝っても謝り切れるものではないあろう。

 シンケン・Rは、一挙手一投足に重みを感じながらゆっくりと現在時刻を確認する。時刻は今18時少し前。今から≪あの村≫に向けて走ればギリギリモンスターの行動が変わる前にたどり着くことが出来るかもしれない。

 βテストの際、モンスターの出現種類は昼間と夜間では違う場合が多かった。例えばこのはじまりの街の周囲の草原だけで言うと、昼間はイノシシ型のモンスターが多かったのが、夜間になるとオオカミ型のモンスターが多くなる、と言ったようにだ。

 もちろん昼間にオオカミ型のモンスターが出なくなる、夜間にイノシシ型のモンスターが出なくなるといったわけではない。事実ナデシコは先ほど昼間にも関わらずダイアーウルフの襲撃を受けている。だが、時間によって出現するモンスターの種類が違ってくるのはあきらかだ。

 βテストの時と同じモンスター出現率であればそれでもかまわない。しかし、もしもβから本稼働になった際に設定を茅場晶彦が変えてしまっていれば、下手をすれば昼間とはけた違いの強さを持ったモンスターが出現する恐れがある。そうなれば、いくら現実で剣に自信がある自分であったとしても、無傷で通り抜けることは不可能となる。

 ならば、早急に次の村、≪ホルンカ≫にたどり着き、そこで手にいれることのできる新たな剣を武器としなければならない。

 だが、そのためには―――。

 

「二人とも聞け」

「「え?」」

「私は、これから次の村へと行く。お前たちは、この街にいろ」

 

 それは、非情の決断とも言えた。

 

「この先にあるホルンカという村に、アニールブレードという現在使用しているスモールソードよりも強い武器が手に入るクエストある。いずれこの街の近くの平原は正気を取り戻したプレイヤーを中心として一気に刈りつくされ、その村にたどり着くプレイヤーも増えるはずだ。その前に、いち早くその村にたどり着き、新たな武器を手にいれ、その村を拠点としてレベルを上げる。そうしなければ、この世界で生きていくことはできない。お前たちは、≪私が≫ゲームをクリアするまでこの街で待機していろ」

 

 シンケン・Rは、のべつ幕無しもかくやと言わんばかりに現在の状況から今後の方針を伝える。

 早口でもあるために理解するまでに次々と情報が連鎖していったためもあるかもしれない。しかし、それ以上に、二人はある言葉が気になって話を脳が理解するのを拒否しているようにも感じとれた。

 

「私がって……もしかして、一人でゲームをクリアするつもりですか?」

「そうだ。他のプレイヤーの成長を待っていれば、クリアするのがいつになるか分からない。私が、このゲームをクリアすれば……」

「そんなの、無理に決まってるじゃないですか!」

「……」

 

 それがとても無理難題であることはSAO初心者である二人にも十分に理解することができた。

 βテストの際、千人のプレイヤーが協力し、何度も何度もボスに挑んで負けてを繰り返してようやく一層ずつ攻略したというのに、たった一人で第百層までを攻略するなんて到底不可能だ。

 それを理解していないシンケン・Rではないはずなのに。なんで。

 

「無理でもなんでも、やるしかない……ゲームに閉じ込められたすべてのプレイヤーの人生がかかっているのだ……」

「ッ……」

 

 違う。その目で気が付いた。彼女は、全てのプレイヤーのために戦おうとしているわけじゃない。ただ、目の前にいる自分たちのために戦おうとしていた。

 自分たちの、未来を少しでも守るためにたった一人で戦いに赴こうと、そうしているのだ。

 

「だったら……だったら、私たちも連れてってください!」

「……」

 

 なら、なおさら彼女一人を行かせるわけにはいかない。自分たちのために死ぬかもしれない戦いに赴こうとしている彼女を、そのまま向かわせていいわけなんてない。自分たちも一緒に―――。

 

「お前たちじゃ、足手纏いにしかならない」

「え?」

 

 シンケン・Rは、いっそ清々しいと思うほどに彼女たちの言葉を斬り捨てた。

 

「お前たちは、現実で戦ったことがあるか? 明日死ぬかもしれない、今日死ぬかもしれない。そんな戦いに身を投じたことがあるか?」

「それは……」

「あるわけがない。なら、そんなお前たちが付いてきても、ただの足手まといになる。お前たちは、ここにいろ」

「……」

 

 それは、あまりにも真剣な顔つきだった。有無を言わさなぬ表情で、全てを否定する氷の女王のそれとどこかしらかが似ていた。

 そこには、先ほどまで確かにいた一人の女性の姿のかけらもない。彼女は、たった今から再び戦士となって戦いに赴く。例え、そのために自らが孤独になろうとも。

 

「……」

 

 二人は、そんな戦士の前で何一つ言うことが出来ない。本当は、彼女に物申したいことがたくさんあったはずだ。本当は、彼女と一緒に戦いたいと言いたかったはずだ。

 でも、怖かった。

 彼女が怖かった。これ以上何かを言われるのが怖かった。

 死ぬのが、怖かった。

 これが、MMORPGの罠。通常のゲームであれば、プレイヤーは自分ただ一人であるため、ラスボスを倒せるのは自分自身しかいない。だから、例えどれだけ遠い道のりでも、進まなければならない。己がいくら拒否したとしても、いつかはラスボスを倒すために戦わなければならない。

 しかし、ことMMORPGに関してはインターネットで多種多様のプレイヤーが一緒に同じゲーム内で戦うため、例え自分が立ち上がらなくても、自分自身が主人公にならなくても、他のプレイヤーがいつかはラスボスを倒してくれるだろうという希望的観測が生まれてしまう。

 けど、そんな考えが罠なのだ。

 もし、一欠けらでもそんな考えが普通の人間の頭によぎってしまえばどうなるか。

 人類すべてが他力本願であるとは言わない。しかし、もし自分じゃなくてもゲームがクリアできるのではという事実が、揺るぎない真実があるとするのならば、積極的に戦いに行こうと思う者がいるのだろうか。

 もし、いるとするのならば、例えゲームオーバーになったとしても本当に死ぬわけがないと高を括って戦闘に臨む人間か。死をも恐れることもなく戦いに臨む人間か。自らが主人公となり、ラスボスを倒してプレイヤーを解放しようなどと考える勇者志望の命知らずか。それとも、本当の戦士か。

 ナデシコとリーファは、そのいずれでもなかった。いや、もしかしたらそれが人間として一番あり得る性格であるのかもしれない。だから、彼女たち二人が戦場に行きたくないと願ったとしても、それは仕方のないこと。それが当たり前なのだから。それが、当然であるのだから。

 それが、命を大事にする人間という事なのだから。

 

「お前たちのことは≪茉子≫に任せる。心配するな。必ず、このゲームをクリアする……サラバだ」

 

 シンケン・Rはうっすらとした笑顔でそう言うと、ゆっくりと路地裏の出口へと向かう。リーファはその背中に向けて恐る恐ると手を伸ばした。しかし、その手が彼女に触れることは結局はなかった。

 ナデシコもまた、彼女に声をかけたかった。だが、口が開くこともない。何を言ったらいいのか分からない。自分たちの代わりに、いやもしかしたら自分たちのせいで死地に赴こうとしている人間に、何を言ったらいいのか分からなかったから。

 行ってもらいたくない。そう言いたかった。でも、言えなかった。自分が弱かったから。止めることが出来なかった。それは、彼女たちの後悔として永遠に残る。

 終に彼女の姿は見えなくなった。

 残ったのは、場違いな陽気なBGMと、日が傾き路地裏にまで伸びてきた建物の影。

 そして―――。

 

「ッぁ……」

 

 涙の流れない、異様な悲しみだけだった。

 

「……」

≪茉子、ナデシコたちの事を頼んだ。私は、一足先にホルンカへと向かう。彼女たちの心が落ち着いたタイミングを見計らって追いついてもらいたい≫

 

 始まりの街の入り口。シンケン・Rは、メニュー画面を開きシンケンMにメッセージを送った。本当は、今すぐにでも彼女と合流してホルンカを目指すか、もしくはここに止まりナデシコたちのメンタルケアをしたかった。だが、ナデシコたちを放っておいたままでは何か取り返しのつかないことになるという懸念、それから自分がここで少しでも長くいるとその分ゲームクリアが遅れるという恐れから結局一人で旅立つことに決めた。

 数分後、シンケン・Rの元にメッセージが届いた。そこに書かれていたのはたったの一文だけ。

 

≪分かりました。気を付けて≫

 

 もしも、これが≪他の者たち≫であったのならばこうもあっさりいかない。だが、彼女だからこそこうして自分の意思を汲んでくれたと、そう信じてシンケン・Rは剣を取る。

 この門。ここから先は安全エリアを超えた危険ゾーン。これからは、βテストの時とは違う。HPが全部消滅してしまえば本当の死が待っている。その恐怖に打ち勝てるものなんて、いったいいくらいるのだろうか。多分、自分の知り合い位の物だろう。

 かくいう彼女自身も怖いのは変わりない。だが、だからと言って立ち止まってはいられない。

 あの少女たちの未来を守るために。民の平和を守るためにこそ、自分がいるのであるのならば。

 

「いざ……参る!」

 

 シンケンRは旅立った。たった一人、孤独の戦いに向けて。

 2022年11月6日、PM17時30分。世界はその在り様を永久に変えることになった。

タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
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