SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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始まりの日、奪われた友。

 日常、それはほんの些細な綻びにより壊れてしまう、儚い物である。

 一度壊れると二度と元に戻すことのできないガラスと同じく繊細で、とてもデリケートな時限爆弾。

 これは、そんな日常をこれから破壊されていく者たちの姿を映した記録である。

 しかし、そんな壊れていく日常の中でも生きていった者たちの記録でもある。

 この物語は、死のゲームに挑まざるを得なかった人たちを待つ、強き者たちの記憶である。

 

「11月とはいえ、ちょっと寒くなってきたな」

 

 静岡県内にあるキャンプ場。テントの前に置いた椅子に、ブランケットを羽織った一人の女の子がいた。ステンレス製のテーブルの上に暖かいコーヒーを淹れたコップを置き、読書をする女の子は、持ってきた使い捨てカイロを服の下に張りながらそうつぶやいていた。

 11月は、ちょうど秋から冬に移っていく転換期であり、服装一つ間違えるだけで凍えるような寒さをその身に受けてしまう着ていく物にも困る季節。それでも油断して凍え死ぬという事がないようにと厚いダウンを着てきたのだが、やはりそれでも昨晩は寒かった事を記憶している。

 

「まぁ、焚き火をするまででもないか」

 

 少女、《志摩りん》は、一度焚き火をすることも考えた。しかし、木を燃やすと時折煙が大量に出たり、飛び散った火の粉によって服や本に穴が開く恐れがある。現在はブランケットやカイロでも十分事足りるため、今日のところは必要はないだろうと考えていた。

 彼女は、キャンプが好きだった。特に、ここ最近新しいキャンプの一つのモデルとして有名となった一人でのキャンプ、通称ソロキャンが大好きだった。りんが祖父の影響もあってキャンプをし始めたのは4年前の事。それから色々な場所を回ってソロキャンをしている。一年前にはバイクの免許も取って、その活動範囲はさらに増加しており、山梨から静岡県までの道のりをバイクで旅したこともある。

 そんな彼女は、ずっとソロキャンをしていくのだろうなという確信に近い何かがずっとあった。自分はあまり人づきあいが上手ではなく、大勢で一緒にキャンプするなんてこと、考えられなかった。

 そんな彼女のキャンプ人生が一変したのは一年前の事。

 富士山の麓にある本栖湖でソロキャンをした時の事だった。ある、一人の女の子に出会った。

 その女の子は、自宅からはるばる何十キロもの道のりを自転車を漕いで来たらしく、最初に彼女の姿を見た時には疲れ果てて眠りの中にいた。

 それから数時間後、少女が起きてみると、すでに辺りは暗くなっており、帰り道のトンネルも真っ暗でとてもじゃないが怖くて帰ることが出来なかった。

 そんな彼女をりんは、自分がキャンプをしているテントにまで連れて行き、まぁ色々あって仲良くなったと、言ってもいいのかもしれない。ほとんど少女の勢いに飲まれていた感も否めなかったが、それ以来りんはその少女なでしこ、そして少女が学校で作った友人たちとともにグルキャン―グループでキャンプの略称―をしてきた。

 最初は、自分のテリトリーに侵入されてきた感じがしていい気はしなかった。しかし、いつの間にかこういうのも悪くないかもしれないと思うようになってきて、あれよあれよという間に一年間の付き合いになってしまった。

 それに、グルキャンをするようになってからもソロキャンの時間は作り、一人でキャンプに行く機会は十分にあった。今日も、その日の一つ。他の仲間たちはバイトや用事があったという事もあったが、やっぱりソロにはソロの良さがあるという物だ。

 静かだし、自分の時間をゆっくりと使うことが出来るし、他人に気を使うという事もない。確かにグルキャンに比べれば規模は小さいし、独りぼっちでさみしいと思うことはある。でも、それもまたソロキャンの良さであると彼女は理解している。

 それに、来週には―――。

 

「ん?」

 

 その時である。彼女のスマホが鳴った。その音はりんの使用しているメッセージアプリが受信をした時の音。誰からなのだろう。

 

[りん]

[斉藤か、どうした?]

 

 連絡をしてきたのは、彼女が一年前になでしこに出会う前から友達であった少女、斉藤恵那。おせっかい焼きであり、コミュ障たるりんと他のメンバーの間を取り持つことのできる女の子だ。

 確か、今日はバイトも無く家で愛犬のチワワである《ちくわ》と遊ぶという事を話していたはずだが、暇になってきたのだろうか。そう考えたりんがメッセージを送って数分の時間が経った。

 

「……?」

 

 おかしい。いつもならもう返信があってもいいような時間になっても返事が返ってこない。もっと言えば、いつもの通りならば二言三言くらいの会話をしていてもよさそうな時間が経っている。一体どうしたのだ。

 

[おい、斉藤どうした?]

 

 試しに、電波が悪いのかと考えてまた別のメッセージを送る。すると、すぐにメッセージに既読が付いた。どうやら電波が悪いわけじゃないようだ。

 なら、アプリを開いたままで向こうで止まっている。という事なのだろうが、それが、一体どんな意味を持つのだろか。何か、自分に言いづらいことでもあるのか。それとも、彼女の身に何かが起こったのか。

 りんにはよく理解が出来なかった。

 

[りん、落ち着いて聞いて]

 

 それから数分。ようやく帰ってきた最初の言葉がソレだった。やっぱり、何かがあったのか。それも、斉藤が落ち着いて聞いて欲しい、などというくらいに伝えるのをためらうような出来事が。

 

[なでしこちゃんが]

[なでしこがどうした?]

 

 話というのは、どうやらなでしこのことのようだ。確か彼女は今日、サービスが開始になったばかりの新しいゲームをプレイしているはず。

 たった一万本しか発売されなかったゲームなのだが、彼女の運が良かったらしく、抽選での発売に当選したらしい。学校で遭遇した時にとても楽しみにしていた顔は今でもよく覚えている。

 それからまた数分の時間が流れる。ことここに至るとりんもまた不安になってくる。一体、自分の知らないところで何が起こったのか。なでしこに、斉藤に何が起こったのかと。それは、言い表せることのできない恐怖にも似た不安。

 背中に何かどす黒い物が近づいているかのように重く、そして心を蝕むかのような恐怖。嫌な予感がする。

 

[斉藤]

 

 何があった。なでしこの身に、いったい何があった。りんは斉藤に急かすかのようにメッセージを送った。努めて、冷静に、いつも通りに、でもどこかで焦るかのように。

 早くこの不安から解放されたい。その一心で送ったかのような、ただ彼女の名前を呼ぶだけのメッセージが届いて数分が経った。もうこの時点で最初にメッセ―ジを受け取ってから十分程度の時間が経過している。

 時間が経過していく毎にりんの中の不安がより大きく、そしてより強くなっていく。

 心臓を悪魔に握りつぶされているかのように、胸が強く締め付けられる。胸の鼓動は次第に自分の耳にも届くようになるほどに、今、この時に集中していた。

 そんな中、ついに彼女の元にメッセージが届けられた。だが、その内容は、その彼女が待ちに待った、そして見せてもらいたくなかったメッセージの内容は。

 

[ゲームに、閉じ込められた]

 

 訳の分からない物だった。だが、それゆえに彼女の不安が収まったのは皮肉以外の何物ではない。

 

[それは今までに聞いたどの冗談よりも訳がわからんぞ]

 

 彼女が冗談を言ってくる人間であることはりんは知っていた。

 キャンプ場にクマとトラとチワワ100匹を放ったとか、キャンプ場に刺客を差し向けたとか。因みに後者の場合来たのは兔の格好をした《ちくわ》だったのだが。

 しかし、こと今回の冗談はあまりわけが分からない物だった。ゲームに詳しい人間だったら笑えるものなのかもしれないが、あいにくりんはゲームにそれほど詳しくはなかった。

 これもなにかの冗談なのかもしれない。そう考えたりんのメッセージに、対して今度は十秒も経たないうちに斉藤が返信する。

 

[冗談じゃないの!]

「!」

 

 言葉だけだ。文字だけだ。しかし、りんにははっきりと分かった。それが、斉藤の心からの叫びであるという事を。これが、冗談の類では決してないという真実を。

 だが、だとしたらゲームに閉じ込められたというのは一体何の話だ。ただゲームをプレイしていたのに閉じ込められるって、一体どういう表現なのだ。りんの頭の中は混乱していた。いや、混乱している振りをして自分の身を守ろうとしていたのかもしれない。それが、彼女による精いっぱいの抵抗だったのかもしれない。

 

[とにかく、ネットを見れるんならネットを見て!]

「ネット……」

 

 そう言われてネットを見たりん。すると、そこには―――。

 

「え……」

 

≪大規模テロ事件発生!≫

≪サービス開始直後のゲームで一体何が!?≫

≪延べ1万人のプレイヤーが閉じ込められる≫

≪ゲームオーバー=死!?≫

≪既に死者が多数確認されている≫

 

 信じられない言葉の数々が乗せられていた。

 

「なでしこ……」

 

 りんは、スッと立ち上がると、手に持っていたスマホが力なく地面へと落ちていく。それは、強いショックを受ける彼女の内面を写しているかのようだった。

 スマホ自体は、落とした先にあった草がクッションとなって守られたことにより無事だった。けど、りんは未だに固まったままで何もする気が起きず、ただただじっと遠くにある富士山を見ているしかなかった。

 彼女と、なでしこと初めて会った時に見た、あの思い出の景色を、朧げな気持ちで見ているしか無かった。

 日常の崩壊。これは、SAOに関係する者すべてが味わった絶望。その一つであった。

タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
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