鉄骨を横に薙ぐ。が、それは下に潜られ、躱される。それが続くなか、虎次郎は思考を回す。
鉄骨とバールでは一目瞭然な武器の間合いの差がある。それを使うことで相手、星澤を近づけさせないことはできている。
しかし確実に全て躱される。【スマッシュ】なんて使いようがない。明らかな千日手。
(……試してみるかな)
少し跳んで、下方向に角度をつけて薙ぎ払う。星澤は少し目を見開き表情を険しくするが、ジャンプすることで難なく躱される。
これはもう、どうしようもない。セカンドフォームを維持した状態で戦っても、ダメージを与えられないだろう。
相性が悪すぎる。このままだとただ人格矯正を受け続けるハメになる。
「……セカンドフォーム、解除」
持っていた鉄骨はバットへ。スカートもミニになって背中の翼も消える。
「戻したか。なら近づいて戦わせてもらう」
「……来いよ!」
正直さっさと倒して西浦と塙に打撃を入れたい。が、思ったより強い。虎次郎は歯噛みする。
表情には焦りが浮かぶが、できることは試しながら戦うだけ。
だいたいのスキルには発動条件やデメリットが存在する。ならあの【スローモーション】の弱点は何だ。
近づいてきた星沢に対してバットの連撃を入れる。大振りなさっきまでとは違い、手数を多くして右、左と振るい続けるが、全て躱されていく。
「発動できる時間に、間隔があると思ったが、違うか……!」
「【スローモーション】にクールタイムは無い。だから近接戦なら無敵だ」
「そんな都合良い訳ねえだろ!!」
星沢はニヤっと笑う。もちろん無敵発言はブラフだ。気にしてはいけないし、弱点を戦いの中いちいち言うやつはいない。
振るわれたバールを避け、応戦しながら考える。なぜ、あの屋上では当たった?
たぶん、単純だ。避けられようが無い全体攻撃なら避けられないだけ。
なら、なんで今は避けられている?相手の実力が良くなったのか?違うだろう。
「それなら、こういうのはどうだっ!」
「――っ!?」
横に振るったバットをそのまま放り投げ、左脚で腹に蹴りを入れる。それは寸前バールでガードされるも、大きくノックバックさせる。
その隙にバットを拾い上げ、仕切り直す。これで理解できた。
シンプルな話、意識外からの攻撃には弱い。
攻撃を食らうときに自動発動しているのではなく、マニュアル。極端な話、不意打ちなら倒せる。予想外の攻撃ならガードされるが当てることはできる。
なら、どうとでもなる。自分の仲間は、そういうのが得意だ。
「……何笑ってんだ」
「いやいや、勝ち筋が見えてきただけ」
ただ、後ろに控える彼らが怖いが。どうにでもなるだろう。
★
三分後。
文人のグレネードが爆発音とともに最後の集団を打ち倒す。
その瞬間、全員が動き出す。
「よし、全員倒しましたわ!行きますわよ!」
「わかった!チャージ……」
ミケが叫び、時生がそれに追従する。
「文人!!来い!!」
「っ……まずい、か?」
虎次郎が仲間に向けて叫び、星沢が苦渋の表情を浮かべる。
「……【気配遮断】」
文人が、消える。
「それじゃあ、塙サン。作戦通りに」
「わかりました。やりましょう」
西浦と塙が動く。
状況が動く。
全員がわかっていた。ここが、勝負の分水嶺。
★
ミケと、西浦が駆ける。来る方向は違えども、目指すのは同じ。虎次郎と星沢の所だ。
西浦は何かの魔法を自らのバッドに付与しながら、ミケは西浦に比べて長い距離を脚力を強化しながら向かう。
三メートル、二メートル、一メートルと彼らが近づきながらも、星沢と虎次郎の殺陣は終わらない。
星沢の注意をそらさないために、虎次郎はこれまでで一番の連撃を加えていく。
蹴り、殴り、フェイント、今までの人生で培ったその喧嘩殺法を遺憾なく発揮する。
星沢はそのラッシュに対して防戦出来ていた。が、それは【スローモーション】を全力で使っての話。
他からの横槍が確実に入るというのに、意識が他に割けない。その現実に、星沢の表情を苦いものに変える。
そして、虎次郎の期待通りに。
――文人が、動く。
小規模の魔法グレネード。そのキーワード遠隔爆破式のそれを、文人は星沢の足の踏み込みに差し込むように投げたのだ。
【気配遮断】による攻勢は絶対に反応することができない。そう、それは、この場にいる全員が
「――【看破】」
そうである、はずだったのに。
どこからか来た風魔法によって、投擲したモノの軌道がブレる。
文人が目を見開く。それは今まででありえざる光景だったから。
【気配遮断】は発動さえすれば絶対に妨害されない。それを崩した。誰が、やった。
その瞬間、文人はあることに気づく。
目があった。あの白衣の異形に。
丸眼鏡の向こう側、細長い目が愉悦に染まる。
しかし、だ。ここまで来たらやるしかない。
ベストとは言えずともベターに。
本来の軌道からは逸れた爆弾は、起動するしかない。
「起動っ……!」
瞬間、二人を巻き込んでそのまま爆破、虎次郎の小さな体と星沢の体が同時に宙を舞う。
星沢は虎次郎の連撃に意識を逸らされていた。けれど、虎次郎は仲間のならここでやってくれると予測していた。
それゆえ、両者の反応速度には、違いが出る。
「ーーセカンドフォーム!!!」
翼を生やす。その翼は飾りではない。
セカンドフォーム由来の空中遊泳術。それは虎次郎の体をすぐに安定させ、鉄骨を振るう準備を整える。
空中ならば星沢は絶対に回避行動は取れない。どう【スローモーション】を発動しても逃れられない。
ここで、流れを、変える。横の大振りを、叩き込む。
「【スマッシュ】!!!」