そして週が開けて、火曜日。決戦前夜。時生たち四人は決戦場所である青葉廃工場に来ていた。目的は、というと。
「ふふふ……ここに符、光魔法でステルス搭載した魔法地雷に、作り置きしていたグレネードを誘爆するように配置して……ああ、戦闘用に他の物も点検しておかなくちゃいけないッスね……」
「めっちゃイキイキしてる……」
「そうですわね……」
主に文人による下準備である。開幕先制打撃を与えるため、入り口付近にあらゆる魔法トラップを設置している次第だ。
時生たち残りの三人はそれを眺めたり、作戦を考えたり、雑談をしたりしている。
時生も虎次郎もズボンが汚れることをいとわず地面にそのまま座っている。虎次郎はあぐらで、時生はなぜか体育座りだ。地面はかなり冷たい。
「あのー、道具作成魔法って体系化されてる中にありました?」
「無い……ですわね。魔道具作成とは使い捨てかそうじゃないかでかなり違いがありますし、ね。ある種の”秘伝”かもしれないですわね」
「まあ、【気配遮断】とか《インベントリ》とか、初めて会ったときから持ってたしなーんか裏の多そうな奴ではあるわな。けど、本人が言い出すまでは触れないことにしてるからな」
鬼無瀬文人。彼に何があったのかはわからない。けれど、今罠を作ってニヤニヤしている彼は本当に楽しそうなので、なんか、良かったな、という気分になる。その外道っぷりは個人的にはちょっと引くけれど。
「なんか飲みます?缶コーヒーぐらいなら【即日配達】いたしますけど」
「ああ、じゃあ甘いやつもらっていいか?」
「じゃあ俺も、微糖で」
そう言うと、虎次郎と時生の手元に注文通りのコーヒーが来る。
電気のついていない天井。三人と一匹だけの広い空間。この前まであのモヒカン達と争っていたとは思えない静粛。
プルタブを開けて、一口飲む。
「……なんだか、嵐の前の静けさって感じですね」
「そうだな。まあ嵐は俺達が起こすんだが」
「それもそうですね」
明日が、決戦である。これに限らないけど、なんかイベントがある前の日の現実味の無さ、それを今強く感じている。
「なんだろう、今コンサート前のアイドルみたいな気分です」
「どんな例えだよ。でもまあ、わからんことはねえな」
「そうですわね。ちゃんと事前に購入したアイテム大丈夫かしら……」
「ああ、そういえばアレ買ったんだっけ?ミケ」
「買いましたわよ、アレ。まったく自分で言うのもあれですが、スキルというのは反則に過ぎますわね」
「あれ、とは?」
「銃ですわ」
「えっ」
時生が固まる。一応現代日本には銃刀法がある。まあ魔法ってものがある時点で形骸化している感じはあるが、それでも法は法。購入は難しいはずだ。
「【即日配達】の特徴は金さえあれば文字通りなんでも買えることですわ。まあ、今回買ったのはただの拳銃なんですけどもね。おおっぴらに見せてれば捕まりますけど、幸いわたしたちには……」
「《インベントリ》を持つ文人がいるってわけだ」
「うわぁ……犯罪じゃないですか……って私闘してる時点で今更ですかね」
「そうだな。まあ、使わないに越したことはねえけど」
はっはっは、と虎次郎が笑う。その笑い方はやはり男っぽいところが出ていて、なんだか見た目とのギャップ的なのを感じて少し可愛いなと思う。
「しかし、こんな速くに決戦のアレ出してて大丈夫だったんですか?」
「大丈夫だ。俺達は三日四日で簡単に強くなれるわけじゃねえし、あの塙?だっけっていう職員もいつ哲夫との縁が切れるかわからん。善は急げってやつだ」
「なるほど……」
例のショッピングの後の遭遇はその日のうちに伝えてあった。その時はかなり虎次郎から心配されたし、大丈夫だったと信用してもらうのにも時間がかかった。しかし今度の戦いは大丈夫なのだろうか。
「不安か?」
「まあ……」
モヒカンに【チームワーク】が生えただけであそこまで苦しんだのだ。それにトレジャー持ちで荒事慣れ、不安にならないわけはない。
「でも、不安がってても虎次郎先輩が言ってるみたいに、これから急に覚醒、みたいなことはできないですから。やれること、やるだけですよね」
「そうだな。まあ、案外楽な戦いになるかもしれんぞ?文人の今やってるアレが上手く成功すれば一気に戦力減らせるし、な」
「なんだかそう言われると逆に不安になってくるような……」
「何でだ!?」
「いや、虎次郎さんはちょっとうっかりやなところがありますので……ね?」
「ほら、ミケもこう言ってますよ?」
「ぐぬぬ……」
自分を舞由野戦に送りだしたはいいものの、いざ苦戦し始めると軽く泣きかけるところとかあるしなあ、と思う。まだ会って日は浅いがミケの言ってることはわかる。
そんなことを話していると、廃工場の扉が開く。
「ちわっす。うまいことやってますかーって、げ」
「何なんスかこっち見るなり嫌な顔して」
「そりゃするに決まってんだろ。お前の戦法まだ俺根に持ってっからな」
「あんぐらい普通だと思うンスけどねえ」
モヒカン、山田一清。今回の果たし状づくりにも協力してくれた、最初の敵である彼である。夜だというのにサングラスをしている。
「まあ、いいや。ちょっとアイサツしてえしここ通してくんない?」
「いいッスよ。今から指示した場所通ってくださいッス。さもなくば爆発するッスから」
「こっっわ」
手で道を示されながら、恐る恐るつま先立ちで道を通っていく山田。
「あ、そっから先はもう特に無いっすよ」
「わかった……ヒヤヒヤしたなここ……まあいいや。お三方、ちわっす。どうにかなりそうっすか?」
「おう。どうにかな」
「なりそうですわ!」
「おお、それなら良かった。ミケさんも相変わらず可愛らしいっすね。こっとはちゃんと果たし状送りました。で……」
時生が、少し固まる。これボコった相手なのに、気まずくはならないんだろうか?と。治ったが、怪我をさせてしまったし。会うことが無いならそれでよかったのだが……。心情を汲んだのか、山田が喋り始める。
「あー……別に気にしなくてもいいんだぜ?この世はだいたい勝った奴が正義。負けた奴は自業自得。そんなことはヤンキーやってんなら基本だしな。むしろミケさんに治してもらっただけありがてえし、あのいけすかねえ哲夫の野郎倒してくれんだろ?むしろ恩に着てるわ」
「いや、でも……」
「あー……そうだな。ゲーム。俺らの戦いはある種のゲームだって思えばいいさ。怪我覚悟の、な」
「……なるほど?」
「終わった後は握手、みてえなあれだ。まあ戦闘があまりにもアレだと根は持つけどな!」
あいつみたいに、と山田は文人のほうをチラ見する。なんと返したらいいのかわからずに苦笑いするが、なんとなくそういうものなんだな、と理解したような、異文化を垣間見たような感じだった。
「わかった。え、えーっと、よろしくおねがいします?」
「別にタメ口でいいぜ?お前は俺に勝ったんだし、俺一年だしな」
「同学年!?え、じゃあ、よろしく?」
「おう。よろしくな、時生」
ぎこちなく返答すると、山田がニカっと笑う。こういう所地のコミュ力が違うんだよなあ、と実感した。あとあのリーダーシップから勝手に上級生だと思い込んでいた。
「で、虎次郎さん。本当にウチから増援はいらないんだよな?」
「おう。スキルやトレジャー持ちとそれ以外は結構実力に差が出るからな。たぶんいても一蹴されるってところだ」
「十分な自信っすね。まあ、ウチのヤンキーが弱いのは事実だけど」
それじゃあ、と言って山田が伸びをする。
「顔見せもしましたし、帰りますわ。最後に、あのとき負けたときにも言いましたけど――負けんじゃねえよ」
「おう。任せとけ」
虎次郎が、力強く答える。たぶんその気持ちは作業している文人も含めて一緒だった。ふっ、と笑って山田は背を見せて入り口のほうへと去って行く。が。
「ん……?あっそこ踏んだらダメッスよ!」
「え?」
瞬間、小規模な爆発。山田は軽く吹っ飛ぶ。転がった所に文人が叫ぶ。
「何やってるンスか!大事な一発なのに!さては鳥頭ッスか!?」
「うっせえ!やっぱお前俺嫌いだわ!あの時生の嬢ちゃんを見習えよ!」
「はあ!?勝てばいいってさっき言ってたッスよねえ!?」
「ってめえ!聞いてたのかよ!?集中しとけ!!」
一気に騒がしくなる工場内。ミケが動く。
「……ちょっと怪我してたらアレですし、見てきますわ」
「おう、いってきな」
「……なんだか、笑えますね。明日戦うっていうのに」
時生が、隣にいる虎次郎にしか聞こえないような音量で喋る。
「おう。いい仲間たちだろ?人数は少ねえけどな」
「……哲夫の所は、やっぱりこうじゃないですよね」
「まあ、あいつの人格的に、そうだな」
「なら、やっぱりこっちに来てよかったです。俺」
微笑む。この前誘われたときの待遇っていうのは良かった。それこそ論理的に反論できないほどに。
だけれども、自分はこういうののほうが好きだ。そう、思った。
「なんか、照れくせえな」
「そうですね」
笑いあう。決戦は、明日。
次から多分クライマックス戦闘です。