ゴリッゴリの説明回です。もしかしたらこの回は少し改稿入れるかもしれません。よろしくおねがいします。
「ここがいわゆるアジトっつーことになってる」
「普通に家ですね……お邪魔します」
中央区。わりと大きいマンションの真ん中ぐらいの階の2LDK。虎次郎が呼ぶ”アジト”に彼らは到着した。ここにもミケの財力を少し感じて、ちょっと引いた。
リビングにはL字型の黒いソファーとテーブルが置かれていて、テレビもある。
ソファーに並んで座った時生と虎次郎。時生が言う。
「これから、どうするんです?」
「……どうするか。やることはあるけど、色々人が足りねえんだよな……ミケもいねえし文人もいねえ」
「あれ? じゃあここに来た意味……」
「いや、ある。あるから……」
とりあえず案内しよう、ということだけを思っていて、ここに来てからの事はあまり考えてなかったらしい。
悩み始める虎次郎。大丈夫かな、と思いつつテレビを点ける時生。平凡なニュースが流れ始める。
昼のニュースってこんな感じなのかあ、とちょっと感心してると、虎次郎が声を発する。
「うーん……そうだな、少し状況確認をしよう。どこからそのステッキが手に入った、とか、俺をはめたやつの詳細とか」
「あ、わかりました」
状況確認。そういえば、ステッキが兄から来たこととか話してなかったな、と思い当たる。虎次郎にも色々事情がありそうだし、ここで一旦話し合っとくのは筋かもしれない。
「その前に、ちょっと下降りてコンビニで昼飯買いに行くか」
「あれ? ちょっと早くないです?」
「おう。昼頃にはミケが帰ってくるから、お前の魔法とかの事を話さねぇといけない。だから早めに、ってことだ」
「なるほど。了解です」
「んじゃ、行くか」
二人は席を立ち、玄関へ向かった。
★
「何食べます?」
「あー……おにぎりとか?」
「あれ、結構食べる量少ないですね」
「いや……この体けっこう胃の容量が少ないっぽくてな」
「あれ?そうなんですか?昨日はわりと食べてた気がしますけど」
「……お前とそのお母さんの厚意をないがしろにはできねえだろ」
「それは……ありがとうございます」
「お前は?何食うんだ」
「無難に牛丼でいいですかね。俺、わりとこの体になっても胃の容量減ってないみたいなんです」
「まじか。羨ましいな、それ」
「たまにめっちゃ食べる女子とかもいますし、そんなもんでは?」
「まあ確かに。って、どうかしたか?」
「いや……」
「ああ、コンビニスイーツか。シュークリーム買おうかな……」
「俺、もともと甘いもの好きじゃなかったんすけど、この体になったら好み変わるんすかね」
「……認めたくはないけどな、俺は変わった」
「え、まじっすか」
★
「で、お前のステッキはどこから手に入ったんだ?」
食事を買った二人は、昼食を摂りながら話し始める。
「兄です。兄の住所から送られてきた宅急便に入ってました」
「兄と連絡は?」
「それが……」
時生はツナマヨおにぎりを食べている虎次郎の方へ持ってきていたスマホを渡す。そこに表示されていた時生の兄との連絡用SNSの画面からは、既読がまったくついていない上に、電話にも出ていないことがわかる。
「まったく連絡つかず、ってわけか」
「あ、あとこの文が、ステッキが送られてきたやつです」
『お前の話を上司にしたらもらった。写真見せたときに”まさしく彼こそがふさわしい……!!”って言ってたからお前には使いこなせると思う。頑張ってくれ』
「……これ、その上司が犯人じゃねえか」
「まあ、そう考えるのが自然ですよね」
時生は牛丼を食べながら同意する。こんなこと言ってるやつが犯人じゃないわけじゃない。仮に違ったとしても重要参考人だろうと確信はしている。ただ、一つ問題があった。
「その上司の名前とかわかんねえの?」
「いや……働いてる場所はわかります。確か”財団”って」
「財団!? まじかよ……」
「……そんなやばい企業なんですか?」
虎次郎が驚き、軽く頭を抱える。当の告げた本人たる時生はわかってない様子だ。
時生の疑問に、表情をこわばらせながら答える。
「やばい……そうだな。やばい。なんせ俺たちが使ってるトレジャー、それにいち早く目をつけて解析技術を研究してるトップ企業だからな。守秘義務がすごくて、そこの社員はめったに会社から出てこないらしいし、それこそ戦争での大魔術師がかかわってたとしてもおかしくねぇ」
「まじっすか」
「ああ、そっか。そこから出てきたものならあいつが解析できないのも無理はないか……」
ぶつぶつ言って考え出す虎次郎に、時生はついていけない。とりあえず牛丼を頬張った。
「えーっと、で、その、財団に乗り込めばどうにかなるんですか?たぶんネットで調べれば住所とかわかりますし」
「いや……残念だけど、無理じゃねえかな。首謀者が大魔術師なら俺たちじゃ倒せないし、セキュリティもやばい」
「じゃあ、その住所にステッキを入れて送り返すとか」
「いや……それもきついだろう。そもそもステッキを預けて解析してもらうのは受理してくれない気がする」
「と、いうと?」
虎次郎がおにぎりを持っていない左手に着けられたピンクのブレスレット……メタモルステッキを見る。
「単純に、このステッキが財団から流れてきて、俺たちの手に渡ったならそこには意図があるはず。わざわざ回収なんてするかよ」
「なる、ほど。このステッキがなんかの試作品とかで、その実験、みたいな?」
「そうそう。それに、俺たちの元の体、そして精神は、このステッキに支配されてるって言ってもいいと思う。仮に財団がステッキを自由にいじくる技術を持っているとすれば、渡した時点で実質生殺与奪を握られるようなもんだと思う」
「いや、確かにそうかもしれないですね。やっぱり手元に置いておいたほうがいいような気がします……でも、ステッキの秘密を得て、元の体に戻るためには財団からの情報が一番なんですよね」
おそらく、その”財団”という大本に行ったとして、すぐ解決とはならないだろう。
しかし財団と接触しなければ、ステッキの秘密は明らかにはならない。そんなジレンマがあった。
おにぎりを食べ終わった虎次郎は、スマホを取り出す。
「だからとりあえずは、末端から探る」
「というと……?」
「俺がステッキを入手したのは、前の舎弟にハメられたから。つまり、そいつにステッキを渡した職員がいるはず。だからとりあえず、俺はその前の舎弟を倒してその職員とのつながりを得る。わかったか?」
「なる、ほど。わかりました」
「そうだな。だから、注意人物を知らせておきたい」
虎次郎はスマホをいじって、ある男の写真を見せる。両耳に三個ずつ着けたピアス、金髪のツーブロック、濃いひげ、崩した学ランが特徴的だ。
「なんというか……典型的なヤンキーっぽいというか……」
「そうだな。俺の舎弟だったんだが、気性が荒くてな。名前は西浦哲夫。今俺をハメて、うちの高校の番長になったやつだな。スキルは【血狂い】、トレジャーはたぶん俺が使っていた《バッドバッドバット》……打ち返した球が魔球となって必ず敵のみぞおちに突き刺さるってシロモノだな」
「えっぐ……なんすかそのバット。あと【血狂い】って? 嫌な予感しかしないんですけど」
「自分、他人問わず流れた血が多いほど身体機能が強化される増強型のスキル……シンプルに凶悪だな」
「うぇぇ……」
時生が苦い顔をする。もともとがオタクだった時生はオラオラしたヤンキーが苦手だった。いくら魔法少女になって強化されたであろう自身があるとはいえ、きついものがあった。
「ともかく、説得が効くようなやつじゃねぇ……ぶん殴ってこのステッキの情報を聞くしかなさそうなんだよな」
「どのくらい、強いんですか……?」
おそるおそる、時生が訪ねると、虎次郎はやっぱり苦い顔をする。
「俺一人じゃ、駄目だな。魔法少女になったあと、一回そいつとその取り巻きに襲われたことがあってな……都合良く”セカンドフォーム”が発現しなかったら、どうしようもなかったな」
「……ん?」
時生が違和感を感じる。牛丼を食べる手を止めて、考える。
「どうして、ヤンキーは魔法少女を襲うんでしょう?」
「どうして……か。普通に口止めで殺そうとしてんじゃねえか?あいつ……哲夫は御剣区五高を束ねる番長になる、ぐらいは野望がありそうだしな」
「そういうもん……ですか」
なんかそれだとひっかかるなぁ……と思う時生だが、その心当たりは思いつかない。残り少なくなった牛丼を食べきると、小さくごちそうさまをする。
「ともかくそういうことだ。色々話したけど、結局やることはシンプル。あいつを倒す。財団の職員を捕まえる。メタモルステッキの由来を知る。たったそれだけだ」
「わかりました。そのために、臨機応変にやればいいんですね」
「おう……ちょっと話しこんで疲れたし」
「はい」
「甘いもん食うか」
「そうしますか」
二人は、冷蔵庫に向かった。食べた甘味は、時生にはとても美味しく感じられた。