SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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サブシナリオ レーカン編 第四話

 あの、不思議で、能天気な二人に出会ってから一晩が経った。

 この世に存在していないはずの私のことを見つけてくれたあの二人について行った自分。

 身体もないことだし、娘もいるからやましいことはされるはずないと思い連れてこられたのは、二階建ての古民家だった。

 牛を飼っていることから見て、農家なのかと思ったが、それにしては牛が一匹しかいないのが気にはなった。聞いてみると、新鮮な牛乳が飲みたいから買った、なんて答えが返ってくるし、正直この二人の思考が全く読み取れない。

 今晩は遅いからここで休んだらえぇと言われたが、そんな簡単に眠れる程に自分は図太くなんてなかった。

 それにしても、天海響もそうだったように、やっぱり霊感能力という物は遺伝する物なのだろうか。

 聞けば、二人も母を、並びに奥さんを早くに亡くしているそう。そんなところまで似なくてもいいというのに。と言っても、その女性自体は霊感能力はなく、あったのは父親だけだったようだが。

 そして、今現在その親子は何をしているかというと。

 

「大きくなれよ~」

「お~きくな~れ!」

 

 庭に生えた小さな苗木に水をやっていた。

 

『なにやってんのさ』

 

 と、コギャル霊が二人の意味不明な行動に突っ込みを入れると、彼女たちはとてもいい笑顔で言う。

 

「なにって決まっとるじゃろ?」

「木に水をやっているんだよ?」

 

 コギャル霊思う。花じゃあるまいし、と。

 確かに、これがもし花であるのならば彼女たちの行動に何ら不思議なところはない。花は目出てやる物だ。水をあげなければすぐに枯れ、つぼみになり、花を咲かせるどころか、種を付けることもない。

 だから、水をあげるという行動自体を“花”にするのはおかしくはない。

 けど、だ。

 

『別に木にやる必要なくない? っていうか、昨日雨降ったじゃん』

 

 と、あきれるようにコギャル霊は言った。

 確かにそうだ。この辺りは木々もたくさん生えていて、枯れている土地というわけでもないし、そもそも昨日の夜遅くに雨が降っていたから土壌は潤っているはずだ。

 なのに、なんでわざわざ水をかける必要があるのか。どうして、そんな無駄なことを。

 

「確かに水は十分じゃ……けど」

『けど?』

 

 男性は、再びいい笑顔をコギャル霊に向けると言った。

 

「もっと水をかけると、もっと早く成長するかもしれんじゃろ?」

『……』

 

 この人、天然なのだろうか。あるいは、ただの馬鹿なのだろうか。そう、彼女は感じた。

 

『そんなことしても木が早く成長するわけないし……っていうか、水あげすぎたら根が腐るじゃん』

 

 と、そのコギャル霊の言葉に、男性はゆっくりと立ち上がり、頭に巻いていたタオルを外すと言った。

 

「なら、どうするんじゃ?」

『どうするって……そんなの』

 

 待っていればいい、だけじゃないのか。

 さっきも言った通り、この辺りは別に枯れた土地というわけじゃないし、山の上という事も相まって雨も十分に降り注ぐはずだ。だから、たとえ彼女たちが放っておいても、勝手に木は成長するんじゃないのだろうか。と、コギャル霊は考えた。

 

「でも」

 

 と、言いながら女の子がコギャル霊に近づいて言う。

 

「桃ができるんだよ。お姉さんは、桃、欲しくないの?」

『も、桃?』

 

 その苗木が、桃の木であるというのか。その、小さな苗木が、小さな赤ん坊の頬っぺたのような薄い桃の実を付ける木になると。そういうのか。コギャル霊は、思わず笑ってしまった。

 

『アハハハッ! そんなスグになるわけないでしょ! アンタは知らないかもしれないけど、桃栗三年柿八年っていって、桃がなるのなんでなんて待ってたら……』

 

 といったところで、コギャル霊は言葉を濁してしまった。

 この桃が実を付けるころ、三年後、彼女、天海響はいったいどうなっているのだろう。

 SAOがクリアされて、普通の生活に戻っている。それが、一番考えたい理想論。でも、そんなことはあるわけない。彼女が今後、失うであろう何年間もの人生、ソレが元通りになるはずがない。

 一年後には、彼女の同級生は全員卒業してしまっている。二年たてば、彼女は二十歳となって、三年たてば二十一歳で、その頃には―――。

 その囚われている間に彼女に訪れるはずだったたくさんのイベント。たくさんの思い出、たくさんの出会い。

 自分は、それを奪ってしまった。

 桃の苗木が大きくなり、実を付ける。そんな長い時間を、自分は彼女から奪ってしまったのだ。自分が、自分が、自分が。

 

「でも、待っていれば必ず実はなるんじゃろ?」

『え?』

「おいには、そう聞こえたんじゃがな?」

『それは……』

 

 確かに、自分は考えた。何もしなくても、いつの日にか木は勝手に大きくなるのだと。そう、自分は考えていた。

 でも―――。

 

『それとこれとは、話が違うっていうか……』

「違わんよ。人も自然も、皆待つことで成長するんじゃ」

『え?』

 

 それって、どういう事。そう彼女が聞こうとした時だった。

 

「私ね、人の心が分かるの」

『え?』

 

 と、少女が言った。

 

「お姉さん、心の中で泣いてた。ゲームの世界に閉じ込められた。閉じ込めちゃったって思っているお友達の事……」

『ッ……』

 

 知っていたのか。自分が、彼女を、天海響をSAOに閉じ込めたという事を。というか、そんな能力まで幼い女の子が持っていたという事に驚きだ。

 響ですら、霊を見て、会話する力くらいしか持っていないというのに、もしかすると、霊感という意味では二人、いや彼女の父親も含めて三人ともどっこいどっこいの力を持っているが、それ以外に関してはこの親子の方が彼女よりも、と言う可能性すら出てくる。

 なお、彼女のこの能力、本来は生きている人間にだけ効果があるものだった。しかし、ある事件を境として、死んだ人間の心も見ることができる様になったのだ。その経緯を考えると、それがいいことなのかは、分からないが。

 

「お姉さんは悪くないと思う」

『え……』

「だって、お姉さんのお友達を閉じ込めたのは、茅場って人でしょ? お姉さんは、何も関係ないよ?」

『……関係ないわけ……ない!』

 

 コギャル霊は、今にも悪霊化しそうな形相で言った。

 

『ウチが響っちにSAOを勧めたりなんてしなかったら、あんなのに応募したりしなかったら響っちはSAOに閉じ込められずに済んだ! 全部、ウチが悪いんだって!!』

「そう思わないと、いけないって思っているんだよね?」

『ッ!』

 

 なんだそれ、どういうこと。コギャル霊は困惑する。その中でも、彼女は言った。

 

「本当は分かっているんだよ。自分は悪くないんだって。でも、自分が悪いって思わなかったら、巻き込んだお友達や、お友達の友達や、幽霊のお友達にも悪いって、だからお姉さんは本当のことを言えていないだけなんだよ」

『そんな、そんなはずあるわけ……』

 

 あるわけ、ない。そう言いたかった。でも、言えなかった。何故か。

 それは、きっと彼女の言う通りだからだ。自分は悪くない。本当に悪いのはゲームという媒体を利用して大勢の人間を閉じ込めた元凶である茅場明彦なのだ。分かっていた。いや、分かっているはずだった。

 でも、それを声に出して言わなかった。そんなことを、言える立場にはないし、それになによりも、彼女の言う通り、そんな自分勝手な都合を押し通して、他人事を貫いてしまったら彼女の友達や、幽霊仲間が不快な思いをしてしまう。そう考えたから。

 

「私の担任の先生もね、SAOの中にいるんだ」

『え……』

 

 と、言いながら少女は冬の木々に向けて寂しそうに呟いた。

 知らなかった。まさか、彼女もまた、SAO事件で大切な人を奪われていたなんて。特に小学校の担任の先生というのは大切な存在だ。

 自分に最初の夢を与えるかもしれない。自分の行く先にある未来を見せてくれるかもしれない。

 そこに至るまでの道筋がどんなものであるのか、そして何を勉強すればいいのか。それを教えてくれるのが、先生。

 彼女は、そんな大切な人を失っていたのだ。

 

「でもね、私は待つよ。先生が帰ってくるまで、いつまでも」

『……』

 

 コギャル霊は、何も言えなかった。きっと、この子は分かっていないのだ。本当にその人が無事に帰ってくる保証はないという事。ゲームの中で死んでしまうかもしれないという可能性を、考慮していないのだ。だから、そんな言葉を軽々しく言える。そう彼女は考えていた。

 でも―――。

 

「待つことも、悪いもんじゃなかとよ」

『え?』

 

 と、言葉を紡いだのは男性の方だ。

 男性はさらに言う。

 

「この小さな苗木も、育て方を間違えなければ、絶対に実を付けるんじゃ」

 

 まぁ、かわいがりすぎるのもあかんがの、と彼は続けて言うと、娘の後ろからその頭に手を乗せて言った。

 

「木が大きくなったら実がなって、そん時になったらもう一回来たらえぇ。その子と一緒に」

『その時まで待てる自信なんてないし……』

「自信がなくても、実はなるんじゃ……木は、こっちの事情なんて知らんからな」

 

 事情なんて知らない、か。きっと響の方もこっちの世界の事情なんて全く知らずに、SAOの中で戦っているのだろうな。いつも通り天然さを見せて、それで井上成美がそんな彼女をフォローして、そして江角京子がそんな二人を助ける。そんな光景が目に浮かぶよう。

 きっと彼女たちは戦っている。でも、私は立ち止まろうとしている。待つことを、あきらめようとしている。本当にそれでいいのか。今の自分がしなければならないことは、本当は、いつしか帰ってくるはずの彼女をすぐそばで見守っていることじゃないのか。

 でも、そんなこと、許されるはずがない。

 でも、帰りたかった。

 わがままと言われるかもしれない。でも、そのわがままを押し通したい。そんな願いが、彼女の中には存在した。

 

「ハイカラな娘さんなら気がついとったはずじゃろ?」

『そう、かも……』

「なら、話は早い」

『え?』

 

 と、言うわけで。

 

「ドライブに出発じゃ!」

「おぉ!」

『な、なんで!?』

 

 どういうわけだが、いつの間にやら軽トラに乗せられたコギャル霊は、有無を言わさず連れていかれるのであった。

 あの、自分が一番立ち寄りたくて、でも立ち寄りたくない場所に。

タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
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