俺氏魔法少女、変身解除できないんだが。   作:蒼添

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その26/クライマックスフェイズ・タイマン主義者

――時は遡る。

【血狂い】が発動した哲夫に対して、虎次郎がまず行った行為は単純だった。

 

「――セカンドフォーム」

 

間合い(リーチ)で優勢を取る。

翼は生やし、飛翔。分断された今現在、虎次郎と哲夫が戦うフィールドは入り口にたいして横に長い状況になっている。

ゆえにまずはその入り口に向かって右側へと飛ぶ。そして、哲夫に対して先端が当たるように鉄骨を振るう。が、しかし。

 

「そんな大振り当たるわけねえよなあ!?」

 

鉄骨をジャンプして回避、そして振り終わりの勢いが消えるタイミングで鉄骨の上に飛び乗る。

この状況だと何もできない。たまらずセカンドフォームを解除する。

 

「はっ……解いたか。ならこっちのもんだ」

「っ……」

 

虎次郎が魔法少女になってから、こうして哲夫と戦うのは今回が初めてではない。

その時に、わかっていることがある。

 

それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

 

考えるまでもない。【血狂い】は自傷という代償あって発動する異能。

その代償から発揮されるリターンの大きさは、いくら特別なトレジャーだとしても、たかが代償が”幼女になる”程度のメタモルステッキではかなわない。

 

笑い、叫びながら突撃してくる金髪のヤンキー。虎次郎はその連撃を捌くことで手一杯だ。

――そこに現れる、一匹の白い獣。

 

「死ね!ですわ!」

 

後ろから背中を硬化魔法をかけた爪で斬りつけに飛びかかる。虎次郎が劣勢なら、たとえ【血狂い】を増長させることになっても、二対一のほうがメリットになる。

その考えは間違ってはいない。が。

飛びかかろうとしたミケの目と、紅に染まった哲夫の目が合う。

 

「動物虐待は趣味じゃねえけどなあ!」

「にゃっ……」

 

即座の回転攻撃。振るわれたバットは見事なカウンターとしてミケの胴に入る。そしてそのまま攻撃は続く。

ミケはくるりと宙で一回転して着地するが、そのダメージは大きい。

 

「テメエ動物愛護団体に怒られっぞ……!?」

「魔法使って襲ってくる猫なんてそれはもう猛獣だろ?正当防衛だっつーの」

 

打ち合って鍔迫り合い。そしてそのまま身体強化の差を見せつけられ、虎次郎は吹き飛ばされる。

しっかりと受け身を取って立ち上がりながら、次の手を考える。

 

ミケは回復魔法が使える。なら、戦闘続行は容易い。こっちはこのままじゃ劣勢のまま。

ならば、と考える。

 

(あっちは血をガンガン流している。それはつまり戦闘に時間制限があるということ)

 

殴り合う。威力は自分よりも上で、強い。それは事実として受け入れる。が、それは重い代償を支払っているから。

ならば、その重い代償に押しつぶされてしまえばいい。

 

(それでも、押し負ける可能性はある。短期決着も捨てがたいが、ここは……)

 

欲張っていこう。虎次郎は叫びながらバットを振るう。

 

「スマッシュ!!」

「っ!?」

 

横薙ぎ。それを哲夫はバックステップで避ける。でも彼は知っている。

 

「その後には隙があんだろ!?」

 

大振りな縦の一撃。しかしそれを虎次郎は――躱す。

そして顔面を狙って振るうと、クリーンヒットする。

 

「言っただけだ。騙されたのか?」

「テメエ……」

 

哲夫が顔を手でさわると、鼻血の跡が残る。身体強化は体の耐久性も高めるゆえ、致命傷にはなりえないが、これでまたタイムリミットを縮められた。しかしそれは。

 

「クソがっ……」

 

――目が、さらに紅く光る。

目の光が残像となるほどに、また動きが加速する。血を流せば流すほどに強くなる。やはり厄介すぎる。

しかし、毅然と、ニヤッと笑って虎次郎はまたそれに対処する。

 

「ほらほら、全力発動してもその程度か?強さだけを目指してるならさっさと倒してみろよ……っ」

 

――基本正々堂々と戦う虎次郎だが、一応ダーティな戦闘方は文人から学んでいる。

すなわち、煽り。口車を回せば隙が多く生まれる。得意でもないし好きでもないが、この緊急事態だ。やるしかない。

虎次郎も哲夫も、呼吸が荒く、汗を流すしながら、打ち合う。しかし余裕があるのは、虎次郎のほうだ。

やれる、これなら。虎次郎が叫ぶ。

 

「ミケっ!」

「ですわっ!!」

「【スマッ……」

 

同時攻撃。焦りが全面に出ている今なら、哲夫は躱せない。

虎次郎の攻撃を躱しても、ミケの攻撃が当たる。血でのタイムリミットが格段に縮まる。

 

そこで、哲夫が取った行動は。

 

「――おまえは、弾丸。そうだな」

「っ!?」

 

虎次郎を弾丸とみなしての、横薙ぎは、【スマッシュ】で振るわれた虎次郎のバットとかち当たる。

当てた対象を弾丸とみなし飛ばす効果と、相手を遠くに吹き飛ばす効果。どちらも特殊効果を持つ一撃が、同時にぶつかったとき、どうなるのか。

虎次郎もわからなかった。哲夫も、理解してはいなかった。

 

しかし、裁定の女神は。

 

――哲夫に微笑んだ。

 

「嘘だろ!?」

 

すなわち、威力が高かったほうの特殊効果を採用する。虎次郎より哲夫のほうが力が強い。ただ、それだけのこと。

虎次郎は哲夫を中心として半回転というありえない軌道を持って、飛びかかっていたミケの胴体に背中から突っ込む。

 

「みゃっ!?」

「くっそ……」

 

 

そのまま床に転ぶ一人と一匹。ミケは虎次郎の下敷きになっている。

哲夫はすかさず身を翻し、仰向けになった虎次郎の顔面めがけて踏みつけを入れようとするが、間一髪首をひねってかわす。

素早く立ち上がろうとして身を起こすが、その背中に向けてバットが振るわれ、分断された壁のほうへと飛ばされる。

 

「きっつい……」

 

賭けに負けた。こっちは相当なダメージを負って、ミケもそこでノビている。

さすがの西浦もその状態のミケは狙わないようだが、かわりにこちらを見て目を離さない。

 

片膝をつきながら、立ち上がろうとする。そのとき。

 

「なんだ……?」

「嘘だろ。やられやがったのか」

 

後ろの壁が崩れ、ボロボロになった文人と時生が現れる。

 

 

 

「星沢はともかく、塙ならお前らを倒すと思ったんだがな……」

「いやいや、これ以上餓鬼の喧嘩に本気になるのはのは大人としてカッコワルイですから。後は自分でどうにかしてください」

「そうかよ」

 

眼鏡を外した塙が意地悪く笑いながら西浦に向かって話す。西浦は考える。確かに三対一は分が悪い。

だから、どうしたと。

とりあえず近距離が得意じゃないやつから各個撃破すればいい。そう思ってまず時生の方へと駆けようとする。が、そこで左脚に違和感。

 

「トリモチっすよ」

 

()()()()

つまずきかけるが、右足を前に出して踏ん張る。しかしそこもまた狙われる。

 

「シュー……ト!」

 

蒼い星型弾。それがバットでも弾き返せやしない左足ギリギリを狙って放たれる。

すんでの判断で靴を脱ぎ、躱す。体制を崩す。だが、その隙を三人目が見落とすはずもない。

虎次郎が、駆ける。

 

「【スマッシュ!!】」

 

――哲夫の胴体に、その一撃が刺さる。

敗因は一つだった。

西浦哲夫は、()()()()()()()()()()()()

いくら雑兵とはいえ、ヤンキーたちを一気に突っ込ませ使い潰した。

せっかくの好機をしてしたことが、ただの分断だった。

彼自身の接近戦能力がなまじ高かったのもあり、彼は個人戦(タイマン)主義者だった。確かに、時生と星沢、文人と塙、虎次郎と哲夫。それぞれの相性は悪かった。

けれど、その分断が突破されれば、一気に情勢は傾く。集団による連携、その思考がまったくなかったためだ。

もし星沢と塙を率いているのが【チームワーク】を修得したモヒカン・山田一晴だったなら、時生たちは何も出来ずに終わっていただろう。

彼の望みとは裏腹に、彼は使われる将であったほうがよかったのだ。

 

 

――廃工場の入り口側から、西浦が吹き飛ぶ。

さすがにセカンドフォームの鉄骨でなかったのもあり、廃工場の前の何の車両の通っていない道路に転がるだけだったが、その威力は凄まじく、立ち上がるのにやっとという感じであった。

そこに塙が短距離転移で、西浦の元にやってくる。

 

「ふふふ。あれだけ啖呵切っておきながら、三人になった瞬間数秒で惨敗ですか。これもしかしなくても星沢くんのほうが君より強かったんじゃないですかあ?」

「……黙れ。俺は、俺は……」

 

虎次郎たち三人と一匹も、廃工場から出てくる。

虎次郎が、喋る。

 

「なあ、もう、勝負、ついたろ? 俺たちが欲しいのはお前が言ってた通り塙からの情報だけだ。命を奪いたいわけじゃないし、奪ったら面倒なことになる」

「黙れ、黙れ、黙れ!! 俺はなあ、強くなりてえんだよ!! この国で、いや、この世界で!!もっともっと!! まだ負けてねえ!!」

「……っ!」

「虎次郎のアニキ、もうアイツは駄目ッス。さっさと意識を飛ばしたほうがいいッス」

「……そう、だな」

 

虎次郎が駆け、時生が星型弾をチャージする。

哲夫は、絶叫する。

 

「寄越せ塙!!()()()を!!」

「ふふ、わかりました」

 

塙は、胸元から黒い星のステッカーのような物を取り出し、西浦に手渡す。

そして西浦は左手にバットを持ち、右手でそれを天に掲げると、そのステッカーから黒い光が漏れ出す。

 

「さて、データを取る準備をしませんとね……」

 

塙は空間魔法を使ってビデオカメラを取り出し、起動する。

他の三人と一匹の動きが止まる。

 

「おいおい、嘘だろ……」

「あれって……」

 

――発光が最高潮に達すると、変化が起きる。

西浦の周囲に、投影された宇宙が広がる。その闇の中から星々が照らすように見えるその空間で、西浦の体は無重力のように浮き上がる。

 

「待て、待て待て」

「シュートっ!!!」

 

時生が蒼の星型弾を投射する。しかし、その投影された宇宙の前でかき消えてしまう。

――西浦が瞼を閉じ、全身が発光。服もバットも消え、男と分かる体の線が明らかになる。

 

「くっそ……【スマッシュ】!!」

 

西浦に対して、スキルでの一撃を放つ。が、展開された宇宙に触れた瞬間、音も無くその攻撃が止まってしまう。

――彼の体が変成していく。足、臀部、胸と下から順番に丸みが帯びていき、身長が落ちる。顔はその面影を残さぬまま、金色の髪の美少女へと変わっていく。

 

「っ……!」

「無駄ですよ。変身バンク中に、攻撃はできない。それがお決まりで、ミームとして反映されているのですから」

 

時生も、虎次郎も攻撃を入れていくが、全く通用していない。それを見た塙が嗤う。

――彼が無意識のまま小さく空中を輪を作るようにスケーティングすると、その軌跡に沿って六つの黒い星が等間隔に生成され、彼が輪の中央に戻ると、その星が彼の体に一つずつ吸い寄せられていく。

 

「なるほど、こういうふうにして変わってくンスね……」

「これは……きれいですけど……きついですわ……」

 

文人とミケが、声を上げる。確かに、その様子は美しかった。

――まず始めに右腕に星が当たると、それは黒色の手袋となった。左腕も同様に変わり、両足に行った星は太ももまでの黒色のタイツとなる。

五つ目の星は胸元に黒の星の意匠を施したゴシックロングワンピースになり、最後の星は頭に行き、黒のカチューシャとなり、その髪は金のまま腰まで伸びる。

 

「”汎用試作魔法少女化礼装”、起動実験成功ですねえ。素晴らしい……」

 

塙がつぶやく。その声色に魔法の発展の喜びを乗せながら。

――そして、その手に黒く染まり、星の意匠が施されたバットを持って、着陸。

彼が目を開けると、笑いながら、ハスキーな女声で言う。

 

「いいねえ、最高の気分だ。強くなった感じがする……これなら、ああ、俺一人でいい。役にたたねえアイツラなんて放って、お前らを殺せる」

「マジかよ、ざっけんな……!!」

 

金髪紅眼の魔法少女と化した西浦が、虎次郎に向かってバットを振るう――!!

 

 




これがやりたかった。

次回、次々回あたりで第一章決着です。
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