SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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外伝 メインシナリオ第一章 約束
外伝 メインシナリオ 第一章 1話


 ―2022年11月10日―

 徐に人々に浸透し始めてきた名称、≪SAO事件≫の始まりの日から四日が立った、埼玉県某市のとある民家。

 夜はとうの昔に開けており、それどころか日がちょうど真上に来た時からすでに二時間ばかり経過していた。一歩外に出れば太陽の光に照らされて綺麗であるはずのその家。だが、まるでその区画だけが漆黒の闇の中に落ちてしまったかのように暗く沈んでしまっていた。

 それは、まるでこの家に住む母親の心のように。

 

「……」

 

 女性、桐ヶ谷翠は朝の日が差し込んだくらいからずっと娘の顔を見続けていた。まるで、眠っているかのように安らかな顔をしている娘の顔。

 でも、その全容は見ることが出来なかった。何故なら、その頭には彼女を悪夢の世界に連れて行ったヘッドギア、ナーヴギアが、まるで自分と娘を隔てる壁のように存在していたから。

 翠は、その顔を見ながら宅配で送られてきた暖かいおにぎりを、パソコンと件のナーヴギアの、全くと言って補っていない光の中で、食べていた。彼女のこの部屋が、日の入りがかなり悪く、昼間であったとしても電気をつけなければならない、ということが災いした形だ。

 不思議に思うかもしれない。パソコンが付いているのだから、電気は通っているはず。それなのに、どうして電気を点けようとしないのか、と。

 違う。点けないのではない。点けるのが怖いのだ。もしもそれでブレーカーが落ちてしまったら、もしもそれ以外の電気機器を使用してしまってブレーカーが落ちてしまったら。そんな可能性、普通に生活している分には一ミクロンも存在しない。というより、その程度でブレーカーが落ちるのであったのならば、とっくの昔に一度落ちてしまっている。けど、それでも怖いのだ。自分が、娘に最後の一撃をもたらす死神にならないかと。

 ゲーム制作者であり、この事件の首謀者である茅場晶彦が言うには、このナーブギアは、電源が消失してから十分経過すると、使用者の脳を焼くようにできている。それが、彼がネットに流した犯行声明の中にあった文章の一つだ。

 もちろん、最初は何かの冗談だと思っていた。それもまた、天才ゲームプログラマーである茅場晶彦の、ちょっと度の越したジョークじゃないのかと思った。でも、それが違うというのはすぐスマホに入ってきた数々のネットニュースが彼女に残酷なまでに告げていた。

 娘は、本当にゲームの中に閉じ込められた。そして、自分たちが外からゲームを中断させようとすると娘を殺してしまう。あの時の自分は、果たして冷静だったのか、それともあまりのショックで意気消沈していたからなのか、どちらにせよ慌てて娘のナーヴギアを取ろうとしなかったのは唯一の不幸中の幸いだろ。

 いや、唯一じゃない。自分にはもう一つの幸運があった。それは―――。

 その時、チャイムが鳴った。翠は、ゆっくりと名残惜しそうに娘が眠る部屋から出ると、暗中模索の中決して転ばないように玄関に向かった。

 このチャイム、そしてこの時間。きっと、彼らが来たのだ。娘を、こんな危険な場所から移動させてくれる人たちが。

 もちろん、眠り続けているとはいえ、この家は娘にとって一番安心できる場所であり、そして自分にとっても娘が近くにいることのほうが良いに決まっている。

 だが、いくら自分が注意しても落雷などでの停電による電源消失の可能性が高いとするのならば、やはり、こんな場所から娘を連れだしたほうが良いに決まっている。

 だから、彼女は同意した。娘を、この家から連れ出すという作戦に。

 すべてをゆだねることにした。娘を助けると言ってくれた人たちに。

 彼女は再び祈ることにした。

 

「お待たせしました。埼玉県警の横溝です!」

 

 娘が、再びこの家に帰ってくることを。

 

 埼玉県警警部、横溝参悟が桐ヶ谷家を訪れるちょっと前、昼食が終わった後の警視庁。そこに、数多くの刑事が集められていた。

 本来並べられているはずのデスクも、そのほとんどが壁際に寄せられていて、使用できるものなら使ってみろと言わんばかりにそっぽを向いてしまっている。異様な光景だ。しかし、その異様さこそ、今回の事件の特殊性を表していたと言える。

 

「全員、資料はいきわたったな。では確認してくれ」

 

 そう言ったのは、目暮十三警部だ。その言葉に合わせ、全捜査員が配られた資料に目を通し始める。

 その紙には、自分たちが担当する地域にいるSAOプレイヤー、いや今はSAO被害者と言おう。そんな人間たちの住所が一枚目に記されていた。

 二枚目には、その被害者たちを搬送する予定の病院などの非常用電源が供えられている施設の名前。ここまでくれば分かるであろう。警察が何をしようとしているのか。

 これから、警察は消防や救急などと協力し、SAOプレイヤーをそれぞれの施設に移送する一大作戦を決行しようとしているのだ。そのために、現在捜査に関わっていない東京中のほぼすべての警察官をこの警視庁に集結させた。

 もちろん、動いているのは警視庁の刑事だけにあらず。全国津々浦々、各地に点在している各県の警察もまたほぼ同時刻に動くことになっている。今は、その最終確認をしている最中。もしもここで何らかのミスがあれば、助けられる命も助からなくなってしまうからだ。その緊張感は、殺人犯を負っているその時よりも巨大でストレスがかかる物であることは間違いない。

 

「かなり多いな……」

「まぁ、これでもまだ少なくなった方です」

「えぇ、この四日間の内に、かなりの人数が亡くなりましたから……」

 

 と、伊丹、芹沢、出雲の三人の刑事が口々に言う。

 彼らの言う通り、本来はもっとたくさんのSAO被害者を病院などに移送する予定だったのだ。だが、その予定は非情に心が痛む理由によって無くなった。

 この四日間で、死亡者はもうすぐ千人を超えるかもしれないという勢いまで来ている。一万人いるプレイヤーの内の一割が一週間もたたずに亡くなるかもしれない。これは、かなりのハイスピードである。一体中で何が起こっているのかは外にいる自分たちでは分かるはずもないが、少しくらい想像してしまう。

 ゲームがデスゲームになったと信じられずにモンスターに挑んで死んだ者。

 自分だったら生き残ることができると過信した結果あっけなく死んで言った者。

 あるいは、何年閉じ込められるのかわからない現状に絶望して、その身を投げ捨てる者。大勢いるはずだ。

 そんなゲームの世界にいる被害者に、自分たち警察ができることは数少ない。しかし、その数少ないできることというのが、もっとも重要な役割を持っているのは当然のことだ。

 一刻も早く残ったSAO被害者たちを安全な場所に移送する。だが、そこには当然、いくつもの障害がある。その為に、あの男が立ち上がったのだ。

 

「では、大岩捜査一課長」

「あぁ……」

 

 そう、目暮が促すと、捜査一課長であり、今回の事件の担当。そしてSAO被害者移送の最高責任者として名乗りを上げた大岩が代わるかのように前に立った。今回の移送に関し、全国の捜査員たちを一手に率いる立場に立ったのには、彼の確固たる意志があった。

 もしこの作戦が失敗すれば、SAO被害者は、自分たちがゲームオーバーになったわけでもないのに理不尽にその命を奪われることになる。そうなれば、移送に同意してくれた家族や友人の思いも無駄にしてしまうだろう。

 仮にそうなった場合に責任を取る人間が必要だ。そうなった時に、全責任を自分が持つと、大岩が自ら名乗り出たのだ。

 大岩は、まるで巨大な岩石を前にした格闘家のような沈黙の後、殴りつけるかのように言う。

 

「SAO……本来であれば、ゲームの歴史にいい意味で名を刻むゲームとなるはずだった。だが、SAOは今や何千人もの人間を閉じ込める箱庭と化した……。今の我々にできることは少ない。だが、だからこそ! 今できることに全力を注ぐべきだと、俺は思う」

 

 まるで、その言葉が身に染みるかのように捜査員一人一人の顔が真剣な顔つきを超えた、あたかも勇者の顔のように凛々しく見えるようになっていく。

 そう、SAO事件に対して警察にできることは犯人である茅場晶彦を逮捕すること、その茅場晶彦に協力した共犯者がいないのかを徹底的に洗い出すこと、そしてこれ以上現実世界の問題によってSAOによる死亡者を出さないこと。それに特化したものしかないのだ。

 これは単に彼らが力不足出るからではない、ゲームというこれまで経験したことのないようなテロを前にして、できることを精査していった結果残った。いわば、最善の策であるのだ。

 

「今、生き残っている……九千人弱のSAOプレイヤーを各施設に移送させる。これは、今までに経験したことのない試練と、俺は考えている。だが、その試練を乗り越えてこそ、俺たちは次のステップに進むことができる」

 

 次のステップとは一体何のことなのか。捜査員全員が疑問に思った直後、大岩は下げた手に握りこぶしを作っていった。

 

「今、閉じ込められている被害者には……人生があった。明日の予定があった。家に帰ってきた家族や、外で出会った友人と共に過ごす約束をしていた者もいたはずだ。だが、彼らはそれを奪われた。明日を奪われた……。身勝手な、一人の人間のエゴによってだ。断じて許すことのできない、所業だ。その無念を晴らすため、俺たちはまず、監禁された人々の安全の確保を優先する。誰一人として、絶対に死なせてはならない! いいな!」

『はい!!』

「では、手はず通りに動いてくれ!」

「分かりました!」

「行くぞ芹沢、出雲!」

「「はい!」」

「行きますよ、亀山君」

「はい!」

 

 その大岩の決意ともいえる言葉に、全捜査員たちが声を上げて奮起、そしてそれぞれがそれぞれに担当している場所へと向かって行った。

 今回は移送する人間が多いこともあって、普段は窓際部署として追いやられている特命係もまたその手伝いをするために外に向かって行った。

 そして、この男もまた。

 

「ほら、私達も!」

「あぁ……分かってる。最初っからフルスロットルだ」

 

 男、泊進ノ介はネクタイを締め直した。この事件、絶対に解決して見せる。そんな意気込みを込めた締め直し。

 泊は、妻であり≪相棒≫である霧子と共に階下へと向かって行った。

 警視庁は、いつの間にかもぬけの殻となっていた。




仮面ライダードライブ
          参戦

 今回のメインシナリオは、この事件の解決のために動き始めた警官たちをメインにした群像劇です。そのため、戦闘描写はいつもよりも控えめとなっております。

タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
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