SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
気配を感じることがない。女子高生の上原佳菜は、朝のホームルームで名前を読み上げる教師を前にしてそう感じていた。
当然だ。本来だったらいるべき三人の友人がおらず、あまつさえその友人の一人の“友達”も姿を見せていないのだから。とは言え、もともとまともに姿を見ることができない自分が、姿を見せない、なんて言葉を使うのは語弊があるのかもしれない。
少し前だったら辺り中、手当たり次第に目線があったはずの教室。怪奇現象や不可思議現象が毎日のように起きて、一切退屈することのなかったこの学校。
でも、もうその教室で超常現象が起こることはない。
だって―――。
「次、天海~……」
かの女性の名前を呼んだ先生は、すぐ、ハッとした顔になって下を向いた。
知っていたはずなのに、彼女がいるわけないと。この教室に戻ってくることはないのだと。
彼女の名前が呼ばれても、誰も返事しない。当然だ。彼女は今この教室にいないのだから。
でも、いつもだったら、たとえ彼女がいなくても、彼女が寝ていたとしても返事を返していた、つまり代返していた者たちがいたはずなのだ。時には、彼女の親友のあの子が、代返してくれたりして。
それが日常だった。
その日常が、あんなにあっけなく崩壊するなんて、彼女も思っていなかった。
これは、コギャル霊が渋谷で一般人に目撃された、その日の昼休みの事。
「なんかさ、普通だよなぁ……」
「え?」
山田は、共に弁当を食べる小川、上原の二人に対してそうつぶやいた。
「いつもだったらそこらじゅうでラップ音がして、物が宙に浮いたりして、四六時中誰かの目線を感じるってのに……もう、そんな気配一切感じなくて」
「……」
考えて見なくても、山田の言うことは異常だ。日常生活において、毎日ラップ音ー人や物がいないのに音が鳴る現象のことーが鳴ったり、物が宙に浮くポルターガイスト現象が起こりうることなんて皆無。そう、誰もが思う事だろう。
しかし、この学校は、いやこの教室だけは違っていた。
彼女がいる時には、毎日のように何らかの超常現象が発生して、時折どこからか声がして、何か見えない物にぶつかって。
それを見たある特定の女の子が叫び声をあげて、自分たちはそれを面白がって。毎日のように笑顔にあふれていた。
それが、今はどうだ。たった一人の女の子がいなくなっただけで、その笑顔は失われた。
一人の女の子がいないだけで、火の消えた灯篭のように誰もが暗くなった。
三人の、大切な親友がいないだけで、胸にぽっかりと穴が開いたようになった。
自分たちにとって、彼女たち三人がどれだけ大切な存在であったことか、こんなことで分かるなんて思ってもみなかった。そう、彼女達は感じていた。
「天海さんたちがSAOに閉じ込められて、もう五日も経つんだね……」
と、小川がやや苦しそうに言った。
あの運命の十一月六日。彼女たちの友達、天海響、井上成美、そして江角京子の三人はSAOの世界に閉じ込められてしまった。あの日は、幽霊たちも荒れていたっけなと、上原は携帯電話の中のいくつかの写真を見ながら思い返す。
霊感少女、天海響の家にはネット環境がなかった。そのため、この学校の、幽霊が入っているパソコンを使用してSAOをプレイしていた、というのは以前話した通りなのだが。
事件が発覚した直後、悪寒のようなものを感じた彼女たちは急いで学校に入り、彼女が眠っているパソコンルームに足を踏み入れた。
その瞬間辺り一面から聞こえてくるラップ音や多くの怨念を身体に浴びた彼女たち。しかし、その中で上原だけは、ジャーナリストの娘の根性からか、それとも友を思う念がなせる技だったのか、凍えているかのように震える手で携帯を構え、何枚も写真を撮った。
正直、地獄絵図だった。響の頭についているナーヴギアとパソコンをつないでいるコードを切ろうとしている侍の霊。心配そうに彼女に触れる両腕だけの霊。全国的にも有名で、彼女の友達の一人であるトイレの花子さんもおろおろとしながらも彼女の近くにいて。他にも沢山の幽霊が彼女の周りには集まっていた。
幸いにもその全てを、パソコンの中にいた地縛霊が霊傷とよばれる攻撃によって防いでくれたので、響は無事だった。しかし、それでも彼女が眠ったままであると言うことに変わりはなかった。
そして、そんな幽霊たちの中でもこの世の終わりみたいな顔をしている幽霊がいたことを、彼女は記憶している。
「コギャル霊さん……大丈夫なのかな?」
と、小川が言った。そう、SAO、というか現代のゲームに疎かった響。どれだけ疎かったかというと、彼女の家にある最新のゲーム機がファミコンというくらいに疎かった彼女に、SAOを勧めた幽霊。それが、コギャル霊だった。
だからこそ、自分のせいで彼女がゲームの中に閉じ込められてしまったという責任感が人一倍強いものだったのだろう。
「昨日見た時……正直、ひどい顔してた……今にも悪霊化しそうなほどに」
上原は昨日見た彼女の凍るような顔を思い出しながら言った。今響の身体はこの学校の中にはない。SAO事件から四日後に行われたSAO被害者移送作戦によって、その身体は、近くにある総合病院に運ばれたのだ。
その時もまた、怪奇現象や超常現象が多分に発生して、同行していた刑事や救急隊員をビビらせていた物だ。
それから、学校が終わると彼女たちは毎日のように響たちが入院、いや保護されている病院にお見舞いに行くことにした。それでどうにかなるわけでもない。そう分かっているのに、病院に向かう足を止めることができなかった。
とはいえ、いまだに≪例のアレ≫がくすぶっている世の中だ。全員が全員お見舞いに行くのも迷惑になりかねないと考え、お見舞いは交互に、というのが彼女たちの決め事だった。
昨日、木曜日、つまり初日の日であるが、その日は上原の番だった。
病院の受付で三人の名前を言うと、注意事項が書かれた紙が手渡され、それにサインをすると入館証を渡されて彼女たちのいる場所にまで行ける。
たが、行ける場所はそこまで。ガラスの向こう側にいる彼女たちには、触れることもできないのだ。
彼女たちの身体は、普通の部屋にはなかった。いわゆる、ICUのように廊下と部屋がガラスで仕切られた向こう側のベッドの上にいたのだ。
病院側の注意事項にも書いてあったが、やはり生身での面会はNGらしい。
こうなってしまった理由は、SAO事件が判明して直後に発生した数多くの事件、特に世間の注目を集めた“ナーヴギア取り外し事件”に端を発する。
ナーヴギアを外すことによってプレイヤーが死に至る、という事を説明されたSAO被害者の家族たち。しかし、全員が全員茅場晶彦の説明を信じているわけではなかった。
どうせブラフであろう。そう信じて、SAOプレイ中の人間の頭からナーヴギアを無理やり外す人間が続出したのだ。結果ー外にいる人間たちは知らぬことだがー茅場晶彦がチュートリアルで説明した通り、数時間で、二百人弱の人間がその命を絶たれた。
病院に運ばれた今も、プレイヤーの将来を悲観して、あるいは殺人を目的としてプレイヤーとナーヴギアを接続を解除しようと試みる人間がいるかもしれない。そう考えた結果、多くの病院で突貫工事的にもともとあった病室を改造し、廊下と病室を隔てる壁をガラスに変えたり、入室する人間は病院関係者のみにしたりと工夫をしたのだ。
幸いにして、響の場合はそもそも家でプレイしていなかったため家族の邪魔が入るわけでもなく、また学校でも、パソコンの中に住んでいる霊が、先ほど話した通りに霊傷で数多の幽霊たちを邪魔していたおかげではことなきを得ることができた。
家族といっても、彼女の場合は母親がすでに亡くなっているし、父親がいるだけだったので、そもそも問題はなかっただろう。きっと、幽霊がいる。その情報を知っただけでも腰を抜かすほど驚くだろうから。
なぜなら、彼女の父親は生粋の怖がりで、幽霊などの超常現象に関しては瞬時に悲鳴を上げるくらいに弱いのだ。
なら何でそんな人の子供に霊感能力が備わったのかと言うと、簡単に言えば母親からの遺伝である。その母親は響よりも霊感が強かったらしく、霊感能力に付随して他の動物の声を聞く能力、予知能力などの超能力まで使うことができた。
おまけに怖がりの響の父親の髪をストレスで白髪に染め上げたのも彼女の霊感能力が結果であるらしい。もしも存命だったら高超度エスパー認定されているであろう人物。それが、彼女の母親だった。
話を戻そう。上原曰く、彼女たち三人が眠っている部屋は、もともと四人部屋であったらしく、響たちの他にももう一人、女の子が眠っている姿が見て取れたそうだ。中学生、なのだろうか。とてもかわいらしい女の子だ。その子を見ていると、なんだか涙を流してしまいそうになった。
今、彼女たち全員が命の危険にさらされている。とても理不尽な理由で、誰かの自分勝手のせいで。彼女たちの人生は狂わされてしまったのだ。
これから彼女たちが歩むはずだった人生を考えると、とても辛い。彼女たちが歩むはずだった人生を狂わせた茅場晶彦という人間が憎かった。
面会に行った上原は、携帯電話を取り出し、カメラモードを起動させる。そして、彼女たちが眠っている部屋の中を見た。すると、やっぱりいた。あの子が。
病院関係者しか入れないような場所に入り込める子、コギャル霊が、そこにはいたのだ。
体育座りをして、うつむいてて、その顔をよく見ることはできない。でも、一瞬だけ見えたその顔は脳裏に焼き付くほどに恐ろしい物。
悪霊とはコレかと思うくらいの戦慄が走る顔つきに、彼女はもう、携帯を向けることができなかった。
「帰ってくるよね、三人とも」
「当たり前だろ! みんな、絶対に、帰ってくるって!」
小川のつぶやきに、山田は大声で反論した。
そうだ。信じたいのだ。三人が無事にSAOがクリアがされるまで生き残って、この世界に帰ってくるという事を。
信じたい。
でも―――。
「そん時、あたしらこの学校にはいないんだよねぇ……」
「……」
上原のつぶやきに、山田も、小川も黙り込んでしまった。
そう、自分たちはもう高校三年生。彼女たちがいつ帰ってくるにしても、きっとその頃には自分たちはこの学校を卒業して、それぞれの進路に向かって歩き出している。
たとえ帰ってきたとしても、自分たち六人が同級生として一緒に生活するという日常は決して戻ってこないのだ。
日常が戻ってこないのに待つ意味なんてあるのか。
あの、刺激的な毎日がないのに、ここで学校生活をのうのうと過ごしているなんて。
違う。
あの三人がいない毎日なんて過ごしていて、本当にいいのか。
待つというのは苦しいものだ。自分からはどうすることのできないことが絡んでくるともっとそう思う。
それでも、人間は待つという行いをまるで罰のように受けさせられる。
人間は、生きている限り罰を受けさせられる。それが人生であると知っていてもなお、人間は生き続ける。
だって、人間は生きているからこそ人間なのだから。
だったら―――。
その時だった。
「ッ!」
突如として、彼女たち三人を水道の水が襲った。椅子に座っていた三人はその勢いで吹き飛ばされ、テーブルの上に置いてあった食べかけのお弁当も水の中に散乱した。
「え? 何!? 何!!?」
「あたしらの知り合いで水に縁のある霊で、室内なら……」
といった上原は、携帯をビデオモードにして空中に向けた。やはりそうだった。その向こうには、彼女の姿があった。
ご、ごめん! 気付いてくれないから……
トイレの花子さんだ。どうやら、さっきから自分たちに対して呼びかけていた様子だが、全然反応がないため実力行使に出たらしい。
無理もない。自分たち霊感のない人間たちが幽霊の姿を、そして声を知るためには携帯電話という現代の理を通してしか方法はないのだから。
ごくまれに、幽霊の声が素で聞こえてくるという事もあるのだが、それは例外中の例外で、ほとんどの場合幽霊の声は聞こえてこないためこうして携帯を使用しなければならないのだが。それはともかく。
「それで、どうしたの? 花子さん?」
あ、そうだった! 大変なの!
「大変って?」
なにやら焦っている様子で花子さんは言った。
コギャル霊さんと浮遊霊さんが喧嘩して、コギャル霊さんが、もう帰ってこないって!!
「……は?」
これが、生きているモノ側から見た一連の騒動の始まりだった。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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