魔法文明が発達し始めて十何年か。そのあおりを受けて、従来の町工場なども潰れたところがいくつもある。御剣区内にある青葉廃工場もその一つだ。
普段そこでたむろっている舞由野のヤンキーたち。今どきみないような変形学生服であるボンタンを履きこなし、夜だというのにサングラスをする。それはまさしくチンピラという他無い、ある意味希少な存在であった。
その中で金のモヒカンをしたリーダー格の男が、声をあげる。
「それじゃあ、対慧海高校、決起集会始めっぞ!!!」
叫ぶと、うぇーい!!と二十人近いヤンキーが叫び、一気に飲み物を開ける。ちなみに開けた飲み物は未成年らしくサイダーの缶である。
騒ぎたて、楽しむ傍ら、武器たるバットだとか火炎瓶だとかをしっかり用意して、近くに置いておくのは忘れない。不意をつかれるのが一番ダセえというモヒカンの言。実際スキル持ちでもなんでもないヤンキーなら数の差があるゆえ不意をつかれなければやられないし、いい選択ではあった。
――瞬間、超高速で向かってくる蒼い星。それがチンピラの一人の脇腹に突き刺さって吹き飛ばす。
相手が、魔法少女たちでなければ。
★
時刻は、少し前へと巻き戻る。
魔法少女衣装に身にまとった時生、デイリーフォームで革ジャン装備の虎次郎、そしてこのチームの情報担当・文人が裏路地に潜んでいた。
「……本当に、大丈夫なんですかね」
「大丈夫だ。お前の力を見せつけてくればいい。それに文人もいるしな」
「ッス。とりあえず廃工場に近づいて来るであろう慧海のヤンキーを潰すッスよ」
乱闘中に割って入るのと、どっちがいいか考えたンスけどね、と文人が語るが、結局のところの作戦はこうだ。
まず、裏路地から通りがかった慧海のヤンキー少数を不意打ちで潰す。星型弾ならおそらく余裕だろう、とのこと。
そしてそのまま廃工場に行き、文人と時生で先制攻撃。イレギュラーが発生したら虎次郎が割って入る。
「……やっぱ怖いか?」
虎次郎が優しい笑みを浮かべる。たぶん、虎次郎はここで時生に自信をつけさせたいと思っている。だから今回は後方にいることにしたんだろう。そんなことが時生もわかってるからこそ、ここで頑張らないといけないと、自分に言い聞かせる。甘えないように。
「……頑張ります!」
「そうか?なら良かった。これが俺達の変身解除をするための戦い、その初めての戦闘だ。どうなっても俺がなんとかするから、気張ってけ。あと、文人は強いからな。信用しろよ?」
「わかりました!」
ステッキを、強く握りしめる。大丈夫だ、信じろ。
「……来るっす」
文人が告げる。なんでわかるんだろう。いや、余計なことを考えてはいけない。行く。
例のヤンキーが、表の道路に見える。虎次郎が、叫ぶ。
「ゴー!!」
瞬間、文人がどこから取り出したのかトリモチのようなものを投擲する。それを踏んだ先頭のヤンキーが前にこけ、周りの仲間っぽいのが気遣う。
よし、いまだ。狙いを確かに、正確に!
ステッキ上部、宙に浮いた星型弾が時生の意思に従って超高速回転、そのまま横に一回転して、投射する!
「シュートッ!!」
前にコケたヤンキーの脇腹に星型弾は突き刺さり、霧散すると同時にトリモチと仲間の一人ごと吹っ飛ばす。
残りはおそらく後三人、合計五人って文人がそう言っていた。こちらを伺った瞬間に第二投だ。ステッキを握る手の汗がヤバい、いやそれはどうでもいい!
再度生成された星型弾、間髪を入れずにもう一発!!
「シュート!」
放った一撃は、こっちに向かおうとしていたヤンキーのみぞおちにしっかり突き刺さる。
リロードに時間がかかる。後二人、ステッキの星は回転を始めてる。大丈夫。こういうときは。虎次郎の言ってた通りに。
『引き撃ちは長射程の基本だ。下がりつつ狙え……え、知ってる?FPSゲームでもそうだった?そうなのか……』
あの時はちょっとしょんぼりしてて可愛かったな、って違う違う。下がりながら、時間を稼ぐ。もっと速く回転が完了すればいいのに。
もう一発。裏路地に入りかけてたやつに。狙え。腹なら致命傷にはならないはず!
「シュート!」
しっかり狙い通りに入る。吹っ飛ぶ。よし、いける。大丈夫だ。自分自身に言い聞かせる。最後最後、って……
その時、時生の目に入るのは、最後のヤンキーが魔法を使っている姿。金属性に連なる硬化魔法をボールに付与し、身体強化で投げるこのあたりのヤンキーの常套手段だ。
リロードが終わらないうちにそれが投げられる。それが、蒼の魔法少女の胸に――
「〜〜っ!!!」
刺さらない。間一髪、身体強化で体をひねって避ける、が体勢が、だめだ、転ぶ。まずい!
前に向かって地面に倒れる。虎次郎が叫ぶ。
「文人っ!!!カバー!!」
「了解ッス!!」
文人はどこからか取り出したバスケットボールを相手に向けて全力で投げる。それは顔面に突き刺さり、最後の一人を沈黙させる。
「……よし、大丈夫ッス」
「よくやった文人、で、大丈夫か?」
虎次郎が、時生に向かって手を差し出す。時生はそれを手に取る。
「……最後、決めれなかったです」
「大丈夫だ。初めてでこれはいい。最初はみんなこんなもんだ」
「今、すごい、心臓バックバクです。死ぬかとおもった……」
「あっはっは。いや、わかる。手すごい汗だもんな」
「言わないでください……」
そのまま、手を引かれて立ち上がる。
「さて、次が本番だ。この調子で、いけるな?」
「はい!」
「それじゃあ、ミケに連絡入れてこいつらどうにかしてもらうっす。俺達は廃工場に向かうっすよ!」
裏路地から、ヤンキーたちを置いて出る。そうだ。浮かれるな自分、と自分を律して、三人は動き始めた。
目が覚めるヤンキーたち。不思議と直ってる傷。そして頭の近くには「次は無い」という書き置きが……
Q.文人どっから物取り出してんの?
A.そういうトレジャーです。詳しくは次回。