SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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サブシナリオ 集う、三つの月

 本来、彼女はゲームをするような人間ではなかった。

 たまたま祖母にパソコンを買ってもらい、たまたま見つけたサイトの、たまたま見つけたゲームの抽選会。それに、ちょっとした興味本位で参加した。ただ、それだけだった。

 結果、彼女は不幸にもそのゲームを手に入れることとなってしまう。決して後戻りのできない、ゲームの世界。そこに一歩足を踏み入れたその瞬間、彼女の人生の終わりへのカウントダウンがスタートする。

 彼女に残された時間はいかほどか、年か、月か、週か、日か、それとも、時。ゲーム開始直後の彼女はまだ知る由もない。それが、運命の分岐点であったということ。

 もし、SAOなんてものに出会わず、次の日にあるハズのオーディションの日を迎えれば、どん底だった自分の人生が一気に好転。全てにおいての幸運が、成功が、未来が、そして失ったはずの希望が、待っているはずだった。

 でも、彼女は興味本位でその全ての道を閉ざしてしまった。結果、彼女に待っているのは死という決して逃れることのできない万物共通の終焉。

 果たして、彼女は死ぬその瞬間まで、いったいいくつの絶望を味わう事になるのだろうか。そんな、彼女のSAOが始まった。

 始まってしまった。

 

「凄い……」

 

 ログインした直後、思わず口から漏れてしまったその言葉。でも、今はまだその言葉を発している余裕があるだけマシだ。今後、そんなことばも吐くことができなくなっていくのだから。

 少女は、少しばかりの感動を覚えた直後、声を出してみた。

 

「あー、あー……」

 

 その声自体は、自分の周りに続々とログインしてきた人間達の感嘆の声によりかき消され、彼女自身の耳にしか聞こえてこなかった。

 まるで、ゲームにバグがないのかを確認するデバック作業のように、彼女は何度も何度も意味のない言葉を発していく。それが、どれだけ続いたであろう。少女は、ある確信にも近い物を感じて三日月を半分にしたかのような笑みを浮かべて言う。

 

「痛く、ない……」

 

 現実だと、喋りすぎると喉が痛くなって辛くなっていた。特に、歌おうとするとすぐに喉が痛くなって声を出せなくなるほどに。けど、どれだけ声を出しても、いくら声をあたりに流そうとも喉は痛くならない。苦しくならない。辛くならない。こんなに話すのが楽しくなってきたのは、久しぶりと言ってもいいだろう。自分は一人でログインしたので話す人間なんていないのだが。

 

「これが、ゲームの世界……なんだ……」

 

 彼女は、感慨深くそう呟くと、すぐに続々とプレイヤーがログインしてくるその広場から離れた。

 果たして、どこに向かっているのか。それは彼女自身もわからない。ただ、どこか遠くに行きたかった。おもいっきり歌を歌ってみたかった。人がいない場所で、人が聞いていない場所で、思う存分に声を出したかった。そのためには、あの場所はとてもじゃないがシチュエーションが悪い。

 自分の歌は自分だけのものじゃない。でも、それでもその歌声を最初に聞かせるのは自分自身にしたかった。それでもし自信が持てるようになれば、明日のオーディションの時にもうまくいくはずだから。

 だから、彼女は走った。広場にも、ヨーロッパのような街並みにも、武器を売っている露店にも目もくれず、走った。

 全然疲れることがない。現実だったら少し走っただけでもかなりキツくなっていくと言うのに。膝に手を置いて、体全体で息をしなければならないほどになると言うのに。全然疲れを感じることがない。

 まさか、こんなに元気に走ることができるようになるとは夢にも思わなかった。彼女はここでもまた感慨深いものを感じる。

 そんな彼女がたどり着いた場所。それは、このひろいはじまりの街の中で奇跡的ともいえる出会いを果たすことができるという路地裏であった。

 

「ふぅ……」

 

 彼女は、一度だけ深呼吸をして息を、そして心を整える。記念すべき瞬間だ。

 この時、この瞬間。彼女は現実世界の自分のことをいっときだけ置き去りとする。

 あの、歌を歌うこともできない、許されない自分と決別する。そして、大好きな歌に没頭する時間。

 もう、彼女は自由なのだ。空に浮かぶあの、月のように。

 姿勢を真っ直ぐに正し、大きく息を吸い込んだ。偽物の、吸う必要なんて何一つない。でも、吸わなければならない。そんな空気。

 肺だけでなく、体の隅々にまで行き渡るように深く、深く、深く。足元にまで行き渡るように吸った息。そしてーーー。

 

♪〜

 

 生声にも電子音にも似たその声が、ついに偽物の世界に羽ばたいた。0と1、数字のみで形成されたその世界に解き放たれた多くの人間を震わせる歌声。

 誰も観客なんていないーと、彼女は思っているー。認めてくれる人なんていなくていい。歌を、歌える。ただ、それだけで感動することができる。こんな感慨深い想いになれるなんて、思っても見なかった。

 歌えてる。私、歌えてるよ、≪英知くん≫。

 その時、彼女の脳裏に映った者。それは、遠い空の向こうにいる一人の少年の姿だった。

 そして、歌が一番盛り上がるサビに移ろうとした。その時だった。

 

「ッ!」

「え?」

 

 路地裏の奥。彼女がいた場所よりも深い場所の角から一人の女性が突如として現れた。険しない顔つきをした長髪の女性は自分の顔を見ると急停止。その勢いと表情に、思わず歌を止めてしまった少女に、女性はいう。

 

「さっきの、歌……貴方が歌っていたの?」

「は、はい。そう、ですけど……」

 

 どうやら、先程の自分の歌を聞かれていたらしい。ただ自分自身が満足するためだけに歌った歌であったために、誰かに聞かれていたと思うと、なんだが恥ずかしくなってくる。

 というよりも、この女性の顔つき、どこかで見覚えがあるような気がする。

 

「え? もしかして、如月千早……さん?」

 

 そうだ。この長髪と顔付き。間違いない。インターネットで音楽を聴くために動画サイトを回っている時に見た。アイドルの如月千早。自分が、その歌声を聴いた瞬間に鳥肌が立つくらいに感動した、あの女性の顔そのままだった。

 果たして、女性はやや苦笑いをしながら言った。

 

「えぇ、そうよ。もしかしたら、信じてもらえないかもしれないけど……」

「え? あ、そっか。ここはゲームの中、誰か知らない人が千早さんの格好をしているだけかも……」

 

 少女は、如月千早に≪似た≫女性にそう言われて気が付いた。自分もそうであるが、この世界では自分が好きな通りに顔付きと体型、いやそれどころか性別まで帰ることが出来る。例え、目の前にいる人間が如月千早に似ている顔と体型であったとしても、それはこのゲームをプレイし始める時にそうやって設定しただけなのかもしれない。

 

「でも、私は本物よ……」

 

 そう言うと、女性はスッと息を吸った。そこから次の言葉が出てくるまでわずか数秒。けど、その時間が永遠に感じられるほどにとても厳かな雰囲気を醸し出している。こんな空気感、普通の人間が作れるだろうか。いや、作れるはずがない。それは、彼女が≪本物≫である。その一つの証だった。

 そして―――。

 

♪風は天を翔けてく 光は地を照らしてく 人は夢を抱く そう名付けた物語 arcadia…♪

 

 違う。この歌声は、全然違う。自分が、動画サイトで聞いた声と確かに似ている。でも、感じ方が全然違った。それも、いい意味で。

 背筋が凍った。身体の前面から後ろのはるか遠くまで突き抜けるかのようなその歌声。耳を貫いて、脳を、喉を、肺を、心を優しく揺らしてくれるかのような卓越した歌声。そして、テクニック。

 声自体は、ボイスエフェクトという物でいくらでも変えてくれるだろう。だが、その歌い方は、そしてその歌に込めた心は決してマネできる物ではない。

 確かに、彼女の歌自体は動画サイトで履修済みだった。でも、それをはるかに超えた生の歌声。いや、ゲームの世界なのだから決して生というわけじゃないのだが、しかし生に近い歌声。間違いない、彼女は本物。本物の如月千早だ。

 

「どうだったかしら?」

「す、すごい……え、それじゃ……本当に……」

「チハヤ! いきなり走らないでよ!」

「その子、もしかしてさっき唄っていた子かしら?」

 

 と、その時路地裏からさらに二人の女性プレイヤー、ムーンライトとオーシャンが現れる。

 このとき、少女は二人のことを千早、もといチハヤのアイドル仲間なのかと思ったそうだ。

 

「えぇ……貴方、歌上手ね」

「あ……」

 

 チハヤは、少女に向けてそう言った。

 嬉しかった。自分の歌が、思いが、誰かに認められたこと。それも、トップアイドルと言っても異論はない如月千早に褒められたことが、とても、とても嬉しかった。天にも昇る気持ちとはこのことを言うのだろう。

 

「ありがとう、ございます」

 

 褒められ慣れていない少女は、やや恥ずかしがりながらもそう言った。

 

「でも、どうしてこんなところで歌っていたの?」

「その、声を出せるのが……嬉しくてつい……」

「え?」

「私、現実じゃ大きな声で歌えないんです……でも、この世界だったら、思いっきり歌えるから……」

 

 歌が歌えない事情とはどういうことなのだろうか。家で歌う事が難しいというのは、騒音問題などでの近所の家との兼ね合いで、という事は分かる。だが、もし家で歌えなかったとしても、今の時代はカラオケという手段がある。そこで思う存分に大声を出して唄うことが出来るのではないか。そう、チハヤたちは思っていた。

 もしかしたら、彼女は何かを抱えているのかもしれない。しかし、そういったプライベートの話に深く踏み込むことはしてはならない。それが、オンラインゲームのルールという物だ。だから、彼女たちはそれ以上を彼女に聞くことは無かった。

 

「ね、ここであったのも何かの縁だし、私たちと一緒にSAOをプレイしない?」

「え?」

「いいでしょ、千早、ゆり」

 

 オーシャンは、そう二人に言った。オンラインゲームに置いて、仲間、一緒にプレイする人間が増える事はメリット以外の何物でもない。特にゲームの序盤に置いてはそれが顕著。ゲーム攻略に置いてソロプレイが間違っているとは言えないが、しかし複数人でのプレイがゲームの侵攻をとても円滑にしてくれるという事には変わりない。

 

「えぇ、いいわよ」

「私も構わないわ。でも、その前に……」

「え?」

 

 ゆり、と呼ばれた女性プレイヤーは凛々しい表情を一切崩さずに言った。

 

「私の名前はムーンライトよ。オーシャン」

「あ、そうだったごめんごめん」

 

 どうやら、オーシャンとムーンライトは現実の世界ではとても中の良い友人関係にある人間であるようだ。もしも、自分に≪爆弾≫がなかったとしたら、こんな仲良くなれる友人が出来ていたのだろうか。少女は、そんなあったかもしれない未来を空想してみた。

 学校にも行くことが出来ず、家の中で毎日を過ごしていた自分にはいなかった友達。もしも、そんな友達とこの世界で出会うことが出来たら。

 いや、もしかしたらもうすでに―――。

 

「ねぇ、アナタの名前を教えてもらってもいいかしら?」

「あ、はい……私は……」

 

 こうして、三つの月が出会うことになった。

 歌姫、そしてアイドルとして世界中に安らぎをもたらす月。如月千早。

 ごく普通の高校生という仮の姿を生きながら、その裏では世界を救うために戦っている月。ムーンライト。

 そして―――。

 

「フルムーンです!」

 

 新月と真逆に位置する。とてもきれいな満ちる月。でも、時には血のように真っ赤に染まることのできる月。

 果たして、この月の出会いが誰を救うことになるのか。それはまだ、誰にも分からないことであった。




プレイヤーNo.32 神山満月(フルムーン【Full Moon】)ログイン

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タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
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