対戦よろしくお願いします。
その1/触れただけで即死
かの大魔道士・天月修を知っているだろうか?
我が国日本が異世界”オグトラム”に襲撃された際、真っ先に異世界の魔法を解析・実用化し、実践でも戦功を挙げた日本の英雄である。
しかし、彼には悪癖……正確に言うならば、拗らせた性癖があった。
すなわち、
彼は戦後その能力を自分の性癖が赴くままに活用し、TSヒロインハーレムを作り出し、自分も性転換自由自在というなんとも度し難い人物になってしまった。
これは、そんな彼が作り出してしまった呪いのアイテム、”メタモルステッキ”の
☆
「どうしよう……これ……」
どこにでもいる普通でちょっと女顔な高校生男子・宮地時生は悩んでいた。
上京した兄から送られてきた物が、どうしても女児向けにしか見えなかったからだ。
勉強机とベッドは当然として、ラノベや漫画、ゲームソフトのパッケージが多く入った本棚が目につき、ゲーム用モニターも完備された一軒家の二階の部屋。彼はその中央に正座し、梱包されたダンボールをカッター片手に開けた状態で硬直している。
入っていたものはただ一つ。ステッキだ。水色の持ち手、先端には大きな黄色い星マークの意匠。彼にとって、いや、誰がどう見たって玩具っぽいチープな見た目だ。
「ええ……」
時生は再度兄からスマホに届いたメッセージを見返す。そこにはこう書かれてあった。
『お前の話を上司にしたらもらった。写真見せたときに”まさしく彼こそがふさわしい……!!”って言ってたからお前には使いこなせると思う。頑張ってくれ』
このメッセージの存在が彼をさらに困惑させた。なんだよふさわしいって。そしてなにをどう頑張るのか。使いこなすってなんだ。疑問ばかりが浮かぶが、行動しなければ始まらない。
時生はそれを右手で手に取る。すると、星の部分が光り始めた。
「!?」
変化は唐突だった。まず、彼に背後に投影された宇宙が広がった。
藍色の闇、星々が照らすように見えるその空間で、彼の体は無重力のように浮き上がり、瞼が閉じる。彼の体が光に包まれ、男と分かる体の線が明らかになる。
そしてそのまま、彼の体が変成していく。足、臀部、胸と下から順番に体に丸みが帯びていき、身長が落ちる。顔は面影を残したまま美少女へと変わる。
彼が無意識のまま小さく空中を輪を作るようにスケーティングすると、その軌跡に沿って六つの蒼い星が等間隔に生成され、彼が輪の中央に戻ると、その星が彼の体に一つずつ吸い寄せられていく。
まず始めに右腕に星が当たると、それは水色の手袋となった。左腕も同様に変わり、両足に行った星は太ももまでの藍色のソックスとなる。
五つ目の星は胸元に蒼の星の意匠を施したミニスカワンピースになり、最後の星は頭に行き、カチューシャとなり、その髪もまた蒼に変え腰まで伸びる。
そして、背景は元通りになり着陸。目を開けると、意思を感じられるように宣言する。
「……魔法少女ミーティアレイン、ここに星誕!!」
そんなことが、まるで洗脳でもされたように、起きた。
聞いている人は誰もいない。
五秒後、彼はうずくまり、悶絶した。
★
今、半自動でなされたそれはいわゆる変身バンクというもので、魔法少女ものにはお決まりのものとしてあるのを時生は認知していた。
しかしそれはそれこれはこれ、実際やってみるとめちゃくちゃ恥ずかしい。男子高校生なのになぜこんなことをしなければならないのか、という感じである。
「うぅ……でも……」
彼は自分の体を適当に触れてみる。完全に女体化しており、胸はわりと大きく、股間などにあったものは無くなっていた。しかし不思議と違和感はなかった。まるでこの状態でいることが正常なような――
「いや、なわけないだろ」
変な思考を、頭を振って退散させる。自分は男。うん、男。そこを見失ったらとてつもなくヤバいことになるとしか思えない。そう直感する。
しかし実際に魔法少女になったわけだが、とりあえず元に戻らなければ。そう考える彼であったが。
「戻り方、どうすればいいんだ……?」
それがいまいちわからなかった。変身、解除!とでも叫べばいいのだろうか。ステッキを振ってみたり、ちょっと一回転してみたり、四苦八苦しながら試すこと数十分。リビングのほうから非道な宣告がなされる。
「時生、ご飯ー」
「!?」
そう、夕飯である。こんな姿を親に見られるのは高校生、思春期の自意識を考えると死にも等しい。ゆえに、ここで彼がとれる選択肢は一つしかなかった。
彼は窓を開ける。
すなわち、逃走である。
彼には飛べるという直感があった。というか魔法少女が飛ぶのはまあありがちなことだし、こんなマジックアイテムを作った馬鹿野郎がその機能を搭載していないことはありえないだろうという予測に基づいてのものだった。
実際目論見は成功し、彼は夜の町を眼下に収めることができた。
彼が住んでいるのは千真田市御剣区。観光地、繁華街、公営カジノ、山、と治安がいいところから悪いところまでピンキリなこの市において、高校が五校ある学校の町にして、ヤンキーが多いことで有名な場所である。
この日本において、異世界戦争後の治安というのは悪くなる一方だった。その裏には誰でも持てる武力としての魔法の存在がある。
戦争中娯楽が無くなっていく中、魔法での私闘が遊びとして流行り、それが法で禁止されたあとも知ったことかと続ける者たちが多いのだ。そのあおりをもろに受けたのがこの御剣区といえる。
魔法を含めた総合的な強さでの学内カーストの成立、武力で訴えることへの世間からの風当たりの軟化などが起こり、治安が悪化したのだ。
空を飛ぶなか、彼は思い悩み、軽くパニックになりつつひとつの可能性へと行き着いた。
何かというと、ダメージを受ければ変身解除されるのではないか、と。
日曜朝にやっているような変身モノだと、ボコボコにされたときにそれが解除されるといのはいかにもありがちなことである。
しかしそれを行ってくれる人に彼は心当たりはないし、そもそもボコボコにされるのは心理的に嫌だ。
なら自滅ならどうだろう。たとえば、高い所から急降下して激突してみるとか。
鳥のように滑空飛行していた彼はその可能性にすがってみることにした。めちゃくちゃ怖いがボコボコにされるのよりはマシだろう。そもそもすぐに帰らないと母親に怒られるし申し訳が立たないことが彼の決断を後押しさせた。
スピードをつけて上空へ、高く高く上がっていく。目標は通っている学校のグラウンド。部活もおそらく終わっている時間だろうし、突っ込んでいってみても問題ないだろう。夜景がきれいに見えるぐらい、だいたい高さ数百メートルだろうかというところまであがって、一旦急停止。思いっきり急降下していく。
だいたい突っ込む軌道が安定したところで目をつぶり歯を食いしばり、衝撃に備える。
来る!?来る!?と衝撃のタイミングがいつ来るかに恐怖していると、顔面に衝撃。バウンドしながら一回転、二回転し、止まる。
仰向けになって転がった彼は思ったより少なかった衝撃に困惑しつつ起き上がった。体験したことある痛みだと、だいたいドッジボールが顔面にぶち当たったぐらいの痛みだろうか。
彼は自分の姿を確認する。蒼い衣装、柔らかい肉体。うん。
「変わってないね……」
どうしたものか、と途方にくれる。確かにそこそこ痛かったが衣装や体に傷一つない。せいぜいグラウンドの砂をかぶったぐらいだ。予想以上にこの魔法ステッキはガチなものらしい。
そんな彼のもとに、墜落音を聞きつけたのか何者かがやってくる。どうせ教員だろうと思って彼がそこに目を向けると、そこにいたのは。
改造された学ラン、持っているものは金属バットや鉄パイプ。染めた金髪の短い髪。ピアス。そんな男らが五人ほど。
すなわち、ヤンキーである。
「おいおいおい、魔法少女じゃねえか……!」
「なんか堕ちたかと思えばよ……魔法少女が落ちてくるなんて鴨葱じゃねえか……!!」
「なんか体格がちげぇな、新顔ってやつかぁ?」
「まあいい、ここでのしちまうぞ!!!そうすればボスからトレジャーもらえるかもしれねえしなぁ!!」
彼らの体が次々に淡く光る。身体強化魔法だ。何が起こっているのかはまったくわからないが、彼が取れることはただ一つだった。
「に、に、逃げなきゃ!!!」
時生は彼らに背を向けて逃走した。可愛らしいソプラノボイスで叫びながら。
向かった先は校内。彼の焦った頭は建物の中に逃げたほうが振り切れる確率が高いと導き出した。冷静なら空へ逃げることを考えたのだろうが、彼はヤンキーにこうやって襲われることなんて人生でなかったものだから、平静でいるのは難しかった。
そして取った行動は、しっかりと裏目に出る。
「に、人数、増えてるぅぅ……」
自分を追う声、見た数が確実に増えている。それは当然だ。ヤンキーたちがグラウンドにすぐにやってきたのは、ここを拠点にしているからだ。あっというまに追う声は十人近くまで増え、逃げ場所がだんだんとなくなっていく。
「っていうか、これ、逃げてるうちに上向かってるけど、逃げ場ないじゃん……」
走っていくなか思いあたってももう遅い。走り、逃げるなか、屋上に追い詰められた彼はヤンキーに囲まれる。
「逃げたって無駄だぜ魔法少女……なんでか知らねえが学校内に入ったのが運の尽きだ、ここは俺たちの庭なんだからよぉ……」
「最初っから飛んでりゃわかんなかったけどなあ、もうこっちは飛ばれてもいいよう準備してあんだよ……」
「あ、そっか、飛べばよかったんだ……」
飛べばいいことに今更気づいた彼。周りのヤンキーたちは硬化魔法をかけた野球ボールを持っていて、飛んだ彼女をノックか投球で撃ち落とす算段なのだろう。
万事休すか。ギュッと目をつぶってこれからの仕打ちに耐えようとする時生。バットを持ち襲いかかるヤンキーたち。
――そして、乱入者。
外から一度の跳躍で屋上にたどり着いたその人物は、持っていた武器で今まさに時生を襲おうとしていたヤンキーを一度に吹き飛ばす。
「え……何が、起こったんだ……?」
衝撃が来ないことに不審に思った時生は目をあけると、その人物を目に入れる。
それは、自分と同じような服装をしていた。違う所は、そのカラーリングがピンクだということ。
髪が短いツインテール……ピッグテールだということ。自分より少し幼児体形だということ。そして、持っているものがステッキではなく、持ち手に星がついた、野球バットになっていること。
「ったく……新しい魔法少女か。これはまた災難だな……」
「あ、あなたは……?」
「話は後だ。とりあえず全員潰すから待ってろ」
時生の問いかけに、ぶっきらぼうに答える桃色の魔法少女。天使のようなロリボイスとその口調がまるで合っていない。バットを持ち直し彼女がヤンキーたちのほうに向き直ると、ヤンキーたちは余裕そうなさっきから一転、緊張を引き締め直す。リーダー格の男が告げる。
「てっきりそいつがお前の新フォームで、堕ちきったんだと思ったんだと思ったが違うようだな」
「こんな一方的にやられる性格してねぇってことはお前らが一番わかってんだろ」
「それがありえんのが魔法少女じゃなかったか?」
「はっ」
軽い罵り会いの後、双方が動き出す。
「行くぞっ!!!お前ら!!!!」
「かかってこいオラァ!!!」
まずヤンキーたちは手に持っていた野球ボールを投球。魔法出現以前ならメジャー行けてたであろうレベルの速球が四方八方から繰り出される。
しかし、それに対抗する魔法少女の手は単純だった。
「ピッチャー返しだこの野郎!!!」
目にも止まらぬスピードで振るわれたバットは全ての球を弾き返す。逆方向に飛ばされた球は半数以上が宣言通りのピッチャー返し、ヤンキーたちの過半数を昏倒させる。
そのまま魔法少女はバットを握りしめ吶喊。ヤンキーたちとは比べものにならない身体強化によって一人ずつぶん殴り、一撃で落としていくさまはまさに無双であった。
「すごい……」
ただ守られるだけだった時生は感嘆する。魔法少女というのはこんなにも強いものなのかと。
惚れ惚れもしたし、自分もあんな強さを持てるようになるのかと期待してしまう。いや、そんな力を振るう場面は来ないでほしいのだが。
そうしている間にも一人ひとり倒され、残っているヤンキーはリーダー格の一人になった。同じように魔法少女はバットで胴体を殴り飛ばそうとするが、すんでで回避される。
「……?」
「おらよっ!!!」
カウンターとして振るわれたバールを回避し魔法少女はバックステップ、仕切り直すと問いかける。
「お前……避けんのかよ。スキル持ちか?」
「そうだ。俺のスキルは【スローモーション】。攻撃を避けるときの体感時間が増すのさ。さて、どうする?時間がかかるほどお前らは不利になるんだろ?」
スキル。その定義は体系化されていない魔法事象。
魔法はイメージによって具現化されるが、発動しやすい魔法と発動しにくい魔法がある。
異世界戦争でもよく扱われていた火、水、土、風の四元素論の魔法や身体強化、傷を癒やす回復魔法などは発動しやすい部類とされる。
逆に重力を操るだとか雷を起こすだとか、対象を性転換させるなどの発動しにくく、使用者が限られ体系化できないものはスキルと区別され、今もスキルを魔法にしようと各研究機関が総力を尽くしている。
そして、その生き残ったヤンキーは珍しいスキル持ちの人間。しかも近接戦において強い能力。これには桃色の魔法少女も歯噛みする。
「だ、大丈夫ですか……?」
「ああ。でも厄介だな……クソッ。使うしかないか。おい、ちょっと頭下げてろよ」
「え?」
「……魔法少女ミーティアブレイク・セカンドフォーム!!!」
距離を取った桃色の魔法少女がバットを上に掲げ、宣言する。そうすると彼女の体に変化が起こる。
まず、背中に白の天使のような翼が生え、スカートは膝までのロングに伸びる。そして最大の変化として持っていたバットが……全長五メートルほどの鉄骨と化す。
「いくら【スローモーション】でも、全体攻撃は避けられないでしょう!!!」
「……これは、無理だな」
宙に浮き上がった彼女は、さっきまでの身体強化をさらに超えるスピードで鉄骨を持ちヤンキーのほうへ突っ込むと、ヤンキーは躱せずにモロにくらい、吹っ飛び屋上から落ちていく。
魔法少女、大勝利である。
「……いやいや、落ちちゃったけどあの人死にませんか!?」
「大丈夫だ。あいつ、当たる瞬間跳んで勢い少し殺された。優れた身体強化なら落ちたところでせいぜい骨折」
「そ、それならいいんですけど……って、そうだ。助けてくれてありがとうございます」
「おう。しかし、魔法少女になっちまったのか。不幸なこったな……」
鉄骨をバットに戻し、”セカンドフォーム”を解除した桃色の魔法少女に時生は感謝の言葉を言う。あのままだったらきっとひどいめにあっていただろう。何かしらのお礼をしなきゃいけないなと思いつつ、先輩の魔法少女なら何か知ってるだろうと思って訪ねる。
「あの……俺、もともと男で、ステッキに触ったらこうなっちゃったですけど、元に戻る方法って知りませんか……?」
「
「……え?」
「男に戻る方法は、見つかっていない」
頭が真っ白になる、衝撃の発言だった。無い、無い?そんなことあるのか?しかも触れただけで変身して?混乱する彼に、さらに追い打ちをかけるように魔法少女が言う。
「そんな……嘘ですよね」
「嘘じゃない。さらに言うなら、魔法少女の力を使っている時間だけ、
「え……どういう、こと?」
「そのまんまだ。例外はあるが、男を好くようになって、男だったころの記憶が薄れていく」
「そんな……!?」
そんなの呪いのアイテムかなにかじゃないか。時生は愕然とした表情をする。
そんな彼を見て、魔法少女は少し困ったような顔をする。
「まあ……とりあえず俺の話をしようか」