SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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サブシナリオ レーカン編 第二話

 私は、この世界から隔離された人間。いや、人間ですらない、ただの異物に過ぎない存在。そこには、いない空虚なる意志。

 だって、自分にはこの世界の自然物質たる雨粒や、風によって運ばれてくる砂。それに、木々から抜け落ちた葉も、一切当たることがないのだから。

 そんな私が、この現世の世界とは縁もゆかりもなくなってしまった私が、この世界とつながってこれたのも、一人の女の子のおかげだった。

 天海響。私と母を再びめぐり合わせてくれて、そして死後の思い出をたくさん作ってくれた大恩人。

 私は、その子のおかげで一度は成仏しようと思えた。

 でも、少しだけ気になることがあった私は、この現世の世界に残って、現世の人たちや、自分と同じ幽霊と一緒に遊ぶ楽しい毎日を経験することができた。

 全ては、あの子の、天海響のおかげだ。

 でも、私は、そんな、恩人のあの子を。

 

『天海ちゃんがこうなったのも、コギャル霊のせいじゃないか!』

ッ!

 

 脳裏によぎったのは、昼間にあの病室で言われた一言。正直、脳すらも失ってしまった幽霊の自分が、脳裏なんて言葉を使うと少し語弊があるような気もしないでもない。

 話が逸れたが、それはその日の昼間、彼女の、天海響の病室の中で起こった一幕が原因だった。

 その日の病室は、前日の様子と違って明らかに落ち着いていた。

 慌ただしく彼女たちを運ぶ救急隊員の姿も、警察の姿も、そして彼女に色々な機材を取り付けた医療関係者の姿も見えない。

 たった、≪四人≫だけしかいない病室。

 この世界で、私たち幽霊の姿を唯一見ることのできる少女、天海響。

 その響の友達の一人で、でも幽霊のような怖い話が嫌いだから面と向かって友達だという事の出来ない、いわゆるツンデレ少女、井上成美。

 中学時代はヤンキーで、でも心優しく、たくさんの人間を救った、いわゆる鼠小僧的な女の子。今はその時代の名残はその言葉遣いと、少しだけ見せる狂暴性くらいしか残っていない、江角京子。

 もう一人の女の子は、知らない。どこか、私たちの知らない場所から運ばれてきた女の子で、全く面識もなく、名前も知らない女の子。

 でも、これだけは分かる。彼女もまた、囚われているのだ。あの、悪魔の機械、ナーヴギアに。

 最初に、浮遊霊から聞いたときは、冗談かと思った。

 響が、ゲームの中に囚われたなんて、少し早いエイプリルフールだと、そう笑うことができた。

 でも、その浮遊霊がポルターガイスト現象によって見せてくれたテレビのニュースが、私から笑顔を奪った。

 その後、私たち幽霊は総出で、彼女が眠っている高校のコンピュータ室に攻め込んだ。

 そこには、いつもと変わらない、安らかな顔で眠っている響の姿があった。ごついヘルメットを頭にかぶって、ただ、眠っているだけ。そう思いたかった。

 でも、私たちが必死で呼びかけても、彼女は、目覚めることはない。

 いつもだったら、寝ぼけた顔をした目を擦って笑いかけてくれていたはずの彼女。

 寝起きの眼で、呑気に挨拶を交わしてこの世界と自分たちの繋がりを示してくれていた彼女。

 でも、私たちの必死の叫びにも、山の上で全く動かない万年雪の如く、動じることがない彼女。

 そこで、私たちはようやく悟ったのだ。彼女が、本当にこの世界から隔離されてしまったのだと。

 そして。

 私がとんでもない罪を背負い込んでしまったという事も。

 その後、正直何があったかはおぼろげにしか覚えていない。たくさんの、響の友達の浮遊霊を沈めようとしたり、彼女の守護霊が如く付きまとっている―のは正直自分も同じなのだが―侍の霊が刀を抜くのを止めたりと、慌ただしかった。ただ、それだけしか記憶にない。

 気が付いたら、その日から実に五日が経ってて、私は病室の片隅で体育座りをしていた。

 顔を上げると、そこにいたのはたくさんの浮遊霊の姿。彼女を慕っていた、多くの浮遊霊が、お見舞いが如く彼女にずっと付き添っていたのだ。

 しかし、その目は彼女だけにはとどまらなかった。

 心配して駆け付けて来たはずの浮遊霊たち。その意識を向かせることができた唯一の存在。

 そう、私だ。

 皆が皆、自分のことを親の仇のように見てきて、正直良い心地なんてしなかった。

 でも、仕方のないことだ。だって、彼女がSAOに囚われてしまったのは、全部、自分の責任なのだから。

 SAOに興味のなかった彼女を、扇動し、プレイするように仕向けたのは、私なのだから。

 間違いのない、事実なのだから。

 

『天海ちゃんがこうなったのも、コギャル霊のせいじゃないか!』

 

 この言葉は、その浮遊霊たちの中にいた一体が叫んだ一言だ。思えば、これが一番自分にクリーンヒットしたと思える。

 無いはずの胸に、海底に沈んだ錨のように突き刺さる言葉だった。

 私だって、こうなるなんて思ってなかった!

 こうなるって、知ってたら、私だって!

 そんな、反論をしても彼女は帰ってこないのを知っていたのに、こんな、彼女を地獄に陥れた自分が、いていい場所じゃないのに。

 そう考えた私は、いつの間にか病室を飛び出していた。

 もう彼女のところには戻れない。もちろん、存命している家族や、響の友達のところにも。

 行ったところで、私の姿を見ることができない彼女たちには、私に関わることすらできないのだから。

 だから、私は旅に出た。行く宛てのない、地獄のような旅路へ。

 

ウチが、響っちを巻き込んだ……

 

 一体、何度同じ言葉をつぶやいたことだろう。

 一体、何度場所を変えて泣いていたことだろう。

 気が付けば、彼女の姿はどこかの暗い、山奥の道の傍らにあった。

 その日の天気は雨。豪雨といってもいいくらいの大雨で、傘をささなければ歩くことすらもままならない程だ。

 でも、そんなもの死人の自分には関係ない。

 それに、たとえどれだけ雨に濡れていたとしても、心配して声をかけてきてくれるような人間なんて、誰一人として存在しない。

 地べたに体育座りをしている彼女に、気が付く人間なんて、誰一人として存在しない。

 だって、自分が―――。

 この答えの出ない自問自答を何度繰り返すのだろう。そう、彼女は考えていた。

 結局のところ、どれだけ考えても、どれだけ言い訳しても、彼女への償いにはならないのに。

 とるべき行動として思い浮かぶのは、このまま成仏して、地獄に行くことだろうか。

 でも、そんな方法、思い付かない。あの時、母に自分の本当に伝えたい思いを伝えた時には、成仏することもできると、そう信じれていたのに。今の自分はそんな気配全くなくて、だから、彼女は永遠に現世の世界にとどまらざるを得なかった。

 

これがホントの生き地獄……って奴?

 

 彼女は、自傷するかのようにそうつぶやいた。

 自分は既に死んでいる身であるというのに、生き地獄なんて、変な話だ。

 でも、それが自分にはふさわしいのかもしれない。

 自分の存在を知られることもない。

 天国にも地獄にも行けない。

 永遠にこの世を徘徊する浮遊霊としてさまよい続ける。

 響達と、出会う前の様に。

 それが、自分に許された唯一の罰。

 それが、自分にできる彼女への唯一の償い。

 それが―――。

 

「お姉さん、大丈夫?」

≪え?≫

 

 彼女との、出会いだった。

 その女の子が自分に差し出したのは、とてもかわいい傘だった。

 でも、雨粒も身体に当たらない自分にそんな傘なんて必要ない。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 この子、自分に話しかけているのか。この世の誰も、見ることができなくなった自分の姿を、彼女は。

 

≪アンタ、うちのことが見えるの?≫

「うん!」

 

 といった彼女の笑顔は、とても綺麗でまぶしくて、どこか響にも似た雰囲気を醸し出していた。

 髪型が、彼女と同じ黒髪のロングヘアだったからだろうか。でも、この子の方が、高校生の響と比べてもっと幼い。多分、小学生くらいだろうか。

 そんな女の子が向けてくれる笑顔が、彼女にとっては優しく暖かくて、そして絶望でもあった。

 私に、そんな表情はふさわしくない、と。だから彼女は笑わなかった。笑えなかった。

 

「どうしたんじゃ? こんなところで」

 

 と、言ったのは長身で、短髪ショートヘアの男だった。こんな大雨の中で女の子が一人で外を出歩いているのが気になったのだろう。

 あるいは、自分が雨に濡れることもかまわずに虚空に傘をさし続ける女の子を不振がって。

 

「お父さん! 外国の人がいるよ!」

 

 外国の人? 私の事? 顔には出さないが、彼女は心のうちで素っ頓狂な顔を浮かべていた。

 いや、確かにガングロメイクはこんな幼い女の子が見たら外国人のように見えるのかもしれないが、しかしだからって外国の人はないだろう。そう、彼女は心の中で思っていた。

 

「そうじゃのう。この辺じゃ見ない、ハイカラな子じゃ」

 

 男性も、女の子の言葉に合わせているのか、そう言葉を重ねてくる。きっと、とても優しい人、彼女の話を聞く限り父親なのだろうが、こんな、女の子のたわごとに付き合ってくれるなんて、とても優しい人であるようだ。

 

≪うちの事なんて、放っていてもいいのに……≫

「放っておけん」

≪え?≫

「ずっとそのままじゃと、―――が心配して帰れんからな」

 

 その言葉を発したのは、ニンマリと笑う男性の方だ。

 今の言葉。自分の言葉に対しての返答だった。雨でよく聞こえなかったが、どうやら女の子の名前を言っていたようだ。

 誠の、会話。誰かを通して、というわけじゃない、本当の会話を、自分たちは交わしてるのだ。

 半信半疑に、彼女は聞いた。

 

≪おじさんも、うちのことが見えるの?≫

「おう、ばっちり見えとるよ」

 

 というと、男性もまた、女の子と同じように傘を差しだし、もう片方の手で親指と人差し指を合わせて丸を作り、その丸の中から自分の姿を見ながら言った。

 

「傷だらけの心も、丸見えじゃ」

 

 これが、私と、この不思議な霊感親子との初対面だった。

 そしてそれは、私にもう一度現世とのつながりを持たせる、大切な出会いでもあった。

タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
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