星沢は、あの魔法少女にぶっ飛ばされたときのことを思い返す。
夜が更け、グラウンドに大の字で倒れる自分。身体強化もあって致命的にはなってないけれど、全身が痛くて起き上がれない。
このままだと親に怒られるな、と思いながらも動けない。いっそのこと寝るか。
ああ、でもあの鉄骨は初見で避けられるわけないだろう。どうすればよかったんだ?下に潜り込むとか?
次は負けない、と目をつぶり頭の中で対策を練る。
「おーい、きみ。ちょっといいかな?」
「っ!?」
警察の補導か!?と思いはっと目を開ける。しかしそこにいたのは警官ではなかった。
まさしく、神秘的、というほか無い人物が、しゃがみこんで星沢を見ていた。
「……誰、だ?」
髪の毛は銀色。目は紅い。男とも女ともとれないような、けれど若く美しいことは確かな見てくれ。その声も高いような低いような、よくわからない。
服装は下に履いてるのはジーンズだろうが、上に着ているものは覆う大きな白いローブのせいでわからない。
まるで厨ニが描いたチート主人公のような、もしくはメアリー・スーのような、そんな何かが居た。
それは微笑み、星沢の質問に答える。
「だれ、か。うーん……あえて名乗らずに行こう。そうだな、ぼくのことは”部長”。そう呼んでくれたまえ」
「何を、しに来た?」
「お節介かな。ぼくはそういうのが好きなんだ。ちょっといいかな?」
そういうと、”部長”は星沢の腹に手をかざすと、急に彼の体にある痛み、それどころか倦怠感から眠たさ、さらには古傷までが消えていく。
「うんうん。治癒魔法は久しぶりだけど、使えるものだね」
「……何が目的なんだ?本当に」
起き上がってもう一度訪ねる。古傷すらも癒やす治癒魔法なんて、正直尋常ではない。それだけで高給取りになれるレベルだ。それをただで振る舞って、一体何がしたいっていうのか。
「ぼくがきみにしてほしいことはただひとつ。ここに落ちていたこのペンダント、それをきみがひろって身につける。それだけでいい」
「……は?」
「ほら」
”部長”は近くにあったそれを持ち上げ、見せる。それは銀のチェーンにダイヤモンドのペンダントトップがある、とても高価そうなもの。
「……いやいやいや、俺のじゃない!こんな高そうなやつ――」
「そういうとおもった。だからぼくはここに来た。いいかい、星沢太郎。これはきみが、きみの思いで生み出したトレジャーなんだ」
「……え?」
”部長”は訳知り顔でうんうんとうなずく。なんで、こいつは名前まで知っているのか。というか、トレジャー?
「いやあ、ここで来なかったらきみは訝しんで拾わないつもりだったろう?よかったよかった」
「……本当に何が目的なんだよ」
「そうだね。とりあえず今の、喫緊の所、きみに出会った目的は」
目の前にいるものの底知れ無さに寒気がしながら、訪ねると、”部長”はニヤッと笑う。
「――魔法少女を苦しめてほしいのさ」
★
「――は?」
千載一遇の好機、【スマッシュ】を入れたとき、虎次郎はまさしくありえないものを見た。
振るった、その一撃。絶対に外していないし外さないその一撃が、当たっていない。
いや、違う。
「すり抜け――?」
星沢がニヤッと笑う。
彼があの日、手にしたトレジャー。触れてみて直感的に理解したその名前は《無敵時間+1》。
効果は単純。念じると0.4秒間だけ攻撃をすり抜けることができる。
【スローモーション】との併用なら、回避できないものは無い。それをこの大一番で、出した。
虎次郎が呆然とするなか、彼の体は【スマッシュ】の後隙の中空中で動けない。
そこに追撃を入れようとするのは、金髪の男。
西浦は土球を生成し、それをノックで虎次郎に打ちこもうとするが、
「シュート!」
「っち……」
向かってくるのは蒼い星に放たれるのを妨害される。その隙に虎次郎も空中で身を立て直すが、星沢も着地。西浦の元へ近づく。
「よし、じゃあ、やるぞ星沢ァ!」
「わかりました」
ミケの爪と虎次郎の鉄骨が迫るなか、西浦はその《バットバッドバット》を振るう。
「――え?」
「!?」
突然の凶行。ミケと虎次郎の頭が一瞬固まるが、その効果はすぐに出る。
《バッドバッドバット》。その効果は使用者が弾丸だと認識したものを、特定の相手のみぞおちに当てる。
狙われたのは、もちろん虎次郎でもミケでも、文人でもない。
「――嘘でしょ!?」
蒼色の魔法少女のみぞおちめがけて、星沢が頭から突っ込んでいく!!
この異常事態に対し、リチャージが間に合った星型弾を投射できたのは英断だった。
確かに軌道は一直線。迎撃弾を放つのは簡単だ。
しかし、相手が悪い。
向かってくる頭めがけて打ち込んだその蒼い星は、頭から胴をギャグのようにすり抜けていく。
「え、ええええ!?」
何がなんだかわからないうちに、その頭はみぞおちにささり、時生の華奢な魔法少女の体を吹っ飛ばす。
「――時生っ!?」
虎次郎は救援に行こうとするが、
「すいませんね。作戦通りと言われたもので。遅延詠唱、解除」
瞬間、虎次郎の行く手を阻むように天井までの土の壁が現れる。
どうしようもならず、そのまま、西浦のほうを振り向く。
「あの爆弾野郎は塙に任せた。あの蒼の魔法少女は星沢に任せた。んで、俺はお前とその猫を倒す。そういうふうに分断した」
西浦が嗤う。
「こっちの作戦勝ちだな、虎次郎。さあ、壁の向こうの決着が着くまで、ゆっくり戦おうか」
決まり手はケツバット