SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
あの日、あの時間の前まで、私は何しとったっけ。そう思いだそうとしても、思い出すこともできない。それくらい私も、私の家族も、みんながみんな忙しい毎日を送っとった。
家族といっても、私と皆には血のつながりもない。赤の他人。いや、それどころかそもそも人間やない、人によってはただの数字と人間っぽい身体で作られただけのプログラムにみえる。そんな、普通じゃない家族。
でも、家族や。
そんな家族も、まるで忙しい私に合わせるかのように毎日毎日仕事仕事で、有給休暇を取ることなんてほとんどない。あるとすれば、自分に合わせてまとまった休みを取ったとき。私が、学校に行く時に地球にある家で過ごす時くらいやった。
だからこそ、あの子が一人で休暇を申し出た時にはうれしかったものや。私の、友達の一人から譲り受けたゲーム。それを、また別の私の友達のお姉ちゃんとやるっていうから。私は、喜んで送り出したんや。
それが、あないなことになるなんて、思いもよらんかった。
今日、私たちは、大事な家族を見送りに来た。こんなことを書くと、死んだ人間を送り出すみたいで縁起でもないけど、ほんとのことやからしゃあないわ。
私が今いるのは、私が生まれてからずっとずっと一人で暮らしとった家。今はもう一人じゃないし、ついでに言えば一年の半分くらいは家を空けることもあるから、家なんか別荘なんかようわからんけど、でも、それでも人生の四分の一くらいはいい思い出の詰まっている家や。
私は、その家の前に停車した救急車と、パトカーから出てきた人を出迎えとる。どっちも女性やって言うのは、きっとあの子のことを配慮してくれたんかもしれへん。あの子は、そんなこと気にも留めへんやろうし、ただの偶然なんかもしれんけど、おかげでうちの一番の暴れん坊が大人しゅうしとるみたいでよかったわ。
救急隊員が救急車から降りてくるまで、『変な奴らだったらあたしがぶっ飛ばす!』なんて物騒なこと言っとったもんな。
とにもかくにも、無事に救急車に乗せられたあの子と一緒に、うちは今でも時々定期検診のために行っている馴染みの病院に向かうことになった。三人の家族とは、ここでいったんお別れや。
大丈夫や。そんな心配そうな目をしなくても。
きっと、あの子は戻ってくるから。この家に。私たちの、八神家に。
私の、友達みんなと一緒にな。
私、フェイト・T・ハラオウンは今、ある病院にいる。そこは、ある意味で私にとってとても思い出深い病院だ。
この星で起こった世界の崩壊の危機。その二番目の事件の時の中心になった場所。海鳴大学病院。あの日は、クリスマスだった。
重い病で入院していたある女の子を、アリサやすずか、そしてなのはと一緒にお見舞いに行ったんだ。
でも、重い病というのは誤解だった。その子は、当時闇の書と呼ばれていた魔導書によってその命を吸われていたと言っても過言ではなかった状態にあった。
色々あって、その子を助け出した後。私たちはその子と改めて友達となって、そして仲間となった。同じ秘密を抱え、似た力を持った仲間に。
今、フェイトはその入口に立っていた。義母とともに。
周囲は慌ただしいというしかない程におおあらわだった。
当然だ。だって、これから生死の境をさまよう人、そしてその人を護衛する人々が次々と押し寄せてくるのだから。といっても、実際のところその全員が自分の知り合いであることはすでに知っていること。
だが、それもある意味で当然のことなのだろう。だって、彼女たちは一人を除いてみんな、生まれてからずっとこの土地で暮らしてきた人間なのだから。
ここが生まれ故郷で、離れたいと思ったことなんてないと思う。そんな人たちばかりがこの事件に巻き込まれてしまったのだ。なんとも、痛ましいことか。
「リンディ義母さん、どうして……私をここに連れてきたの?」
フェイトは聞いた。
自分はここにいちゃいけないのではないか。看護師や医師の邪魔になるだけじゃないのか。
いや、そもそもここに来る理由なんて全くないのではないか。
そうだろう。だって、ここに来たって、自分にできることは何もない。看護師の免許も、医師の免許も持っていない。SAOやナーヴギアなんてものについて全く何も知らない自分が、こんなところにいても、無駄なはずだ。そう考えたからだ。
リンディは、そんなフェイトの言葉を聞いて言う。
「あなたに逃げてもらいたくないからよ」
「え?」
意味が、よく分からない。逃げる、自分が、何から。そんな疑問が怒涛のように押し寄せてきた。
その間際、遠くの方から救急車の音が聞こえてくる。どうやら、一人目のSAO被害者が来たようだ。フェイトとリンディは、その救急車の邪魔にならないようになるべく遠く、しかしきわめて近いところでその様子を観察する。
「患者は!?」
「八神シグナムさん!! インターネット回線切断から一時間十分程度経過しています!」
「程度なんてもの使わないで! 正確な数字を教えて!」
「は、はい! すみません!!」
まるで、戦場のようだと、フェイトは思う。しかし、それも当たり前なのだろう。SAOはインターネット回線切断猶予時間がわずか二時間しかない。その間に患者の搬送、インターネット設備のある病室への移送などのすべてをやらなければならないのだから。鬼気迫る表情になるのも無理もない。
「シグナム……」
フェイトは、先ほど救急隊員が叫んだ名前をもう一度つぶやいた。知っている名前、いや知りすぎている名前だ。
彼女とは、幾度と死闘を繰り広げた仲である。当然、闇の書事件の際に血で血を洗うような戦いをした。あの時はいわばライバルであると言ってもよかったかもしれない。
どの戦いでも自分が劣勢、あるいは互角の戦いまでしかできず、今でも時折模擬戦程度で何度か戦うことがあるが、戦いを重ねるうちにシグナムの方も強くなってきて、だんだん歯が立たなくなってくるような、そんな武人。
でも、そんな彼女も今は全くの無防備で、ストレッチャーの上にのせられている。忌々しい、ヘッドセットをかぶって。
フェイトにとっては、その姿自体がトラウマものの光景。見るのも憚れる物だ。直視したくない、現実だ。
「目を背けたらだめよ、フェイト」
「ッ!」
リンディが、顔を必死で横に向けるフェイトにそういった。
そうか、これが自分が逃げていると言った意味なのか。これが、逃げるなという意味なのか。今ある現実を直視しろと、そう言いたいのか。
でも、わかっているのだ。自分だって。
「わかってる……逃げてばかりじゃ、ダメだって。現実を見なくちゃダメだって……でも……」
「……」
「想像するのも怖い……シグナムが、なのはがアリサがすずかが……死んじゃうこと……だから……」
もしも、ゲームの中で死んでしまえば、その瞬間現実の彼女たちの頭も焼かれて死んでしまう。そんな光景見たくもなければ想像もしたくない。当たり前だ。愛する人たちの死にざまを想像して喜ぶサイコパスがどこにいおうか。
そして、その死の瞬間は意外と近いかもしれない。確かに、シグナムは武人。そして自分に匹敵するほどの力を持った人間だ。
けど、当然のことながらゲームの中の世界じゃ魔法を使うこともできないし、現実と同じ戦い方で通すことなんてできない。ゲームの世界ならではの戦いを強制され、使い勝手の分からない剣を持たされ、そして現実じゃ赤子の手をひねるかのように倒せる敵に群がられる。
そんな姿を想像しただけで辛くなるのだ。その結果死んでいくかもしれない彼女の姿を考えるだけでも苦しくなるのだ。
シグナムだけじゃない。なのはだってそう。彼女だって、魔法が一切使えなければただの人間も同じ。
アリサやすずかに至っては自分達のような戦闘経験も皆無。獰猛な野生動物の生息する森に放り込まれたような物。
全員が全員、生き残れる保証なんてない。
だから、彼女は背けたかったのだ。友達の生死に、毎日毎日悩まされるのが嫌だから。そして、そう考える自分自身が一番嫌いだから。
怖いのだ。自分自身の嫌な面が表に出てしまうのが。
「死ぬわけないやろ、フェイトちゃん」
「え?」
突如として話しかけてきた少女。それは、シグナムが救急車に乗せられたときに一緒に乗ってきたあの少女であった。
少女は、救急隊員に一言言ってからフェイトに近づくと言う。
「えっと、久しぶりやな、何か月ぶりやろ?」
「はやて……」
八神はやて。彼女こそ、闇の書事件の折中心人物となった闇の書、現夜天の書の持ち主であり、そしてプログラムであるシグナムたちヴォルケンリッターの主である。
少し前までは闇の書による浸食によって足が全く動けずに車いす生活を余儀なくされていたのだが、その事件が終わった後度重なるリハビリを終えた結果、車いすをほとんど使うことなく生活することが可能となっている。
「シグナムは、今でも戦っとる。あのゲームの世界の中で、小さくて無限に広がっている世界で、今でも戦っとるんや」
「あの中で……」
そう、シグナムは戦っている。当然のことだ。だって、彼女は騎士なのだから。騎士は、戦いをやめることなんて出来ないのだから。
それはフェイトにもわかる。でも、ならなおさら心配ではないのか。
「はやては、心配じゃないの? シグナムが死ぬかもしれないって……」
「もちろん心配や……でも、私は信じとるんや」
「信じてる?」
「せや……シグナムが、生き残って、ゲームがクリアされるまで頑張って戦って……ほんで……」
「え?」
ふと、はやてがフェイトの後ろの方を見た。そこには救急車が連なって病院に向かう姿が見えた。もしかして、あの中にいるのだろうか。
自分の親友が、友達みんなが。
「なのはちゃんたちと一緒に帰ってくるんや。それを、信じる。それしか、私たちにできることはないんやから」
「信じる……」
「せや、アリサちゃんやすずかちゃんとおんなじや」
「え?」
フェイトは、その言葉の意味が分からなかった。どうして、そこであの二人が出てくるのかと。それは、彼女の後ろにいたリンディが教えてくれる。
「アリサさんとすずかさんが、魔法のことを知ってから四年間。魔法も使えない二人は、ずっとこの地球で、この町で、なのはさんやはやてさん……そしてフェイトが時空管理局の仕事で他次元に向かう時……信じて待っているしかなかった。絶対に帰ってくると……根拠のない信頼を寄せるしかなかった」
「あ……」
そうだ。どうして気が付くことができなかったのだ。友達が、死の危険に立っているというのに自分は何もすることができない。この状況、どこかで覚えがなければならなかったのだ。それが、アリサとすずか。
魔法を使うことができない二人ができた数少ないこと、それが無事に帰ってくるようにと信じること、祈り続けること。
それが、果たしてどれだけ根気強かったことか、どれだけ不安であったことか、今の自分にはよくわかる。彼女たちは四年間も、こんなつらい思いを抱えて生きていたのだと、その強さに敬意を表したいくらいだ。
自分にもできるのだろうか。彼女たちのように、彼女たちが帰ってくるということを信じて生きるということが。できるのだろうか。
いや、できるはずだ。二人ができたからなんて、そんな単純な理由じゃない。友達のことを本当に信頼しているのであれば、絶対にできるはずなのだ。
「頼んだで、シグナム……なのはちゃんたちみんなと一緒に帰ってきてくれるって……私は信じとるからな」
はやてが、病院の中に入っていったシグナムに向けてそう言った。きっと、何度も何度も同じ言葉を言ったのだろう。何度も何度も握りこぶしを作ったのだろう。そうしなければ、自分がつぶれかねないからか、あるいはそうしないと、信じているという自分の言葉を誠にできないからなのか。
でも、これだけはわかる。いや、わかるようになった。
「私も、逃げたりしない……」
「フェイト……」
「私も、正面から向き合う。なのはたちが帰ってくるのを、待ってる。時空管理局で、そしてこの海鳴の町で……」
「フェイトちゃん……」
決意を込めたその目の先。そこには、病院へと運ばれていく友の姿があった。だが、その姿は、数日前に見た時とは違う、戦場に向かった仲間の姿に幻視した。
仲間たちも戦っている。私も、戦わないと。そこには、昨日まで現実から逃げ、夢に逃避していた少女は存在しない。新たな決意を胸にした一人の戦士がそこにはいた。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい