SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
悲しみは、人を縛り続ける。いつまでも、いつまでも振りほどくことのできない悪夢を見せつける。
悪夢を見せられた人間は、その引き離すことのできない幻想とともに生きていくしかない。
そこに、二度と取り戻すことのできない後悔という文字があれば、なおさらだ。
今からたったの二日前、彼女は大切な人間を失った。恋人というわけでもない、まだ出会ってから一週間足らずだという短期間でしか接することのできなかった男。
しかし、彼との一週間は何もみずとも大体覚えている。あの、とても現実的じゃない事件の数々。彼の一挙手一投足を、彼女は片時も忘れたことはない。
もう、二度と見ることができない彼のニヒルな笑顔を背に、彼女はしかし今日も働いている。警察官としての職務を全うしている。まるで、そうしなければ死んでしまう。動き続けなければ死んでしまうマグロかのように、働き続けていたのであった。
悲しみにしたる時間くらい、与えられたはずだったのに、彼女はあえてそれを拒否した。
きっと、したりたくないから。慕っている間に、彼のことを何度も何度も、思い出して、泣いてしまうから。
別に、好きだったわけじゃない。はずの、淡い恋心の話。職務中にプライベートの話を持ち込んではならない。いつまでも、引きずっていてはならない。
だから彼女は走り続ける。二度と止ってはならない、その苦難の道を。
「こちら佐藤! SAOプレイヤーの搬送完了しました!」
佐藤美和子。警視庁に所属している女性刑事だ。鋭い眼光にその行動力が取り柄ともいえる彼女もまた、この事件に際してSAO被害者の移送任務にあたっていた。今、一人のプレイヤーを少々遠くの病院に輸送する救急車の先導を終えたばかりだ。これから先は、病院関係者の仕事になる。
佐藤は、一度警視庁に連絡したのちに、直属の上司である目暮これからの行動について指示を乞うた。
『ご苦労佐藤君。続けてではなんだが、すぐに米花町に戻ってきてもらいたい』
「米花町ですか」
『そうだ……この前の事件で、米花総合病院はすぐに重篤患者を受け入れられる体制を整えていないからな……少し遠いが杯戸町にある病院へと移送せねばならん』
「……」
この前の事件。それは、彼女が相棒たる人間を失った忌まわしき事件だ。だからなのだろう。佐藤の顔が一瞬だけこわばった。勿論、通信相手の目暮はその顔を見ることはない。しかし、それでも彼女の気持ちは察することができる。自分も、あの場に居合わせたから。
始まりは、今から四年前。都内にある二つのマンションに一つずつ爆弾を仕掛けたという犯行声明が出された。
どちらも時限式の爆弾を使用しており、一方の爆弾は時間内に何とか解体することに成功。しかし、もう一方の方はとても複雑なつくりであり、時間内に解体することは不可能との判断に至った。おそらく、そちらの爆弾の方が本命だったのではないだろうかというのは、後の捜査本部の共通認識である。
結果、警察は犯人からの要求であった身代金を払うことによってタイマーを一時的に止めることの成功。その間にマンションの住民を避難させて、後はゆっくりと爆弾を解体すればいいだけ、のはずだった。
しかし、ここで思わぬハプニングが発生する。
爆弾犯である男から警察に対して、『爆弾のタイマーが動いているとは、どういうことだ』との怒号にも似た疑問が飛んできたのだ。おそらく、テレビでの今回の事件を振り返るVTRを見て勘違いしたんであろうと推測をした警察は、これは大チャンスとばかりに通話時間を引き延ばし、逆探知することに成功した。
通話相手である犯人は、都内の某所にある公衆電話ボックスの中にいた。警察は駆けつけ、爆弾犯と目される男を取り押さえようとするも、犯人は慌てて道路に逃げ出し、トラックにはねられて死亡してしまった。そして、ことはそれだけに収まらなかった。
爆破犯は、もう一人いたのだ。爆弾犯が事故死してから十数分後、突如として止まっていたはずの爆弾のタイマーが作動し、マンションの一フロアが木っ端微塵に吹き飛んだのだ。当然、その時には解体作業のために赴いていた爆発物処理班のメンバーが何名もいて、そのほとんどが犠牲となってしまった。その犠牲者の中にいたのが、数日前まで佐藤の相棒として行動を共にしていた松田の親友、萩原だった。
そして、その松田もまた、二日前に同じ爆破犯の仕掛けた爆弾を解体中に見せられた悪魔のささやきに乗せられ、何千人もの命を救う代わりに佐藤や、特命係の杉下、亀山たちの目の前で観覧車のゴンドラごと爆発してしまった。
その事件の際に爆弾犯が指定した『二つ目の』爆弾のありかというのが寄りにもよって米花総合病院という米花町の中でもトップクラスに巨大な病院であったことが災いし、結果その事件によってでた混乱を収めることに力を取られ、SAO被害者の受け入れという重大な任務を果たすことができなくなったのだ。
代わりとして、米花町の隣町である杯戸町の病院が受け入れ先に名乗りを上げてくれたのはいいものの、場所によってはSAOのインターネット回線切断猶予時間ギリギリとなってしまう。そのため、手の空いた警察官はそのプレイヤーの自宅から病院までの道のりを交通整理するようにと、そういう達しが今し方管理官である松本の口から出たのだった。
「わかりました、すぐに現場に向かいます!」
佐藤はそれを聞くや否や愛車である真っ赤な車、アンフィニRX-7 FD3Sに乗り込んだ。
『すまない佐藤君、本来であれば……』
「気にしないでください、目暮警部。私は、大丈夫ですから……」
佐藤はただそれだけ言うと無線を元の場所に戻して車を発進させた。おそらく、目暮はこう言いたかったのだろう。自分はたったの二日前に相棒を失ったばかりなのだから、ゆっくりと休んだ方がいいと。
でも、休んでなんていられない。だって、今でもそこら中から見えるのだ。彼が、松田が死んだあの日から多くの人間のすぐ傍らに見える、巨大な鎌を持ち、ズタボロのフードをかぶった骸骨。死神の姿が。
「連れて行かせはしない……絶対に……」
佐藤の車は、パトライトを光らせて道路をひた走る。そうだ、走り続けなければならない。そうしなければ、彼に、笑われてしまうだろうから。
彼女の名前は佐藤美和子。彼女の呪縛を解き放ってくれる人間が現れるまで、もう三年の月日が必要なのであった。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい