SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
ザーザーぶりの豪雨。最近は地球温暖化の影響なのかそれとも別の理由なのか、突然そんな大雨が降る事はもはやよくある事、と誰もが認識していた。
物珍しかったものも、慣れてしまえばその程度。しかし、遠くの視界が歪むほどに大量に降り注ぐソレは、視界と耳にノイズをかけ、そこにあるものの存在を薄めてしまっていた。
『ゲームの中に、およそ一万人のプレイヤーが閉じ込められる。通称SAO事件の発生から今日で五日が経ちました。警察は依然、茅場晶彦容疑者の行方を捜索中ですが―――』
渋谷、スクランブル交差点に設置された巨大なモニター。
そこで、艶のある髪に、仕事用の整ったメイク姿をした女性キャスターが画面を覆い尽くし、手元にあるニュースの原稿を滑舌良く読み上げていた。
五日前に発生した、世界初のゲームという媒体を使ったテロ事件についてのニュースの続報だ。しかし、その真下を歩いている人間のほとんどが、そのニュースの声に耳を傾けるという事はない。
例え、死亡者が以前増え続けていると言うショッキングな言葉であっても、そのためにSAOに関係した企業や人間がバッシングを受けていると言うニュースも、下界の人間にとっては知らぬ存ぜぬ。
退勤ラッシュの時間帯であって、いち早く電車に乗りたがっている人間が多数いるということ。
それから、地面を打ち付けるような雨が降り注いでいるために、地上にその声が届いていないという事。
後は、あまり事件が発展していないと言うことも要因としてあげられるのかもしれない。
しかし、その場に大挙する人間たちの心の大多数を占めているのは、多分に興味の減退が関わってくるのだろう。
世界初のゲームを使った大規模事件。
一万人近いプレイヤーが意識不明となった。
すでに数百人もの犠牲者が出ている。
そんな、聴くにおぞましいニュースがゴロゴロと並ぶはずなのに、俗世間を生きている一般人のほとんどにとってそれは対岸の火事。
当初は、前代未聞の事件に慌て、動揺し、あたふたとする者が多かった。
上司の子供が事件に巻き込まれ、しばらくどう声をかけていいのやら分からない日が続いた。
取引先の人間が事件に巻き込まれ、その対応に追われる人間も多くいた。
それでも、少しでも時間が経てば自分には関係のないことと切り捨てて日常を生きている。
それが、人間という悍ましい生物の本質なのだから。悲しいことである。
例外があるとするのならば、SAOプレイヤーの家族や友達といった関係者。そして今もなおこの事件の首謀者であるゲームクリエイターの茅場晶彦を追っている警察関係者くらいなのかもしれない。
それと、SAOプレイヤーを受け入れた病院の関係者といったところか。
なんにしても、多くの人間にとってSAO事件というのはすでに過去のものとなっており、その関心を失わせていた。
そんな時だった。
「ん?」
会社帰りのとあるサラリーマンが、銅像の横に一人の制服姿の少女の姿を見た。
少女は、この激しい雷雨の中でも傘を持っておらず、ただただ暴力的なまでに降り注ぐ雨に対して無防備で、その場に立ち尽くしていた。
サラリーマンは不思議に思った。そんな変な人間がいるというのに、周りの人間があまり注目していないのだ。あたかも、SAO事件に対して興味を失った一般市民のように。もっとも、ソレは自分自身もそうなのだが。
彼は、ごく普通のサラリーマン。家族や友人がSAOに閉じ込められたという事もなく、SAO事件も他人事のように聞いていたくらいだった。
そんな、彼の前に現れた。というより目線の中に入った少女がどこか気になった男性は、人ごみの中彼女に近づこうとした。
何故、その優しさをSAOプレイヤーに向けてやれなかった。
何故、関心を世間に向けなかった。
何故、その時だけ偽善者になろうとした。
そんな無数の何故が彼の背中を押しながら、ついに彼はその場所にたどり着いた。
そして、見た。
「あ、あれ?」
そこにはもう、誰もいなかった。少女なんてどこにもおらず、いるのは雨にもかかわらずそれすらも映えポイントにしようと画策するSNS民くらい。少女は、どこにいったのか。自分が人ごみをかき分けている間に駅の中に入っていったのだろうか。
様々な理由を考えている中で、そういえば、と思い返してみた彼は少し変なことに気が付いた。
「あの子……髪濡れてなかったような……」
そう、遠目から見た時。さすがに彼女が着ていた高校の制服らしき物が濡れているかどうかは分からなかった。でも、間違いなかったのは、その髪のセットが一切乱れていなかったという事。
バケツをひっくり返した様な雨が降る中、屋根に遮られてすらもない吹き曝しの雲の下にいて、そんな状態なら、どの様に髪をセットしてあったとしてもぐしゃぐしゃになっているはずなのに、彼女の髪は全くと言っていいほどきれいなままだった。
それにそうだ。彼は恐ろしいことに気がついた。
「あの子、足、あったっけ?」
人混みの中、途切れ途切れに見えた女の子の姿。そこに、地についていたはずの足が、何処にも存在していなかったような。そんな気がした。
それに、その顔にもどことなく覇気がなかったような気がする。あれじゃまるで幽霊―――。
「い、いやいやないない……幽霊なんて」
彼は、そう首を振ると急いで駅の方に走って言った。頭の中に浮かんだ、恐ろしい考えを消し去るかのように。
しかし、彼は知らなかった。
彼には、実は弱い霊感能力という物があり、時折他人には見えないものが見えていたという事実を。
彼は知らなかった。
彼が銅像の前に立ったその時にも、本当は少女はその場にいたという事を。
彼は知らなかった。
その少女が、大切な人を地獄に送り込んだ。そんな悩みを抱えているという事を。
彼は知らずに、消えていくのだ。俗世間を生きる、一般人として。
一方、少女の霊はつぶやきながら浮き上がった。
ウチのせいだ……ウチが、誘わなかったら……
少女に行き先など存在しない。あるわけがない。
響っちに、教えなかったら……
安息の地なんて、あるわけがない。あってはならない。
響っちはウチのせいで……
だって彼女の居場所は、彼女を見てくれる人は、彼女自身が奪ってしまったのだから。
ウチが!
彼女は叫ぶ。巨大なモニターに映るニュースキャスターに向けて。SAO事件の続報を告げる人物に向けて叫び続ける。
自分の思いの丈を。自分の、罪を。
ウチが巻き込んだ……響っちを……ウチが……
けど、その慟哭は誰の耳にも届かない。届くはずがない。だって彼女はもう、この世の存在ではないのだから。
俗世間の一般人とは、全く違う世界に行ってしまった彼女の言葉が、響くはずもなかった。
誰も、彼女の声を聞いてくれない。その声を聞いてくれる人物は、いまもなお、眠り続けているのだから。
響っち……
果たして、一人ぼっちになった魂は、いったいどこに流れ着くのだろう。
それは、彼女自身にもわからないことであった。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい