子供のころならあった。頭突きを食らうことなんて。普通の近所の子供との馴れ合いとしてのそれは遊びの範疇だった。
けれど、魔法少女になった今、実践で食らうと、ヤバい。
吹き飛ばされた時生は、目がチカチカしながらそう思う。ちょっと立てない。魔法少女体のおかげで意識は保ってるけれど、既にしてきた方――星沢は近づいてきている。
いや、でも、まあ。
近づいてきている恐怖は山田との戦いで慣れた。痛みも、虎次郎との”合体技”を運悪く食らったときよりかはマシか。
時生の少ないけれども得難かった経験が、彼の思考を元通りに引き戻す。やるべきこと、そしてやれることは、”魔法少女”らしいいつもの方法。
なんとか脚に力を入れて――翔ぶ。
「げっ……」
「……痛っ……シュート!」
そして、距離の差を活かして星型弾を投射。もちろん【スローモーション】を生かされて避けられるが。
これなら、倒せなくても、倒されることは無い。たぶん相手の遠距離である硬化投球とかもギリギリ避けられる。
安全圏に入った時生は、とにかく思考を回し始める。どうすれば、勝てるか。
★
殺すか?、と文人は目の前の白衣の怪人、塙を見て自問する。
相手は歴戦の魔法使い。たぶん魔法に関しては自分よりも圧倒的な格上。スキルの【看破】は自分の【気配遮断】を無効化してくる完全な
だけれども、油断している。塙自身が自分のほうが強いと思っているから。
唯一のアドバンテージは《インベントリ》。そこに入ってる拳銃を使えば、身体強化による頑丈さが低そうなこの相手なら、殺せる。
けど……それをしたら
悩んでいると、塙が喋り始める。
「いやあいやあ、その顔。その表情。見たことがありますよ。あなた、非童貞ですね?」
「……下ネタッスか?」
「いやいや、まさか。コロシですよコ・ロ・シ。
クックック、と男は嗤う。
「ピンクのほうの魔法少女とサシでやりたいから、と言われてこの作戦を持ちかけられましたが、窮鼠猫噛み、いざマジになって殺されてはかないませんからねえ。ワタシもまあまあ社会のエリートですし、死んだら代え……は効きますけど、組織に取っても手間でしょう」
「はあ」
文人は流し聞きをしながら、頭の中で今使えるものの整理をする。《インベントリ》に入っているその中身でどうやったらこの怪人を倒せるか。
「だから、勝負をしましょう」
文人の思考が止まる。興味が向く。
「ワタシに一撃でも入れられたら、もうこの餓鬼の喧嘩には手を出しません。これでどうですか?」
「……もう一声ッス」
文人も、挑発的に笑う。この男の興味を引けるように。
「もし俺がテメエの丸メガネ、叩き割れたら魔法少女についての秘密を喋って貰うッス。それでどうっすか?」
「……ハハハ!!いいですねえ!!テンション上がって来ました」
白衣の怪人――塙は両手を広げ、その手の上に一つずつ巨大な火炎球を生成する。
「やってみなさい!!高校生!!」
そして、それらを文人に向かって投射する――!
★
セカンドフォームを解除して、降り立つ。
「さて、と。実質タイマンだなあ。虎次郎」
「……そうだな。哲夫」
「……あたしも、いますわ」
ミケが口を挟む。が、即座に言い返される。
「おお?白猫よぉ、やるか?その爪で引っ掻いて見ろよ。そのときは血が流れるだけだからよ」
「……っ!!」
「ミケ、これは俺と、あいつの問題だ。だから、割り込まなくてもいい」
虎次郎もミケも、哲夫のスキル――【血狂い】の効果を知っている。ただのひっかきで血を流せば、哲夫自身の利にしかならない。
「なあ、聞いていいか?」
虎次郎が、言う。
「なんで、そこまで俺を魔法少女にした?」
「……はあ?」
「なんつーか……俺はリーダーとして、上手くやっていた、と思った。仲間をちゃんと見て、戦っていた。それじゃあ、ダメだったのか?お前は、納得しなかったのか?」
「――テメエマジふざけんなよ?」
虎次郎が、本心から聞く。なんで自分はハメれられて、こういうことになっているのか、と。その言葉を聞いて、哲夫が、キレる。
「ヤンキーってのは!!強く、敵に力を見せつけ!!覇を刻む!!それが本質だろうが!!お前はいっつもいっつも優しすぎた!!何かあれば戦わない選択肢を考えようとしてな!!!そういうのもううんざりなんだよ!!」
「――っ!?」
「今回だってそうだろ!?テメエが俺らと戦ったワケは財団のため、違うか!?ヤンキーならそこは復讐だとか、リベンジだとか、そういうリクツで戦うべきだろうが!!テメエを見てると虫唾が走るんだよ!!お前は自分が望んでこの戦う道に入ったんじゃないのか!?」
一頻り叫びながら、哲夫はポケットからカッターナイフを取り出す。
「弱くて優しいテメエには!!その幼女の姿がお似合いだ!!そしてそのまま、今日、殺す!!」
そのカッターナイフを右手で持って、思いっきり自分の左手首を切りつける。
流れる鮮血とともに、哲夫の虹彩が紅く染まる。
【血狂い】が、発動する。
★
洗練された四元素魔法を、躱す。躱す。
「よく避けれますねえ。身体強化の効果、見た所あの蒼色の魔法少女以下でしょう!?それなのに、恐怖も無く!」
「……」
さすが財団職員としか言いようが無い炎や水の球、風の刃、地面からの土の槍、それらをなんとか躱していく。
もちろん躱しきれないものもあり、その肌には裂傷や小さなやけどが耐えない状況だ。
もちろん攻撃の合間に、魔導グレネードを投げるが。
「おっと。こんなんじゃあダメですよ」
――魔導グレネードの落ちた周囲を、魔法で作られた金属で囲われる。
その中から音が響くが、衝撃が漏れることは無い。
「これだから真っ向勝負って嫌いなンスよねえ……」
文人はまともに四元素魔法を使えないし、《インベントリ》からの手投げだけではどうにもならない。
だから、頭を捻って奇策を考える。それしか自分は、できないしやるつもりもない。
「ハッハッハ!!さっきの啖呵は口だけなんですかねえ!?」
「あんたも餓鬼の喧嘩に本気になってんじゃねえッスよ……」
塙はもう何度目かになる炎弾を繰り出す。そこに、ちょっとした策を入れる。
「こういうのどうっすかね……」
取り出したのは紅い円柱に黒いホース……消化器。それの引き金を魔法の炎に対してぶちまける。
白い煙が炎をかき消し、視界を悪くする。そこに合わせて、
「――【気配遮断】」
「【看破】、です」
ダメ元でかけて、使い終わった消化器を塙の顔目掛けて放り投げる。が、それは水の球によって撃ち落とされる。
「そろそろスキルの事忘れる頃あいだと思ったンスけどねえ……」
「忘れるはずありませんとも。ワタシは財団の末端ですが、一応そこの魔法大学卒なのですよ?」
「うっわあ……どうりで荒事慣れしているわけか。面倒くさい……」
そう言いつつも風の刃は回避。感覚でなんとか避けている。罠も貼れない戦いというのはこれだから嫌いだ。速攻ができない。
でも、やっぱり油断はしている、しかし自分の力だけじゃ倒せない。もう爆弾のたぐいも少ない。ならば。
「もうやけくそでいきますっすかね」
――残っている符だとの爆発物を、ひたすらに投げていく。もう狙いもしない連投。
「ハッハッハ、あんなこと言っといてやけくそですか!?数撃ちゃ当たるは残念ながら違いますよ!?」
「……身体強化まで使えるンスか。反則ッスね」
適当に投げていくそれは見事に躱されていく。その反応速度は常人にはとても出せないもの。
「経験ですよ。若人にはわからないでしょうがね」
「うっざいッスね……」
投げて、投げて、投げていく。外れたそれらの爆風が作られた壁に衝撃を与えていく。
塙は得意げにそれを避けていく上、自らの攻撃も欠かさない。それをどうにか最小限のダメージでいなす。
「そろそろ弾切れですよねえ!?」
「いや、これでいいんすよ」
塙は避けはしても、さっきのように金属で周りを囲って爆風を漏らさないようにすることはしていなかった。
ゆえに、壁に衝撃は行く。
作られた、それに。
「あっ」
「だから言ったッスよねえ?油断するなって」
「ワタシそんな事言われた覚えはありませんけどねえ!?」
――作られた壁に穴が開く。
文人は狙いを定め、そこに今までで一番出来が良いグレネードをぶん投げる!