「これで、終わったん……ですよね?」
鉄骨を床に置く虎次郎と、長杖を握る手が震えている時生。
西浦が倒れ伏すのを見ても、まだ戦闘が終わったことを信じられない。さすがに第三形態は勘弁だ。そんな時生に対して、虎次郎が声をかける。
「大丈夫、だ。戦闘は終わった」
「そう、です、か。良かった……」
「でも、まだ、やることはある」
セカンドフォームを解除し、へたりこみそうになる時生の手を虎次郎が掴む。虎次郎がもう片方の手で示すのは、血まみれで壁に寄りかかり座る文人の方向。二人は彼のもとへ駆けつける。
「大丈夫か!?文人」
「虎次郎、の、兄貴……さすがに、駄目、みたいっすね」
「文人……」
口元からも血を流して、血混じりの咳をする。虎次郎は完全に泣いているし、時生も涙ぐむ。
文人が、途切れ途切れになりながらも、喋る。
「虎次郎さん、最初に、会った、時もこんなんだったっすね。そこで拾った命を、貴方のために捨てるのは、本望、っすよ」
「ふみひと……」
嗚咽を上げながら感動の別れっぽいのをしている二人につられてちょっと泣きながらも、頭の何処かで思い出す。
そう。そうだよ。
「わざわざ餓鬼の喧嘩で死なすわけないじゃないですか。この場で見殺しにしたら責任問題でワタシクビにされますし」
「そうですわ!」
――回復魔法あるじゃん。
短距離転移で現れたのは、ミケの首根っこを掴んでいる塙。その近くにはバットが浮いている。
たちまちに現れた彼らを見て、目元を赤くした虎次郎が叫ぶ。
「そ、そ、そうじゃん!!死ぬわけないじゃん」
「やっぱ、虎次郎のアニキは、うっかりやですね……ふふっ」
「笑ってんじゃねええええ!!!」
死にかけながらも、笑いをこらえる文人。どうやらさっきの問答は茶番だったらしい。
目元を隠しながら、時生も笑う。今この目は見られたくない。虎次郎さんと同じくからかわれてしまう。
「って、てか、それ気づいてたんならさっきのやりとりは何でやったんだよ!!」
「こふっ……決まってるじゃ、無いっすか……」
血まみれになりながらも、彼は時生が見たなかで一番の笑顔で言う。
「――泣いてる女の子ほど、可愛いものってないじゃ無いッスか」
「よしテメエちょっと頬貸せ――」
「虎次郎先輩、ストップストップ!!」
「はいはい治療しますからねえ。ちょっと黙っててくださいよ」
思いっきりビンタしようとした虎次郎に時生がストップをかけ、その小さな体を後ろから抱きかかえ文人から離れる。
そして、塙とミケがこの場のものの治療を始めるのだった。
★
「さて、これでこの場にいるヤンキーどもの命は保証されましたかねえ。じゃ、約束の質疑応答やりますか。魔法少女関連アリ、一人一つ聞きましょうかねえ」
二十分後。戦闘が終わり、夜が更けた廃工場。回復魔法を大体の人、すなわち文人はもちろん哲夫や星沢たちにも施し終わった頃。塙が首を回しながら喋り始める。
文人など負傷者が眠る中、魔法少女二人と白猫が白衣の怪人と対面する。
時生とミケが悩み始める中、間髪入れずに虎次郎が問いかける。
「変身解除の方法は?」
「
「――は?」
その言葉を聞いて虎次郎がバットを構える。その様子を見ながらやれやれと首を振るう塙が、ため息をつきながら続ける。
「まったく、直情的ですねえ。財団側は何も知りません。その……えーっと、”メタモルステッキ”のことは。だいたいのスペックとかはさすがに知っていますけれど、それを作った担当者がまあ面倒な人でねえ。そこだけは開示しなかったんですよ」
「その担当者は誰だ」
「質問は一人当たり一つ……いや、そこの爆弾の餓鬼が今寝てますし、その分は温情で応えてやりましょう。それを作った人物の名は天月修。戦争で活躍した大魔術師ですよ」
「っ――!!」
「だから変身解除の方法を知りたければそいつをぶん殴るしかありませんねえ」
大魔術師。異世界との戦争を終わらせた英雄の通称。予想はしていたけれど、やはり出てくるか。
それを聞いた上で、次は時生が言葉を投げかける。
「――大魔術師・天月修の強さを教えてほしい」
「ああ、そんなのネットで検索かければわりとわかりますよ……と言いたいところですが、あなたたちの戦いぶりに免じてちょっと機密を漏らしますかね」
「ぜひ」
大魔術師が活躍したのは自分たちが生まれるより前の頃だ。今こうやって戦った自分たちと、どこまで差があるのか。それは聞いといて損は無いと思った。
「あなたたちが持っているステッキによる鉄骨とか星型弾とかはですねえ、天月修の魔法の模倣、コピーなんですよ。言い換えるなら彼が持つ近接魔法を移し替えたのがそのピンクのステッキ。遠距離魔法を移し替えたのが蒼のステッキってことです」
「なる、ほど……?」
「そして、コピーがオリジナルを超えることは
魔法単体と互角。つまり、
大魔術師が大魔術師たりえるためには、スキル、トレジャーのそれぞれも魔法並に強いということはおそらく確実。疲労が来て今ちょっと憂鬱だっていうのに、その実力の遠さに少しくらっとする。
「まあ、そういうことです。で、そこの猫は?」
「……あの、哲夫を変化させたものは一体何だったんですの?」
「ああ、それですか。それこそが本当に財団が作った魔法少女化トレジャーもどきの試作品。メタモルステッキの劣化コピーですね。本人の資質に沿った能力を強化しますが、”セカンドフォーム”などの形態変化や身体保護機能はついてない、って感じですね。まあ、こっちは普通にダメージか本人の意思で変身解除できるんですが」
つかつかと塙は西浦の方に近づいて、その黒の星のステッカーのようなもの……”汎用試作魔法少女化礼装”を拾い上げ、虎次郎のほうに投げる。
「これ、正直失敗作でしてねえ……一回使ったら壊れるんですよ。だから、まあ、記念にでも持って帰ったらいいんじゃないですかね」
「……どうも?」
「なんでゴミを渡して有難がられるんですか。ああ、あとひとつ。これは予言のようなものですが」
「はい?」
「君たちは魔法少女である。つまり、その身体には”救世主”としてのミーム、イメージが刻みこまれています。そして、救世主は事件を解決するものですよね?」
「……えーっと?」
「どういうことだ?」
「あー、なるほどですわ!」
時生と虎次郎が困惑の声を上げる。ミケは納得したようだが、何を言ってるのだろう。
塙はまたため息をついて言う。
「なんで猫が一番頭いいんですかねえ……古今あらゆる魔法現象は文化を参照する。たとえば”世界を救って勇者と呼ばれるようになった話”が文化として定着すると、その逆説が魔法現象になることがある。すなわち”勇者というイメージが定着した人には、救うべき世界とそれを救える実力”が付与される、みたいなことです」
「なる……ほど?」
「ああもう、つまり、アナタたちは特別なヒーローですので、事件が舞い込んでくる。それだけを伝えたかったんですよ!」
未だピンと来ていない魔法少女二人に、軽くキレながら塙は言い、魔法を講師する。
塙の後ろの空間が割れる。
「ちっ……悪役らしく思わせぶりに帰るつもりが。まあいいでしょう。次会う時はワタシのような雑魚を圧倒できるようになってるといいですね。また会いましょう、魔法少女」
そう言うと、彼はそのまま空間の裂け目に入って、手を振りながら消えていった。
消えるのを見届けると同時に、時生が女の子座りで今度こそへたり込む。
「――つ、疲れた……」
「お疲れ」
「お疲れさまですわ!」
ミケが膝に乗ってきて、虎次郎が屈んで背中を撫でてくれる。
――本当に、長い戦いだった。痛かったし、ずっと考えてたから頭を回した。戦闘っていうのは本当に、学校での生活より辛いものなんだと知った。
「しんどかったです……」
「そうか。でも、これですべきことはわかったな」
「はい……魔法少女らしく、事件解決して、力をつけて」
「天月修をぶん殴る。それでいい、らしいな。事件はよくわからんけれどあっちの方から舞い込んでくるらしいし」
「そこらへんの話も、後でしますとして、とりあえず今日は帰宅!ですわ!」
「おう。そうだな!今寝てるヤンキーたちもたぶん起きたら帰るだろうし、さっさと帰ろうぜ!」
虎次郎が立ち上がって、伸びをする。時生もそれに合わせて立ち上がり、ミケも膝から降りる。
「虎次郎先輩」
「ん?」
時生が呼びかけると、こっちを向く。中身はどうあれ、上目遣いでこっちを見る少女は可愛らしく。
改めて、言う。
「これからも、よろしくお願いしますね!」
「……おう!」
第一章終了です。ここまで読んでくれた人に最大の感謝を。
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今後の予定です。(興味の無い方は飛ばしてください)
・第一章の改稿・他サイトへの転載を行う予定です。掘り下げの無い所を加筆したりもすると思います。その際にもし新しく話を作る場合、サブタイトルの通し番号に小数点を伴った話を挿入投稿します。
例)その15.5/〜〜
・第一章後の閑話を投稿します。1月が終わるまで隔日ペースで書き、投稿していきます。
・第二章は二月頭スタートの予定です。舞台はお嬢様学校たる葉雪学園と魔法科高校たる才門附属高校。その二つで起きる事件に巻き込まれる感じにしたいなと思ってます。
今後とも「俺氏魔法少女、変身解除できないんだが。」をよろしくお願いします。