SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
九千人以上いるSAOプレイヤーの搬送。警視庁の刑事たちが動き出したのとほぼ同時刻、四十六道府県で同じように動く者たちがいた。
例えば、ここ長野県でも。
「発電機への電源の接続完了しました!」
「よし……」
長野県にあるとある家に派遣された県警の刑事は、その報告を聞いてひとまず胸をなでおろした。
今、彼の目の前には一人の眠り姫が横たわり、その寝顔を見せていた。
高校生である少女は、学校では麻雀部という物に所属しているそうだ。高校生で麻雀を、と思う者もいるかもしれないが、実はこの世界においては麻雀というのはとてもポピュラーな競技として世間一般に知れ渡っているのだ。だからこそ、学生の頃から競技麻雀を始め、プロの雀士を目指す者も何人かいるという。
彼女の腕前はかなりのもので、今年の夏にあった全国大会では団体戦で決勝戦まで駒を進めたらしい。しかし、残念ながら優勝はできなかった。いや違う。そもそも決勝戦は開かれなかった。
800年前の王の復活、などという常識から外れた大事件により、多くの人間、そして建物に被害が出た。その中に、彼女たちが本来立つはずだった決勝の舞台が含まれていたのだ。その一件建物はもちろん、選手の中にも怪我人が多数出たために大会は無期限の延期。本来行われるはずだった個人戦という物もないままに不完全燃焼で終わってしまったのだ。
彼自身、色々あった物の高校生という青春時代を謳歌してきた自負があったため、そんなことになった彼女たちの心境を思うととても心苦しくなってしまう。近年は≪アレ≫のことにより特にだ。だが、彼女たちはそんな悲しみを超えて前に歩きだし、来年に再びあるはずの大会に向けて鍛錬を続けていた。そんな時にこの事件である。
その頭に付けられたとても不釣り合いなヘッドギアがなかったら、本当にただ眠っているだけにしか見えないほどに安らかなその顔。まさか、今まさに命の危機に立たされていたなんて彼女も夢には思わないだろう。
いや、今もそうだ。彼女は今現在もゲームの世界で命の危機に立たされている。ゲームの、SAOの中でゲームオーバーとなった瞬間に、ヘッドギア、ナーヴギアが暴走し、彼女の命を奪うことになる。それ自体は、外側にいる自分たちでは防げるものではない。だが、それ以外の事であるのならば防げるものがある。
彼女のナーヴギアの電源プラグの先を家に備え付けられていたコンセントから抜き、米俵並みに重い発電装置に取り付けた。これで、この辺りが停電してもとりあえずの所は大丈夫だ。しかし、ここからも油断することはできない、というよりもここからが本番であるのだ。
「タイムリミットは二時間……いや、一時間と五十七分三十七秒……その間に病院に連れて行かなければ……」
彼は、少女のナーヴギアの電源プラグ、そしてインターネットに繋がっていたLANケーブルを、それぞれのコンセントから抜いたその時からスマホを使用してカウントダウンを開始していた。
二時間。それが今の彼女の命のタイムリミット。ネットワーク回線の切断の猶予時間。それを超えてしまえば、彼女は死んでしまう。例えゲームの世界でどれだけ死に抗っていたとしても、外にいる自分たちのミスという理不尽な理由で死を迎えてしまう。
そんなこと、絶対にさせる物か。
「刑事さん……」
と、その時ずっと少女につきっきりだった男性。彼女の父親である宮永界が生気のない顔で刑事に声をかけた。
デスゲームが始まってから今日でまる四日。その間、彼はずっと会社にも行かなかった。いや、行けなかった。それに、買い物にもだ。だからだろう。かなりやつれてしまっている。娘が、いつ死ぬかどうかわからないというのだから、気が気でないのは分かる。不安なのは分かる。が、だからと言ってこのままでは彼の方も危険だ。
刑事は、界の方に顔を向ける。そして、敬礼をしながら言った。
「安心してください。娘さんは、必ず我々が病院にまで送り届けます。警官として……いや、自分の人生をかけて……」
ちょっとオーバーだったのかもしれない。しかし、界にとってはそんな彼の真っすぐすぎる言葉にどこか安心感のようなものを与えられたような気がしてならなかった。
彼に任せておいていいのかもしれない。もちろん、それは何の根拠もない想像だ。しかし、それでも彼の見せてくれたその顔が、とても頼もしいものに見えた。そして何より、警察官としてという職業ではなく、人間という一人の自分を賭けていること。それが、彼のその言葉の覚悟をより顕著に表していた。
今は信じよう。彼の事を。こんなにもいい笑顔を見せる彼の事を。信頼してみよう。彼のその笑顔を。
「咲の事を、よろしくお願いします」
「はい……」
そう言うと、刑事は家の外に出て、その場にいる何名かの救急隊員に、彼女の搬送の準備に入るように指示を出した。事前にちゃんと打ち合わせはしていたとはいえ、何らかの手違いがあっては困るからだ。いまはまだ搬送の初期段階だが、これから色々と大変になってくる。
彼女を救急車に乗せることもそうだが、その後のパトカーでの護送も、渋滞に引っかかってしまえば時間を無駄に浪費し、タイムオーバーとなりかねないから行く先々にいる所轄の人間とも連絡を密にして交通整理を行ていかなければならない。
病院に到着し、待機している医師や看護師にゆだねるまで自分の戦いは終わらないのだ。
いや、語弊があった。正確に言えば、自分の本当の戦いはそこから始まる。そう彼は感じていたのだ。
実は、彼は一週間後に警視庁へと派遣されることが決まっていた。理由は当然、このSAO事件の合同捜査のため。茅場晶彦の居所を見つけ、逮捕するために作られた合同捜査本部。そこには、各都道府県からエース級ともいえる人間が集められると聞いている。
無論全員を一度に集めるとそれぞれの県で発生する事件の捜査に影響を及ぼすことから、警視庁へと出向くのは月に二,三度程度が妥当ではないかと言われていた。しかし、彼を含めた何人かは正式に警視庁へと異動し、事件が解決されるまで東京に止まることにした。茅場晶彦を逮捕し、SAOに囚われているプレイヤー達を助け出す。そのために。
救急隊員に指示を出し終えた彼はふと、昔を懐かしむ時間を与えられた。思い出す。二十数年前のあの事件、あの、殺人ゲームの記憶を。
当時、未確認生命体と呼ばれていた、後にグロンギと呼ばれる種族によって発生した殺人ゲーム、≪ゲゲル≫に対処するために警視庁へと派遣された時。あの時は、一年をかけてグロンギによるゲゲルを一時的に終わらせることに成功した。しかし、その為にある一人の、心優しい青年を、争いが嫌いな青年を苦しませることとなってしまった。
いまだに後悔している。例え、彼がそのおかげで自分に会えたと言ってくれても、それでも自分は彼を巻き込んでしまったことを後悔している。
そして、その彼は今回もまた巻き込まれてしまった。被害者として。
自分が所属している県警からは、自分と彼のかかわりを知っている対策本部から彼の護送に自分が付いたらどうかと進言されることがあった。
だが、自分はそれを固辞した。確かに、自分と彼は親しい間柄であり、彼のことが気にならないと言えば嘘になる。だが、警察として、事件に私情を持ち込むことはご法度。だからこそ、彼はその人物の事を他人に任せることが出来たのだ。
そして、彼は信じている。あの漢、五代雄介が再び自分の前に現れるのは、ゲームがクリアした後だと。
その時の彼の顔は、あの二十数年前と同じ、とてもすがすがしいほどの笑顔であるという事を。
彼は信じて、今、事件に当たるのであった。
「一条刑事! 搬送の準備が出来ました!!」
「よし! 行こう!」
男、長野県警警備課課長≪一条薫≫はその言葉を聞くと、少女を家の中から出すために玄関の方へと向かった。
ふと、その時彼は空を見上げた。
雲一つない、青空。そして刺し貫かんばかりの太陽の日に照らされる景色。
それはまるで、今の彼の心を表しているかのようだった。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい