俺氏魔法少女、変身解除できないんだが。   作:蒼添

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本日二話投稿です。まだお読みでない方はそちらを。


その27/クライマックスフェイズ・”魔法少女”

――まず最初に動いたのは、文人だった。

 

「【気配遮断】」

 

とりあえず、ステルス。これからどう動くかはともかく、これをしない限りは始まらない。そして《インベントリ》から拳銃を取り出し、左手で持つ。できることならば、これは使いたくは無かったが。

文人がそうしている間に、虎次郎は叫ぶ。

 

「とりあえず廃工場まで戻るぞ!」

 

――こんな路上での戦闘は危険すぎる。セカンドフォームに切り替え、背中にミケを乗っけて飛ぶ。時生もそれに追従して飛びながら、後ろめがけて牽制の星型弾を放つ。しかし。

 

「ああ、いい、いい!体が軽い!」

「速え!?」

 

西浦がその長い金髪をなびかせながら走る。その速度は明らかに虎次郎や時生たちより速い。

しかし牽制の星型弾を避けながらの移動。ギリギリ追いつかれない。

なんとか入り口まで戻ったところで、虎次郎が空中で急停止。ひねりを利かせながら鉄骨を振るう。

が、さっきの再現のように跳んで避けられる。

 

「くっそ……」

「なんの!二段構えですわ!」

 

跳んだところを背中に張り付いていたミケが飛びかかる。その爪は哲夫の右腕の肌をとらえ、そこから血を流させる。

 

「ん!?」

「血が、流れたですわ!」

 

――時生と虎次郎が魔法少女として戦ってるとき、痛みは残っても外傷は残らなかった。だが、西浦は今血を流した。

そこから導き出される事実。

 

「やっぱり魔法少女は魔法少女でも、パチモンかよ……!?」

「そうかあ?あたしはそうは思わない。いや、俺だっけ?まあいいや」

「……精神汚染はしっかりしてんのかよ」

「どうでもいいや。強くなれたんだからさあ!!」

 

ミケと哲夫が着地する。哲夫はそこでミケの方を向いたと思うと、付けられた傷を撫でる。

 

「ああ、そうだ。もう、一人でいい。だって、こういうこともできるんだもの」

「にゃ!?」

 

柔肌から出た血が三滴、空中に浮かぶと、それらは膨張し三本の血色の槍へと姿を変える。

それがミケに向かって投射されると同時に、哲夫自身は時生と虎次郎のほうに向かう。

 

「にゃ、にゃあ!!」

「――解除!牽制、頼む!」

「はい!」

 

ミケがなんとか避ける中、虎次郎が時生に叫ぶ。

これからは接近戦になる。そう読んだ虎次郎はセカンドフォームを戻す。指示を受けた時生が星型弾を投射する。

 

 

「あはははは!!わたしのトレジャーのことを忘れたのかしら!?」

「えっ!?」

 

星型弾がバットで弾き返されると、それは消えずに時生のみぞおちめがけて曲がって飛ぶ。

その魔球を避けられるわけもなく、腹に食らって吹っ飛ぶ。

 

「時生っ!?」

「こっちを見てよ、虎次郎」

 

眼には、狂気を浮かべながら殴りかかっていく哲夫。虎次郎もたまらず応戦するが、その一撃一撃が、魔法少女になる前、いや、それ以上に重い。

しかもそのバットの応酬の最中でも、

 

「ほうら、もううちは多対一でも負けない。でしょう?」

「……さすがに、きつすぎんだろ……」

 

――血色の槍が、ミケと時生向かって放たれていく。おそらく自動ホーミングなのか、虎次郎から眼をそらしていないがその軌道は正確だ。

吹き飛ばされた時生も、ミケも、躱すのに集中している。これでは、援護攻撃は望めない。

虎次郎は考える。やるしかないのか、スマッシュを。だが、蘇るのはさっきの記憶。

トレジャーの効果を使われてしまったら、撃ち負けてしまう。

 

「いいね、いいね! ギアがかかってきたわ。星よ、もっと力を!」

「やばいやばいやばい……」

 

虎次郎はドン引きしながらも、哲夫との殺陣を続ける。が、その黒と金の魔法少女の体に変化が起きる。

右腕の血が、表に出てくるスピードが早まる。

 

「増血かよ!?」

「もう、もう、時間切れなんておきない。そうだろう、虎次郎?」

 

駄目だ。これで時間切れさえ狙えない。虎次郎の表情が深刻に、絶望に歪んでいく。

そして、得てしてこういう弱気になったときに、ミスは起きるというもの。

 

「しまった」

 

バット同士が鍔迫り合った。この状況で、これをしたら、負ける――

虎次郎の頭が、真っ白になる。その時。

 

「この時を待っていたッス」

 

――文人が動く。哲夫の右腕を狙った、超近距離射撃。

誰がどうしようが外さないその距離で、拳銃を放つ。

鍔迫り合いの均衡が崩れ、虎次郎が哲夫のバットを弾き飛ばした。

追撃に虎次郎はバットを振るうが、それはバックステップで避けられる。

そして。

 

「邪魔したの?殺す」

「ああ、これは……駄目みたいっすね、俺」

 

血色の槍とともに、哲夫が文人向かって駆ける。文人の身体強化、そしてこの傷では、もう避けきることなんてできやしない。

――本当は頭か、心臓を狙おうかと思った。でも、哲夫の魔法少女体が傷を受ける以上、そうしたら死んでしまう可能性が高い。

それでも、虎次郎(あの人)の部下として、主人の意に背いても殺すべきだったのに。

 

「――甘いのは、俺だったッスね」

 

――哲夫の蹴りが、文人に入る。壁まで吹き飛んだ彼の体は、四本の血色の槍で四肢を貫かれ、磔にされる。

 

「……文人っ!?」

「さあて、バットを、って、おや?」

 

虎次郎が悲痛な声を上げる。

哲夫は振り返るが、彼の視界にバットが見当たらない。何処にいったのか。

 

「念動魔法、覚えておいてよかったですわ……!」

「クソ猫がっ……」

 

ミケが浮かして、運んでいた。

いつも使っていた浮遊魔法の拡張としての、念動力(テレキネシス)を扱う念動魔法。

それを使ってミケは自分の近くに浮かし、そのまま逃げ去ろうとしていた。

ミケを攻撃しに行こうとする哲夫に回り込むんで、虎次郎が行方を阻む。

徒手空拳とバット、武器持ちかそうじゃないかはその実大きい。さっきよりも均衡した状態で、ミケを逃がすことに成功する。

――ミケは自分の無力さを実感していた。

あの【血狂い】とは相性が悪かったとはいえ、何もできなかった。

その蒼い眼に涙を浮かべながら、入り口めがけて走っていく。

 

「まあ、バットが本体じゃないし、変身解除されることはないから、まあ無問題だけどね」

「それでも、さっきよりはやりやすくなった……」

「いや?そうでもないわよ?」

 

哲夫は自分の右手の爪で左腕を大きく引っ掻くと、そこから血が溢れ出し、膨張。バットの形になる。

 

「……まじかよ。その力は反則だろうが……」

「あと、言い忘れてたけど、【血狂い】の力はそのままだからね、虎次郎」

「っ!?」

 

眼が、さらに紅く輝いて、身体強化をさらに強める。

超高速で放たれた膝蹴りは、桃色の魔法少女のみぞおちに刺さり、吹き飛ばされる。

 

「ああ、もう、これで終わり?あっけないねえ。どうしようか。さすがに首刎ねたら死ぬかなあ?」

「っ……」

 

哲夫が、近づいてくる。その手に持った血色のバットが変形して、剣のようになる。

呼吸ができない。立ち上がれない。もう、これで、終わりなのか。

虎次郎の視界が霞むなか、かすれた声で、叫ぶ。

 

「……時生っ……」

 

 

 

 

いつの間にか来なくなった血色の槍。

眼を閉じる。集中する。それと同時に、今までの事を思い返す。

そうしている場合じゃないだろ、って?いや、今こそそうするべき時なんだよ。

 

最初流れで、魔法少女になって。

虎次郎先輩と会って、ミケに会って。

能力何かな、って検証して、文人にきついこと言われて。

サブカル研の人たちと出会って、山田たちの舞由野高校と戦った。

あの時は死ぬかと思ったけど、なんとか生きてる。

そのあと明日羽さんと会って、哲夫と塙に会って。

こうして、戦って。

 

平々凡々だった人生に、色がついた気がした。

いや、いい色ばっかじゃない。この疲労、この体の痛みは正直体験したくは無かった。

 

なんとなく、財団が俺のもとにステッキを送ってきた理由は、わかった。

俺が平凡(モブ)だったから。そういう人が力を持って、英雄は生まれると思ったんだろう。

その思惑に乗るようで、ちょっと腹立たしいけれど。

 

文人も、ミケも、たぶん俺のためにお膳立てしてくれた。その期待は裏切れない。

それに。何より重要な点だ。

 

――優しくて、可愛くて、強くて、弱い、あの桃色の少女が。

 

『……時生っ……』

 

助けを求めて、泣いてるじゃんか。

 

さあ、覚醒しろ、わたし()

 

「魔法少女ミーティアレイン・セカンドフォーム!!」

 

 

 

「シュート」

「……っ!いいところに……」

 

――人の片腕ほどの直径の巨大な星型弾が、先程とは比べられるほどじゃない速さで飛んでくる。

哲夫は虎次郎の元から飛び退きながら、弾が飛んできた方向を見る。

 

そこにいたのは、先程とは姿を変えた蒼色の魔法少女の姿。

ミニだったスカートは、中世貴族のようなフリルがたくさんついたロングスカートに。

その背には地面につくまでのマントをつけて。そしてステッキが時生の足から首ぐらいまでの長さの長杖と変化する。

時生は、それを地面に付きたてて、両手で握りしめながら魔法を行使する。

 

「――ガトリング」

 

そう宣言すると時計の数字の並びのように浮かび上がり空転を始める十二個の星。

その一つ一つがこぶし大と小さいそれらが、機関銃のように連続、そして高速で発射される。

 

「まあ、この程度避けきってしまえばいいわ……!?」

 

十二個の連射を横移動で避けきろうとするが、それの弾幕は十二発では終わらない。

撃ったところから再生成されるそれは尽きることなく哲夫を攻撃し続ける。

たまらずその攻撃を血色に再変形したバットで捌く。しまった。

 

「このためにあの白猫は……!」

 

飛び道具を確実に跳ね返すあのバットはシンプルな時生の特攻《メタ》となりうる。

それを考慮して、文人は腕を狙ったし、ミケはそれを持ち去った。

 

「ちっ……なら、これを……」

「ホーミング」

 

哲夫が宙に浮かべた四本の血色の槍に対し、時生が繰り出した六発の人の頭サイズの星型弾は速度こそさっきと落ちるものの、血色の槍に対し追尾するように放たれる。

四つの弾と四つの槍は打ち消し合うが、残りの二つの弾は、哲夫のもとへ。

バットで捌こうとするが、弾が妙な軌道を描き、バットを躱しみぞおちへと刺さる。

そして。

 

「スナイピング」

 

たった一発。大きさも”ガトリング”並。しかし、気がついたら当たっていたというほどの超高速弾。

それが哲夫の右手にぶち当たり、血色のバットが下に落ちて霧散する。

 

――時生はサブカル研で”セカンドフォーム”の内容を大島から言われたときのことを思い返す。

 

『君の”セカンドフォーム”は!!星型弾が単純に大きくなるだけではなく、速度、個数、大きさ、追尾のオンオフをマニュアルで変更することができる!!』

『それは……すごいですね。でも使いこなせるかな……』

『いや!!別にその場で撃つたびいちいちマニュアル設定する必要はない!!今のうちから使いやすい弾のテンプレートを考えておいて、それを呼び出すだけでいい!!』

 

そうして、考えた弾。

個数一、速度高、大きさ大の”シュート”。

個数十二、速度並、大きさ小の”ガトリング”。

個数六、速度低、大きさ中、追尾ありの”ホーミング”。

個数一、速度超高、大きさ小の”スナイピング”。

これらの種類さまざまな弾で圧倒する。それが魔法少女ミーティアレインの”セカンドフォーム”。

 

「――ガトリング」

「クソが、チートかよ!?」

「そうだな。チートだ」

 

矢継ぎ早に繰り出される星型弾を避けながら、哲夫が叫ぶ。チートか。確かにそう見えるかもしれない。けれど、この”セカンドフォーム”には絶大な弱点がある。

 

『ただし、これだけではない!虎次郎くんの”セカンドフォーム”の鉄骨が破壊力の代わりに小回りを失ったように、デメリットが存在する!』

『……なんですか?』

『君は射撃をしている間、()()()()()()()()()()()()

 

言われたあの時はわからなかったけれど、今になってこの弱点がどれほどヤバいかわかる。今までの戦いで飛べることがどれだけ反則か思い知ったし、過去二回の戦闘の決め手である近距離射撃も不可能になる。

それこそ相手が短距離転移持ちの塙なら三秒で負ける自信がある。

けれど、遠距離は強くなく、近距離戦が主な哲夫に対し、近づかれていない状況。なら、いくらでもやれる。

 

「クソッ!!なんで、あたしが、こんな、やつに!」

「……相性の差?」

 

冷静にそう言ってやると、哲夫の顔が歪む。が、正気を取り戻したように彼は叫ぶ。

 

「……だとしても、負けてたまるか!」

 

哲夫はスカートをめくり、自分の太腿を爪で引っ掻く。そうして出てきた血と、両腕からの血が合わさって全方位を囲む血色の殻が形成され、そのまま突撃してくる。

 

「シュート!」

 

強化された単発の星型弾は、盾となる血色の殻によって阻まれる。確かに、これは辛いかもしれない。

けれど、もう大丈夫だ。時間は稼いだのだから。”ガトリング”で牽制しながら、叫ぶ。

 

「虎次郎先輩!」

「……おう!」

 

桃色の魔法少女がよろよろと立ち上がり、”セカンドフォーム”を発動する。いつもより重たい、されど決心がついた足取りで踏み切って飛ぶ。

 

「こっちへ!」

「させ、るかあああ!!!」

 

哲夫の殻のから槍が湧き出てきて、それは虎次郎向かって何本も投射される。

それらを神がかった集中力で躱していき、時生の隣に虎次郎は立つ。

 

「なんか、どうにかなる方法があるのか?」

「あります。ほら、前にわたし()が気絶したときの……」

「ああ、なるほど。腕が鳴る()!」

 

時生は考えてあった最後の五種類目の弾を、頭上に投射する。

性質は個数一、速度零、サイズ超巨大、追尾オン。

 

「バズーカ」

 

全長が三メートルほどの超巨大な蒼い星。それが杖を両手で持つ時生の頭上に現れる。

 

「よっしゃあ!行く()

「やってください!」

「クソ、がああああああ!!」

 

哲夫もこの場にあるヤンキーたちの全ての血を、それこそ文人を磔にしていた血の槍も、自分を覆う殻も、それら全部を混ぜ合わせ一つの球に変化させる。

虎次郎は、宙に飛び上がり鉄骨を横薙ぎできるように構える。

 

「【スマッシュ】!!!!」

「あああああああ!!!!」

 

破壊力最強の”セカンドフォーム”による全力の【スマッシュ】を超巨大星型弾にぶつけると、それは見るも鮮やかな蒼とピンクの二重螺旋の軌跡を描き、哲夫の血の弾に衝突する!!

互いに持ち得る最強の攻撃、しかし大きな違いがそこにはあった。

強い絆を持つ魔法少女二人による合体攻撃を、たった一人の魔法少女が止めれるわけがなかったのだ。

 

「は、はは……」

 

――血の球が、破裂し霧散して消える。けれど、未だ螺旋の軌跡を描く星型弾は止まらない。

金と黒の魔法少女にそれは流星(ミーティア)として衝突し、強い光が輝いて……。

 

「負け、か」

 

聞こえたのは、男の声。

変身が解かれた西浦哲夫は、前のめりになって倒れ伏した。

 

 

 

 

 




次回、第一章エピローグ。
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