俺氏魔法少女、変身解除できないんだが。   作:蒼添

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買い物回です。よろしくおねがいします。


その18/ショッピング・ダイジェスト

中央区、千真田駅。ショッピングセンターである駅ビルが立ち並び、老若男女だいたいの人が必要なものはここで揃うと思われるこの市の中心である。がやがやと人が行き交うなか、桃色と蒼色と茶色の美人三人組はどうするか話合っていた。と、いっても。

 

「どっか行きたい場所とかある?」

「いや、ねーけど……」

「俺も無いですね……」

 

もともとゲームと漫画とライトノベルぐらいしか趣味が無く、服とかも全然わからない時生と、欲しい物があったらたいていのものはミケの【即日配達】でどうにかしている虎次郎である。わざわざ駅ビルに来ても……という感じはあった。

 

「っつーことで、今日はお前に任せるけど、明日羽。なんか色々あんだろ?付き合ってやるよ」

「そうですね。俺も……まあ、一応元男ですし、女性の買い物には付き合いますよ」

 

そういうことでプランニングを都合の良いことを言って丸投げする魔法少女二人。といっても二人とも買い物が面倒くさいわけではない。時生はこの虎次郎の幼馴染たる彼女と交流を少ししなければいけないと思ったし、あの(変な肩書がついてるとはいえ)葉雪学園のお嬢様との行動で、少しドキドキしている。虎次郎も普段魔法少女しているせいで彼女との時間が取れていないのもあり、埋め合わせということもあった。そしてなんだかんだこの幼馴染のことを頼れる良いやつだと思ってたからだ。

 

「――ふぅん?つまり、好きに予定立てていいんだ?」

「あ、ああ」

「いや、大丈夫ですけど……」

 

明日羽が肉食獣のように妖しい笑みを浮かべる。その表情に修羅場をくぐった魔法少女たちが萎縮する。この威圧感はなんだ、と。

――虎次郎と時生は油断していたのだ。虎次郎は彼女とショッピングなんて久々だったし、ましてや時生に至っては初対面。

彼らは知らなかった。

彼女、吉里明日羽が葉雪学園で身につけたバイタリティのという物を。

そして、女性の買い物時間の長さというやつを。

 

 

 

 

三階。下着ショップ。

 

「え、ちょっと待ってください。まだ覚悟があんまり」

「いやいやいや、これはTSFの嗜みってやつでしょ?この女友人ポジションに立てたことを光栄に思うわ」

「そういうところの造詣も深いんですか明日羽さんは……」

「ティーエスエフ?」

「虎次郎先輩は知らなくてもいい言葉です。って、え、まじっすか、そんなに腕引っ張んないで」

「――店員さーん!ちょっとこの子のあれこれお願いしてもいいですか?」

「ちょっと先輩、止めてください、ってなんですかその死んだ目!?らしく無いですよ!?」

「……頑張れ」

「先輩いいいい!!」

 

 

 

 

同じく三階。香水店。

 

「魔法少女はいい香りがするべきだと思うんだよね」

「いやそんな真顔で言われましても」

「必要か……?別に戦ってる最中に匂いなんて気にしないだろ……?」

「っかー!これは男の考えですよ。さてはシャンプーとかにも気ぃ使ってないな?」

「いや、まあ……」

「ミケに頼んではいるがな」

「あ、そっかミケちゃんいるんだっけ。なら安心か。まあ、ともかく買っていきなさいよ!嗜み嗜み!なんなら奢るし!」

「奢る?」

「ああ、こいつの実家わりとデカイ……そうじゃなきゃ葉雪は似合わなすぎるだろこいつに」

「なるほど……まあ、試してみますか。匂いとか」

 

 

 

 

四階。洋服のセレクトショップ。試着室前。

 

「先輩……」

「……どうした、笑えよ」

「いや……ええっと……」

「そうよね!似合ってるよね!その()()()()!」

「ああああああ!!!!」

「いや、まさか予想つきませんよ……じゃんけんで5回連敗したら着て買ってやってもいい、でその通りに実行されるなんて……」

「わたし、正直運いい方だから、ね」

「そのうちスキルにでも昇華されそうですねそれ……」

「なんでこんな目に……日頃の行いが悪ぃのかな、俺……」

「さて、時生ちゃんも、やろうか。じゃんけん」

「え゛」

「……仇を、とってくれ」

「もちろん着させられなかったらわたしがなにか好きな物をおごってあげよう。さっきと同じルールね」

「……わかり、ました。やってやりますよ!!」

 

 

 

 

五階。(オタクに優しいほうの)本屋。

 

「まさか、泣きの一回での追加条件、”着て帰る”まで達成されるなんてな……はは……」

「虎次郎先輩が今まで見たこと無いレベルに弱ってる……」

「まあ、まさかここまで勝てるとは思ってなかったわ。いやあ眼福眼福。で、時生くんもゴスロリ似合ってるよ♡」

「……まあ、普段の戦闘用ファッションよりはマシかなって。で、次は?」

「本屋。ちょっと欲しいBLとNLとGLの新刊があってね」

「全部じゃないですか。っていうかやっぱ人多いですね……。俺も何か買おっかな……」

「こういう場ほんとうによくわかんねえなあ……」

「まあ、先輩はそうですよね。はぐれたらアレですし、一緒に行動しましょうか」

 

 

 

七階。飲食店前。

 

「百合コーナー見てたら周りの目めっちゃ惹いたんですけど」

「まあそんな格好してたら、ねえ?」

「俺らは……百合じゃ、ない……」

「百合の意味を知った虎次郎めっちゃ目が死んでる……うける」

「ウケるってなんだよ!?さすがにもう結構辛いんだが!?」

「まあまあ。ちょっとお昼にでもしましょうか。ほら、あ・そ・こ」

「え……ここ、店内に入るとき呪文を言う必要があるっていう超重量級ラーメン店……」

「明日羽……お前、太るぞ?」

「野菜たっぷりだし、大丈夫大丈夫。さ、行きましょ!」

 

 

七階。休憩用ベンチ。

 

「し、しんど……」

「大丈夫ですか……?先輩」

「きっつい……」

「いやあ、見栄張って普通盛り頼むから……小食だって自覚したほうがいいよ?」

「俺は普通盛り完食できましたけど……明日羽さん大盛りでしたよね?その細い体のどこにそんなのが入るんですか……」

「はっはっは。企業秘密、乙女の秘め事ってやつだよ。そこをつくのはお姉さん感心しないぞ?」

「ええ……というか、ほんとに大丈夫ですか先輩。なんならもう帰ったほうがいいのでは……」

「うん。さすがにわたしもワガママやりすぎちゃったかなって感じはあるし。今日はもうお開きでも――」

「いや……駄目だ。せっかく時間作れたんだからな。無駄にするわけにゃいかねえだろ。まだまだ楽しみきれてねえだろ、明日羽?」

「せ、先輩」

「虎次郎……!」

「だから、まだ連れてってくれんだろ?」

「……うん!」

 

 

 

 

夕方。早い晩ごはんも食べてもいいかなと思える午後六時。時生と明日羽はいっぱいの荷物を持って同じ電車に乗っていた。

虎次郎はもともと中央区のマンション住まい。彼らとは速い段階で別れていたのだった。

 

「そういえば今気づいたんですけど、今日虎次郎先輩なんで明日羽さんと一緒に来たんですか?」

「ああ、もともとうちで遊ぶ予定だったんだよ。午前中遊んで、午後は外に出る予定だったんだけど、時生くんの話が出たからね。誘ってみようと」

「なるほど。あと……ちょっと、聞いていいですか?」

「何?」

 

時生は少し悩む。でも、親しい人に聞いておいたほうがいいだろう。

 

「あの……幼馴染、なんですよね。なら、なんで、虎次郎先輩はあの”アジト”で暮らしてるか、わかりますか?」

「……うーん。どう話せばいいか。まず言えるのは、虎次郎の両親がどちらも亡くなってるってことはないよ?」

「あ、そうなんですか。ならなんで……」

「コンプレックス」

 

明日羽が、言い切る。

 

「非魔法的、比喩的な意味での呪い。もしくはプレッシャー。気づいてるでしょう?ヤンキーとかやるにしては、彼は粗暴さが足りなさすぎる。優しすぎる。彼がそれをやってるのはまるで義務みたいだ、って」

「――」

「まあ、根が深い問題だし、今は気にすることは無いよ。まあ、しいていうなら、虎次郎が打ち明けてくれるまで、そばにいてやってね、って話。よろしくね?」

「……はい」

 

時生は、虎次郎と話すようになってまだ早い。幼馴染にも解決できない問題を、解決するには時間が足りなさすぎる。けれど、寄り添ってやりたいな、と思った。

 

「……少し、しんみりしちゃったね。そうだ。連絡先交換しとこ。これからちょっとお世話になる可能性もあるしねー」

「……よろしくおねがいします、明日羽さん」

 

電車を降りて、少し当たり障りのない話をしながら駅構内を出る。これから話すのも多くなることだろう。

 

「あ、わたしこっちだから。気をつけて帰ってね!」

「そちらこそ。今日は楽しかったです。また!」

 

荷物を持ったまま手を振って、別れる。一人になって、ふう、と少し息を吐く。

 

「面白い人だったなあ……けっこう楽しかった」

 

まあ、性根が内向的なのもあって疲労は凄まじいんだけど、と思いながら歩いていると、コンビニが横に見える。やはりこの町は治安が悪いのか、たむろしているヤンキーが見える。まあ、日常茶飯時でもあるし、時生はこのまま無視して歩いて行こうとする。

と、違和感に気づく。ヤンキー、おおよそ三人ほどだが、こっちに近づいてきてはいないか。

 

そのまま距離を詰められたのか、後ろから声をかけられる。

 

「おい。そこの姉ちゃん。これから夕飯でもどうだ?」

「……お断りします。この時間にナンパですか?」

 

距離を取りながら、睨みつける。が、そこにいたのは、予想外の男。

耳に三個ずつ着けたピアス。金髪のツーブロック。濃いひげ。崩した、学ラン。目に覚えがあった。

 

「いや、これは口実ってもんだ。なあ、話そうや……魔法少女」

 

慧海高校現番長。西浦哲夫がそこにいた。

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