「最近さあ、俺思うんだけど」
「はい、なんでしょう」
――アジト。夕方ごろ。虎次郎と時生とミケがいるリビング。虎次郎が時生に話しかける。
「時生、食い過ぎじゃねえ?」
「え?」
時生はもっしゃもっしゃとチョコレートを食いながら答える。虎次郎は膝の上に乗っているミケを撫でながらそのまま苦言を呈す、
「さすがに、魔法少女は太らないとはいえ、お菓子最近よく食ってるよな」
「あー……最近妙にお菓子が美味しくて……」
「いや、まあ、美味しいけどな?それだと戻った時困るぞ?」
「そうですわよ……健康に悪いですわよ……」
ミケもとてもリラックスした表情で追従する。それ適当に言ってないか?まあ、いいか。
確かにそうかもしれないけれど、でもなあ……
「本当にこの体甘味が美味しく感じちゃって……」
「……もうちょっと運動するか、時生」
「え、効果あるんですか?」
「魔法少女は太りもしませんけれども痩せもしないのですわ。だから、おそらく」
「な、なる、ほど」
「想像してみろ?変身解除できたと思ってたら太ってた、なんていう展開」
想像してみる。仮に戻ったとして、学校に戻る。その時にものすごくデブになってたら……
時生は少し身震いをする。
「嫌、ですね」
「じゃあ、ちょっと運動するか!」
ものすごくいい笑顔をする虎次郎。まあ予想は出来てたけどこの人わりとアウトドア派だな?
インドア派の時生にはその感性は理解できない。けれど言ってることは的を射ている。
「じゃ、じゃあ、ついてきます……」
「おう!」
「あ、ジャージとか持ってますの?取り寄せます?」
「ああ、うん。お願い。母さんから服代はもらってるから……」
渋々同意して、【即日配達】で出現したダンボールの中身を開ける。
青色の長ジャージ。家にあるのは少し大きいし、部屋着にするのにもいいだろう、という感じだ。
「あ、着替えるなら別の部屋行けよ?」
「え、別に良くないですか……?同性ですし」
「いいからいいから。女性の体はみだりに見せないほうがいい、と思う。元が男でも」
「えー……?」
時生は別の部屋に移動し、着替えるのだった。
★
――公園のベンチ。
「……」
「お前、意外と体力無いな……?」
そこにはぐったりとしている時生の姿。ベンチに座って力尽きたボクサーのようになっている。その姿に虎次郎は呆れる。
「仕方ないじゃないですか!?俺オタクなんですよ!?」
「いや、あの戦闘についてこれたんだからてっきりもうちょっと体力あるもんだと思ってたんだが……」
「飛ぶのにカロリーは消費しないんです!!」
思いっきり叫ぶ時生。実際持久走とか本当に苦手だったし、あまり体育も好きではない。
その感性が虎次郎にはわからないようだ。今も頭にはてなを浮かべている。
「こうやって走るの気持ち良くないか……?」
「無いです。無いです」
「そうか……」
ちょっとしょんぼりする虎次郎だが、今回ばっかしは同情できない。これだから陽キャの体力あるやつは。
時生は心の中で僻む。やはりわかりあえない。
そんな時生に声をかける男の声。
「いや、気持ちいいと思いますけれど……?」
「思わないよ……って!?」
「おまっ……なんでここに!?」
「ここらへんで魔法少女が出るって噂があって」
そこにいたのはパーカーを着た男。あまり顔立ちの特徴は無いが、そのかぶっている帽子でわかる。
魔法少女二人がさんざん苦しまされた難敵。そう、
「星沢……!?」
「あー……こんばんわ」
【スローモーション】の男、星沢太郎。彼が話かけてきていたのだ。
虎次郎が警戒しつつ、疑問を呈す。
「何しに……っていうかお前敬語使えたんだな!?」
「戦いが終われば握手。それがゲームの基本じゃないですか。この前は
「あれをゲームって言っていいのか……?」
「普通に喧嘩だったと思うんですけど……それで、何か用が?」
虎次郎と時生は彼の戦いの価値観に困惑する。そんな戦いってスポーツみたいなものだったっけ?
それはともかく星沢は何の用でここに来たのか。時生の疑問に答える。
「はい。まあ、ありますね。シンプルに言うと、
「……はあ!?」
彼が持ってきたその内容は二人を驚かせるには十分だった。
★
「――と、いうわけで。今の慧海高校のヤンキーはほぼ解散状態になってるんですよね」
「へえ……」
「それは、なんか……ヤバいですね……」
星沢から伝えられたこと。
まず、西浦が高校に来なくなったことと、周りの人が行方を知らないこと。そして、青葉廃工場には謎の魔法陣が残っていたこと。
そして、これが魔法少女のしわざだと思ってヤンキーたちが慄いていること。
「あ、あと言っておくけど、その魔法陣とかなんとかはまったく無関係だからな?」
「あ、まあそうですよね。それはたぶんそうだと思ってました。それで、問題なのがこれから慧海高校のヤンキーは誰がまとめるか、ってことなんですよ。それであなたの元に来た」
「……それは、番長を俺に頼むってことか?」
「はい」
確かに強いのが上に立つしくみならば、西浦たちを倒した魔法少女の虎次郎はまあふさわしいとは言える。
今なら変な噂も立っていることだし、権威づけもできるだろう。
「でもな。俺は、というか俺達はその……変身解除をするために、色々戦わないといけねえ。だからまとめるのは断りたいかな……」
「あれ?そうなんですか。てっきり俺は復讐のために俺達と戦ったのかと」
「いんや、どっちかっつーと塙の情報目当てだ。だから別に、そういうわけじゃない。それに俺の考え方はヤンキー向きじゃなかったしな」
「そうなんですか……困りましたね」
「あ、ならさ」
時生が口を挟む。
「普通に星沢……くん?自身が番長やればいいんじゃないですか?」
「あ、いや、俺は駄目なんです」
【スローモーション】とあのすり抜けトレジャーもそうだし、何より土壇場で回避を成功させる胆力。
まさしくそれは番長にふさわしいんじゃないかと時生は思うが、星沢は手を振って否定する。
「なんで?正直めちゃくちゃ強かったし、慕われると思うんだけれど……」
「えーっと……俺、慧海高校の生徒じゃないんですよ」
「ああ、なるほど……一応トップはその高校のやつが良いもんな。で、どこの高校なんだ?舞由野……は違うか。御剣か?」
「ああ、えーっと……」
星沢が珍しく口を濁す。別にどこの高校でもいいんだけれどなあ、と時生は思うが、何かコンプレックスがあるのだろうか。
虎次郎もそう思ったのか、彼に催促する。
「どうした?別にどこの高校でもいいと思うんだが……」
「……俺、高校通ってないんです」
「ああ、そういうことなのか。大変なんだな……」
「いや、違うんです。俺」
察して励まそうとした虎次郎を否定する星沢。確かに通ってはいないが、そういうことではない。
「――中学生、なんです」
「……え?」
ただ、年齢が足りないだけなのだ。
虎次郎と時生が目を見開く。
「中学生?それは……」
「本当です。十二歳です」
「――嘘だろ!?」
虎次郎が絶叫し、時生が絶句する。こんな強い十二歳がいてたまるか。っていうかそんな年下にめっちゃ苦戦してたの?
軽くプライドが折れる音が聞こえる。これは辛い。
「俺、そのころスキルなんて持ってないぞ……?」
「いやいや、まずその体格がおかしいでしょ。君165cm近くあるよね……?」
「いや、本当です。まだまだ成長期なだけで、スキルとトレジャーもたまたま……」
「こいつはとんでもねえな……」
「末恐ろしいですね最近の中学生は……本当に冗談じゃないんだよね?」
「……学生証、見ますか?」
星沢はパーカーのポケットから生徒手帳を取り出す。そこに書かれていたのは、まさしく彼が中1だという証明だった。
「あー……まじか……」
「本当だった……」
「っていうことで、俺は無理です。なんか、別に力は無くてもいいんですけど、そういうまとめるのが上手い人っていませんかね」
「いや、そんなの都合よくいるわけ……あ」
虎次郎が思い当たる。いた、そんなやつ。
★
「ってことで呼んだんだが」
「いいっすよ。上手くやれるかどうかはわかんないっすけど」
虎次郎の呼び出しに答えたのは、金髪モヒカン・山田一清。まさしく個人としての力は低いが、統率に優れるいい男である。
「まさかこんなに簡単に……というか山田も別の高校ですけどいいんですか?」
「そこはあれだ。舞由野・慧海不良同盟ってことにでもしておけばいいんじゃねえか?と、いうか今の状況なら俺がねじ込んだって言えばどうにかなりそうだもんな」
確かにそれもそうか、と時生は納得する。正直この二人が組んだらめっちゃ強い気がするが、まあもう戦うことはないはずなのでいいだろう。
「その案いただきますわ。ってことで!よろしくな、星沢くん!」
「あ、はい……」
「いやいや、硬くならなくてもいいぜ?俺より強いんだし、一応名目上のトップはお前だからな。なんならタメ口でもいいし」
「わ、わかった?」
「そう、それでいい」
山田が強引に星沢に肩を組みながら絡む。この二人はけっこう相性がいいのかもしれない。
「それじゃあ、俺達は帰るけど、後のことは任せていいか?」
「はい!立派に仕上げて見せますよ!」
「ありがとうございました……それでは」
二人を置いて時生と虎次郎は公園を出る。時生が後ろを振り向くと、まだ一方的に山田が話かけている。
が、星沢も嫌がってはいない。楽しそうだ。
妙なところで縁がつながったものだ。なんか少し感動する。
「なんかこれで一騒動全部終わったって感じですかね」
「そうだな。まあ、ゆっくり休んで、次の事件に備えるとするか!」
とりあえず夕飯だな!と言ってニカッと笑う虎次郎に、時生は笑い返した。