SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
『ゴメンねぇ、コギャル霊ぇ! もうあんなこと言わないよぉ!』
『あぁ、もう! 分かったからそんなにひっつくなって!!』
病院の中、受付で手続きを終えたばかりの人間数名と手続きも何も必要じゃない幽霊一体は、すぐさま響が今もなお眠らされている病室の前にやってきた。
そのとたんに、まるで待ち構えていたかのように浮遊霊たちが一斉に飛び出してきた。中でも、一番最初に飛び込んできたのは、コギャル霊が家出をする原因を作り出してしまった浮遊霊だった。
彼の謝罪に、コギャル霊はどこか嬉しそうに押しのけようとする。もう、そこには昨日のような険悪な関係はどこにもない。
まさに現在の病院の外の風景のように、雨が上がった後のカラッと晴れやかな空のような笑顔のコギャル霊がいるだけだった。
生者だけじゃない。死者である彼らもこうして許して、笑って、迎えてくれる。それが、何よりもうれしくて、かけがえのなくて、そして尊い物。コギャル霊は改めて仲間という物の大切さを身に染みてわかった気がした。
「とりあえず、コギャルと浮遊霊たちはもう大丈夫っぽいな」
「だな……」
一方、そのすぐ近くでは山田、上原が自らの携帯電話を取り出し、ムービー機能を用いて霊たちの姿を観察していた。
何度も言うが、彼らは響のように霊感を持っていないため、機械を通してでなければ霊たちの姿を見ることができない。
そして、響という彼らの中で唯一霊を見れる少女が眠りについた今、彼らはそれらの機械的なツールを用いることでしか幽霊たちとつながることができない。
でも、ソレでも繋がれるだけ、そこには多くの人の魂があるそれを、知れるだけでもまだありがたいのかもしれない。最近、そう思うようになってきた。
特に、唯一の霊感少女が眠り姫となってしまって以降は。
「すごい……」
「え?」
と、呟いたのはコギャル霊を連れて来た二人の親子の内の娘の方であった。
「たくさん幽霊がいる。私、こんなに幽霊を見たの初めて……」
「幽霊って……」
「もしかして見えるの? ここにいる幽霊たち……」
「うん! お侍さんの霊に赤いスカートの女の子。それに、外国の人!」
「外国?」
彼女の発した、それ以外の幽霊に関しては、覚えがある霊ばかり。しかし、最後に発した外国の人、というのがあまりピンと来ていない三人組。
少なくとも、自分たちのよく知る二人の姿を言い当ててるのだから彼女が幽霊を見ることができるというのは間違いないだろうが、そんな幽霊、さっき自分たちがムービーで確認した時にはいただろうか。
『だから、ウチは日サロで焼いてるだけだから外国人じゃないし!』
「ははっ、コギャル霊の事か」
と、山田はケラケラと笑う。それに対して怒るコギャル霊。
なるほど、確かに普通の小学生からしたら、肌を焼いたコギャルは海外の人間であると思われても仕方ないのかもしれない。
昨日までとは全然違う。穏やかな気持ちでソレを聞いたコギャル霊。
こんな光景をもう一度見ることができるなんて、思ってもみなかった。
彼女がSAOに囚われて、自分たちと生者たちとの絆が薄くなって、もう二度と関わり合いを持たないかもしれない。そう思っていた。
でも、違っていた。
たとえ、彼らが自分たちのことが見えなかったとしても、自分たち幽霊たちとの絆はつながっている。だって、こうして一緒に笑うことができるのだから。それは、上原たち生者も強く、実感していた。
「にしても、意外だな」
『何がでござる?』
と、上原が声をかけたのは、先ほど少女が言っていた、侍の霊。響が学校に通う時、朝のホームルームでうたた寝しているときに代返で出席を取ることから、代返侍というあだ名で呼ばれている侍だ。
彼は、江戸時代当時、不治の病と呼ばれていた病気で若くして亡くなった侍の霊であり、響とはコギャル霊よりも前に出会い、そして霊たちの中でも一番響と仲が良いと言っても過言ではない幽霊。響の友人古参勢といっても差し支えのない幽霊であった。
「代返侍が、コギャル霊と他の幽霊との間を取り持ったってのがさ」
「あ、確かに!」
「普通だったら、真っ先に怒りそうなのに……」
『……』
上原の言葉に同調した小川と山田。確かに、言われてみれば不思議だ。
侍霊は、学校では、他の幽霊ともどもかなりの大暴れっぷりを見せていたらしい。主に、その腰に下げている刀で響のナーヴギアとパソコンを繋ぐコードを斬ろうとしたりしてパソコンの中の霊と大立ち回りを繰り広げたとか。
だが、そんな侍霊は、病院についてからはおとなしくしているそうだ。
それどころか、昨日コギャル霊が家出した直後から、全ての責任がコギャル霊にあるわけではないと浮遊霊たちを説得していたと言うではないか。
代返侍とコギャル霊は、いわゆる犬猿の仲というもので、いつものように響の上で喧嘩をしていた。こういう時にこそ、大喧嘩する物だとばかり思っていたから、ある意味で拍子抜けというか、なんというか。
『えす・えー・おーなるげぇむのことは、拙者にはよくわからん……が』
代返侍は、そう言うとガラスの向こうで静かに眠っている響の顔を見ると、さらに続けた。
『決して、コギャル霊が悪意を持って閉じ込めたわけではないという事を、知っている故……』
『……』
そう、代返侍だからこそ、知っていた。彼女と、一番近くにいる彼だからこそ分かっていた。
SAOが届いてから、毎日毎日楽しそうにSAOの世界で自分が使うキャラクターの設定を考えている響と、そしてコギャル霊の姿を。
その時の姿には悪意は一切見られなかった。当然だ。こうなることなんて、だれも予想できなかったから。
だからこそ、彼女たちは毎日のように楽しく、ああでもない、こうでもないと意見を出し合っていた。あれほど楽しそうな響と、少しだけ嫉妬するがコギャル霊の姿は見たことがなかった。そう断言できるほどに。
だから、彼女がSAOに囚われたと知ったときは、勿論SAOに対して怒りを持った。でも、コギャル霊に対してはなんの怒りも持たなかった。二人のあの楽しそうな顔を思い出したら、怒る気にもなれなかったのだ。
『拙者も、ただ待つことにしたでござる。この場所で、コギャル霊たちとともに』
『アンタ……』
コギャル霊は、一瞬だけ顔を緩ませると、口角を吊り上げ、実態のない筈の侍の背中を何度も叩きながら言う。
『がりちょんまげ侍もたまにいいこと言って! マジ超ウケる~』
『なッ! 拙者は真面目な話を!』
『ありがとう……代返侍』
『……ふっ』
それは、もしかすると一種の照れ隠しのようなものだったのかもしれない。代返侍は後にそう語っている。顔を下に向けたコギャル霊は、実は感極まっていた。でも、その姿を誰にも見せたくなかったのだろう、とも、代返侍は感じていた。
「あの子が天海響さん?」
「え?」
一方、ガラスの向こうを背伸びとつま先立ちで何とか見ていた女の子。
ガラスは、ちょうど高校生である山田たちの腰の上くらいまでが普通の病院の廊下の壁と同じ素材であるため、小学生で背が小さい彼女は、そうしなければ見ることができないのだ。
小川は、膝を折って彼女の目線に高さを合わせて言った。
「……うん、そうだよ。その奥にいるのが、私たちのお友達の、江角さんと、井上さん」
「んで、もう一人いるのは……私たちも知らないけど、取り合えずSAOプレイヤーだってのは、変わらないらしい」
「……」
そう、この部屋は四人部屋。彼女たちの友達三人のほかにもう一人の人間もいたのだ。
その少女の名前は、病室の前に貼られているネームプレートから読み取ることができる。≪神山満月≫、というらしい。
彼女もまた、響たちと同じくSAOに閉じ込められた被害者。自分たちが知らないとはいえ、心が痛むという物だ。
果たして、彼女たちが無事に帰ってくることができるかどうかわからない。ただただ、無事に帰れますようにと、祈ることしかできない。そんな自分たちの無力さを、この場所に来ると感じてしまう。
結局、自分たちがこうして見舞いに来たとして、彼女たちが目覚めるなんて奇跡は起こらないのだ。なら、どうして自分たちはここに来た。何故、自分たちはそれでも見舞いに来ようと約束した。
一体、どうして。
「がんばって」
「え?」
その時だった。少女は、一生懸命四人の姿を見ながら言った。
「がんばって。がんばって。目が覚めるまで、待っているから、みんなで待っているから」
それは、ゲームの世界で頑張って生きようとしている三人、いや四人に対しての応援だった。
四人が、無事に帰ってくるように、きっとその声は届きはしない。でも、それでも彼女はその応援を止めようとはしなかった。
きっと、それが彼女たちに届くと、信じていたから。思いは、通じるのだと、信じていたから。
ふと、山田たちは“あの手紙”のことを思い出していた。響の母親が出した、手紙の事。日付指定で、自分の家に出した手紙の中には、コギャル霊の居場所と来る時間。それ以外にも、ある文言が書かれていた。
『勇者たちは成長して帰ってくる。それまで、応援するべし』
と。
もしかしたら、響の母親は予言で知っていたのかもしれない。娘が、そして娘の友達がこんな悲劇に会うのだと。けど、それでもなお止めることはしなかった。
それは、何故か。
上原はこんな想像をしていた。それは、止める必要がなかったから。
彼女たちが、ゲームの世界で大いに成長して帰ってくるのだと、知っていから。
だから、彼女は響たちを止めることをしなかった。さらに言えば、響たちがSAOに閉じ込められてから、手紙が届くように細工した。
それが、彼女たちにとって一番得になるのだと、そう信じて、知っていから。
そう、いつかは返ってくるのだ。それが何年何か月後になることか分からない。でも、自分たちは待ち続けなければならない。友達として、そして彼女たちと一緒に幽霊と過ごしてきた、仲間として。
そう、自分たちは見届ける義務があるのだ。彼女たちの冒険を。そして、彼女たちの戦いを。この場所で、ずっと、ずっと、応援し続ける必要があるのだ。
それが、友達としてできる最高の形であるのならば。
「だから……」
―がんばって―
全員の言霊が、ガラスの向こうに伝わったような、そんな気がした。
「おーい。そろそろ帰らんと、真っ暗になるぞぉ」
と、それから数十分。少女も交えて幽霊たちと談笑していた時だった。彼女の父親が声をかけたのは。
確かに、彼女の住んでいる山とこの病院との距離を考えると、早く帰らないと、あの街灯もほとんどない山道を帰らなければいけなくなるのだろうなと、コギャル霊は考えていた。
だから、そろそろいいタイミングなのかもしれない。
「うん! ねぇ、お父さん。時々この病院にも来ていい?」
「あぁ、勿論じゃほたて」
「ありがとう!」
どうやら彼女、そしてその父親はこれからも時々響たちの見舞いに来てくれるそうだ。二人の知り合いも、一人SAOに囚われているそうで、自分たちもその知り合いを必ず見舞う事を、山田たちは少女と、ほたてと約束をした。
『ほたて?』
と、ここでコギャル霊が気が付いた。そういえば、まだこの二人の名前を聞いていなかったなと。
「そうじゃ、山本ほたて。良い名前じゃろ?」
どちらかというとおいしそうな名前、ともいえるのだが。でも、確かに少女に似合った可愛い名前だと、コギャル霊は思う。
『……ねぇ、そういえばまだ聞いてなかったけど、アンタ、名前は?』
「……」
帰ろうとする間際、二人が背を向けたタイミングで聞いたコギャル霊。男性は、首だけをゆっくりと、後ろに向けると。さわやかな、山の木々を通り抜ける風のようににこやかな笑顔を向けると、こう言った。
山本善次朗と申します 参戦
「私、どうしたらいいんですか? 教えてください……」
「目を開けてください、先輩。また、あの能天気な笑顔で、私に答えてくださいよ。ねぇ……」
「唯先輩……」
次回予告
それは、この世界において、起こるべくして起こった事件。
そして、それと同時に多くの人間の人生を変えた、一つの事件。
「お前たちのいない生徒会室は、まるで……そう……まるで……」
「俺は待ち続ける……あの人に、謝らなければならないんだ……」
「だろ? いやぁ、飛彩がいない時にこんな大手術……きっと、彼女じゃなければ不可能だったろうねぇ」
「聞こえる……ギターの音……」
「つまり、お前の手術には何かミスがあったのか?」
「私たちは、仲間なんかじゃない! 私たちは、私たちは……」
「あたしには、歌しかないんだ……」
「えぇ、秋山澪さん。軽音部では、ベースを担当していたとか」
「そういえば、なつめ先輩は?」
「にしても、刑事さんも楽じゃないね……風都からこっちへと行ったり来たりで」
「希望を持って死ねる? 馬鹿なこと言わないで。死んだら何もない。何もできない、誰も救えない。それがどれだけ怖いことか、死にかけたあなたならわかるでしょ?」
「あんな強いバグスター……もしかして、ゲムデウスよりも強いかも」
「どうしてあの子を追い詰めるような真似をしたんですか!?」
「氷川、照井両警視、並びに泊刑事を含めた複数の刑事には、現場から逃走したバグスター、通称アナザーポッピーを追ってもらう」
「この子の音楽は、バグスターウイルスに対抗することができる」
「皆さん。私、今、幸せです……だって……」
―先輩たちとの思い出が、いっぱい詰まったこの部屋で、死ぬことができるんですから―
メインシナリオ 第二章
「……それに」
「さわるなぁーッ!」
Growing After Tea Time
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
-
ヴァルキリーズfeatボーイ
-
プロジェクトSAO
-
アルティメットカオス
-
無への逃走
-
肯定あるいは否定
-
フィクションスターズ
-
〜いろんな著作物から以降はいらない
-
タイトルはそのままでいい