SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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最後のデュエット(元タイトル:SAO×けいおん!)

 部活動。それは、子供たちだけに与えられた特権のひとつ。

 成長期の少年少女たちが自らの能力を向上させるために、また多くの仲間たちとの友情を築くためにある一つの目標を追い求める学生の間にのみ許された青春の1ページ。そして、日常への登竜門。

 しかし、それは必ず終わりが訪れる物。終わる時期が決まっている物。高校3年の冬、ほとんどの生徒が部活動を引退し、受験勉強や就職活動に力を入れる大事な時期だ。この間のみ、部活動は1年生と2年生のみになり、共に来年新たに入ってくる新入生を待ち構える準備期間に入る。

 2年生は後輩たちを引っ張っていくものとして、また部活動の中心として1年生に指導を続け、また1年生たちは新たに入ってくるであろう後輩たちのために先輩らしくしようと決意をする大事な時期。

 けど、それは1年生がいる部活動に限っての事。

 桜が丘高校軽音部。所属部員は、現在2年生の中野梓(なかのあずさ)ただひとりだった。

 3階にある第一音楽室の隣の準備室を部室に据えて活動を行ってきたその部活には3年生の先輩が4人いた。

 付け加えるというのなら3年前に部員全員が卒業したことによって所属部員がゼロとなり廃部しかかっていた軽音部を存続させたのがその4人だった。

 後に入学、そして入部してきた中野梓と共に毎日放課後には集まって紅茶を飲んだり、お菓子を食べたり、そして時々バンドの練習をしたりという3年間を過ごしてきた少女達。

 それは、非日常とはかけ離れた何の変哲もない3年間であり、誰にでも送る権利がある3年間だった。でも、その日常がとても楽しかった。とても心地よかった。5人は、この場所が大好きだった。

 しかし、先輩4人もこの9月にあった文化祭を最後に引退してしまい、梓はたったひとり残される形となってしまった。

 部室には、スッポンモドキという種類の亀、通称トンちゃんがいるものの、どちらにせよ人間は彼女だけ。梓もまた、後輩がいたらギターの指導をしたり、先輩らしくしてたのかもしれない。けど、独りぼっちの梓にはそんな相手いるはずもなかった。

 さる10月の初旬の休みの日。ギターケースを背負って登校した梓は、いつもの部室に着くとケースの中から赤いギター、≪ムスタングMG69≫と、チューナーを取り出す。

 ギターという楽器は少しの振動や、放っておいてもすぐに弦が緩んでしまって音程が変化してしまう。また弾いている時にも徐々に音程が変化していくこともあるのでその都度チューニングという物を行って弦の張りを強くしたり弱くしたりして音程を合わせているのだ。

 チューニングを終えた梓は姿勢を真っすぐ正して、左手でムスタングのヘッドを軽く持ち、右手の肘を起点として上から下にゆっくりと右手のピックを弦に当てていく。すると、それぞれの弦から音がなる。もはや聞きなれたものだ。

 自分はこの場所で2年間ギターの練習をしてきた。その大半は先輩に流されてお茶会ばかりであったということは否めないのだが、それでもこの場所が自分の音楽人生にとって大切な場所であるということに変わりはない。

 たったひとりの部員である梓は、来年の4月に新入生が入ってくるまでこの部室で独りぼっちで過ごすことになる。だが、新入生が入部してくるという保証はない。そもそもこの年に入ってきた1年生がひとりも入部してこなかったのだから、期待してもしょうがないと彼女は思っていた。

 一応同級生にもしも来年も自分が独りぼっちだったら入部すると言ってくれた少女たちがいるのだが、でも、ひとりくらいは後輩が欲しい気持ちもあった。というよりも入部してもらわなければならない。

 この学校の校則に、部活動として認められる最低人数の記載があり、そこには4人以上の部員が必要であると明記されているのだ。だから、自分の同級生のふたりの少女のほかにあともう1人、入部してもらわなければならない。

 もし出来なかったらこの部活動は、軽音部は、自分にとってかけがえのない宝物をくれた大切な場所は無くなってしまう。なんとしてもそれは避けなければならない。梓はそう考えていた。

 梓が独りぼっちでもこの場所で練習するのは、来年入部してきてくれるかもしれない後輩のため。後輩の前で格好悪いところなんて見せられないという意地に近い物だった。

 上手にギターを弾けれれば、それだけ自分にあこがれた新入生が入部してくれる、そんなことを期待して彼女はこの場所でギターを弾き続ける。例え、たったひとりボッチであったとしても、誰もいなかったとしても、孤独だったとしても、彼女は弾き続ける決心をしたのだ。

 

「あずにゃんおはよう!」

「おはようございます唯先輩」

 

 まぁ独りぼっちになる時間はあまりないわけだが。

 部室に飛び込んできた元気はつらつという言葉が似合う女の子は、つい先日軽音部を引退した3年生でギター&ボーカルだった平沢唯(ひらさわゆい)だ。

 引退したはずの彼女が何故ここにいるのか。単的に言えば彼女が受験生だからだ。

 前述したとおり、3年生の彼女たちは受験勉強や就職活動に忙しくなるため部活動に顔を出している時間もない。だが、その受験勉強を行う場所は決まっていない。

 この部室であれば空調は完備されているし光熱費は学校持ち、なおかつ梓を独りぼっちにはさせないからこの場所が最適であると唯たちは考えたのだ。

 それに加えて、3年間ずっと過ごしてきたこの場所が彼女たちにとって落ち着くのかもしれない。

 因みに、あずにゃんというのは、梓のあだ名である。猫耳のカチューシャが異様に似合っていたことから唯がつけたもので、当初はあまり気に入っていなかったものの、なんだかんだがあって徐々に気にならなくなってきているそうな。

 それにしても、彼女が真っ先に来るというのはかなり珍しい。本来はもっと先に来る人間がいるはずなのだが。

 聞くと、他の3人は寝坊してなかなか起きなかったり、寝坊した人物を迎えに行ったり、貰い物を取りに行くといった理由でそれぞれに遅れてくるらしい。

 因みに彼女だけが時間通りに来れたのは何も彼女自身がしっかりしているからではない。むしろ彼女は寝坊することが多い人間。なのだが、彼女にはしっかりとした妹がいるため恐らく彼女に起こしてもらっていたのだろう。

 ふと、梓は唯が背負っている物を見る。

 

「唯先輩、ギー太持ってきたんですか?」

「うん! 澪ちゃんや律ちゃんも遅れてくるって聞いて、皆が来るまでの間あずにゃんと一緒に弾いとこうって思って」

 

 ≪ギー太≫とは、彼女所有のギターである≪ギブソン≫に彼女が命名した愛称のようなものだ。

 軽音部を引退し、受験勉強のためということで部室に来るようになってからは、このギー太を部室に持ってくることは少なくなっていた。が、他の3名が遅れてくると聞いて少しの間だけでも梓と一緒に弾こうと思って持ってきたのだ。

 唯は、ギー太を1度2度弾いてヘッドについているペグを締めてチューニングをしていく。

 あまり本人は自覚していないのだが、唯には絶対音感という物が備わっており、それのおかげでチューナー等を使わずに音程を合わすことが出来るのだ。ある意味音楽をするために生まれたかのような転生の素質であると言えよう。

 

「準備できたよ」

「ちょっとだけですよ。その後は、ちゃんと勉強してください」

「うぅ、あずにゃんが厳しいよぉ~」

 

 唯にとってはやや厳しいともいえる梓の言葉。本来なら年上である彼女に使う言葉遣いとは少し違うような気もする。

 しかし、それは彼女たちの中に信頼関係があるからこそであり、さらに自分のことを心配して言ってくれているということを知っていたからこそ、彼女自身も悪い気はしなかった。だから問題はないのだ。

 唯は、梓の隣に座ると自分たちのバンド、放課後ティータイムのオリジナル楽曲を一緒に弾きはじめる。1週間前、唯たち3年生にとって最後の学園祭が終わって以来、こうして一緒に演奏するのは初めてだ。

 やや厳しいことを言った形になる梓ではあったものの、実際のところこうして唯と一緒に演奏して悪い気は全くない。確かに唯は学校ではあんまり真面目に練習をしてくれなかったし、音楽用語もほとんど覚えてくれなかった。

 でも彼女は唯が、唯のギターが好きだった。こうしてふたりで弾く機会なんてめったにないかもしれない。この時間を大事にしよう。できるだけ長くこの時間が続けばいいのに、梓の心はギターを弾く時間が長くなるほどに穏やかになっていった。

 ふと、開かれた窓から赤く紅葉した葉が一枚飛び込んでくる。一枚だけ飛ばされた寂しがり屋の葉っぱもまた、誰かを求めていたのだろうか。しかしそれに気が付いていたのはスッポンモドキのトンちゃんのみ。

 ふたりは、そんな小さな葉っぱの事なんて気が付かないほどに演奏にのめり込む。優しく、尊く、きれいで、すがすがしくて、そしてすぐに消えていく音楽。

 この時、二人とも思ってもみなかった。

 まさか、これが高校生活最後のデュエットとなるなんて。

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