これからもがんばります。
飛べるって相変わらず反則だよな、と実感する。飛んでいれば攻撃は特に運動神経とか無くたって受けづらくなる。
そう思いながら、ひたすらに時生は星型弾を投射していた。
「ちっ……当たんないな」
星沢が愚痴りながらこちらに土球を投げてくる。飛んでいるのもあり回避できるが、腹の鈍痛で避ける気力はどんどん減っていく。
ただこっちが避けられるかどうかは集中力次第だが、星沢は確実に【スローモーション】を使って避けていく。このままもし一対一ならジリ貧で負けるのは明らかだ。
けれど、今の状況は分断されてるだけで一対一ではない。
――壁の向こうから、爆発音が大量に響く。
ここで、時生は狙いを変える。
「どこ狙ってるんだ?ついに集中力尽きたか?」
「……」
星沢を狙うふりをしながら、爆音が響く壁に、ひたすら星を当てていく。
壁を壊そうとしていること、頼む、気づいてくれるな。
そう願いを込めながら、せめてもの演技として腹を撫でながら苦渋の表情を浮かべる。
「はっ……これは時間の問題かな?」
「っ!?」
大丈夫、いける、油断している!
三割演技、七割本気の疲労感を見せながら、回転する星型弾を放つ!
「シュー……ト!!」
「どこ狙ってるんだよ、って!?」
爆音。分断された壁に穴が開く。と、同時に急降下する!
爆発、穴、急降下、どれに対応すればわからなくなるはず!
焦りの表情を浮かべる星沢。よし、いけるいける!
それとともに一際大きいグレネードが入ってきて、起爆。どういう反射神経か、星沢はギリギリでモロに食らうのだけは避ける。
が、体勢は崩れる。
「ここだっ!!シュート!!」
「くっそっっ!!」
乾坤一擲の近接射撃、みぞおちに入るかと思われたそれはすり抜ける。まじかよ、と脳内で時生は泣きそうになる。
本当に勝負強すぎる。こいつ本当に同じ高校生か?
「もういいだろ!!そこまでがんばんなくてもさあ!!」
これ以上のチャンスはもう望めない。なら、もう、無理矢理にでも!!
時生が持っているステッキで、星沢の側頭部をぶん殴る!
手に感触、いける、クリーンヒット!
そのまま人生でやったこともない前蹴り、これも当たる。
そして、倒れたところを、馬乗りになり、起き上がろうとする彼の鼻っ柱に、ステッキをぶち当てる!
「これで終わってくれ!」
「がっ……」
そう言って振り下ろすと、彼の抵抗が無くなる。達成感なんて何一つない。なぜなら少しこいつは強すぎた。
最後のも反応されてぶん殴られてたらもう駄目だったし、壁に穴が開くのかも賭けだった。勝因は運。そうとしか、思えない。
しんどい。しんどすぎる。時生は表情を暗くするが、頭を切り替える。
――とりあえず、文人の元へ。
もう一度星型弾をチャージして、壁にぶち当てると、本格的に崩れる。
「……行くぞっ!!」
自分を奮い立たせて、駆ける。
★
「これはやらかしましたねワタシ。はい。さすがに二対一は厳しいですねえ」
文人は焦っていた。これで時生の方がやれたかも怪しかったし、何よりもう手持ちの爆弾は尽きた。
あとは虎の子の拳銃と、ガチではない武器のみ。こうなってくると、きつい。
文人自身の戦闘の三要素、魔法、スキル、トレジャーはその実戦闘の直接的手助けになるものは無い。
だからアイテムが切れれば、何もできなくなる。自分でもわかっていたれっきとした弱点。
――そうだとしても、虎次郎のため。何が何でも、倒す。
「はい。なら魔法少女が来るまでに君を倒してしまいましょう。少し本気出しちゃいますね」
瞬間、文人の目の前に塙が現れる。
目にもとまらぬ速さ。いや、違うこれは――
「
そのまま蹴り飛ばされ、吹っ飛ぶ。しかしその吹っ飛んだ方向には既に、塙がいる。
そしてそのままもう一発、今度は腹への膝蹴り。
身体強化で蹴り飛ばし、空間魔法による短距離転移で回り込む。
シンプルにして強力、それこそ無敵時間でもなければかわせないハメ技。
「意外だと思いますが、ワタシは”中近接型魔法使い”でしてねえ。だからいっつもこうして現場に駆り出されるのですが」
空中にふっとばしたなら空中から追撃を叩き込む。なすすべもない、財団職員の本気。
「学生時代はもっと筋肉とかもあったんですよ?今はもうそんなにですが、コツってのは忘れません」
まるで何かの漫画のように、蹴りを入れ続ける。が、そこに三人目。
――蒼色の魔法少女。
「おや、もう来てしまいましたか。早いですねえ。予想外、不言実行ですね。まあ、ワタシに上手くその弾を当てられるとは思いませんが」
ボコボコにされる文人を時生は見る。塙の言う通り、何もできない。
いや、ここで諦めたら駄目だ。どうすればいい。考えろ。弱る思考がはじき出したのは、ゲーム的発想。
やったことは単純。文人が蹴られた方向に先に回り込むだけ。
転移した場所に物があったら、重なってしまうのだろうか。
そういう、思考。もしかしたら転移場所がズレるだけかもしれない。
文人が地面に落ちる。が、塙は転移してこない。その場で火球を作り出すだけ。
――賭けに勝った。星型弾のチャージを回す。当てる。絶対に!
炎が生成されるよりも速く、星型弾は投射される。しかし、
「こんなのに当たっていたらとっくのとうにやられてますよ」
回避される。そして炎の球が放たれる。火球を避けるのは初めてだ、いけるか!?
投射されたそれは、時生の予想以上の速さで来る。熱量が、近づく。それに怯える。
「っ……」
体を捻って躱す。が、体勢は崩れる。それを見逃さずに炎の球をもう一度塙は生成する――
その時に二人は気づく。
この場所にいつの間にか煙が漂っていることを。
そして、時生の足元から文人がいなくなっていることを。
「っまずい!【看破】っ……」
「遅いッスよ」
ボロボロの体。しかしなぜか立ち上がっていた文人が塙に接近していた。
気づいた塙は、作りだしておいた炎の球を顔の前に置き、盾にしようとするが、そんなのおかまいなしのように
――文人はその拳を顔に振り抜いた。
★
丸眼鏡が割れ、落ちる。
「ふふっ……正気じゃない。その腕が焦げるというのに!殴りますか!!」
「……」
塙は鼻から血を流しているが、立ったまま。文人は焦げた右腕をそのままにして座り込む。
「おっと。もうこの戦闘は終わりですよ、魔法少女」
星型弾の追撃。それを土壁で片手間に防ぐと、塙は言う。
「ええ、ええ。あなたの心意義に免じて、ワタシはもう直接は戦いに関わりません。もちろん魔法少女のことも少しお話しましょう」
時生も、ステッキを下ろす。塙は文人に訪ねる。
「しかし解せませんね。もう貴方は立ち上がれないほどに痛めつけたはず。どうして行動できたのですか?」
「……これっすよ」
文人が左手に持っていたのは、何かが入っていたであろう空の蒼い瓶。
「ポーション、って言ったらわかるっすかね……俺はまだ作れないンスけど、知り合いからもらっていたのをたまたま思い出しただけっす」
「ポーション! なるほど、興味深い……」
「で、魔法少女のことは話してくれないんすか?」
「いやいや、君たちはそれよりもすべきことっていうのがあるでしょう?」
ねえ?と分断されたもう一つの方面……虎次郎と哲夫の方を塙は見る。確かに、さっさと合流したほうが絶対にいい。
とはいえ、時生は痛みと修羅場慣れしていないことからくる疲労がかなりあるし、文人はグレネードが尽きて右腕は使用不能。何ができるのかはわからないが、いないよりはましだ。
「それでは、せいぜい頑張ってきなさい、高校生ども」
塙が指パッチンをすると、作られた壁が崩れ落ちていく。
そこにいたのは。
――哲夫の前に圧倒され、片膝をつく虎次郎の姿だった。