SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第一章 10話

 シンケン・Rがコペルと合流してから、すでに一時間以上がたった。やはり元βテスター同士が組んでいるという事もあってか、一人でリトルネペントを狩るときと比べても格段に効率が良くなっていた。互いに、ソードスキルの使用後に現れる硬直時間をカバーしあい、すでに百体以上のリトルネペントを倒している。

 おかげで、レベルも2から3に上がったり、コルも大量入手。途中で落ちた素材を売ればもっとコルは手に入ることであろう。しかし、本命であるはずの花つきのリトルネペントの姿が一向に見えない。

 確か、前のβテストの時にはもうソロソロ花のついたリトルネペントが現れるはずなのだが。

 

「出ないな」

「はい……もしかすると、βの時と出現率が変わっているのかも……前は、確かに苦労はしたけど一つくらい入手できてたはずなのに……」

 

 確かに可能性としてはそれはあるのかもしれない。となると茅場晶彦はかなりプレイヤーに苦境を強いるのが好きな人間であるようだ。

 自分がβテストの際に挑戦した記憶をたどると、その時ですら実付きのリトルネペントが出現する確率はかなり低かった。それですらも物足りなかったというのだろうか。これでは、クエストで手に入るアニールブレードもそれなりにβの時と変わっていなければクレームがつくであろう。まぁ。今の茅場晶彦にそんな物を聞く義理があるとは思えないが。

 あるいは、ソロプレイの時と集団でプレイしている時で出現率が変わるという可能性もある。こちらの方があり得るだろか。しかし、すぐ近くにいるとはいえそれが一緒にプレイしている者とは限らない。ゲームという無機質な存在に、その判断の違いが出来るのだろうか。

 やはりここは前者。茅場晶彦が難易度を上げたという可能性にかけたほうが良いだろう。

 

「レベルが上がっただけ良しとしよう。それより、集中を切らすな。どこから敵が現れるか……!」

「あれは……」

 

 その時だ。すぐ近くで新しいリトルネペントが出現したのは。二人はそのリトルネペントに見つからないうちに距離を取った。もしも相手が自分たちよりもレベルが高いモンスターであったのならば危険であるからだ。

 やはり、そうシンケン・Rは思った。離れて正解だった。そのモンスターの上部にあるカーソルは今まで自分たちが戦っていたモンスターよりもさらに赤い色となっていた。恐らく、そのリトルネペントはそれまで倒してきたソレとはレベルが違うのだろう。だが、勝てない程ではない。特にソロであるのならばともかく、今は二人で戦っているのだから、協力すれば倒すことはできるはずだろう。

 

「……!」

 

 そう考えていたシンケン・Rは、カーソルの下にあるソレを見て一瞬目を見開く。

 そのリトルネペントはそれまでのモンスターとは違っていたのだ。具体的に言えば、その頭についている物が違う。

 それまでのリトルネペントは、二葉のようなものをその頭に引っ付けていた。それが普通のリトルネペントであるし、故に希少価値はほとんどないに等しい。だが、自分たちが今見ているモンスターは違う。

 あの毒々しいほどの赤いチューリップのような物。間違いない。あれこそが自分たちが探し求めていた花。花付きのリトルネペントだ。あのリトルネペントを倒すことによって胚珠が、このクエストのクリア条件であるアイテムが手に入る。

 一体しかいないためにその恩恵を受けれるのも一人だけであるのが難点ではある。しかし、今は目の前に現れたリトルネペントを倒してアイテムを入手することが先決。二人は迷わずにそのリトルネペントに向かおうとした。

 だが、その時だ。シンケン・Rが一度コペルを止める。

 見えたのだ。彼女には。花付きのその奥にもう一体のリトルネペントが。

 

「どうしたんです……」

 

 コペルが不思議そうな顔をしてこちらを見る。

 そうか、コペルは≪索敵≫のスキルを持っていなかったのか。

 自分は、≪索敵≫のスキルを持っているおかげで、普通のプレイヤーよりもより遠くにいるモンスターの様子まで分かる。と言ってもまだ熟練度は低いために狭い範囲でしか分からないのだが、そのスキルのおかげで見えたのだ。

 

「実付きもいるな、どうする?」

 

 コペルの表情が変わった。実付き、というのはリトルネペントが持っている第三の形態ともいえる物だ。花が付いている箇所とほぼ同じ場所に付けられている二十センチ程度の大きさのソレは、傷つけると即座に炸裂して臭い煙をまき散らす。その煙は、周囲にいるリトルネペントを大量に呼び寄せ、一歩間違えれば逃げ道をも塞がれるほどの大群に襲われ、たちまちゲームオーバー、死が待っている。

 実を傷つけなければ、問題はないのだが、できるだけ死の可能性からは遠のいたほうが安全だ。レベルもスキルもまだまだ安全圏ではない現状で危険を冒してでも倒しにいくメリットはない。ここは、見送る方が正解だ。

 しかし、問題はその前にいる花付きのリトルネペント。これはβテスト当時に検証した者がいなかったのだが、花付きのリトルネペントは時間が経過すると実付きのリトルネペントに変化するらしいという噂が、当時のβテスターの中で広まっていたのだ。

 ただでさえ厄介な実付きが増えるだけじゃない、胚珠を手にいれる好機までも見逃す可能性がある。今花付きを取らなければ今度いつそのリトルネペントが現れるか分かった物ではない。かといって無理やり花付きを取ろうものなら、実付きとの乱戦、実を傷つけて炸裂させより多くのリトルネペントに囲まれるという最悪の未来も想像できる。

 どうする。

 

「僕が実付きのタゲを取る。その間に、シンケン・Rが花付きを倒してくれ」

 

 と、ここでコペルが意を決したようにそう言った。

 確かにそれが一番無難な作戦であろう。つまり、一人が囮となって実付きのリトルネペントを誘い出して遠ざけ、もう一人が花付き、本命のリトルネペントを倒す。それが最も効果的な作戦である。

 だが、先も言った通り実を傷つけずに戦うのは困難であり、非情に神経を使いながら戦うことになる。それまでのリトルネペント討伐と比べてもより一層の難易度はあるだろう。

 そんな危険な役目を志願してやろうというのだ。本来ならば、その役目、自分がするべきだ。容姿などから判断して、恐らくコペルは中高生程度、そんな少年を大人である自分が囮に使うなどしてよいのだろうか。

 だが、あれこれと議論している暇なんてない。刻一刻と花付きが実付きになる瞬間が訪れようとしているかもしれないのだ。ここは、彼の提案を受け入れるしかないだろう。

 

「……わかった。頼むぞ」

 

 シンケン・Rがそうつぶやくと、コペルは一足先に駆け出した。その瞬間である。コペルはシンケン・Rの方を見た。悲しげな眼で。あの眼が一体何であるのか。後から考えるともうこの時には決心していたのだろう。自分が、あんなことをしでかすという事を。

 

「ハァァァァ!!!」

 

 コペルは、実付きのリトルネペントにわざと気が付かれるようにととても大雑把に、そして大げさに動いてその気を引く。すると、実付きのリトルネペントはコペルの方へと向いた。

 ソレに花付きのリトルネペントも気が付いてコペルの方を向くが、想定の範囲内だ。これだけ派手に動いて、二体の内一体が気が付かなかった。なんて都合のいいことがあるわけがない。だが、これもまた好機であると言えよう。

 

「フッ!!」

 

 シンケン・Rは、コペルの走った後をなぞるようにその大地を駆けた。が、途中で方向を転換、花付きの方へと向かう。

 そして、まずその巨大な身体に単発水平斬り≪ホリゾンタル≫を発動。リトルペネントが彼女の姿を視認した時にはもう手遅れだ。

 硬直時間の終了のタイミングを見極めたシンケン・Rは、再度その身体に向けて≪ホリゾンタル≫。この二連撃によってリトルネペントの身体はポリゴン片となって崩壊する。

 スキルというものは使えば使うほどにその熟練度が上がり、発動速度、射程が上昇する。それまでに何十体ものリトルネペントを倒し続けたことによって、知らぬ間に片手剣スキルの熟練度も上昇していたのだ。おかげで、たった二回ソードスキルを当てただけでリトルネペントを倒すことに成功した。

 砕け散ったリトルネペントの身体から、一つの光る拳大の球体が足元に転がった。これが、自分たちが求めていた≪リトルネペントの胚珠≫という物だ。あれほど探し求めていたというのに、手にいれる時にはほんの一瞬だったという事に少しだけ拍子抜けをしながらも、彼女はその胚珠をベルトから下げているポーチの中にしまうと、少しだけ離れた位置で実付きのリトルネペントを相手にしているコペルに向けて大声を発した。

 

「コペル! 退け!!」

 

 一時撤退。実付きの視界から外れてまた別の場所で狩りをする。それが、この作戦の終わり。であったはずなのだ。

 だが、ここでシンケン・Rは予想だにしていなかったこと。

 自分の目を疑うようなことを目撃する。

 自分の声を聴いたコペルは、何か哀しげな顔を彼女に向けた。

 なんだ、その顔は。どうしてそんな顔をする。花付きの相手をしながらもコペルの様子を見ていたが、ダメージを受けた様子も、状態変化のある攻撃を受けた様子もない。HPはまだ全快のはずだ。それなのに、何故そんなにも苦し気な顔をする。何故、どうして。そんな彼女の疑問をも無視して、彼は剣を振り上げた。

 

「ごめん、シンケンR……」

「なっ……」

 

 そして、その軌道は見事に彼が目標にしていたであろう物を切り裂いた。

 リトルネペントの実を。

 瞬間、巨大なバルーンが破裂したかのような音が森中に響き渡る。敵はここだ。自分たちを殺す敵はここにいるのだ。そう告げるかのような、刹那の号砲が、鳴り響いた。

 元・実付きのリトルネペント自体は、その攻撃でHPゲージを大きく減らし、ポリゴン片となって消滅した。ソレはいい。だが、問題は残った実によって生まれたモンスターを呼び寄せる煙だ。

 これから、どんどんとリトルネペントが押し寄せてくることだろう。しかし何故こんなことをコペルがしたというのか。ミスか。長時間戦った疲れから来る判断ミスなのか。

 いや違う。アレはそんなことを考えている顔じゃない。アレは、あの顔は。

 

「御免なさい!」

「待てコペル!」

 

 そして、コペルはその場から逃げ出し、すぐ近くの草むらに身を隠した。

 この時点で、シンケン・Rはすべてを察した。そうか、だからお前は≪索敵≫のスキルを持っていなかったのか、と。お前はこのために私に近づいたのか、と。

 正確に言えば、この森にいるプレイヤーであればだれでもよかったのかもしれない。たまたま最初にあったプレイヤーが自分であり、たまたま花付きと実付きが同時に出現しただけだった可能性も無きにしも非ずだ。

 いや、もしかしたら誰かがいた。それが彼の中に悪魔を生まれさせたのか。

 けど、だからと言ってこの凶行が許されるわけじゃない。こんな、他人を犠牲にするような真似、してはならないのだ。

 そんなことを考えながらも彼女は見た。複数のカーソルが視界に入るのを。モンスターのカーソルだ。二十、三十、いやそれ以上いるのかもしれない。これほどまでの大群。自分も見たことは無かった。βテストの時には、確かに実付きのリトルネペントに遭遇すること自体はあったが、自分はその実を割ることなく倒していたから。だから、これほどまでに絶望的な状況に陥ったことは無い。 

 

「くっ……」

 

 一方のコペル。草むらの中に隠れたコペルのカーソルを探したのだが、一向に見つからない。まさか、自分がリトルネペントの大群に気を取られているうちに逃げ出したのか。

 いや、そうではない。きっとコペルはまだ隠れている。恐らく≪隠蔽≫のスキルを使用して。自分が死ぬのを待ち望んでいるのだ。

 そう。コペルは自分を殺して、胚珠を奪うつもりだったのだ。恐らく、実付きと花付きの二体を見たその瞬間、それが、最後の人推しになった。胚珠を手にいれたプレイヤーが死ねば、自分は楽にアイテムを入手できる、そんな考えが思い浮かんだ。

 このゲームでは、装備中のアイテムや、アイテムボックスの中にいれていない、ポーチの中にあるアイテムはそのプレイヤーがゲームオーバーになってしまえばその場にドロップする。つまり、今自分が死ねば、武器に使っているスモールブレードや、ポーチの中に入っている≪胚珠≫は、この場所に落ちてしまうわけだ。

 コペルは恐らく、モンスターや他プレイヤーから見つかりにくくなる≪隠蔽≫スキルを使用してやり過ごし、アイテムの耐久度が無くなる前にその≪胚珠≫を拾い、村へと帰ってクエストをクリアする。そういう作戦だったのだろう。

 なるほど、自分には危険が少ない作戦である。表向きに見れば、であるが。

 しかし、この作戦には致命的な欠陥があった。

 

「ダメだ、コペル……こんなことで生き残っても、お前は……ッ!」

 

 そして、シンケン・Rは恐らくその場所にいるであろうコペルの姿を、三体ものリトルネペントを相手にしながらも見ていた。

 この時、彼女の中に沸いていた感情。それは、当たり前に沸くであろう怒りではなかった。持ちろん戸惑いでもなかった。

 哀れみだ。これから彼に待つ運命に対しての、そしてこんな作戦を思いつくことしか自分が生き残れる可能性を見出すことのできなかった哀しみだ。

 

「まずい!」

 

 その時だ。リトルネペントの内の三体、いや五体程度が草むらの中にいるであろうコペルに向かって行った。

 シンケン・Rは、相手にしていたリトルネペントを倒し切ると、すぐさまそのリトルネペントたちの方へと向かい、その前に立った。

 本来であればこのような危険な行動はしない。だが、今回は急を争う事態であったためにそんな行動をするしかなかった。

 そしてやはり。自分の後ろには彼がいた。

 

「あ、あぁぁぁ……」

 

 コペルである。コペルは、リトルネペントが自分に向かって来ていたことが信じられないと言わんばかりの表情でおびえていた。シンケン・Rはそんな彼を一瞥した後、目の前のリトルネペントと対峙する。

 

「ハァァァァ!」

 

 ≪ホリゾンタル≫≪バーチカル≫≪スラント≫。今使用できるあらゆるソードスキルを駆使し、戦う。だが、やはり多勢に無勢。少しずつ、少しずつ敵のツルが自分の身体に当たり始める。

 

「な、なんで……」

「お前は、≪隠蔽≫スキルを使用している。そうだな!」

「あ、はい……」

 

 シンケン・Rは、戦いながらもそうコペルに問うた。そして、やはり、と一言つぶやくとさらに言葉を重ねる。

 

「無駄だ。隠蔽スキルは視覚以外の感覚を持つモンスターには効果がない」

「え……」

 

 そう、≪隠蔽≫スキルは確かに視覚を持つモンスターには有効なスキル。視覚で相手を認識しているモンスターが相手であったのならば、草むらにその身を隠せさえすればやり過ごすことなど簡単であろう。

 しかし、もしも相手が視覚以外の感覚を持っていれば、今自分たちが戦っているリトルネペントのような敵であったのならば効果はない。例え、草むらの中に隠れようが他のプレイヤーから隠れようが、すぐに発見されてしまうのだ。

 恐らく、彼はこのスキルを取るのは今回が初めてだったのだろう。そんな欠点も知らずにこの作戦を実行に移してしまったがために、このありさまだ。このままでは、自分だけじゃない。コペルまでもが死んでしまう。そんなのはごめんだ。

 

「とにかく、今はこの場を切り抜ける!」

「な、何でだよ。僕は、貴方を殺そうとしたのに……」

 

 そう、彼が死んでしまうなんて、ごめんこうむる。

 一見すればおかしな行動をとっているのはシンケン・Rの方だ。

 彼女は今、自分を殺し、クエストをクリアするためのアイテムを盗み取ろうとしていた相手を助けている。本来であれば憎しみや怒りに囚われ、逆にコペルの事を殺しかけてもおかしくはないというのに、何故自分を守ろうとしているのか。コペルには理解が出来なかった。

 

「確かにそうだ。だが、だからといってお前を見捨てていい理由にはならない……それに、そうまでしてお前は生きたかったのだろう?」

「ッ!」

 

 彼女は理解していたコペルの事を、いやデスゲームに囚われたプレイヤーの心を。

 そう、彼はただ生き残りたかったのだ。例え他のプレイヤーを犠牲にしてでも、例えそれで恨まれようとも、生き残りたかった。現実世界に帰りたかったのだ。

 それしか方法がなかったのだ。それしか、自分を生き残らせる方法が浮かばなかったのだ。

 けど、コペルはある意味このデスゲームと化したSAOの世界に最も順応したプレイヤーであると言える。

 そうでなければ、ゲームオーバー=死というこの世界において、モンスターにプレイヤーを殺させる、通称≪MPK≫なんてモノ考えつかないし行動になんて移さないだろう。

 けど、だからと言ってこんな行動は許されるわけじゃない。こんな方法を取るよりももっと、他にも生き残る方法があったはずなのに、こんな、短絡的な行動をとるなんておかしいではないか。

 なんて論じてはみたが、しかしソレをデスゲームの製作の共犯者である自分が言っても何の説得力もないかもしれない。彼女には、コペルを助ける最も大きな理由が一つあった。

 

「なにより、お前を外道のまま殺させはしない!」

「げ、外道?」

 

 外道衆。彼女は今、自分たちが現世で戦っていた存在を、そしてその構成員であった二人の外道を思い出していた。実際に関わったことはほとんどないに等しいが、丈瑠や家臣の記憶にいつまでも残り続ける存在、はぐれ外道の二人。

 人の道から逸脱した業の深き行動を取った者が堕ち、アヤカシに転生した存在であるはぐれ外道。

 コペルがその存在に該当するとは限らない。だが、例えはぐれ外道に堕ちなかったとしても、人の道に外れた行動をした者の末路なんてろくなものじゃないことは確か。

 そんなこと、させてたまる物か。少なくとも、自分が見ている目の前で、殺してはなる物か。そんな覚悟が今彼女の中で渦を巻いている。

 

「例え、どれだけ裏切られようと、石を投げつけられたとしても、私は侍として、人々の命を守り続ける」

 

 それが、侍だから。

 どれだけの批判を、罵詈雑言を浴びせられようとも、人々の生活を守る。それがシンケンジャーの役目ならば、自分はその役目を果たす。それが、今自分が戦っている意味なのだ。

 

「ハァァァァ!!!」

「くっ! うああぁぁぁ!!!」

 

 罪悪感か、それともこんな自分の事を助けるシンケン・Rの事をお人よしだと思っているのか、しばらく立ち上がることのできなかったコペル。

 しかし、二分も経たずに立ち上がれたことから見ても、覚悟を決めたのだろう。彼もまた戦いに参加した。

 だが、劣勢なのは変わらない。一人から二人になったところで、四方からの攻撃がやむことは一切ないのだ。

 十数分。そんな短いとも思える時間が、一時間にも、一日にも感じられる。

 集中を切らすな、ただ相手を倒すことだけを考えろ。そう自分に言い聞かせなければつまらないミスをしでかしかけないというほどまで追い込まれていた二人のプレイヤー。

 倒しても、倒しても敵は減ることがない。次々と沸いてくるリトルネペントの姿。

 マズイ、このままだと二人ともゲームオーバーとなってしまう。武器も、あまりにも敵を倒し続けていたために耐久力が減り、恐らく後何度か戦えばその刃は壊れてしまう事だろう。

 今この状況で自分たちにできることは何か。自分がするべきことは何か。

 考えろ、考えろ、考えろ。

 そして、ついに彼女は結論を出した。腰のポーチからほんのり光る≪胚珠≫を取り出したシンケン・Rはソレをコペルに差し出すと言う。 

 

「コペル、この胚珠を持って逃げろ! 私が殿を務める!」

「え!?」

 

 今この状況でできるのはそれくらい。コペルを逃がすという事は、すなわちたった一人でこの大量のリトルネペントを相手にするという事だ。それがどれだけ不利なことなのか分からないシンケン・Rではない。

 しかしこのまま戦い続けていてもジリ貧になることは確実。ならば、ここは自分が囮となってコペルを逃がす。その後タイミングを見計らって自分もまた逃げるという方法を取るしかない。戦闘能力的に考えれば、その方が効果的だろう。

 このクエストに時間制限はない。実による集敵効果が無くなった後、また胚珠を取りにくればいい。胚珠をコペルに渡したのは、そうしなければ自分が持ち逃げする可能性もあってコペルが逃げないという事も考えられたからだ。 

 

「大丈夫だ。わたしは普通のβテスターではない。そう簡単には死にはしない」

「し、シンケン・R……」

「早く行け!」

「ご、御免なさい!」

 

 コペルは、そう頭を下げると一目散にリトルネペントが群がる中にできた小さな隙間を駆け抜けてエリアから脱出する。その小さな隙間も、すぐに他のリトルネペント達に防がれてしまい、また逃げ出したコペルを追ってリトルネペントの何体かは向かったが、あの俊敏力であるのならば追いつかれる前に村に帰ることが出来るだろう。

 これからは彼自身の戦い。ならば、自分は自分の戦いに集中しよう。

 

「……引き際を誤れば死ぬ……見極めなければならないな……」

 

 もしもここで倒れれば、自分は自分を裏切ろうとしたプレイヤーを守るために死んだ大バカ者となってしまう。それは、コペル自身の心にも大きな傷を作ることだろう。そうならないためにも、自分は生き残る義務がある。

 シンケン・Rは、改めて生き残る責任を噛みしめて戦いに向かった。

 

「ハァァァァ!!!!」

 

 だが、やはり彼女の想定していたことが起こる。一人きりとなってしまったがために、その場にいたリトルネペント達が一斉に群がり、彼女に襲い掛かってきたのだ。

 こうなると予想はしていたとはいえやはり辛い戦いだ。斬っても、倒しても、すぐにまた別の敵が来る。現実の自分であったのならば、≪モジカラ≫を使用して一気に倒せるというのに、やはり自分じゃない自分というのは勝手が違いすぎる。

 もしも今ここに、家臣たちが、丈瑠がいてくれたらどれだけ頼もしかったことだろう。

 どれだけ心強かったことだろう。

 彼女達がいてくれれば、どれだけ戦えていたのだろう。

 ない物ねだりをしても栓がないことは分かり切っている。

 それに、そんな仲間たちを切り捨ててきたのは自分じゃないか。

 そうだ、全部自分の責任じゃないか。

 丈瑠と家臣たちの絆を破壊させようとしたのも。

 ナデシコたちの友情を破壊したのも。

 全部、自分だ。

 自分が、悪いのだ。

 だから彼女は戦う。たった一人でも、それが自分の罪ならば、それで罪滅ぼしになるのならばと。

 

「ッ、しまった!」

 

 そんなことを考えていると、またもや想定していた最悪の状況に陥った。剣が、始まりの街で購入した剣が壊れてしまったのだ。これまで百体以上の敵を倒していたとはいえ、寿命が来るのがこれほどまでに早いとは。

 シンケン・Rは、すぐにバックステップで後ろに下がると、アイテムストレージの中にある予備の剣を取り出そうとする。こんなこともあろうかと購入していてよかった。

 しかし、ここは敵の密集地。そんなことを簡単にさせてくれる敵でなかった。

 

「くっ、あ……」

 

 腐食液だ。本来であれば横に動けば避けれるはずのその攻撃、剣が壊れたことに焦り、目の前の敵と距離を取ることしか考えていなかった自分が悪いと言えば悪い。だが、そんな言い訳今現在通用するわけがなかった。

 腐食液はシンケン・Rにクリーンヒットし、徐々に徐々に減らされていたHPバーは恐るべき速さで減り続け、終に危険な赤い色のゾーンにまで陥る。

 恐らく、あと一撃でも喰らえばゲームオーバーだ。いや、先ほどの攻撃で死ななかったことは奇跡に近いのかもしれない。だが、その奇跡も、ほんのわずかな時間なのかもしれないが。

 

「くそ……」

 

 以前にも話したと思うが、リトルネペントの腐食液には粘着効果があり、一定時間の動きが阻害されるのだ。こんな敵の密集地の真ん中でそんなことが起こればどうなる物か。

 何とか動こうとするシンケン・R、しかし一向に身体は動いてくれなかった。足も、手も、粘着液の付着した個所はネズミ捕りにかかった鼠のように地面に張り付いていて、まったく離れようとはしない。

 

「ここまで……か」

 

 万事休すだ。この粘着効果、もちろん時間経過によって治ることには治る。だが、それまで獰猛なモンスターが自分の事を放っておいてくれるだろか。否だ。それを指し示すかのようにリトルネペントはこれ幸いと思っているが如くに自分の前にまで寄ってくる。そして、その腕を振り上げた。

 長い、まるで止まっているかのような時間が彼女の心に舞い降りた。それは、まるで罪人に懺悔する時間を与えているかのようだ。もちろんデータであるリトルネペントがそんな慈悲を与えるとは思えない。この周りが遅く成る感覚は、彼女が達人クラスであったからこそ貰うことが出来た最後の時間だったのだ。

 あの腕が振り下ろされた瞬間、自分のHPバーはそのすべての液を消失する。そして、そんな自分に待っているのはゲームオーバー、すなわち死。どれだけあがいても決して逃れることの出来ないソレが待っている。

 そして、リトルネペントがそのつたを振り上げた。瞬間だった。

 

「リーファ、ナデシコ……お前たちは……」

 

 ガラスが割れる音と共に、一つの擬似生命体がポリゴン片へと姿を変えた。 

タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
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