俺氏魔法少女、変身解除できないんだが。   作:蒼添

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その3/魔法少女モノにありがちなアレ

「いや、うちの母親がすいません……」

「大丈夫だ。まあ、筋は通ってたし」

「ははは……」

 

場所は移り変わって、リビングから廊下に出て二階、時生の部屋。ベッドのとなりに客用布団を敷く形で、彼らは寝ることになった。時生……青い髪のジャージ美少女がベッドに座り、虎次郎……桃色の髪の革ジャン少女がその布団の上にあぐらをかいている。

 

「しかし、漫画とか多いな」

「そうですね、オタクってやつでございまして……」

「あれか、ゲーム……対戦とかもできるのか」

「できますね……」

「おお……でも夜遅いからな。やめとくか」

 

床に直置きされたゲームモニターを興味津々といった感じに見つめる虎次郎。どうやらあまりそういうのには触れずに育ってきたらしい。その目を輝かせている姿に可愛さを感じながら答える時生。自分の部屋に美少女二人(自分含む)、なんとも変な気持ちだと彼は感じた。

 

「それはそうですね。というか、こう、女の子の手入れみたいなのとかどうすればいいんですかね……」

「ああ、それか。気になるよな」

 

女の子の体の手入れは大変らしい。何がどう大変なのかはわからないが、ともかくそういうことらしいのは時生は知っていた。彼が気まぐれによんだ性転換ものでもありがちな話だった。

 

「基本的に魔法少女形態のときは汚れ対策みたいのされてるから平気なんだよ。現に今日あれこれあったけど髪とか汚れてねえだろ?」

「確かに……そうですね」

「まあ、しっかり風呂入んねえと髪のつやとかは落ちるらしい。そこらへんは女の知り合い紹介するし、俺もそいつの言うこと聞いていろいろやってる。今日はとりあえずいいじゃねえかな」

「へぇ……ん?」

 

案外魔法少女だからってうまくはいかないようだ。女の子にしかないこと……と頭を巡らせていると、ふと悪い予感がよぎる。ぎこちなく尋ねる。

 

「あの……もしかして、月のものって、来ます……?」

「……ほんっとーに、ほんっとーに許せないんだけどよ……来る」

「来ちゃうんですか……」

「本当にこのステッキ作ったやつは趣味が悪ぃ」

 

苦虫を噛み潰したような顔をする虎次郎。生理が来るのが性転換モノでお約束なのを知っていた時生だが、いざ自分が当事者になるとつらいものがあるなと感じた。

 

「はあ……っていうか服どうすれば。女物の服なんて持ってるわけないし……」

「いや、それなら大丈夫だ。どうにかできるやつを知ってる。というか今から来る」

「え?」

「ちょっとスマホで連絡取ってた。すまんな」

「い、今から来客ですか!?」

「大丈夫だ。少しびっくりするかもしれないが、いいやつだから」

 

さすがに夜も更ける中、それは駄目なのでは?と思う時生。あたふたする彼を虎次郎がなだめていると、二階であったはずの時生の部屋の窓に、とんとんと何かが叩かれる音がする。

 

「ん?」

「お、来たな。開けてやってくれ」

「え……?」

 

窓を開けると、時生の顔の横を素通りして小さい何かが部屋の中に落ちる。時生はそれを目で追ってしまう。

 

――それは猫だった。驚くほどきれいな、白い毛をもつ猫。その目は青で、気品があった。

その猫はあぐらをかいている虎次郎の足の上に乗っかると、時生を見つめる。そして桃色の魔法少女が口を開く。

 

 

「おう。紹介するぜ。こいつは猫の女の子のミケだ」

『あなたが新しい魔法少女ね!』

「しゃ、喋ったぁ!?」

 

ある意味、自分が魔法少女になったときよりも驚いた。

 

 

 

 

現れたお嬢様口調の白猫。実際声もかわいいそれに、時生は困惑していた。

 

「あれですか? 魔法少女ものにありがちな、ステッキのマスコット的な?」

『? 無関係よ?』

「あ、そうですか……じゃあ、なんで喋れて、っていうか服とか、え?」

「そこは俺から言うわ」

 

虎次郎が頭をかきながら言う。虎次郎もどこから説明したらいいものかと悩んでいる様子だ。

 

「あー……なんていうか、これから大切なことなんだけどさ」

「はい」

「この魔法の時代の不良……『マジックギャング』とかって呼ばれてるやつらには、『三要素』っていうのがあんだよ」

「三要素?」

「そう。マジックギャングがギャングたる強さを持つワケ。それが、魔法、スキル、トレジャーの三要素だ」

「魔法は……身体強化とか、ファイアーボールとかですよね」

「そう。で、スキルが『体系化されない魔法現象』。ざっくり言うとユニークな必殺技ってことだ」

 

魔法、スキル。この二つはこの学園で過ごしてきた以上時生は知っていた。しかし、最後の三つ目、トレジャーについては聞き覚えがなかった。

 

「トレジャー、とは?」

「簡単に言うと、すごいマジックアイテムのことだ。俺らの持ってるメタモルステッキも一応癪だがそれに含まれる」

「へえ……」

「あくまで都市伝説だけど、名を残すマジカルギャングはどういうわけか必ずトレジャーが手元に転がってくる。案外俺やお前もそうなのかもな」

「……そうだといいですね。で、それがこの子とどうつながってくるんですか?」

 

例の白猫……ミケは虎次郎の足の上で座っている。その顔はどことなくどやぁっとしている気がする。

 

「この白猫は、その三要素を()()()()()()

「……それは、すごいですね」

『もっと褒めてもいいのよ!』

「具体的に言うと、魔法としては回復魔法や動きをよくする身体強化、あと浮遊とかだったか?」

『そうね! 窓を叩いて入ったのも浮遊魔法のおかげよ!』

「すごい……」

 

正直時生は魔法も得意ではない……どころか使えないし、スキルなどももってるはずがない。だからミケのその有能さにはただ舌を巻いていた。

 

「そしてトレジャーは《人の心》。そのまんまだな」

『これがあるから喋れるのよ!』

「ド直球な名前ですね……」

「で、本題のスキル。頼めるか?」

『はーい! 【即日配達】!』

 

そうミケが宣言すると、部屋の中空に封詰めされたダンボールが光に包まれ出現し、音を立てて床に着地する。そしてなんの気なしにそれを開封しようとする虎次郎に、時生がツッコミを入れる。

 

「ちょ、ちょっと待って!?どういうこと!?」

「いや、スキルの効果だけど……」

『あたしの銀行口座のお金と引き換えに、ここに品物を配達するスキルですわ!ちなみに送料無料ですの!』

「え、ええ……そんなトンチキなの? スキルって……」

「けっこうそういうの多いから慣れてったほうがいいぞ。っと……」

 

虎次郎がダンボールの中身を開けると、そこにはふわふわのパーカーと長いズボンの上下が二セット入っていた。ひとつは白とピンクのボーダーで、もう一つは白と水色のボーダー。それらを取り出すと、ダンボールは雲散霧消した。

 

『ピンクが虎次郎さんので、水色が時生さんのですわ!』

「あのなあ、ミケ。俺こういう可愛さ特化の服好きじゃねえって言わなかったっけ……」

『その幼女な見た目にはやっぱりこういうパジャマを着せたいですわ! それにあたしのおごりですので!』

「はあ……仕方ねえな」

 

頭を掻く虎次郎にじゃれつくミケ。相変わらず押しに弱い。その会話に気になるところを感じた時生が尋ねる。

 

「おごり、とは?」

「ああ、動画投稿サイトとかで猫動画ってあるだろ?こいつ知能高いからさ、あざとい動画作って広告収入でボロ儲けしてんだよ」

『実はけっこう有名な猫なんですの!』

「だから俺のアジトとかの諸々はけっこうこいつが払ってくれててな……頭が上がんねえ」

「へぇ……」

 

どことなく現実離れした話で実感が追いついていない時生。後にミケの動画の再生数を見て驚愕することになる。

 

『ま、そういうことですの! 新しい魔法少女……時生さんも、着てくださるわよね?』

 

Noとは、言えなかった。

 

 

 

 

時生は、精神的に困憊していた。

 

「……大丈夫か?」

「あ、はい……」

 

女の体で初めての風呂に入り、【即日配達】で取り寄せてもらった女性用下着を履き、例のパジャマを着る。男性として過ごしてきた身からすれば慣れないことだらけ。プライドにもダメージが行く。

 

『うんうん! 見込んだ通りすごい可愛いですわ! お二人とも!』

「俺たちに可愛いは褒め言葉じゃねえんだよミケ……」

「男だからね……あ、外に出るようの服もお願いしていいかな……」

『もちろんですわ!』

 

ベッドにうつぶせで寝っ転がっている時生の背中に乗るミケ。虎次郎も布団の上で転がっており、その場の雰囲気は中身を考えなければまさしく女子会と呼ぶにふさわしいものになっていた。

 

『こういう時スマホがあればよろしかったのだけど……』

「ああ、お前のその体じゃ持てねえもんな」

『こういうときに文人さんがいればよろしいのですが』

「いや、俺は嫌だわ。あいつ俺のこの見た目好んでくるし」

「文人?」

 

誰なのだろうか。そう思った時生に、虎次郎は就寝前の眠そうな雰囲気で答える。もう軽く毛布までかぶっている。

 

「ああ……今度紹介する、俺の仲間。基本的にミケと俺、文人で今までいろいろやってきたから」

『虎次郎さんの親友にして舎弟なのですわ!』

「へえ……」

「あいつ基本面食いだし、お前ともきっと合うんじゃねえかな」

「楽しみにしときます」

「おう……そろそろ、寝たいんだが、いいか?」

 

虎次郎の方を見る。確かにまばたきが多くなっていて、今にも寝落ちそうな感じだ。

 

「それじゃあ電気消しますか」

『わかりましたわ!』

「おう……この体は眠くなりやすくて敵わねえ。あ、豆電球点けるのか?俺真っ暗派なんだけど」

「生憎俺も暗いほうが好きなんで。そのまま消しますね」

「おう……」

 

電気を消す。布団の中に潜りこむと、数分もしないうちに時生の耳に小さな寝息が聞こえるようになる。やっぱりかなり虎次郎は眠かったようだ。そう思っていると、時生も今日のハチャメチャの疲労が出てきたのか。意識が遠くなっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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