好きなカードをGXに持ち込みたかった話 作:とある決闘者
ルール把握→十代が死者蘇生でフレイム・ウィングマンを蘇生しようとしてたことに何も思わなかった程度。
受験番号97番。
それは手に持っている紙に書かれているものだった。
「……はぁ……」
その数字を見て俺は思わずため息をついてしまう。
この数字は受験番号を示していると同時に筆記によって行われた一次試験の順位を表している。総受験者数を考えれば一番目の関門を潜り抜けることが出来る程度にはいい数字だ。しかし、これから行われる二次試験の事を考えれば底辺と言っても良い数字だった。
『…何度見ても結果は変わらないよ?』
『マスターはバカだからな~www』
受験票を持っていたのと逆の手に持っていたスマホが震える。画面上にはチャットアプリに二件の新着メッセージが届いていた。
一件目は水色の髪にだるそうにしている目つきが特徴の女の子のアイコンが、二件目はピンク髪の溌溂そうなニヤケ顔が特徴の女の子のアイコンが発言したものだ。
『誰のせいだと思ってるんだ』
『…自身の能力のせいでは?』
『それな!』
俺が文章を送信した瞬間に即既読がつき、返信が来る。
(こいつら……)
『お前たちに付き合ってたから勉強する時間が取れなかったんだぞ』
『…自分の心の弱さを私達のせいにされても困ります』
『そうだそうだー(*'▽')』
いや、まあ、それを言われたらそうなんだが……。二人からの猛烈な『ゲームしろ』コールに付き合わずに全部無視すればよかった話である。結局、いつも最終的には三人で遊んでいたのだから彼女たちが言う事も尤なのだ。
でも、あいつらを無視してたら無限に騒ぎ続けるからな……。
騒ぎ続けられたらそれはそれで勉強に集中出来ない為、俺には二人の相手をするという選択肢以外ないというわけだ。
『…あ、そこの道を左に曲がってあとは道なりに進めば試験会場の海馬ランドです』
チャットアプリに文章が打ち込まれると同時にスマホから透明の手がにゅっと飛び出し、進むべき道を指さしている。もう慣れたことであるから驚きはしないが、この光景は何度見ても異様である。
しかし、このスマホから伸びる手は俺以外には見えていない。少なくとも、俺の周りでこの異様な情景を共有することが出来る人は一人も居なかった。
『サンキュー』
手に持ったスマホをポケットにねじ込み、目的地である海馬ランドへと歩を進めるのだった。
(あ~……緊張するなぁ……。大学受験とか就活よりも緊張してるかもしれないな。試験として人前でデュエルすることなんて初めてだからなぁ)
★
カードは昔から好きだった。
小学生の時は親に頼み込んで買ってもらった。
中学生の頃は親からもらった少ない小遣いをなんとかやりくりして買った。
高校生の時は週2日のバイト代を使ってカードを買った。
だがそれも、大学生になり、社会人になった頃には最新のパックを追うようなことはしなくなっていた。そんな社会人生活にも慣れて来たある日の事、なんとなく、本当になんとなく久しぶりに遊戯王カードのパックを剝きたくなった。特に意味はない。目的もない。買ってからコレクションの一枚にするのか、デッキに組み込むのか、何も考えていない。
ただただ唐突にパックが剥きたくなった。
見つけたコンビニに入り、色々なカードが並べられているスペースを探し出す。どうやらこのコンビニはサンプルではなく、パックそのものを吊るしているタイプの店らしい。今時珍しい。
(最近はサーチ対策で客がカードのパックを選ぶことが出来る店は少なくなっていると思ったのだが、あるところにはあるものなんだな)
折角パックを選ぶことが出来るのだ。ここは前から順番に取るのではなく、これだと思ったパックを2つ選んでみることにした。とは言え、こちとら物の分別を弁えた社会人。棚の前に陣取ってパックを折り曲げてみたり、カードこすり合わせて滑り具合を確認してみたり、パックの膨らみ具合を側面から確認するつもりはない。
(これにしよう)
俺は前から2番目のパックと後ろから4番目のパックを手に取り、レジに向かう。それらのパックを選んだ理由もなんとなく。ほとんどおみくじ感覚だ。
(あ、今って1パック150円じゃないんだ……)
ちょっとしたショックを受けながらも会計を済まし、買ったパックを受け取る。
店員のやる気のない「あじゃじゃしたー」という声を背中に受けながらコンビニを出る。
(開けちゃうか)
本来なら家に帰ってから開けるべきなのだろうが、久々に買ったカードのパック。パックの中身が気になるのはいくつになっても変わらないのだと気づかされる。
今は会社帰りであり、ハサミなんてものを持っているはずもない。小学生の頃の様にプラスチックのパッケージをバリバリと破って中のカードを取り出す。
(あ~この瞬間が最高に楽しいんだよなぁ)
レアカードがある一番最後のカードが見えない様に取り出していく。
さて……。最近はどんなカードがあるのかな? 出来ればウルトラレアが見てみてみたい。いや、もしかしたらレリーフかもしれない。もし、強いカードが出たら売っちゃおうか? ん~、なんとなくそれは嫌だな。
そんな事を考えながらカードを1枚ずつ確認していく。
多分、それがいけなったんだ。
「あがっっっ!!!???」
凄い衝撃。痛い。回転する視界。痛い。吹っ飛んでいくビジネスバッグ。痛い。舞い上がる10枚の遊戯王カード。痛い。痛い。痛い。
街灯が舞い上がったカードを照らし、キラリと赤と青の少女を光らせた。
(あ、スーパーレアが2枚)
意識した最期の思考。
結局俺は大人になってもデュエリストの心を忘れてなかったんだな。
デュエルの描写まで行かなくて草。