SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
「痛くない? アリサちゃん、私も痛くないよ……全然」
「な、なのは……?」
ローウェルの前に広がった紫色の、安全圏内の中で他のプレイヤーに対して危害を加えようとした際に出現するプレイヤーを守るシールドを作り出したのは、大洗の面々と一緒に駆け付けたシズクだった。
シズクは、さらに付け加えながら抱き着いた。
「でも、心が痛いの。友達が、どっかに行っちゃうことの方が、もっと心が痛いの……」
このやり取り、なにか既視感のようなものを覚える。そうだ、これはあの時の、ローウェルの脳裏に、懐かしい記憶が掠っていった。
忘れもしない。あれは、自分たち三人が小学校に入学した直後のある小さないじめから始まった。
すずかは、今よりも身も、心も幼くて、とても弱弱しい女の子。思ったことを何も言わずに、誰に何も言われても反論すらできないような女の子だった。
対する自分は、すずかよりも心が弱かった。自信家で、わがままで、強がりで、だから自分を誇示するための対象が欲しかったのかもしれない。クラスメイトの中で、一番おとなしかったあの子のことをいじめることによって、慰めたかったのかもしれない。自分の、愚かしい心を。
あの日、私は彼女の大切にしていたカチューシャを取り上げた。すずかは、それを取り返すべく、自分を追いかけてきて、でも返してとも言わなかった。すごく大事なものだから返してとも、言えなかった。
いつしか、誰も来ないような花壇にまで来てしまった自分たち、もう、完全にやめるタイミングを見失ってしまっていた。彼女が返せと言ってくれば自分だって返すつもりでいた。それなのに、その言葉が永遠にすずかから出ることはない。
対するすずかもまた、どうすればいいのか悩んでいた。返してもらいたい。でも、返せっていうとまたなにか別のことでいじめられるかもしれない。だから、ほんのちょっと勇気を出せばよかったのに、その一言が永遠に出ることはなかった。
千日手だ。アリサは意地っ張りだから、すずかは臆病だから、何も話が進まないうちに、どんどんとアリサが悪者になっていく。いや、実際いじめているのはアリサであるのだから悪者になっていくというのは語弊がある。
しかし、一つだけ言えることがある。ことこういう場面において、空気を読まずに仲裁をしてくる人間という物はいつだって存在する。他人のことに口を出す人間は、必ず存在する。
今は、そんな空気を読まない人間の一人でもいてくれればいいのに、そうアリサが願った次の瞬間だった。
頬に、電撃が流れるかのような痛みを感じた。
高町なのはだ。
突然現れた、当時まだただのクラスメイトだったという関係性の少女の言葉、ハッキリと復唱できる。
『痛い? でも、大事な物を取られちゃった人の心は、もっともっと痛いんだよ』
そして、アリサとなのはは大喧嘩となった。そんな自分たちを止めてくれたのが、やめてとハッキリと言ってくれたのが、弱弱しくて、何も言えなかったはずのすずか。勇気を出して言ってくれた、その言葉に、自分たちはその争いのむなしさを感じて喧嘩をやめて、仲直りして。
それから、少しずつ少しずつ、話を重ねていくうちにいつの間にか親友となっていた。
そんな、忘れることのできない大切な思い出。
それに似た言葉の後、しばらくたってから、なのはは、いやシズクは言った。
「アリサちゃん、すずちゃん、ごめんね」
「え?」
「な、なんでアンタがあやまんのよ!」
謝るのは、こっちなのに。二人の未来を奪った、自分だというのに、どうして。
シズクは、ゆっくりと抱き着いた身体を話すと言った。
「お姉ちゃんから、アリサちゃんが草原に出たって聞いたとき……私が、時空管理局の仕事で、他の世界で戦っていた時、アリサちゃんたちも、こんな気持ちだったんだって……友達が離れて、危険な場所にいくのが、こんなに怖いものだったなんて……初めてわかったの」
「なのは……」
くしくも、それは少し後に現実世界にいる彼女たちの親友であるフェイトも感じた一つの心理ともいえることだった。
力なき者は、力ある者をだまってみおくることしかできないう残酷な真実。信じて、見守っているしか行けないという辛さは、一般人には到底計り知れないものであろう。そして、その待つ者、待たせる者が親友同士であるのならば、その心労は想像すらできない物のはず。
しかし、彼女はたちはそれでも待っていた。なのはや、フェイトのことを。たとえどれだけの長い時間会えない時があったとしても、それでも彼女たちは自分たちが帰ってきてくれることを信じて止めなかった。
たとえ、その信頼を一度裏切ったとしても。
自分が大けがを負ったあの時、あの日、考えてみれば、どうして自分は生き残ることができたのだろうか。
帰りたかったからだ。仲間たちのところに、フェイトやはやて、ユーノ、ヴィータのところに。
違う。帰りたかったのは、本当に帰りたかったのはそこじゃない。
私が、本当に帰りたかった場所、それは。
『なのは』
お父さん―――。
『なのは』
お母さん―――。
『なのは』
お兄ちゃん―――。
『なのは』
お姉ちゃん……。
そして。
『なのはちゃん』
『なのは!』
すずかちゃん。
アリサちゃん。
私が本当に帰りたかった場所は、あそこにあった。だから、生き残ることができた。それを、支えにして。
「私の事……信じてくれて、ありがとう、アリサちゃん……それに、すずかちゃん」
「……」
「……」
涙は、見えなかった。それが、SAOの重大な欠点。人の感情を表面上でしか認識することのできないゲーム世界の汚点。それを解決しない限り、この世界が本当の世界であるということを証明することは決してない。それをマジマジと表しているかのようだ。
シズクは、たとえ自分の目の周りに文字通り雫がないと分かっていたとしても、習慣からか、その目をこすると言う。
「大丈夫だよ、アリサちゃん。向こうにはフェイトちゃんやはやてちゃんやユーノ君たちがいるもん。きっと、私の仕事を代わりにやってくれるから」
「でも!」
「でも……」
「え?」
「私の代わりは、どこにもいない。私がやりたいことを、代わりにやってくれる人はいないから」
「なのは……」
仕事を代わりにやってくれる友がいる。そんな信頼を寄せることのできる仲間たちがいる。
でも、自分は自分しかいない。幸か不幸か、この事件に巻き込まれて、そしてアリサが自分たちから、たったの十分程度だけ離れていただけでも分かった。
仲間たちには仲間たちのそして私には私のやることがある。なのははそう言った。
「やることって、何ですか?」
と、後ろでただ傍観者となっていたみぽりんがそう聞いた。
「もちろん、ゲームクリアです」
「それ本気!? だって、ゲームオーバーになったら死んじゃうんだよ!?」
と、バロッサが言う。彼女のいうことも一理ある。それまで普通の女の子として過ごしてきた少女たちが、突然命の危険あふれる世界に放り出されて、すぐにゲームクリアを目指そうなんて、言えるはずも。
「だが、やるしかないだろう」
「麻子!?」
あったようだ。
「ゲームをクリアするには、第百層の攻略しか方法はない。ということは、私たちがここでこうして悩んでいる時間なんてないんじゃないか?」
「確かに、早くゲーム攻略に向かわないと、どんどんクリアが遅くなってい行くかも」
「よし、それじゃ決まりだね!」
「いやいや決まってないから!?」
どうやらバロッサ以外の大洗組プラスはれかぜもまた率先してゲーム攻略に向かうつもりなのだ。この状況になって未来を悲観するとか、落ち込むとか、そういうのではなく前を向いている辺り、自分の友達はどれだけ豪胆であるのかとある意味で感心したバロッサは、みぽりんに言う。
「そもそも、私たちまだ何にも知らないんだよ!? この世界のことも、戦い方のことも!」
「まぁ、確かにそうですけど……」
それはみぽりんも危惧していたことの一つだ。
自分たち大洗組、そしてシズクたちも、ゲーム開始当初から始まりの町の敷地内をゆっくりと見回っているだけで、草原に出て戦闘訓練すらもしていなかった。それなのに、いきなりゲーム攻略に乗り出してもどうすることもできずにモンスターに屠られて即ゲームオーバーというのもあり得る。
かといって一度ゲームオーバーとなった時点で死が待っているというこの状況下、戦闘訓練をするにも危険が付きまとってしまう。どうしようか。
「それなら、大丈夫よ」
「え?」
言ったのは、フィアッセである。
「私、さっきまでβテスターの人と一緒にいて、この世界のこと色々教えてもらったから。もちろん、戦い方もね」
「本当? お姉ちゃん」
「うん。そっちの人たちには、しばらく離れることは伝えてるから、攻略に乗り出すっていうなら、私が教えるけど?」
「ありがとうございます!」
「ありがとう! お姉ちゃん!」
こうして、大きな問題の一つは片付いた。残る問題は、ただ一つ。
「……怖くないの?」
「え?」
バロッサの、氷のつららのように鋭い、溶けていくような言葉が聞こえた。
「戦って、死んじゃうのが、怖くないの?」
「沙織さん……」
当然の疑問、必然の問題だった。
確かに、自分たちだってアッチの世界では戦車という危険極まりないものを使用していた。でも、それはスポーツの一環としてのもの、実際に相手を傷つけたり、傷ついたりするということなんてほとんどない安全を約束されたものだった。
でも、今回は違う。安全なんてものはない、ゲーム攻略なんてものに乗り出したら絶対に危険が付きまとう。そうなったときに、自分たちは正常な判断を下すことができるのか、分かった物じゃない。
混乱し、戸惑い、前に進めなくなって、訳が分からないうちにゲームオーバーになって、死んで。そうなってしまえばもうおしまいだ。それなのに、どうして、そこまでしてゲーム攻略に臨もうというのか。
そんな安全を度外視で、何故そこまで前向きになることができるのか。どうして。
「怖くないわけないよ」
「え?」
そう、言ったのははれかぜだった。彼女はさらに続ける。
「死ぬのは怖い、でも仲間が……家族が死ぬのはもっと、もっと、もっと、すごく怖いの……でも……仲間が一緒にいてくれるから、支えてくれるから、私は安心して、決断して、指示をみんなに出せる」
あの戦いのときもそうだった。暴走する武蔵を止めたい。武蔵の中にいる親友を、乗組員たちを助けたい。でも、そのためには彼女が大切に思っている家族である晴風の乗組員を危険な目に合わせなければならない。
あまりにも矛盾したソレに、彼女は大いに悩んだ、苦しんだ、そして前を向くのもやめてしまった。
でも、ある人が言った。
『自分が、あなたのマヨネーズになる』
と。
(?)
(マヨネーズ?)
(え、何それ?)
周囲の人間は、そのどこかツッコミどころのある発言に対して大きな疑問符を浮かべたのだが、この状況でそれについて詳しく知るのがどこか怖かったため置いておくことにした。
「海の仲間に超えられない嵐はない……みんなが思い出させてくれた大切な仲間に、もう一度、私は会いたい……だから、どんな荒波でも突き進むことができる。だから」
だから、彼女は前を向く。
「私は、怖くない」
「岬……」
この言葉に、なにか勇気をもらったようなバロッサは言う。
「うん、わかった……だったら、私も怖くない。私にも、仲間が、友達がいるから」
そうだ。きっと何とかなるはずだ。
だって、一緒に戦った仲間が、共にいてくれる限り。
信頼できる家族が、心の中にいてくれる限り。
そして―――。
「いこうアリサちゃん……ううん、ローウェルちゃん!」
「言い直す必要あるの、それ?」
「ないけど……雰囲気、かな?」
「フフッ……」
親友、そして姉が傍にいてくれる限り。いや、いてくれるから。
大丈夫。心配ない。
たとえゲームの世界でも、私たちは不屈の心をもってやっていくことができる。
こうして、三組の少女たちの冒険もまた始まった。
「あ、でも……」
けど、その前にやるべきことがある。
「他のみんなはどうするの?」
「他のみんなって?」
「えっと、実は大洗からSAOをプレイしているのって、私たちだけじゃなくて……」
「え、そうなの!?」
「他の学校の戦車道関係者も含めると、何十人もいることになるな」
「それ、一人ひとり会っていくのも大変なんじゃ……」
「あ、でもプレイヤーネームを知って居れ……ば……」
「……知らないのね」
「……」
色々と、前途多難な始まりで締まらない少女たち。でも、それもまた彼女らしいともいえる始まりだった。
こうして、≪魔導士≫高町なのはは、≪ただの人≫として前を向く。その道を今度こそ、一緒に歩いてくれる親友たちとともに。
その時、彼女の表情は、晴れやかだったという。
プレイヤーネーム№4???→高町美由紀(フィアッセ【Fiasse】)
「こんな私でも、何かできることがあったら嬉しいなって、そう思ったんです」
およそ一万人のプレイヤーが閉じ込められてから一週間。
「あなたは、愚か者よ」
これは、あるプレイヤーを中心とした、ごくごく普通のゲーム攻略。
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の、はずだった。
「罰、なのかな……これって」
「もっと自分のことを大切にして……誰かのことを助けなくてもいい。それで誰かにねたまれてもいい」
「自分が生き残るために、誰かの命を犠牲にしていいわけないだろ!」
「必死で苦しんで、考え抜いて、死の間際になってようやく答えを出せる。それが、信念だ」
「おばあちゃんが言ってた」
「初めまして、私はスター! よろしくお願いします!」
「あ、うん。サーヴァント。この世界じゃそんな名前使ってる」
「私の育った町は外の世界から隔離された、海の上の島で……」
「必ずサキという少女を助ける!」
「≪ノルゲイ≫≪ビショップ≫も来てくれたんだ……」
果たして、彼女は≪約束≫を守ることができるのか。
≪月 木 土≫
5月15日より週三日投稿決定!
メインシナリオ第二章
『花は必ず、咲き誇る』
戦わなければ生き残れない!
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい