「とりあえず舎弟……文人とミケが来るまではちょい休憩な」
「わかりました」
スイーツを美味しく食べた時生と虎次郎は、少しのんびりとしていた。適当にテレビでバラエティを流しつつ、常備されていたほうじ茶を飲み、ソファーでくつろいでいた。
「あのー……ちょっと聞いていいですか?」
「ん?なんだ?」
「いや……」
時生は少し、気になっていた。虎次郎がここに住んでいる理由だ。この年齢なら普通は親と同居しているもんだと思っていたのだが。
「虎次郎先輩はどうしてここに住んでいるんですか?」
「……いいだろ?別に、気まぐれだよ」
ごまかしている、と時生はわかった。表情は明らかにこわばっていて、目線が下に落ちた。
「いや、でも」
「大丈夫、大丈夫だ。俺の事情だから触れなくていい」
間髪入れずに、虎次郎が言葉を遮る。その様子に、時生は少し怯む。
「ごめんなさい」
「……いや、すまんな」
沈黙が訪れる。
どことなく気まずい雰囲気になったところで、インターフォンが鳴る。
「ちょっと開けてくるな」
「あ、お願いします」
虎次郎が玄関に向かい、少しした後、戻ってくる。
抱えられた腕のなかには。
『こんにちは!朝ぶりですわ!』
「ミケか!」
明るい女の子の声を持つ白猫、ミケがいた。
★
『と、いうわけで、ミケによる魔法入門、はじめますわ!』
「いぇーい」
リビング。テーブルに座り、ミケ。
時生はその得体のしれないノリに乗る。なお、虎次郎は自分の部屋にいるとのこと。
「というか、最初の疑問なんだけどさ」
「なんですか?」
「魔法少女になったからって、魔法が使えるようになるの?」
「もちろんですわ!」
そもそも魔法が不得意で不安だった時生が聞くと、何を当たり前なことを、という顔をしてミケが言う。
「だって、魔法少女ってそういうものでしょう?」
「……いや、まあ、そうなんだけどさ。こう、具体的なメカニズムというの?」
「あー……ちょっと長くなりますが、いいですか?」
「うん」
ミケが悩ましい顔をして、考えながら言葉を紡いでいく。
「……そもそも、魔法っていうのはマナを原料として発動されているって話は知ってますわよね?」
「うん。あの、異世界由来の、てやつでしょ」
「そうですわ」
魔法を発動させ、この世の法則を捻じ曲げる魔素。異世界と通じた穴から出てきているというそれの話はさすがの時生も知っていた。
「そして、魔法を発動させるには、人々の意思が必要」
「うん。常識」
「では、マジックアイテムを成り立たせているのはなんなのでしょう?」
ミケが問う。時生はぱっと思考を巡らせるが、そもそもマジックアイテム自体の話をあまり聞いていなかったのもあり、答えは出ない。
「ごめん。わからない」
「いや、いいんですの。正解は、文化と常識ですわ」
「……文化と常識?」
ピンとこない抽象的ワードに、首をかしげる時生。その反応に教えがいを感じるミケが、さらに続ける。
「たとえば、銀と十字架は吸血鬼を滅する、怨霊には清めた塩が効く……みたいな感じですわね。そういう民衆が持っているイメージがそのままマジックの元になる何かに定着するんですの」
「なる……ほど?」
「そう考えると、魔法少女は魔法を使えてしかるべき。そうではなくて?」
「うん……そう言われるとそうだけど……」
「何か引っかかるところでも?」
なんだか納得していない様子の時生にミケが聞く。そうすると、おずおずと時生が口を開く。
「いや、魔法少女って、文化というには、現代的でサブカルすぎない……?」
「まあ、そこは、ちょっと気になるわよね。でも、そういうものなのだわ。魔素が異世界にあったときは、それこそ聖剣だとか魔剣だとかしかマジックアイテムはなかった、らしいわ。あんまり論文とか読めてないから詳しくはわからないけれど。しいていうなら、この文化量が多すぎる現代日本がおかしいのだわ」
「しかも、魔法少女なんだよね?思いっきり男が変身してるし……」
「マジックアイテムを人為的に制作しようとする人は、任意に文化や常識……ミーム、と専門用語で言うのだけれど、それを乗っけられるらしい、わ。だからその製作者の性癖がおかしいのではないかしら……」
「それは、許せないな……」
「ま、そういうことで。話は脱線しましたけれど、魔法の練習をしましょう」
「わかった。どうすればいい?」
「とりあえず変身をお願いできるかしら」
「おっけー……ん?」
そう言われた時生は、変身しようとする。が、よく考えてみればこの状態、デイリーフォームから元の状態に戻る方法を知らないということに気づく。
「ごめん。変身方法わかんない」
「あれ?虎次郎教えてなかったのね。確か虎次郎はブレスレットを手で抑えて”変身!”ってやってたわね」
「わかった。気を取り直して、変身!」
メタモルステッキが変化したブレスレット、左手首につけてあるそれを右手で抑えてそう言うと、変化が起こる。
体が中空に浮かぶと、彼女の周りにホログラムのように夜空が投影される。
ステッキが元の姿を取り戻し、右手のなかに収まる。そして全身が光輝くと思えば、ステッキの頭の星から六つの蒼い星が飛び出し、時生を中心に円を囲む。
そしてその星々が両手足、同、頭に吸い込まれると、それぞれソックスと手袋、ミニスカワンピース、星がついたカチューシャに変化。
そして最後に、髪が腰まで伸びて、色が蒼へと変わる。
「……魔法少女、ミーティアレイン、星誕!」
ステッキを前に掲げて、決め言葉を言う。いや、時生にとっては洗脳のように言わされてるよ感じたのだが。
「はっっっっずかしいなぁこれ……」
「そんなことありませんわ!まさしくお見事でしたわ!」
「いや、男の尊厳にクるんだよこれ……」
そしてその尊厳すらこのステッキは奪ってくるのか、と考えると時生は気分がブルーになる。
「それで?何をどうすれば?」
「んー……水系の魔法から練習していきましょう」
「なんで水?」
「いや、その見た目、どう考えても水系じゃないですの」
時生の変身後の姿は、とても蒼い。そこからミケは水系が得意だろうと推察した。
「なるほど……」
「じゃあ、お手本見せますわ。ウォーター!」
そうミケがいうと、用意してあったコップに水が生成される。
「あれ、ミケって水魔法も……?」
「いや、まあ初級の魔法はだいたい使えますわ。まあそれ以上は適性がなかったのですが……」
「へえ……」
「まあ、ともかく。こんな感じで。重要なのはイメージですわ!どこからともなく空気中から水が湧き出てくるような!」
「わかった。ウォーター!」
ついに、こんな初歩すらできなかった自分が魔法を使える。期待しながら時生が告げる。
が、何も起こらない。
「……ちゃんと想像しました?」
「したよ!!!!!」
「じゃあ、もう一回お願いするわ」
「う、ウォーター」
出ない。まったく出るそぶりすらない。
「マジ、ですの?」
「マジだよ!!!あんなしっかり”魔法少女なんだから魔法使えますわ!”って言ってたのに!!!」
「ええ……虎次郎はけっこうしっかり使えてますのに」
「じゃあたぶんそれ元だよ!!!!」
「まあ、他の属性の可能性もありますわ。ちょっと色々試してみるのですわ」
「ファイア!」
出ない。
「ウィンド!」
出ない。
「アース!」
出ない。
「ヒール!」
出ない。
「何もでないですわね……」
「そろそろ泣きそうなんだけど」
数十分。色々試したが、何も出なかった。時生は軽く涙目になってるし、ミケは遠い目をしている。
「まあ、身体強化は少し出たじゃない……」
「いや、出たけど。虎次郎に比べたら酷いしヤンキーにも勝てそうにないってミケ言ってたじゃんか……」
唯一、身体強化は少しは出来た。けれど魔法少女の権能というには弱すぎるありさまだった。
ソファの上で体育座りになっていじけている時生に、ミケがフォローを入れる。
「まあ、空は飛べるんのでしょう?なら十分に魔法少女と言えると思いますわ!」
「攻撃できなきゃ力になれないじゃん……」
「はあ……なんでなのでしょう。魔法少女っぽいことならできるはずですのに……」
「……そもそも、魔法少女っぽいってなんだろう」
そう、時生はぽつりとつぶやく。それを聞いたミケが、考える。
「魔法少女っぽい……?そうですわね。そこを考え間違ってたからうまくいかなかったのかしら。そうですわよね。魔女とは違う。魔法少女……そういえば、時生さん。あなたの魔法少女としての名前はなんでしたっけ?」
「? 確か、ミーティアレイン、って」
「そうですわ……魔法少女のその名前はある程度その性質を示す。それを考えると……時生さん! ちょっと広いところに行きますわ!」
「え?」
そういうと、ミケは浮遊魔法を発動しそのまま、窓を開け始める。
「ちょっと!?ミケさん!?」
「大丈夫ですわ!!!重力の影響は浮遊で減らしますので!!!」
「いや、そういうことじゃなくてさ!!!エレベーターとか階段使おうよ!!!」
「あとこっちのほうが速いんですわ!!善は急げ、ですわ!!!」
そしてそのまま時生を置いて飛び出していく。一人残された彼も、ため息をついて下に向かうのだった。
・魔法の属性
ほとんど体系化されている属性:火、水、風、土(四元素)
かなり体系化されてる属性:木、金、雷、光、闇、回復、身体強化(五元素+ゲーム的ミーム)
そこそこ体系化されてる属性:浮遊、転移(超能力、サイキックのミーム)
禁忌:ネクロマンシー(登場するかは未定)