SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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サブシナリオ レーカン編 第五話

 この透き通るかのような街景色、見覚えがある。コギャル霊は車のその外に連なる家々を、一組の親子の間で眺めていた。

 店の場所とか、家の配置とか、それから道路の車の込み具合。そして雰囲気、全部が全部身に覚えがある。まるで、懐かしい故郷に帰ってきたような気分だ。

 というより。

 

『って、ここ私の住んでる街だし!!』

 

 と、コギャル霊は小学生の女の子、そして運転手の男性の間でツッコミを入れた。身に覚えがあって当然だ。だって、そこは、自分がかつて、というかつい昨日までいた街そのものだったのだから。

 因みに、何故彼女が親子の間という狭い隙間霊のような状態になっているのかというと、この車が軽トラであり、後ろに人を乗せるスペースがなかったことが原因。というか、そもそも幽霊にスペースがどうのというのは関係ないような気もするのだが、そこは気分の問題なのだとか。

 それにしても、どうして彼らは自分が住む町のことを知ることができたのだろうか。

 

『もしかして、アンタ? ウチの記憶を呼んで……』

 

 そういえば、この子には相手の心を読むの能力という物があったなと、思い出しながらそう聞いた。

 

「うん。だって、お姉さん、心から帰りたいって、そう言っていたんだもん」

『帰りたい、ウチが?』

 

 そんなわけない。だって、今帰ってもどうせ大勢の霊からの批難が待っていることは目に見えているのだ。それなのに、わざわざそんな火元に近づくようなこと、するわけが。

 

『……』

 

 でも、彼女は否定できなかった。何故か。それはきっと、彼女の言う通りなのだ。

 本当は、自分も知らないうちに帰りたいと願っていた。あの場所へ。響や、他の幽霊の友達がたくさんいるあの場所に帰りたかった。それが、本心だった。

 でも怖かった。

 昨日のように批難の的にされるのが。悪いのはお前だ。そんな冷たい目、突き刺さるような目で言われることが、怖かった。

 

「だから帰ろう。お姉さんを待っていてくれる人のいるところに」

『待っている? ウチを?』

 

 死んだ自分を待っていてくれる人間。そんな奇特な人間いるのだろうか。

 いや、一人だけ。天海響という存在がいるにはいる。しかし、彼女はSAOの中。自分のことを待っていられる状況にあらず。

 なら、誰なのだろう。自分のことを待っているというその誰か、その人間は、一体。

 

「ほら着いた」

『え?』

 

 そうこうしている間に、ついに彼女は到着してしまった。あの病院に、天海響が入院している病院に。

 軽トラを降りた二人に続いてコギャル霊もまた地面へと浮遊を始める。

 

「お父さん。大きな病院だね……」

「そうじゃのう。村の病院とは大違いじゃ」

 

 と、天然親子二人組は巨大な病院の全景を見ながらそう話している。

 しかし、確かに言われてみればそうなのかも。天海響が入院、というか保護といっても差し支え病院なのだが。そこは、かなり大きな総合病院。でも、その大きさに反比例してたったの四人しかSAOプレイヤーを引き取ってくれなかったのは、何らかの不手際によってSAOプレイヤーが死亡してしまった時のリスクを背負うことを恐れたのだろうか。そう勘ぐってしまう。

 

『……』

 

 この病院に来るのは二回目だ。というよりも、最初に彼女が搬送された直後から、一晩丸々その病室にとどまっていたので、考えてみればこの病院にいたのも、そして離れたのもたったの一晩だけなのだなと、今更ながらに思う。

 そう、たった一晩。その時に、自分はあの言葉を吐かれた。

 

『天海ちゃんがこうなったのも、コギャル霊のせいじゃないか!』

 

 コギャル霊は、ない腕をつかんだ。昨日の、あの記憶が蘇って仕方のないのだ。

 まさか、幽霊になってからもこうしてストレスに心を犯されるなんて、思ってもみなかった。

 ダメだ。やっぱり自分はこの場所にいちゃいけない。この病院に、あの子に会っちゃいけない。

 コギャル霊は、二人にばれないように立ち去ろうとした。今度こそ、本当に、自分の姿を見ることができないような人間がいる、遠い遠い山奥。

 誰も寄り付かない、何もいない、一人ぼっちのままずっとずっと、永遠ともいえる時間いられる場所に行こうと、そう考えていた。

 そうすれば、自分は、目も耳も心も塞いで孤独に暮らすことができる。それが、彼女達に対する償いとなる。そう、信じていた。

 でも。

 

「あ、いた!!」

『え?』

 

 彼女たちは、それを許さなかった。いや、掴んでくれた。彼女の、孤独の手を。

 けっして、触れることはできない。でも、それでも、彼女たちは確かに彼女を掴んでくれていたのだ。

 声を発したのは、遠くの方から、駐車場を突っ走ってくる三人の男女。コギャル霊も見知った顔の三人。

 上原、小川、そして山田。響の高校の親友であり、そしてコギャル霊の友人でもある三人だ。

 

「はぁ、はぁ、やっと見つけた……」

『アンタら、なんで……』

 

 どうして、自分の居場所が分かったのか。彼女たちは霊感がないから当然、自分の姿なんて見えていないはず。携帯という現代の力があるとは言え、どうして。

 

「コギャル霊! 最初に言っとくけど!!」

『ッ!』

 

 と、コギャル霊が疑問を投じようとするその前に、上原が一喝し、指をさすと言った。

 

「あたしたちは、アンタの事恨んでなんかないからね……」

『え?』

 

 コギャル霊は、その言葉に不思議な気分を感じた。だって、自分は彼女たちから大切な友人の一人を奪った張本人のはず。それなのに、恨んでいないとは、どういうこと、なのか。

 混乱状態のコギャル霊。しかし、そんな彼女にまるで上原の言葉を引き継ぐように小川が、そして山田が言った。

 

「だって、コギャルさんがわざと天海さんをSAOに閉じ込めたわけじゃないんだから!」

「俺たちも、天海さんや、井上や江角さんとしばらく会えないのは寂しいし、幽霊たちとも話せなくなるのは辛いけどさ……」

 

 そう、確かに自分は彼女を、響をわざとSAOの中に閉じ込めたというわけじゃない。いや、むしろそんなことになると知っていたら死ぬ気で留めていたはずだ。すでに死んでいる身である自分が言うのもおかしな話だが。

 それに、山田のいう通りに、自分は彼女たちと幽霊たちとのつながりも絶ってしまった。

 今も、こうして一緒にしゃべっているように見えるのかもしれないが、その実はただ彼女たちが一方的にしゃべっているだけの、他人から見たらただの大きな独り言。

 こっちの声は、彼女たちのスマホを通さなければ彼女たちには届かないし、姿だって、カメラ機能を使わなければ絶対に彼女たちには知られることがない。

 と、コギャル霊や山田は自分たちと幽霊たちとのキズナが途切れることを危惧している。だけども、ここまで聞いていて分かる通り、たとえ響がいなくても、スマホさえあれば幽霊たちの姿を、そして声を、見て、聴くことができるのだ。

 そう、天海響がつないでくれた幽霊たちとの友情は、始めてくれた幽霊たちとのキズナは決して絶えることなく続いている。失われてはいなかったのだ。彼女はソレにまだ気が付いていなかった。

 

「分かる? コギャル霊、全部アンタが背負う必要なんてないんだよ! だから……」

 

 上原は、虚空に、いやカメラの向こうに映るコギャル霊に向けて手を伸ばすと笑顔で、そして小川も、山田も続けて手を伸ばすと言った。

 

「ここで、この場所で、この町で、一緒に待とう……アイツらを」

『ッ、ッッ……』

 

 その姿は、雨上がりであるという事も相まって、とても凛々しく、そして美しく見えた。というのが、コギャル霊の話だ。

 彼女は、その姿に感極まり、目に涙を浮かべてしまう。まさか、自分がここまで涙もろくなっていたなんて、そうは思わない。

 自分は彼女。天海響に出会ったおかげで涙もろくなることができた。そう断言できる。それは、とても嬉しいことなのだ。

 悲しいと思えることに悲しめて、嬉しいと思えることに喜んで、笑えることにみんなで笑えて。それは、全部、全部死んでからは失われていた人としての心。それを思い出させてくれたのは、生前にもなかったソレを授けてくれたのは、響だった。

 その響がつなげてくれたキズナが今、彼女を救おうと手を伸ばす。

 その瞬間、コギャル霊の心に光が差したような気がした。

 

「それにさ……天海のお母さんも、そう願ってる」

『え……』

 

 響の母親が、そう願っているとはどういうことなのか。彼女はすでに故人で、幽霊としても一度も現れたことがないというのに、どうしてそんなことが言えるのか。

 小川は、一組の手紙を彼女に見せると言った。

 

「これ、天海さんの家に昨日届いた手紙なの」

 

 それは、先日の夕暮れ時に響の父親が持ってきた手紙。そのすぐ後に気絶してしまったためにすぐには見ることができなかったソレを、今朝彼女たちはようやく見ることができたのだ。

 

「中開けるとビックリしたぜ! 手紙にはコギャル霊がこの時間に、この場所に来るってこととか書いてあったし!」

 

 と、山田は言う。という事は、彼女たちがこの場所に来たのは偶然じゃない。天海の母親に導かれての事、なのか。

 確かに、姿自体はカメラ機能で探索することは可能―とはいえ、心霊写真ブロガーの上原だからこそ見つけ出せたともいえるが―だが、ピンポイントでこの場所に来ることを予想するなんて、それこそ予知のようなものがなければ不可能。響の母親が、自分たちと彼女たちとの間を取り持ってくれた。そう言っても過言ではないだろう。

 心の中で響の母親に感謝するコギャル霊。しかし、彼女はそのすぐ後に聞いた。

 

「それに、天海たちのこともな……」

『え……』

 

 晴天の霹靂のような、その言葉を。

タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
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