俺氏魔法少女、変身解除できないんだが。   作:蒼添

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その23/クライマックスフェイズ・作戦勝ち

星沢は、あの魔法少女にぶっ飛ばされたときのことを思い返す。

 

夜が更け、グラウンドに大の字で倒れる自分。身体強化もあって致命的にはなってないけれど、全身が痛くて起き上がれない。

このままだと親に怒られるな、と思いながらも動けない。いっそのこと寝るか。

ああ、でもあの鉄骨は初見で避けられるわけないだろう。どうすればよかったんだ?下に潜り込むとか?

次は負けない、と目をつぶり頭の中で対策を練る。

 

「おーい、きみ。ちょっといいかな?」

「っ!?」

 

警察の補導か!?と思いはっと目を開ける。しかしそこにいたのは警官ではなかった。

まさしく、神秘的、というほか無い人物が、しゃがみこんで星沢を見ていた。

 

「……誰、だ?」

 

髪の毛は銀色。目は紅い。男とも女ともとれないような、けれど若く美しいことは確かな見てくれ。その声も高いような低いような、よくわからない。

服装は下に履いてるのはジーンズだろうが、上に着ているものは覆う大きな白いローブのせいでわからない。

まるで厨ニが描いたチート主人公のような、もしくはメアリー・スーのような、そんな何かが居た。

それは微笑み、星沢の質問に答える。

 

「だれ、か。うーん……あえて名乗らずに行こう。そうだな、ぼくのことは”部長”。そう呼んでくれたまえ」

「何を、しに来た?」

「お節介かな。ぼくはそういうのが好きなんだ。ちょっといいかな?」

 

そういうと、”部長”は星沢の腹に手をかざすと、急に彼の体にある痛み、それどころか倦怠感から眠たさ、さらには古傷までが消えていく。

 

「うんうん。治癒魔法は久しぶりだけど、使えるものだね」

「……何が目的なんだ?本当に」

 

起き上がってもう一度訪ねる。古傷すらも癒やす治癒魔法なんて、正直尋常ではない。それだけで高給取りになれるレベルだ。それをただで振る舞って、一体何がしたいっていうのか。

 

「ぼくがきみにしてほしいことはただひとつ。ここに落ちていたこのペンダント、それをきみがひろって身につける。それだけでいい」

「……は?」

「ほら」

 

”部長”は近くにあったそれを持ち上げ、見せる。それは銀のチェーンにダイヤモンドのペンダントトップがある、とても高価そうなもの。

 

「……いやいやいや、俺のじゃない!こんな高そうなやつ――」

「そういうとおもった。だからぼくはここに来た。いいかい、星沢太郎。これはきみが、きみの思いで生み出したトレジャーなんだ」

「……え?」

 

”部長”は訳知り顔でうんうんとうなずく。なんで、こいつは名前まで知っているのか。というか、トレジャー?

 

「いやあ、ここで来なかったらきみは訝しんで拾わないつもりだったろう?よかったよかった」

「……本当に何が目的なんだよ」

「そうだね。とりあえず今の、喫緊の所、きみに出会った目的は」

 

目の前にいるものの底知れ無さに寒気がしながら、訪ねると、”部長”はニヤッと笑う。

 

「――魔法少女を苦しめてほしいのさ」

 

 

「――は?」

 

千載一遇の好機、【スマッシュ】を入れたとき、虎次郎はまさしくありえないものを見た。

振るった、その一撃。絶対に外していないし外さないその一撃が、当たっていない。

いや、違う。

 

「すり抜け――?」

 

星沢がニヤッと笑う。

彼があの日、手にしたトレジャー。触れてみて直感的に理解したその名前は《無敵時間+1》。

効果は単純。念じると0.4秒間だけ攻撃をすり抜けることができる。

【スローモーション】との併用なら、回避できないものは無い。それをこの大一番で、出した。

 

虎次郎が呆然とするなか、彼の体は【スマッシュ】の後隙の中空中で動けない。

そこに追撃を入れようとするのは、金髪の男。

西浦は土球を生成し、それをノックで虎次郎に打ちこもうとするが、

 

「シュート!」

「っち……」

 

向かってくるのは蒼い星に放たれるのを妨害される。その隙に虎次郎も空中で身を立て直すが、星沢も着地。西浦の元へ近づく。

 

「よし、じゃあ、やるぞ星沢ァ!」

「わかりました」

 

ミケの爪と虎次郎の鉄骨が迫るなか、西浦はその《バットバッドバット》を振るう。

 

()()()()()()

 

「――え?」

「!?」

 

突然の凶行。ミケと虎次郎の頭が一瞬固まるが、その効果はすぐに出る。

《バッドバッドバット》。その効果は使用者が弾丸だと認識したものを、特定の相手のみぞおちに当てる。

()()()()()()()()()。つまりはどういうことか。

 

狙われたのは、もちろん虎次郎でもミケでも、文人でもない。

 

「――嘘でしょ!?」

 

蒼色の魔法少女のみぞおちめがけて、星沢が頭から突っ込んでいく!!

この異常事態に対し、リチャージが間に合った星型弾を投射できたのは英断だった。

確かに軌道は一直線。迎撃弾を放つのは簡単だ。

 

しかし、相手が悪い。

 

向かってくる頭めがけて打ち込んだその蒼い星は、頭から胴をギャグのようにすり抜けていく。

 

「え、ええええ!?」

 

何がなんだかわからないうちに、その頭はみぞおちにささり、時生の華奢な魔法少女の体を吹っ飛ばす。

 

「――時生っ!?」

 

虎次郎は救援に行こうとするが、

 

「すいませんね。作戦通りと言われたもので。遅延詠唱、解除」

 

瞬間、虎次郎の行く手を阻むように天井までの土の壁が現れる。

 

どうしようもならず、そのまま、西浦のほうを振り向く。

 

「あの爆弾野郎は塙に任せた。あの蒼の魔法少女は星沢に任せた。んで、俺はお前とその猫を倒す。そういうふうに分断した」

 

西浦が嗤う。

 

「こっちの作戦勝ちだな、虎次郎。さあ、壁の向こうの決着が着くまで、ゆっくり戦おうか」

 

 

 

 




決まり手はケツバット

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