SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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 この事件の始まりを見届ける大事な役目を持った作品、参戦。


外伝
始まりの事件


 古都京都。それは、多くの歴史に残る建造物が連立している世界に誇ることのできる日本の都市の一つだ。

 一度足を踏み入れれば、歴史をさかのぼっているかのような感覚に陥り、当時の街の暮らしに思いをはせることのできる。まさに町全体がタイムカプセルかのように感じることができるだろう。

 そんな都市も、現代に生きる人間たちが暮らしやすくなるために様々な都市改造が行われた。しかし、それでもその景観を守るためにこの街にはいくつもの禁止されている事項が存在する。

 人も、建物も、街と共に生き、そして街と共に成長しているのだ。

 そんな街でも、犯罪は毎日のように起きる。

 万引き、強盗、窃盗、そして殺人。

 その数々の事件に対応する警察官は、日夜寝る間も惜しんで活動し、犯人逮捕に尽力を尽くしている。だが、犯人と断定できる人間がいようとも、証拠がなければ逮捕することが出来ない。どれだけ靴の底をすり減らしたとしても、決定的な証拠がなければ事件を解決することなどできないのだ。

 そんな証拠を、科学的に検証し、見つけることが出来る人間たちがいる。

 それが、科学捜査研究所、通称科捜研。

 そして、中でもオーバーテクノロジーとまで周囲の警察からは言われ、数々の伝説を残してきた科捜研が、この京都に存在した。

 京都府警捜査科学研究所。今日もまた、一つの事件が彼女たちを襲う。

 

「ハァァ……」

 

 科捜研のデスク。入り口から一番近くにあるデスク、そこにあるパソコンの前で顎に手を当て前のめりになっている女性がいた。

 なにか落ち込んでいる様子だ。そんな女性の元に、一人の老人が近づく。

 

「亜美ちゃんどうしたの? ため息なんてついて」

「日野所長……」

 

 涌田亜美。映像データを専門に扱うこのk総研に務める人間の一人だ。

 主に、防犯カメラの映像を分析、解析。又は、犯人がデータを消したり破壊したパソコンやスマートフォンからデータの復元を行うのが彼女の仕事だ。

 そんな彼女に声をかけたのが、この科捜研の所長である日野和正。筆跡鑑定や焼け残った手紙などの書類等の文書鑑定を専門に扱っている。またゲソ痕という犯人又は被害者が残した靴の足跡の鑑定も彼の仕事である。

 

「いえ、大した事ないんですけど……」

 

 亜美は、日野にそう説明する。彼女は、確かに少し思うところがあってため息をついたわけなのだが、今行なっている最中の仕事になんら関係のないプライベートの悩み。いくらアットホームな職場であると言っても時と場合というものがある。

 それに、失礼ながらもし話したとしても日野が自分の話に共感してくれるとは到底思えなかった。だから、この悩みは腹の中だけにしようとそう思ったのだが。

 

「そういえば、今日でしたねSAOのサービス開始は」

 

 と、日野にコーヒーの入った紙コップを手渡しながら話に入ってきたのは宇佐見裕也研究員。かつて航空化学研究所という航空テロ等に備えて爆発物や化学兵器をしていた人間で、現在はこの科捜研で化学を専門として扱っており、知識も豊富な人間だ。

 そう、彼の言う通り今日はソードアート・オンラインのサービス開始日である2022年11月6日であるのだ。

 

「あぁ、それボク知ってる! 先月発売された新しいゲームでしょ!?」

 

 やや興奮気味で部屋から飛び出してきたのは、橋口呂太。物理を専門に扱っており、凶器の特定や機械の操作の際にも重宝されている。

 

「なんだ、ただのゲームの話か」

 

 日野は、たかがゲームで大袈裟なと思いながら手に持ったコーヒーに口をつける。

 

「ただのゲームじゃありません!」

「あチッ!」

「SAOは、今世紀最高のゲームになるって言われているゲームなんです!」

 

 亜美は、そんな日野の態度に急に椅子から立ち上がって抗議をした。驚いた日野が手に熱いコーヒーをこぼす。火傷はしないだろうが熱いものは熱い。

 が、そんな日野のことを心配することもなく亜美はさらに語った。よほどただのゲームなんて言われた事が腹立ったのか。

 宇佐見は、日野に手を拭くためのティッシュを渡しながら言った。

 

「SAOは仮想世界、つまりゲームの世界に入り込んであたかも自分の体を動かしている感覚になってプレイすることのできる画期的なゲームなんです」

「ゲームの世界?」

「あっ、マリコさん」

 

 この科捜研最後のメンバーの一人であり、中心的人物が奥の実験室の中からいくつかの事件の資料を持って現れる。

 京都府警科学捜査研究所に、途中東京の科学警察研究所に行っていたこともあるが、それ以外およそ20年もの間この京都でさまざまな事件に向き合い、科学的に立証してきた、科捜研の顔とも言える人物。

 榊マリコ。またの名を、科捜研の女。

 

「そんな事ができるの?」

「理論上では……」

 

 宇佐見は、その場にあったホワイトボードに絵を描く。それは、マリコもよく知る脳の神経細胞の絵と、神経伝達に関する絵であった。

 

「知っての通り、人間の脳からは電気信号が放出され、それによって身体を動かしています」

 

 例えば、手を開く、と言う指令の場合は、脳から指先まで電気信号が送られて、手の筋肉を動かしている。その間には多くのニューロンと呼ばれる物があり、その間を神経伝達物質が通る事によって電気信号を中枢から抹消まで送っているのだ。手を動かすなど、まだほんの序の口でその逆も存在している。

 目で見た視覚情報も、耳で聞いた聴覚情報も、匂いを嗅いだ嗅覚情報も、触れた時の触覚情報も、そして何かを口に入れた時の味覚情報もまた、抹消から中枢、脳に届けられる事によって人間は見て、聞いて、嗅いで、触れて、そして味を知る事ができるのだ。

 

「SAOは、その信号を延髄付近でブロックし、逆にナーヴギアというヘッドセット型のコントローラーが作り出した五感の情報を脳に送ってるんです。これによりあたかも自分がゲームの世界に入り込んでいるかの様な感覚が味わえるんです」

 

 マリコは、宇佐見の言葉を脳内で整理する。この説明、そしてナーヴギアの説明に関しては理解できた。しかし、自分の考えている通りだと宇佐見の説明には矛盾が生じるのではないだろうか。

 

「それじゃ、実際にはゲームの世界に行ってないって事?」

 

 そう、科学的に見ると人間の意識は実際にゲームの世界に行っているというわけではない。実際にはこの現実の世界に置き去りのまま。例えるのなら夢を見ている感覚に陥っているという事になるのではないか。

 

「はい。しかし、プレイヤーの感覚としてはゲームの世界に足を踏み入れたと思えるのでしょう。そのゲームの世界の景色や音、匂いや触覚に至るまでがリアルに近ければ近いほど」

「なんだか、難しくてよく分からんね」

 

 ごもっともである。だが、このあたりの話は半ばプレイヤーの感性によるものが多数を占める。もしプレイヤー自身がゲームの世界に行ったと感じ取れるのであれば、それは心がゲームの世界に入っていったといっても過言ではないのかもしれない。

 

「日野所長って、ファミコン世代でしたっけ?」

「いや、その頃にはもう就職して、ゲームどころじゃなかったね」

 

 と、亜美は聞いた。ファミコンとはとある有名ゲーム会社が生み出した当時革新的なゲーム機器であったファミリーコンピューターの略称であり、当時のゲーム機たちが束になってかかってもかなわなかったという化け物のような存在だ。

 そんなファミコンがこの世に生まれたのは今からおよそ40年ほど前。日野の年齢から逆算すれば、彼が20代後半から30代前半の時にファミコンブームが起こったと考えてもよいだろう。

 

「でもまるで科学の進化の様ね」

 

 と、マリコが言った。先述した通りファミコンは40ほど前のゲーム機。まだ生まれてから半世紀にも満たない。確かにゲームの歴史は短い。しかし、その短い歴史の中で進化を果たしたのもまたゲームであるのだ。

 

「ずっと昔だったら解けなかった謎が、今の技術ならわかることもある。それは、化学が進化したから。それと同じ、昔じゃできなかったこともできるようになる、ゲームの進化と科学の進化は同じなのかもしれないわね」

 

 当時の子供たちもこんな世界になるなんて想像だにしていないだろう。こんなゲーム機が生まれてくるなんて思ってもみないだろう。

 大人ですら考えたこともないはずだ。当時と比べたら明らかにオーバーテクノロジーとなり果てたゲーム業界の進化の速度。その荒波にのばれないように他も追随した結果、人類は人の心をゲームの世界にたどり着かせることに成功した。

 そう考えると、夢があっていいのではないだろうか。そんなマリコの言葉に、科捜研の面々は一斉に頷いた。

 

「ほらほら、雑談は終わり。仕事に取り掛かって。今日中に昨日の殺人事件の報告書作らないといけないんだから」

「はーい」

 

 日野の言葉に、亜美はおとなしく椅子に座り込む。昨日京都府の管内で発生した殺人事件、犯人はすぐに捕まり自供や証拠品も十分で科捜研の出番はほとんどないに等しかった。だが、検察などに犯人を送検するための資料として証拠品や遺留品の鑑定をして、その報告書を作らなければならないのだ。

 本当はもう少し時間をかけてもいいのかもしれない。しかし、事件は次々と発生していくものなのだ。一つの事件にいつまでも付きっ切りではいけない。日野がせかすのはその考えもあったからだ。特にこの科捜研は事件が発生するとそれが解決するまで徹底的に踏み込んでいくというのが特色ともいえるので、日野の方向性は正しいだろう。

 それに、もう一つ、いや二つの理由がある。

 

「呂太くんも、引き継ぎの資料を早く作って」

「……うん」

 

 引き継ぎ、それは呂太がこの科捜研を去る前に後任の人間に自分のしている仕事を託す事だ。

 実は彼、来週には科捜研を辞めて物理の教員として学校に赴くことが決まっている。

 かなり急な話だった為に送別会すらもできないらしく寂しいが、彼が子供達に科学の面白さと言うものを教えてくれる旅に出る物だとしたら、そう悪くはないのかもしれない。

 そして、もう一つ。実は呂太の退職と並行して進んでいる科捜研の引越しもあるのだ。

 引越しといっても京都府警からどこかに移ると言うわけではなく、同じ京都府警の別の部屋に移るだけなのだが、その準備もあっててんてこ舞いしている。その中でも通常業務を行わなければならないから大変だ。

 そして、いまここにもう一つの事件が舞い降りようとしていた。彼彼女たちが予想だにしていなかったような事件が。その知らせは、一本の電話から始まる。

 

「はいこちら科捜研……え……」

「どうしたの亜美ちゃん」

 

 受話器を取った亜美は固まった。瞬間、あたりに緊張感が走る。なにかとんでもない事件が発生したのだろうか。

 

「右京区にあるアパートで、人が死んだそうです」

 

 この言葉に、マリコたちは疑問を生じた。普通事件に関する電話であるのならば、アパートで『遺体が発見された』というもの。しかし、彼女の言い方では目の前で人が突然亡くなったという言葉にニュアンスが近いものだった。

 突然死、つまり病死の可能性もあるのか。だが、それでも自分たちのところに連絡が来るということは、まさか、毒殺の疑いがあるのか。

 なんにせよ、すぐに現場に向かわなければならない。

 

「すぐ現場に向かうわ、準備して」

「その遺体!」

 

 マリコ他、日野以外の面々が現場に向かうための準備をするために各々の部屋に入ろうとした瞬間、亜美は大声で全員を呼び止める。

 そして、数秒ほどしてから意を決したように言う。

 

「SAOを、プレイしていたって……」

「SAOを……?」

 

 それは、つい先ほどまで自分たちが話していた最新ゲームのことではないか。そのゲームをプレイしながら、死んだ。状況がよく読み取れない。

 マリコは、亜美にもう少し詳しい話をするように要求する。

 そして、帰ってきた言葉は、さらにマリコを混乱させるものであった。

 

「ナーヴギアを外したら……死んだ、そうです……」

 

 科学は人をよくするために存在する。けど、それは使う人間によって違う。

 この事件は、そんな時に魅力的に、しかし時に暴力的になる科学の恐ろしい側面をあらわにした、犯罪史に残るとても凄惨な事件として、始まったのである。




科捜研の女
     外伝に参戦

タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
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