俺氏魔法少女、変身解除できないんだが。   作:蒼添

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間章その1
彼にとってのプロローグ


――深夜。廃工場にて、西浦哲夫は目を覚ます。

仰向けになって倒れている。血はもう流れていない。が、その体は全く動かない。

 

(あの魔法少女化のやつの代償か)

 

『それを使って変身が解かれた後は、何時間か全く動けなくなるでしょう。具体的に言うと四肢の筋肉が硬くなって、伸縮しなくなるのですよ』

”汎用試作魔法少女化礼装”のことは塙から聞いていた。もちろん積極的に使う理由は無かった。代償の話もあったし、自分は”強い男”でありたいがゆえに、力を得られるとしても女になるのは避けたかった。

なのに、使った。

そして、負けた。

 

「クソッ……!!」

 

自分はなぜ、こうも弱いのか。それに腹が立つ。どんな奴にでも勝てる、無双の力を手にして、この国で偉大な男になるんじゃなかったのか自分は。

絆だとか、優しさだとか、仲間だとか。そういうのに頼らないまさしく無頼の強さ。自分ではそれに届かないのか。

 

「……潰す」

 

絶対に強くなって、あの魔法少女たちを負かす。面子も立たないし番長もやめて、強くなる。何が、なんだろうと。そう、決心する。

が、思い当たる事実が一つ。

 

()()()()()

 

西浦哲夫の強者への計画というのは、至ってシンプルだった。いわゆる”大番長”として君臨し、アウトロー達のカリスマになること。

 

――大魔術師は最初から大魔術師というわけではない。ある研究者が言うには、”強さを増す正のスパイラル”に入ったから強くなった、と言われている。

たとえば、無名だった魔術師が名を上げる。そうすると、”強者”として名が売れる。そして”強者”という称号(ミーム)を魔素が反映して()()()()()()()()()()()。正確には魔法適性が上昇し、強くなった魔術師がまた名を上げ、今度は”英雄”と呼ばれるようになれば、また強化される。そのような”英雄のスパイラル”によって強くなっていった。

 

西浦は”番長”として戦い、名を上げることでそれを実行しようとしていた。しかし、もう負けて経歴に傷がついた以上、それは不可能だろう。

 

じゃあ、どうやって。

 

――魔法学園に入る?いや、今からそんなことは出来ない。自分は高校2年生だ。それに魔法の大学にも入れはしないだろう。

――警察や自衛隊に入り、”闘気”を練り上げ戦う”極限武道”を習うか?いや、それも将来的には難しいだろう。組織から抜けた後にその力を行使すれば”破門”とされ免許皆伝者による”記憶を飛ばす一撃”で使えなくされるだろう。

 

ああ、どうすればいいのか。全く見当もつかない。八方が塞がれた気分だ。

いっそのこと、強く在れないのなら――

 

「おっ。居たね。やあやあ、こんばんは。良い夜だねえ!」

 

良くない想像が哲夫の頭を巡るその時、声がかけられる。

起き上がることのできない西浦を見下ろしながら声をかけたのは、噂には聞くがその正体がわからない、謎の人物。

哲夫は歯を食いしばり、睨みつける。

 

「――何をしにきた、”部長”」

「いいことだよ。ぼくはいつだっていいことしかしない」

 

銀髪赤目の中性的人物。白いローブを羽織り、下は黒いジーンズ。怪しげに微笑む”サブカルチャー研究部部長”がそこにいた。

 

 

 

 

「いやあ、まずありがとね」

「……何がだ」

 

しゃがみこんで”部長”が語りかける。何を感謝される必要があるというのか。

 

「君が、魔法少女を苦しめて負けてくれたことさ」

「っ……テメエ!!」

「煽っているわけじゃあないよ?これは純粋な感謝さ」

 

そう言いながら、部長は何の苦労もせずさらりと空間魔法を展開し、小さな手ほどの空間のひび割れから黒の油性ペンを取り出す。

それを手に取り蓋を開けたと思えば、足の方から哲夫の周りの地面に何かを書き始める。

 

「だから、この純粋な感謝の分を含めて、きみにお礼をしてあげようと思ってね」

「……何する気だ」

「それはひみつのほうが面白いだろう?」

 

素直に殴りたい、と思ったが、今の状況だと何も抵抗できない。なされるがまま。

しかもこの場所は人が来ない廃工場。もう何をしようが、無駄だ。

諦めの境地に至った哲夫に対し、”部長”はニヤニヤして笑いながら、何かを書き続ける。倒れている西浦からではまったく何をやっているのかはわからない。

が、どうせろくでもないことなのはわかる。地面に何かを書く理由なんて、あまり無い。

 

「――魔法の準備でもやってんのか?」

「お、勘が鋭い。そうそう、魔法の準備さ」

「はあ……」

 

ため息をつく。もう軽く諦めの境地だ。

何の魔法か、というのはおそらく秘密なのだろう。しかし何かを書く必要がある魔法なんていうのはあまり聞いた覚えがない。まあ、こいつは魔法学園の主席という噂があるし、”部長”しか知らないなにかがあるのだろう。

 

「……お前は何が目的なんだ?」

「だからいいことをすること、だよ。まあ今はこの魔法を完成させること、だね。西浦哲夫。それにしてもそんなにぼくは怪しいかい?いっつもそんなことを聞かれるんだよねえ」

「……お前ここまでどうやって来た?」

「ん?転移だけど」

「そういうところが問題なんだよ」

 

転移なんていうのは塙のような相当みっちり魔法を学んだものじゃないと使えない。そんな力を持つ謎の人物が怪しくないわけがないだろう。そう思ったが、伝えても理解しなさそうだ。

 

「あっはっは。そういえば、きみのところにいた、えーっと、星沢くん?だっけ。活躍した?」

「……なんでそれが気になる」

「前にちょっとおせっかいを焼いたからねえ。すこしは気になるものさ」」

「……強かった。それに、活躍もした」

 

星沢のことはあまり考えたくなかった。あいつは年下だっていうのに、スキルもトレジャーも自前で持っていた。戦闘センスも高く、正念場が強かった。もしかしたら、自分よりもっと上の器かもしれない。

 

「そうか。でもねえ、きみも強いとぼくは思うよ?」

「……なんかうぜえな、お前が言うと」

「失礼だなあ!これでも励ましてやってるんだぜ?」

 

羨ましい。そう思ったのが見破られたのか、露骨に同情される言葉をかけられる。魔法学園主席に強いと言われても、どうせお前以下だろうが。

 

「そもそも、ぼくが言ってるのはそういう話じゃないさ!精神性の問題さ!」

「……精神性?」

「そう、あの子、星沢くんは戦闘をゲームとして見てる節があってね。だから楽しんで強くなれる。それはそうとしてきみのそのハングリーさもぼくは気に入ってるって話さ」

「そうかよ。でも、俺はあいつらに負けた」

「精神性と実力は関係ないからねえ。じゃなきゃぼくみたいのが強者になってるはずもないし」

「殺すぞ」

 

はっはっは、と”部長”が笑い、油性ペンを置く。そのまま立ち上がると、哲夫に魔法をかける。

 

「おわっ!?」

「浮遊魔法。これ得意じゃないんだけどねえ」

 

西浦の体を仰向けからうつ伏せに変えられ、地面が見える。そこに書かれていたのは。

 

「……魔法陣?」

「そうだね。今から仕上げするから」

 

ちょうど哲夫の体と同じくらいの大きさの二重円。といっても内側の円は本当に少し外側のより小さいだけで、その隙間には何やら見知らぬ文字が書かれている。”部長”は空間魔法で黒のペンキとハケを取り出し、書く準備をする。

ハケをしっかりペンキに浸すと、一気に書き始める。

 

「そーれっ、と」

 

内側の円に接する正三角形が二つ。それはいわゆる、

 

「六芒星、ってやつか」

「ご明察」

 

軽く魔法で風を吹かし、乾かすと哲夫の体を元の位置……魔法陣の中央に戻す。

そうすると、魔法陣が光り始める。それとともに、哲夫は人生の終わりを悟る。

魔法陣。人。そうなってくると思い浮かぶのは悪魔か何か。そういうのの生贄にされるんじゃないのか?

 

「なあ、部長」

「なんだい」

「俺は、死ぬのか?」

「まあ、ある意味死ぬといってもいいかもしれない。けれど忘れないでほしい。――これは、純粋な感謝が六割さ」

「そこは冗談でも良いから十割って言っておけ――!!」

 

軽く叫びながらも、魔法陣は光り輝く。

その輝きに哲夫は目を細め瞑ると、やがて彼の意識が消えていった。

 

 

 

「起きてください! あの、起きてください!」

「ああ……?」

 

目を覚ます。天井が見える。妙だ、廃工場の景色じゃない。

起き上がると、そこには金髪碧眼の美少女。

何やらシスター服っぽいのを着ている彼女は、哲夫に信じられないことを言う。

 

「我が国を、助けてください!()()()!」

「は?」

 

――かくして、西浦哲夫の物語は始まった。

しかしそれは、本編とは大きく関わりの無い物語である。

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