SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
町が、薄っぺらい偽物の夕焼けに包まれるなか、まるでその橙に身体を焼かれているかのような阿鼻叫喚がそこらじゅうから聞こえてくる。
無理もない。茅場晶彦の宣言、いや彼の言葉を借りるのならばチュートリアルが終了してまだ一時間足らず。その程度の時間でプレイヤーたちの嘆きが収まることなんて決してないだろう。
誰もが混乱していた。茅場晶彦の言葉の真偽について。そして自分達の状況、身の振り方に。
本当に、ゲームがクリアされるまでログアウトできないのか。ゲームオーバーになったら死んでしまうのか。クリアされるまで、あと何年かかるのか。
そんな疑問で埋め尽くされたプレイヤーたち。当然、ここにいる彼女もまた、心中穏やかじゃ無かった。いや、ないはずだった。
顔に、猫の髭のようなペイントを施した女性プレイヤー。SAOを問わずして、ゲーマー全体の割合から見れば少数のはずの女性プレイヤー。その一人は、とある路地裏の壁にもたれかかり、ある特定のプレイヤーの集団を待っていた。
このゲームのことをよく知り、数多くの情報を握っているであろうはずのプレイヤー。そう、自分と同じβテスターだ。
彼女は、あのチュートリアルか終わってしばらく経った後、自分が覚えている限りのβテスターに対してメッセージを送った。
内容は簡単。このゲームの攻略本を作るから情報を求む。渡す意思があるものは指定する場所に来てくれ。そんな内容だった。
そして、彼女がいるこの路地裏こそが、彼女が指定した場所であった。
彼女はβテスター時代、情報屋としてゲーム内を走り回っていた。その時についた俗称が、≪鼠のアルゴ≫。【アルゴ】が、本来のプレイヤーネームである。
そのネーミングの由来は、ネズミのようにすばしっこいからだとか、ネズミがチーズに群がるように情報にまとわりついているからだから、色々と言われている。
彼女自身、βテスターであったが故にある程度のゲームの情報は持っている。のだが、流石に大量にある情報の全てを記憶できているはずがない。
そこで、彼女はその記憶の補完と、もし万が一誤った情報がある場合に訂正するために元βテスターの面々に呼びかけたのだ。
しかし、我ながらどうかしている提案だと思う。こんな呼びかけに応えるような物好き、いないんじゃないかと。
実際、メッセージを送ってから三十分経っても誰も来ないことが自分のしていることの愚かさを表している。
アルゴは、猿が猪に餌の取り方を懇願するかのようなことをした自分自身を嘲笑った。
情報は武器だ。どんなモンスターがいて、どんなアイテムがあって、どこにレベルアップに最適な場所があるのか。それは、ゲームを攻略する為だけでない。己が他人よりも一歩先を行くのに大切な剣となりうる。
それを、他人が攻略する為に使おうとするバカがどこの世界にいる。
彼女だって分かっているのだ。こんな自分の特にならないような提案に進んで乗るようなお人よしなんて、この世界にはいないという事。とくに、ゲーマーに占められているβテスターの中にはいないという事。
だって、それが人間の性なのだから。自分のことが第一。誰かのため、誰かのためと唄っていても結局は自分自身のためにしか動くことが出来ない。それが人間という種族が持つ、合理性を突き詰めていった結果の生き残るすべ。
性であるのならば、仕方のないことだ。こうなれば、少し危険だが、曖昧な情報に関しては自分自身の足で稼ぎ、自分一人で攻略本を作っていくしかない。
だが彼女はβテスト時代情報を集めることを優先して、レベルアップや戦闘に関しては完全に疎かにしていた。つまり、戦闘経験に関して言えば、βじゃない一般プレイヤーとほとんどなんら変わりのないのだ。
そんな自分が、大量にあるモンスターや、そのドロップアイテムの情報を集めるために戦えばどうなることか、想像しなくてもわかることだろう。
けど、それでも、命を賭けてでもやる価値はあった。だって、そうじゃないと、自分の存在価値なんてーーー。
そう、彼女が考えていた時だった。
「アルゴ?」
「?」
路地裏に現れた、一人の女性プレイヤー。もしかして、元βテスターか。しかし、その顔を見ただけでは分からない。
多くのプレイヤーが熱心に作り込んだアバターは、総じて茅場晶彦の蛮行によって現実の世界と全く同じ格好になっているから、β時代の記憶をどれだけ探っても無駄なことだ。
でも、何故だろう。彼女の口調を聞いていると、誰かを思い出す。β時代も情報屋をやっていた自分の所に頻繁に情報を買いに来ていた女性プレイヤー。その対価として時折有益な情報を自分に売ってきたりして、まさしく対等な関係を築けていた。そんな女性プレイヤー。
とても元気のいい姉御肌で、づけづけと他人のテリトリーに入ってくると思いきや引き際もわきまえていた、あのプレイヤーに。
ハッ、と気が付いたアルゴは恐る恐る聞いた。
「もしかして、ヤー姐?」
「そうよ、久しぶりね」
アルゴがヤー姐と呼んだ少女【ヤスミ】は、とてもほれぼれとするような恰好の良い笑顔を浮かべるとそう言った。
「そんな顔してたんだ。ペイントが無かったら気が付かなかったわ」
「ヤー姐こそ、随分と勝ち気な顔立ちだナ」
と、互いに互いの初めて見る顔を見て笑いあう少女たち。ヤスミの言う通り、アルゴの顔には猫のひげのようなペイント模様が施されていた。それは、β時代の最後の方にさる事情によってその顔に刻まれていた模様を再現したもの。鼠という愛称に反した猫のヒゲという正反対なソレも彼女を指し示すトレンドマークとなっていたのだ。
少しだけの談笑ののち、アルゴはうっすらと笑みを浮かべながら、まるで不思議な物を見ているかのように言う。
「メッセージ、受け取ってくれたんだナ」
「えぇ……アルゴも物好きね。こんな時に誰かのことを考えれるなんて」
「それはヤー姐も同じじゃないカ?」
「まぁ、そうね……」
ヤスミも自覚があったのだろう。彼女は真剣な顔つきとなりて、その場にあった壁にもたれかかる。そして、腕組し言った。
「正義の味方を気取るつもりもないけど、でもこの状況になって、何が一番大事なのかって考えたわ」
「で、考えはまとまったのかナ」
と、アルゴ。ヤスミは首を振った。
「何も……一緒にログインしてきた仲間を守る。ただそれだけしか考えられなかったわ。だから、あなたの提案に乗ってみることにしたの。ソレで何か事態が好転するかわからない。でも、何かやらないとってね」
彼女もまた混乱しているのだ。こんな状況に陥って一体どうすればいいのかと。これからどうなってしまうのかと。だが、そんなときに受け取ったのがアルゴからのメッセージ。
随分と奇特なことを考える物だと彼女は思ったが、少しその提案に乗ってみるのも面白いかもしれないと思った。というより、面白いことを考えなければ自分がどうにかなってしまいそうだったのだ。
現実世界の彼女は、いつも面白いことを探して自分が住んでいる街の中を歩き回っていた。例え、それが徒労になって終わろうとも、例え何も見つからなかったとしてもそれでも、どこかに面白いものがあるんじゃないかと探すことを止めなかった。
この提案に乗ったのも、こんな事態になって他人の事を第一に考えられるアルゴの事が面白い存在であると認識したからこそ、という一面もあるのだ。
「そうカ……同じだナ」
「え?」
「βの時みたく情報屋として動かないと、何かしないと自分がどうにかなりそうダ。そう思って動いてみた。我ながら、だいぶ混乱してるみたいダ……」
使命感のような物だ。いや、違う。使命感に身をゆだねなかったら自分という存在を失ってしまうかも。そんな恐怖があった。それが、こんなことをβテスターに提案した一番の理由なのかもしれない。
「でも、人にはそれぞれやるべきことがある。他のプレイヤーのやるべきことが、生き残ることだとするのなら……」
「俺たちの仕事は、そのプレイヤーたちを一人でも多く助けるための攻略本を作ること……だな」
「え?」
そういいながら、一人の恰幅の良い男性プレイヤーがその路地裏に現れた。彼もまた、元βテスターなのだろうか。やはりこちらもその顔に見覚えはないのだが。
「あんたは?」
「よっ、俺はMEGA.R。久しぶりだな、アルゴ」
「めが、あーる?」
ヤスミはその名前に聞き覚えは無いようだ。いくら元βテスター同士と言えども、βテストの時には千人のプレイヤーがいたのだから、その全員の顔とプレイヤー名を覚えているのはアルゴ以外にはいないはず。
そして、やはりアルゴはその名前を知っていた。アルゴは、β時代の彼の顔を頭に浮かべなながらニヤリと笑って言う。
「ふっ、そんな顔してたのか。てっきり高校生くらいだと思ってたヨ」
「へへッ……」
確か、βの時のアバターは高校生くらいの若者だった。それに、口調も高校生のよう。そう、それこそまさに今目の前にいるヤスミのような元気はつらつとしてかなりお調子者の好青年のような。
ギャップがあるとは言わない。むしろ、その高校生が今の目の前にいる男性にまで成長したのだと考えれば順当な成長であると言える。口調に関しては一切の成長を見せなかったのではないかと言われてしまえばそれまでなのだが。
しかし、彼女の記憶だとMEGA.Rはβテスト時代最前線で攻略に励んでいたプレイヤーだったはず。彼のくれる情報はかなり質の高いものとなることだろう。
「あ、いた!」
正直、この二人が来てくれただけでも万々歳だ。だが、それだけにとどまらない。さらにもう三名追加となる。そのうちの二人の顔は、アルゴ達も知っている顔だった。何故なら、その二人は現実でも有名な人物であったから。
「あれって……」
「剣崎真琴! それに、春日野うらら!」
紫の髪をした女性、アイドル歌手、そして世界を守るプリキュアとして有名な剣崎真琴。そして金髪の女の子、こちらもまたアイドルの春日野うらら。SAOの宣伝のためにβテストに参加していたアイドル、いわゆるプロジェクトSAOのメンバーのうちの二人だ。
「もう一人は?」
「久しぶり、アルゴ。僕はカイト」
「なに!? カイトってまさか、ドットハッカーズの!?」
「ま、まぁね」
「THE WORLDを救った英雄……まさかSAOをプレイしてたなんて……」
やはり、カイトの名前はゲーマーの間では知らぬ者はいないともいえる存在であるらしい。もしかしたら名前だけを使用した偽物であるという可能性も考えた。しかし、本物であれ偽物であれ、この状況下においてこの場所に来ることが出来るという事は、メンタルだけで言うならばTHE WORLDの彼と同等クラスはあるのではないか。彼女たちには、それだけで十分であった。
「あと天海春香さんもこっちに向かってるそうよ」
「おっ、そうだ! タメトモも来るってさっきメッセージが来てたぜ!」
「タメトモって、もしかしてeスポーツチーム≪SPARK OF BULLET≫の?」
「それにプロジェクトSAOに参加していたアイドルが三人……」
トップアイドルの一人であり、そして前述したプロジェクトSAOに参加していた天海春香。さらにeスポーツチームのリーダー。計七人ものβテスターがこの場所に来てくれた。他にも、すでに次の街に向かってしまっているため合流できなかったり、仲間たちの下から離れられないからと言ってゲーム内の情報だけをメッセ―ジで送ってくるもの多数。
「ハハ……随分と物好きが多いようだナ」
あまりにも自分の想定外、いや想定以上ともいえるもの好きの多さに笑うしかなかったアルゴ。その言葉を聞いたカイトたちもまた、苦笑いを浮かべた。
「まぁ、否定はしないけど……」
「でも、一人でも多くのプレイヤーを助けるためです!」
「そうね。春香やタメトモが来るまで情報を出し合いましょう」
「えぇ!」
「応よ!」
ここまで協力してくれるのだ。生半可な攻略本なんて作れない。アルゴは、彼らからもらった情報の一つ一つを聞き逃すことなくメモに纏めていった。
それからもう間もなくの事だった。街の道具屋に一冊の本が置かれたのは。
その本は、まさしくそのゲームの攻略本ともいえる物で、無料で配布がされていることから元βテスターであるか否かに関わらず多くのプレイヤーがその攻略本を買い求めた。そして、多くのプレイヤーの命を救っていくことになるのだが、しかしその裏には多くの元βテスターの働きがあったことを知るプレイヤーは、まだそれほど知られることはなかった。
プレイヤー№ 55 帆坂カリーナ朋(アルゴ【Argo】)≪原作:ソードアート・オンライン≫ ログイン
プレイヤー№ 56 ???(メガ・アール【MEGA.R】) ログイン
プレイヤー№ 57 射水為朝(タメトモ【TAMETOMO】) ≪原作:魔進戦隊キラメイジャー≫ ログイン
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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