SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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 今回、私情というか温情によりあるキャラに救済処置を施す事になりました。それが一体誰なのか、名前は出さないので、推理してみてください。


外伝 メインシナリオ 第一章 3話

 その日、どの病院も荒れに荒れていた。新患の受け入れや、手術も、緊急性の高い物以外は全部ストップし、全医師、全看護師が、それに備えて待機していた。

 医療機関全体でみると、その病床数は全部で百五十八万床であると言われている。その中からおよそ一万床がSAO被害者のために使われることになっているのだ。ある人間からしてみれば、百五十万以上もあるのだからたったの一万くらいいい物だろうと思われるかもしれない。

 だが、近年ある事情により病床使用率が急激に上昇、県によっては九十パーセント以上もの病床が使用されるという事態もあった。だから、たった一万というのは間違い。その一万の病床のために失われるかもしれない命もあるかもしれないのだ。

 しかし、それでも彼らは病床を譲らなければならなかった。そうしなければ、一月、あるいは一週間のうちに大勢の死者がでる恐れがあったから。

 誰もが、この困難に立ち向かうために必死だった。今は、救える命を取る。そして、その後に救えないかもしれない命も救う。それが、全医療従事者の信念。

 例え、それがいかなる茨の道であったとしても。

 

「……」

 

 そして、この病院の院長。鏡灰馬は今まさに院長室にてその連絡を待っていた。

 灰馬はどうにも落ち着かない様子で部屋の中を行ったり来たりを繰り返している。当然だ。今日この場所に、これからSAO被害者、並びにそのSAO被害者を護送するために多くのパトカーが来るわけだから。心身穏やかではないのは無理もない。

 聖都大学附属病院では今回、部屋を五室、全部で二十床を用意していた。本当は個室対応で二十四時間対応が出来るようにしたいのも山々だが、病床使用率の影響もあってそのような対応を取ることが出来なかったのだ。

 しかし、それでも都内の病院の中でも確保できた病床数は多い物であるのも事実。ひとえに日頃の病床数の調整と、初動が早かったことに起因するであろう。

 だが、多くの病床を用意したという事は、その分だけ多くのSAO被害者を預からなければならない責任が伴ってくるという事でもある。一つのミスが大勢の命を失うことに繋がってしまう。それは、医師としての仕事をしている者にとっては日常茶飯事であろう。

 しかし、今回はそれ以上に時間との勝負という問題もついて回る。まさに少しの遅れが命取りとなる大事な作業となってくることだろう。

 息子で医師の鏡飛彩にも、十分留意するようにと言っておいた。しかし、意外と冷静であったのは、恐らく彼自身もすでに覚悟を決めていたからなのだろうと父の灰馬は思う。いや、考えてみればそれは当たり前だ。何故なら、患者の命を預かる責任というのは、全ての医療に従事する者がいつでも持っている責任。それこそ、日常茶飯事であるのだから。だから、息子が冷静だったのも頷けるという物。

 ならば、自分もまた戦おう。大勢の命を救うために、慌てふためく自分を捨て去って、戦おう。一人の、病院の責任者として。

 

「むッ!」

 

 その時、電話が鳴った。

 

 

「分かった。至急向かう」

 

 電話を受け取った飛彩。父親である院長からの連絡を受けた彼は、PHSの通話を終えると、すぐに自分のデスクから立ち上がった。

 

「院長から連絡来たの?」

 

 と聞くのは彼と共に待機をしていた看護師の明日那だ。彼は、その言葉にいつも彼と一緒に行動を共にしている看護師二人と歩きながら答える。

 

「あぁ、六人来る。その中には、永夢もいる」

「永夢が……」

 

 その言葉に、立ち止まり顔が曇る明日那。

 しかし、飛彩はそんなことも意に返さずに歩き去ろうとする。

 

「ポッピーピポパポ、先に行っておくが……」

「大丈夫。私情ははさまない。私だって、看護師なんだから……」

「そうだ」

 

 そう、例え被害者の中に身内がいたとしても私情をはさんでしまえば助かる命も助からないかもしれない。

 それは、看護師として医療に従事してきた彼女にも当然分かることだった。

 今回だってそう。私情をはさんで彼の事を優先なんてしていたら、他の五人の被害者が助からなくなるかもしれない。相棒のような存在だった永夢が事件に巻き込まれた時、自室で横たわっている永夢を見た時はショックで声も出なかった。

 でも、すぐにやるべきことをやらなければならないと立ち上がった彼女。

 帰ってくる。彼は、必ず。多くのプレイヤーと一緒にゲームを≪ノーコンテニューでクリア≫して、帰ってくるはず。だから、その為に自分も頑張らなければならない。

 仮野明日那は、使命をもって歩を進める。もしかしたら、それは強がりにも見えるのかもしれない。でも、それでも彼女は前を向く。それが、≪バグスター≫でありながら人間と共存する自分の役目であるのだから。

 

 飛彩と明日那が下に降りたころには、すでに病院の前は慌ただしく騒ぎ始めていた。

 

「前三台は救急外来の方に回ってください! こちらでは、後ろの三台から一人ずつおろしていきます!」

「分かりました!」

 

 すでに下に降りてきていた灰馬が、パトカーから降りてきた壮年の刑事らしき人間に対してそう指示を出していた。

 見渡してみると、救急車が六台、パトカーが十数台。そしてそこから降りてくる警察官や救急隊員でかなり混沌とした様子になっていた。これは、少しずつ整理していかなければ間に合う物も間に合わなくなるだろう。

 飛彩は、二人の看護師に言う。

 

「エレベーターを一階に降ろして待機。他の看護師と一緒にそこまでにいる来院者の整理を急げ」

「「はい!」」

「飛彩、私は!?」

「ポッピーピポパポは患者の確認と搬送の手伝いだ」

「分かった!」

 

 他、飛彩は次々と降りてくる看護師、医師に適切に指示を飛ばしていく。

 今回、この搬送作戦に際して、飛彩はあらゆる状況を想定してきた。搬入にかかる時間、輸送に関わる人の数と行動。そして、不測の事態の想定までありとあらゆるシミュレーションを行っていた。

 ソレが功を奏したのだろう。ここまで混沌とした状況にありながらも、大きなパニックが起こることなく次々と医師、そして看護師、救急隊員が連携していく。

 これもまたチーム医療の一つ。彼は、数年前の戦いでその力を十分に知っていた。状況はあまりにも違いすぎるが、その時に得た経験は変わらず彼の中に生き続けていたのだ。

 

「患者は?」

「平沢唯さん18歳。インターネット回線切断から1時間28分34秒経過してる。永夢以外の五人は、同じ学校から運ばれてきているから大体同じくらいの時間経過だって」

「分かった」

 

 回線切断猶予時間まで残り約30分。順調に行けばその五人は間に合うはずだ。飛彩はさらに近くにいる看護師に、続けて言う。

 

「PPNとバルーンカテーテルの準備はできているのか?」

「はい。いつでも行けます」

「そうか」

 

 PPNというのは末梢静脈栄養の事で、簡単に言えば点滴の事である。すでにSAOプレイヤーがゲームの中に囚われてから四日が過ぎている。その間に食事も水分も取ることが出来なかったプレイヤー達は、半ば影響失調、脱水の症状が目に見えて分かるようになってきていた。そう言った栄養分を病院側で管理するために点滴は最も原始的かつ最初に行わなければならない処置であると言える。

 長期にわたるという意味では、中心静脈栄養(TPN)とどちらがいいのかと健闘したこともあったが、デメリットの数や種類、そしてデメリットが発生した時の対応を考えた時に末梢静脈栄養を選択したのである。

 今回、SAOプレイヤーを入院させるうえで最も懸念されるべき物。それは、感染症、あるいは手術の必要性がある病の有無だ。特に、血管に関わる物の場合、時には心臓を止めなければならない病という物がある。そんな物を、SAOをプレイする人間にした場合、ナーヴギアがどのような判断をするのか不透明だ。

 そのため、肺血症や血栓症のリスクが高いTPNよりも、管理のしやすいPPNの方を選択したのだ。しかし、PPNでは一日に投与できるカロリーが成人の一日の必要カロリーのおよそ半分程度。例え全く動いていなかったとしても、十分なエネルギーを補給できない彼女たちがどうなってしまうのか、目に見えて分かることだ。

 もう一つの懸念点と言えば。先ほどの看護師に話していたもう一つの処置についてだ。それは、明日那も考えていた。

 

「でも、かわいそう……あの年で、それも、女の子がバルーンカテーテルなんて……」

 

 明日那もまた、バグスターではあるが女性という性別を持っているから分かる。本当は健康であり、花も恥じらう女子高生の女の子たちがバルーンカテーテルなんてものを挿入しなければならない屈辱という物を。

 バルーンカテーテル。正式名称、膀胱留置カテーテルは、その名前の通りその先を膀胱に挿入することによって中にある尿を持続的に体外に放出させるための物だ。主に、絶対安静が必要である患者や、排尿障害のある患者に適応されるはずのソレを、健康体である人間に入れ込むなんて。

 しかも相手は女の子だ。確かに、ソレを入れるのは女性看護師に一任されているのだが、しかし例え相手が女性であったとしても他人に自分の秘部を見られるなんて、たまったもんじゃないだろう。

 

「けど、バルーンを入れなければIADになるリスクが高いからねぇ……そっちの方が、あの子たちにとってはツライだろうから……」

「そうかもしれないけど……」

 

 IADとは、失禁関連性皮膚炎の略称であり、その名前の通り失禁、簡単に言えばおもらしによって排泄物が皮膚に接触することによって起こる皮膚炎であり、発赤やびらんなどの皮膚へのダメージが懸念される物だ。もしもゲームの世界から戻ってきた彼女たちが、皮膚かぶればかりになっている自分の身体を見たら、それこそ女の子として絶望してしまうかもしれない。

 特にこれからは栄養失調によって肌のバリア機能の低下のリスクがあるのだ。下手をすれば褥瘡、つまり床ずれのリスクもあるのだから、最善を尽くさなければならない。

 と、突如として話に入り込んできた灰馬は、汗をハンカチで拭きながら言った。

 

「親父、搬入の方はどうなっている?」

「な、何とか一段落ついて……次の救急車が来るのは十分後くらいらしい」

「その患者の回線切断猶予時間はどうなっている?」

「残り二十分くらいだから……ギリギリになるな」

「そうか……」

 

 それを聞いて、引き締まっていた飛彩の顔がさらにより一層険しいものとなる。

 今までは回線切断時間に余裕があったために落ち着いてことを運ぶことが出来たが、しかし次に来る患者は到着予定時刻から換算すると十分、いや場合によってはもっと少ない可能性がある。これまで以上の迅速な対応が求められる。

 今日は、大分ストレスがかかりそうだ。全部が片付いたら、いつもの三倍のケーキを食べなければならないかもしれない。

 

「ねぇ、看護師さん?」

「え?」

 

 その時、近づいてくる女の子がいた。

 明日那はその少女の事を知っていた。彼女は、永夢が担当してた患者の一人だったからだ。彼女は、かつて重い病気を患っていた。余命宣告をされた程に、術術をしても助からないのではと思われるほどの状態だった。

 しかし、永夢と飛彩が共に手術をし、奇跡的に治療に成功。一命を取り留めたのだ。

 明日那は、少女に目線を合わせると、彼女の名前を優しく呼んだ。すると、少女は言う。

 

「永夢先生、治るよね?」

「……もちろん! だって、ここには、飛彩のほかにもたくさんの優秀なお医者さんがいるから。時間はかかるかもしれないけど、絶対に戻ってくるよ」

「そう、よかった……」

 

 少女は、安心したようにそう言った。本当は、永夢は病気なんて生易しい物じゃないし、時間はかかるとはいう物の、本当にいつ帰ってくるかなんて分かった物じゃない。

 けど、手術を終えたばかりの子供に心配させてしまってはならないのだ。それは、明日那の中に宿る人間としての優しさであった。

 と、その時だった。

 

「はぁ、はぁ、こんなところにいたのか……探したぞ」

「あ、パパ!」

 

 一人の男性が、近づいてきたのは。

 男性は少女の父親である。弁護士をしているらしい。どうやら、少女は病室から勝手に抜け出してきていたようで、すぐに抱きかかえられた。

 

「皆さん、お忙しいのに。ご迷惑をおかけしました」

「いえいいんです。これからまた救急車が来ます。あわただしくなる前に病室の方へ」

「はい……ほら、行くぞ」

「バイバイ、看護師さん、ヒイロ先生」

「バイバイ!」

 

 二人は、ただそれだけ言うと少女の病室へと帰る。

 はずだった。

 だが、弁護士は見た。護衛のために来ていた捜査官の中に、≪彼≫の姿を見つけたのを―――。

 

「あッ……」

 

 壮年の男性刑事。灰馬から最初に指示を受けていた刑事だった。

 男もまた、弁護士である彼の姿を見つけるとつぶやいた。

 

「湖森さん……」

 

 彼は、娘の命の恩人。そして、自分の弁護士人生における恩人の一人でもあったのだ。

 彼、湖森涼介は数か月前、とある女子高生遺棄事件の犯人としての容疑のかかった三人の少年を弁護した。

 主犯である人間は犯行を自供しており、また証拠も十分そろっていたためとてもじゃないが有罪は逃れられない裁判で、結果主犯である人間、そして共犯である他の二人もまた鑑別所入りとなった。

 だが、共犯の二人は犯行は全て主犯である人間の指示によるものであると自供したため、三年間の鑑別所入りを言い渡された主犯に対して、他の二人はたった一か月の鑑別所入所という軽いと言わざるを得ない罪となってしまった。

 それから一月後、彼は主犯である人間から手紙を預かった。

 曰く、その事件の本当の主犯は、共犯とされた二人だという事、そして自分は死体遺棄には関与してしまったが、それ以外は無関係であるという旨の告発文だった。

 しかし、彼はそれをもみ消してしまった。相手は卑劣な犯行を行った人間なのだ、きっと自分の罪を擦り付けようとしているだけなのだ。今までだってそういった罪から逃れようとする姑息な人間たちを見てきた彼は、そう、思って心にしまうことにした。

 何よりも、彼女の娘は当時共犯として鑑別所に入っていた人間の父親が経営する病院に入院していたから。というより、そもそもの裁判の依頼主が、その父親だったのだ。

 嘘偽りだったとしても、そのような告発文を世に出してしまえば、重い病気にかかった娘がどうなるのか分かった物じゃない。下手をすれば、病院を追い出される可能性だってあるのだ。そのようなもの、出すわけにはいかない。

 卑劣な犯人と娘の命。その二つを天秤にかけた結果どちらが重いかなんて目に見えている。

 そう、誰の目で見ても明らか、自分は正しいことをしているのだ。

 そんな自分が、どん底に落されたのもまた、その事件の裁判だった。

 自分が担当した事件は元々刑事事件の裁判だった。だが、事件から一月が立ってから、今度は民事の裁判が開かれることになったのだ。刑罰を争う刑事裁判とは違って、今度は損害賠償などを争う裁判。だから、相手は検事ではなく同じ弁護士だった。それも、法の世界に置いて知らぬ者はいないというほどの、超有名人。

 きっと、かなりの額の慰謝料を、犯人たちは支払わされるのだろうと思っていた。

 でも、違った。

 裁判で明らかになったのは、そんな物片隅に置かれるほどの衝撃的な真実だった。

 これまで自分が信じていた事実は全くのでたらめ。本当は主犯格の少年が言っていた通りに、主犯と共犯は真逆、しかも主犯格と目されていた人間は脅されて共犯にさせられてしまっていたのだ。

 まさしく、≪逆転裁判≫だった。

 愕然とした。と同時に、自分は絶望した。

 自分は、娘の命惜しさに真実から目を背けてしまい、ほとんど無実に近い少年を殺人犯としてしまったのだ。

 何故、自分は全力を尽くさなかったのか。どうして、自分は彼の告発文を握りつぶしてしまったのか。そんな罪悪感に苛まれた自分は、判決後弁護士を辞める決心をした。

 だが、そんな自分を引き留めてくれた存在がいた。それが、今目の前にいる刑事だ。

 曰く、自分もまた今回の事件で怒りに我を忘れてちゃんとした捜査をしなかった。元・主犯格の少年の無実の証拠をその手に持ったにもかかわらず、それに気が付くこともできなかった。

 だから、彼は刑事を辞める決心を固めていたそうだ。

 だが、それは違う。何故なら、彼はその裁判の途中で次々と出てくる事実にちゃんと目を向け、もう一度捜査をし直し、犯行が行われていたであろう日数の間、犯行現場に元・主犯格の少年が帰っていなかったという事実を突き止めた。

 真実を、突きつけられていたはずの、自分と違って。

 だから、自分は言った。彼に、もう一度やり直そうと。もう一度、一からやり直そうと。

 だから、彼は今も、刑事としてここにいる。

 自分もまた、色々と処罰を受けた物の弁護士として活動できている。

 そして、彼が紹介してくれたこの病院で、娘は助かった。

 彼に、そして青服の弁護士に、そしてこの病院の医療従事者に、自分は感謝してもしきれない。

 

「パパ、どうしたの?」

「……いや、なんでもない」

 

 娘の笑顔を、ここまで気持ちよく見れるのは、彼らがいてくれたからだ。自分が、弁護士人生において犯してしまった失敗は二度と取り戻すことができない。だが、その償いはすることができる。彼や、元・主犯格の少年のように。

 涼介は、一度だけ刑事に向けてお辞儀をすると病院に入っていった。

 刑事は、それを見ると、フッと笑ってまた仕事に戻っていった。

 こうして、後に起こるはずだった一つの事件は回避されることとなったのである。

 この、SAO事件には関係ない、一つの小さな物語の一端であった。

タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
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