SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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外伝 メインシナリオ 第一章 8話

 人は、どれだけ賢く生きようとも、生まれようとも、決して救うことのできない命がある。

 だからこそ、人は誰かをたすけられたときに嬉しさを感じるのだ。

 ならば、助けられなかった人はその人物にとってなんであるのか。

 自分が幸福感を感じるための生贄か、それとも、後悔というなの糧にするために踏み台か。

 答えは、誰も持ち合わせていない。そう、持っているものなど、いないのだ。

 この世の、誰一人として。

 

 国道、三車線に伸びる巨大な道路。ビルとビルに囲まれ、普段であれば道ゆく車が大挙して押し寄せてくるはずのこの道路。

 しかし、今は違う。とある病院へと向かう道路が完全に封鎖され、十数台の車を送るための道に早変わりしているのだった。

 もう、察することも簡単であろう。そう、SAO被害者を病院に送るための大名行列である。

 その中に、パトカーとは一線を画した、年代物と思われるフィガロという車種の車があった。見た目からしてとてもオシャレと言っても良いその車。運転しているのが、まさか警察官であるなんて、一体誰が想像できるだろうか。

 いや、もしかしたら運転しているその男性の姿格好を見れば、そんなおしゃれな車に乗っていてもおかしくはないだろう。そう誰もが口を揃えて言う。

 運転しているのは、やや白髪混じりの髪をオールバックにまとめ、丸メガネをその顔にかけた初老の男性。そのスーツ姿は、誰がどう見ても紳士だと口を揃える。そんな男性が運転していた。

 しかし、酷な話であるがその同乗者の格好は、フィガロに合っているかと聞かれればそうではない。やや日焼けし、筋肉質なその男性。ふるぼけた緑色のジャケットを着ているその姿は、失礼な話だが、トラックを運転している方が似合っているのではと思うほど。

 けど、侮ってはいけない。彼らこそ、東京都内で発生する数々の難事件を持ち前のチームワークで乗り切ってきた、相棒。そう、彼らこそ特命係最強の相棒と評される杉下右京と、亀山薫その人たちである。

 

「間に合いますかね、右京さん……」

「確かに、帝国医大病院までは距離はあります。しかし、道路を封鎖している以上、SAOのインターネット回線切断猶予時間には間に合うと思いますよ」

「だといいんですが……」

 

 運転中の右京は、そんな亀山の言葉に疑問を感じた。現状彼らが移送しているSAOプレイヤーは、インターネット回線切断からわずか30分程度しか経っていない。この場所から帝国医大病院までの距離を考えると、いつもの頻繁に渋滞を起こしている状態であるのならばともかく、これほど空いている中でなら、まず間違いなく猶予時間に間に合うはずなのだ。しかし、亀山は言う。

 

「けど、なんかこう……嫌な予感というか、背筋がこうむずがくゆなるんすよ」

「嫌な予感……君のそういう勘はよく当たりますからねぇ……」

 

 杉下は、亀山のそういった勘、というものを信頼や絶対視とまではいかないものの、捜査の一助とすることもたまにはあった。それくらい、彼の勘、というものの当たる確率が高いのだ。

 もしかしたら、何かが起こるかもしれない。そう考えながらフィガロを走らせる中、やはりよからぬ勘が図らずも、当たってしまった。

 

「!」

「!!」

 

 彼らの耳に聞こえてきたのは爆音だ。別に窓を開けて走行していたわけでもないはずなのに、密閉されている車内にまで聞こえてくるということは、相当の大きさであったのだろう。

 次に彼らに襲ったのは振動。これもまた、走行時の微振動に負けず劣らず、いやそれ以上の振動であったがため、右京、そして他にパトカーを走行していた警察官たちもまた急ブレーキを踏んでしまった。

 警官たちは、即座に状況把握のために外に出た。

 

「なんだ、今の!?」

「どうやら、何かが爆発したようです」

「いや、そんなこと俺でも」

「わかっています。問題は、何が、何故、何処で爆発したかです」

 

 杉下のその質問に対して、亀山は答えることができない。だが、彼らとはまた別の場所から、その答えが聞こえてくる。

 今回のために警視庁の方から支給された無線機から、受信を知らせる音が鳴り響く。どうやら、それは特命係の二人にだけ当てられたものではなく、移送作戦中の捜査官に向けられたもののようで、無線機を取ることなく、彼らの耳に情報が響き渡った。

 

《至急、至急、こちら対策本部! タンクローリーが横転し、爆発炎上との情報あり! 場所は……》

 

 その通信が告げた場所。それは、今まさに杉下たちが向かおうとしていた病院の通り道であった。

 

「なんですって!?」

「まずいことになりましたね……」

「右京さん……!」

「この道路、一見すると広く交通の便もいいように思えます。ですが、聞くところによるとこのみちは毎日のように渋滞が発生している。それは何故でしょう。ヒントは、この場所に来るまでの道にありました……横道がないんですよ。渋滞から抜けることのできる横道が。ほぼ一方通行なのです。もしも、この先の道路でタンクローリーが爆発炎上中となると……おそらく、もうこの道を使うことは困難でしょう」

「そんな……」

 

 果たして、杉下の周囲の警官たち、そして救急隊員もあわてはじめる。この道が使えないとなると、一旦引き返すべきだ。しかし、引き返してどうする。遠回りして目的地の病院に向かおうとしても、入り組んだ道を使うことになってしまい、到底回線切断猶予時間には間に合うはずもない。

 しかし、このまま進んだとしてもまっているのは火の池地獄。一か八かでその炎の中を進んだりしたら、自分達が運んでいるプレイヤーのみならず、自分達すらも危険に晒しかねない。

 だが、だからと言ってこのまま手をこまねいている時間も惜しい。一体、自分達はどうすればいいのか。たった一人を除き、皆混乱に飲み込まれていた。

 そう、《たった一人》を、除いて。

 

「ちょっとよろしいでしょうか? 僕に考えがあります」

「右京さん!」

 

 そういうと、右京は議論を重ねている警官たちの中に入り込み、自分のスマホの中に内蔵されているマップアプリを起動させ、説明を始めた。

 

「この道が使えない以上、病院に向かうためには、先程直進したこの交差点を、右に曲がるしかありません」

「えぇ、ですがそっちの道を使うと遠回りに」

「ですので、ここは一旦左に曲がります」

「えぇ!?」

 

 救急隊員が驚愕するのも無理はない。何故なら、そっちは病院も何もない、行き着く先は行き止まりの何もない場所。あるとするのならば、買い手がつかなかったために野放しになっている広大な空き地くらいしかないのだから。

 

「し、しかしそっちに曲がっても……」

「わかっています。ですが、陸路で向かうことが困難であるのならば、空路を使うしかありません」

「く、空路!?」

「えぇ、この空き地にヘリを着陸させてSAOプレイヤーを収容し、病院に連れて行く。それしか方法はありません」

「ですが、警察のヘリコプターには患者を載せるスペースなんてないのでは……」

「ドクターヘリもみんなで払っちまってるし……」

「自衛隊に、応援を頼みましょう」

「じ、自衛隊ですか!?」

「近くに基地が一つだけあります。そこに応援要請を出します。いずれにしても……ことは一刻をあらそいます。悩んでいる暇なんて……ありませんよ!」

 

 恐ろしいことを考えるものだ。確かに今回の作戦、民官双方が最大限に協力するという合意のもとで行われている。とすれば当然自衛隊にも応援を要請することも可能だ。しかし、だからと言って簡単に自衛隊を動かすと言ってのける人間が一体何人いるのだろうか。

 一警察官が、その判断を早急に下すことなんて、常人にできることであるのか。

 なんにせよ、この状況を覆すことができるのは、右京の言う方法しかないのも事実。考えている暇なんてなかった。

 

「よし、急ごう! 自衛隊に応援要請を!」

「了解!」

「反対車線に入れる場所はない! このままUターンして例の交差点に向かうぞ!」

「はい!!」

 

 警察官たちと救急隊員たちの行動は迅速だった。すぐに杉下右京の言った通りに自衛隊の方に協力要請をだし、そしてそのヘリコプターが着陸できる場所、その直前まで車を走らせた。

 

「うまくいきますかね……」

「とにかく今は……やれるだけのことをやるだけです」

 

 不安げにいう亀山に対して、右京はそう語った。そう。今の自分達がやれること。それを最大限にやるしか今救急車の中にいる彼女を助ける方法はないのだ。

 これが、1番の最善手であると信じて、いや、それ以外に浮かばなかったのだから。しかし、この作戦は確かに成功する確率が高いはず。そう右京は考えた。いや、考えるしかない。

 はず、という言葉。これが一番厄介なのだ。彼が何故これこそが最適解であると断言できなかったのか。それは、予期せぬ事態が起こる可能性を考えていたから。

 そもそもタンクローリーが横転するという事故自体滅多にない災害だと言っていいだろう。それを鑑みれば、今後どのようなことが起こってもおかしくない。だから、彼は心の中では不安だった。

 予期せぬ出来事。もしかしたら、そんな不確定要素のために自分は取り返しのつかない大きな過ちをしてしまうのではないかと。

 

「右京さん、あれ!」

「!?」

 

 そして、起こってしまった。最悪の出来事。

 彼らの目の前に現れたのは車の山、山、山。まるで彼らの行先を塞ぐかのように何十台もの車が彼らがその交差点へと向かうのを阻止していたのだ。

 

『馬鹿な……交通規制はどうなっている!』

『さっきまで、車なんて一台もなかったのに……』

『まさか、俺たちが通っていったからもう必要がないと判断されて、解かれちまったんじゃ……』

「僕としたことが……迂闊でした!」

 

 通信機に次々と入る悲鳴のような言葉を耳にしながら、右京はその可能性を考えるべきだった、そう自分を責めるしかない。

 先も言った通り、この道は交通渋滞が発生しやすいほどに交通量の多い道だ。そのため、確かに先ほどまでは彼らが通るために交通規制が敷かれていたのだが、彼らが通ってしまいもうその必要がないと判断されてしまった。

 結果、出来上がったのは渋滞。それも、交差点まであと百メートル程度ある最悪の渋滞。当然、この道にも横道なんてものはなく、彼らの車は、これ以上進むことができなくなっていた。

 

「どうするんです、右京さん……このままじゃあの子は……」

「っ!」

 

 右京は目を瞑り考える。このまま時間を無駄に浪費していたらインターネット回線切断猶予時間が切れてしまう。かといって、これ以上自分達に何ができるというのだろうか。

 一か八か間に合うことを考えてプレイヤーとパソコンを抱えて病院まで走る。現実的じゃない。そもそも、車ですらほとんどギリギリ到着するかしないかなんて場所、走って間に合うはずがない。

 ならば、いま、この場所にヘリコプターをおろしてもらう。いや、ここはビル街。ビルとビルの間で発生する風が一体どの程度のものなのか想像することもできず、こんなところにヘリを下そうものなら、最悪の事故を招きかねない。

 だったらいっそ、このジャングルのように生い茂っているビルの中の一つでインターネット回線を借りてーーー。いや、そんなもの、延命処理にほど近い。根本的な解決にはならない。

 ならばどうする。どうすれば、彼女を、泉こなたを助けることができる。どうすれば。

 

「右京さん……」

「っ……」

「右京さん!」

 

 考えろ、考えろ。灰色の脳細胞を活性化させろ。

 今この状況を切り抜ける方法、突破する方法を。考えろ。

 しかし、そうこうしている間にタイムリミットが迫ってくる。このままだと、本当に時間切れで、彼女の命が潰えてしまう。

 そんなことはさせない。させたくない。

 だが、どうすればいい。どうすればいい。どうすれば、いったい、どうすれば。

 どうすればいいのだ。

タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
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