SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
ホルンカの村から少しだけ歩いた場所にある深い深い森。周囲には現実の世界でもなかなか見ることが出来ないような高さの樹々が冒険者たちの行く手を塞ぐかのように生えている。だが、その中にここを歩けと言わんばかりに道が出来ており、まるっきり違和感でしかない。
これ自体は他のゲームでもよくあるお約束的な物ではある。しかし、そんなゲームを一切してこなかった。森の奥深くに住んでいるというリアルでの生活柄、この森の不自然な光景には否が応でも目についてしまう。
βテストの時にも、彼女はこの場所を訪れていた。その時と、何ら変わり映えのない場所。あれから数か月も経つというのに、やはりこのゲームの中の世界は『死んでいる』のだろう。
「ん……」
その時彼女、シンケン・Rは見つけた。自分の目的のモンスターである『リトルネペント』を。およそ一メートル半程度の大きさを持つそのモンスターは、捕食植物であるらしい。その中心部に付いた大きな口から行動を抑制し、さらに武器の耐久値をも下げる腐食液や、その両手についているツタを鞭のように振るう事が、このモンスターの攻撃方法。
続いて、彼女が問題にするのはそのモンスターの上部に確認することが出来る三角マークだ。この世界のモンスターは、その三角マークの色合いによって自分から見た場合の強さが大体把握することが出来る。
血のように真っ赤だと、圧倒的なレベル差があることを示し、逆に真っ白はほとんど歯ごたえもないほどに弱いモンスターだ。今、自分の目の前にいるリトルネペントは、鮮血の赤よりも少しだけ濃いようにも見える。と、いう事は自分よりもレベルが上のモンスターであるという事だ。
今自分のレベルは2。と、いう事は相手は恐らく3なのだろう。ならば話は早い。もしも相手が自分よりもはるかに強いモンスターであるのならば、相手の視界に入らないようにそそくさと別のモンスターを探すが、相手が自分と同等が少し強い程度であるのならば、戦うのが吉。というより、そうしないと目的のアイテムはゲットすることが出来ない。
「ハァ!」
シンケン・R珍しく声を上げながらリトルネペントへと真正面から向かっていく。本来ならば、静かに行動して敵が攻撃できない背後から襲い掛かるのが定石なのかもしれないが、植物型のモンスターは、空間認識能力がとある理由で高くなっている。そのため、いくら静かに近づいたところで見つかる可能性は高い。どうせ気づかれるのであれば、真正面から堂々と行くだけだ。と、いう事である。
シンケン・Rは、右斜め上から斬りかかる《スラント》を使用する。そして、ソードスキル使用後に生まれる隙、硬直時間だ。攻撃が当たったリトリネペントはしかし、その程度の攻撃では倒れることは無い。逆に、こちらを攻撃するために両手のツタを振りかぶっている。
ここまでは、彼女の想定通りだった。では、次の行動は何か。
「今ッ」
シンケン・Rは、慌てることなくツタを見極めながら、バッグステップで後ろへと回避する。
そして、ツタが自分の目の前で空ぶった瞬間に、再びリトルネペントの前方へと踏み込むと、今度は単発水平斬撃技《ホリゾンタル》を繰り出した。
「フッ……」
この瞬間、シンケン・Rは確信を得た笑みを浮かべる。やはり、βテストの時と敵モンスターの能力、戦い方は変わっていない。と、いう事はその時の戦い方でも十分対処は可能という事だ。後は、腐食液である。これは、バックステップでは完全に躱すことのできない飛距離を持っているのだが、その代わりとして横への拡散の力に関しては30度の狭さしかないため、攻撃の発射体勢を見たタイミングで横に避けたとしても十分に間に合うことが出来るのだ。
果たして、リトルネペントは彼女が想像したとおりの行動にでる。口が徐々に徐々に膨らんでいき、口内に腐食液をため込んだリトルネペントは、目の前にいるシンケン・Rをめがけて攻撃しようとした。そして、それとほぼ同時に硬直時間が終了したシンケン・Rは、横に地面に転がるように飛んで避けて緑色をした腐食液を避ける。
後はもう普通に戦うのみ。経験則から、このリトルネペントは、今の自分でも三度ソードスキルを当てることによって撃破することが可能だろう。
後、二回。
「ハァァァァ!!」
瞬時にリトルネペントの懐に飛び込んだ彼女は再び《ホリゾンタル》を使用する。リトルネペントはその攻撃で後ろにのけぞった。体勢を整えるまでが次の攻撃チャンスだ。ソードスキル使用後の硬直時間が終わるタイミングを見極めると、同じソードスキルホリゾンタルだ。
リトルネペントのHPバーはまるで自分の死期を悟ったかのようにその色を無くしていき、そしてついに最後の1ドットまでが消失した。その瞬間である。まるで鏡が割れたかのような音と共にその身体が崩壊した。そう、シンケン・Rは勝利したのだ。目の前に現れた紫のフォントのウィンドウがその証拠である。
全くピンチらしいピンチはなく、鮮やかな勝利であると言えるだろう。だが、まだこれで終わりじゃない。
今、彼女の前に現れたリトルネペントは、このクエストの成功条件である胚珠を持つ花付きの個体ではなかった。これから、自分は花を付けている個体が現れるまで永遠とリトルネペントを討伐していかなければならない。
因みに、花を付けているリトルネペントは、βテストの際にききかじった情報によるとおよそ一パーセント。百体に一体でるか出ないかという非常に厳しい値だ。
ならば花の付けていないリトルネペントは避けて戦うかと問われるとそれは得策ではない。
昼間であるのならばともかく今は夜で視界が取れずらい。接近しなければリトルネペントに胚珠が付いているかの確認はできないし、視認できる距離まで近づけば、リトルネペントは襲い掛かってくる。
だが、倒し続けることにメリットはないわけじゃない。これまたβテストの際に聞きかじったことであるのだが、胚珠を付けていない普通のネペントを倒し続けていれば、花の付いたネペントの出現率が増加するらしい。
何故普通の個体を倒していると出現率が上がるのかは不明だが、それがゲーム上の仕様であるので仕方がない。
とにかく、早く他のリトルネペントを探して倒さなければならない。シンケン・Rが他のエリアへと向かおうとした。その時である。
「ッ!」
微かに耳に聞こえた何かが動く音。後ろ、まさかモンスターか。
もしも相手が敵であるのならば、背後を取られるのはマズイ。シンケン・Rは前方に跳びながらも抜き身の剣をその方向に向けつつ回転した。
だが、そこにいたのはモンスターでも、敵でもなかった。
「ご、ごめん驚かして。もう少し近づいたら声をかけようとしてたんです」
人、いやプレイヤーだ。年齢は、大体ナデシコと同じくらいの男性プレイヤーが自分に片方の手を見せていた。
装備品は、ホルンカの村で打っている軽量な革の鎧と
どうやら、自分と同じように始まりの街からこの森の中にたどりついたプレイヤーのようだ。恐らく、さきにたどり着いた自分と話をするためだけに近づいてきたらしい。
「いや、こちらもすまない。早合点をしてしまった……」
「でも、小さな歩行サウンドにも気がつくなんて、耳がいいんですね」
「いや……ここのモンスターは歩くような物達ではないと知っていたのに、反応してしまった私も悪い」
ゲームに閉じ込められるという異常体験の最中にいる為か、神経が研ぎ澄まされすぎていたようだ。
元よりこの森で出てくるモンスターはリトルネペントのように足のない、草が歩いているようなモンスターしかいないと知っていたのに、ただこちらに歩いてい来たからと言って同じプレイヤーに対して剣を向けるなんて、どうかしている。
「それにしても、随分と早い到着ですね。僕が一番乗りだと思っていたのに……」
それもそのはず。自分はナデシコたちから別れた直後、すぐさま始まりの街の門の外にでて、ほとんど全速力に近い形でホルンカの村までたどり着いたのだから。
むしろ、自分のすぐ後に来たこのプレイヤーの速さこそ称賛に値するものであるのかもしれない。何故なら彼は、正式サービス開始によってモンスターの出現率が変わっている可能性のある草原を突っ切ってきたはずなのだから。怖いもの知らずというか命知らずというか、下手をすれば夜に動き出した強力なモンスターによって倒されていたかもしれないというのに。
「まぁな……お前もやっているのか? ≪森の秘薬≫のクエストを」
「あれは、片手剣使いの必須クエだからね。報酬の≪アニールブレード≫を貰っとけば三層の迷宮区まで使える」
「そうだな……」
確かにそうだ。とはいえ、その三階の迷宮区まで≪アニールブレード≫を使えるようにするにはそれ相応の強化が必要となってくるのだが。
この時点で、シンケン・Rには彼の正体についてある確信に近い物を感じ取っていた。
と、その時。男性プレイヤーがある提案をする。
「せっかくだからクエ、協力してやりませんか?」
と。シンケン・Rは少し考えるそぶりを入れてから言った。
「そうだな……このクエストは一人でもクリアできるが、リトルネペントを何体も狩っていけばそのうち花付きのリトルネペントが出るかも知れない。二人でやった方が効率がいいだろう」
クエストには、ソロでもクリア可能なクエストと、複数人のプレイヤーでパーティーを汲むことが必須なクエストが存在している。今回のクエストは前者である。
そのため、チームを組んでクエスト攻略を目指さなければならないというクエストではない今回の森の秘薬クエストで、他プレイヤーと行動を共にする理由はないようにも思える。
だが、先も言った通り花つきのリトルネペントは普通のリトルネペントを倒せば倒すほどその出現率が格段に上昇するといった特性を持つ。だから今回の場合は、一緒に戦ってくれる仲間がいればいる程楽になるクエストであるのだ。
「よかった。じゃあ、しばらく宜しく。僕は≪コペル≫」
「シンケン・Rだ。短い間だがよろしく頼む」
二人は、硬い握手をした。だが、少し感覚が鈍いような気がする。やはり仮想世界。どれだけ精巧に作られたとはいえ人間の五感を完全に再現することは不可能だったのだろう。
それを考えると、茅場晶彦の目指した完全なる仮想世界、という物は作れなかったという事になるのだが、しかしそれは当然の事なのかもしれない。
人間には多種多様な感覚がある。視覚、嗅覚、味覚、聴覚、そして触覚。そのすべてを完全に支配し、再現するという事、人間が生身で感じることのできる感覚をデータで再現することは不可能なのだ。彼女は改めてそう感じる。
ふと、ここでコペルが何かに気が付いたようなそぶりを見せる。
「シンケンあーる? ……あれ、どっかで……」
この反応。やはり彼は自分の思った通りのプレイヤーであったか。
このプレイヤー名は、自分でつけておいてなんであるが非常に印象に残る奇抜な名前かつ、めったなことでは名前の被りが起こらない物だ。そして、現実世界においてあまりなじみのない言葉である。そのため、もしもこのプレイヤー名に勘づく人間がいるとするのならば、それは。
「あぁ、私はβテスターだったからな。お前と、同じ」
「ッ!」
やはりそうか、コペルもまたβテスターだったのだ。それまでは何とかだましだましで来ていたようだが、自分の名前に聞き覚えのあるそぶりを見せた事が失敗だった。
βテストの際、自分は今と同じこのプレイヤー名でプレイをしていた。だから、もしもその時にこのプレイヤー名を見た物であるのならば、こんな奇抜なネーミング記憶に残らないわけがない。
あいにく自分はコペルというプレイヤー名には心当たりはない。βテストの参加人数が千人であったこと、それに自分はどちらかというとプレイヤーが使用するソードスキルにバグなどのミスがないのかを探るという事が主な目的であったため一人一人のプレイヤー名を覚えている暇がなかったのだ。
まぁ、容姿に関しては全く違うし、βの時とプレイヤー名を変えている場合もあるから分からなくても仕方がないが。
「気づいてたんですね……」
「あぁ、この場所にこれだけ早く来れるプレイヤーは、元からこのクエストのことを知っていた人間か、その人間から情報をもらっていた人間に限られるからな」
「……」
彼の場合、そして自分の場合は前者だ。βテストの際に同じくこのクエストを受けていたことから来るアドバンテージ。彼もまた、そのアドバンテージの恩恵を欲しいがためにこのホルンカの村にまで来ていたのだ。
となると、こうして会話をしている時間も惜しい。
「さぁ、早く狩っていこう。他のプレイヤーが来る前に≪胚珠≫を2個入手しなければ……」
「う、うん。そうですね。頑張りましょう……」
夜になって危険を承知でホルンカの村へと辿り着くプレイヤーがいないとは限らない。そうなれば、リトルネペントの胚珠探しに支障をきたす恐れがある。
こうして、即席のコンビでリトルネペント狩りが始まった。
だが、シンケン・Rは全く気が付いていない。コペルが大きな野望という人間として普遍的なその心理状態を持っているという事を。
彼女は知らない。振り返るその寸前までコペルのアバターの顔に笑顔がなかったと言うことを。
この時、既にコペルは覚悟ができていたのかもしれない。このデスゲームの世界を自分なりの生き方で生き抜いてみせる。ということを。
そのために、どんな犠牲も惜しまないということを。
プレイヤーNo.9 ???(コペル【Koper】)
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい