魔法科高校の禁書目録 作:何故か外れる音
二〇七九年 四月二十四日
司波達也が生まれた日に、一人の異物が紛れ込んだ。
少女はその生まれからか特殊な魔法演算領域を有していた。
他者の魔法演算領域の解析を得意とする四葉英作が思わず匙を投げてしまうほどの膨大な情報量を有していたのだ。
栄作の実力不足とも言えなくもないが、実態は少女が異常だということ。
四葉家は岐路に立たされた。
司波達也は世界を破壊せしめる力を秘めていて、少女は全容が全くといって分からない。
何の抵抗力を持たないうちに排除するべきではないか……と分家の者達が具申するのも無理はない。
だが、それが現実になることはなかった。
栄作が司波達也を殺さない選択をし、四葉真夜が少女を庇った事で二つの小さな命が消される事は回避された。
魔法演算領域が解析されたのかどうか、その一点で二人に取られた対応は大きく違った。
どんなときも徹底的に喜怒哀楽を抑え込み、如何なる状況に置かれても血路を開けるように徹底的に戦闘技術を叩き込まれる事が決まった司波達也に対し、少女はただただ様子見されることとなった。
年月が経ち、ある程度成長した司波達也に厳しい訓練が施されるようになった頃、少女の外見に特徴的な変化が現れた。
この頃には超能力を有している事が判明しており、自身の手足を動かすように不思議な現象を数多く起こすようになっていた。
だが、魔法演算領域が詳細不明である事は変わらず、魔法の暴走が起こらないかと不安を抱く中で起きた変化だった。
両親譲りの黒髪黒目が、赤目白髪へと変わった。
それだけでも驚きなのだが、赤目部分に
俗に云う、しいたけ目となったのだ。
訳が分からず、四葉家の大人たちが少女の遺伝情報に問題があったのかと調査するのは自然の流れである。
だが、そこからは何の問題も見つかることはない。
分かることは、この少女が四葉の血を色濃く継いでいる事実だけだった。
彼らが自然と少女が宿す魔法演算領域が何か影響を与えているのだろうという考えに至るのにそう時間は掛からなかった。
歳不相応な雰囲気を身に纏う少女であるとはいえ兄弟と戯れる姿は、正しく幼女していた。
二人が六歳になった時、二人の環境を大きく変える出来事があった。
魔法師でなければ四葉家の人間として居ることはできない。
『分解』と『再生』の二つの魔法に演算領域を占領されている達也に対し、少女の魔法演算領域は未だに詳細不明の状態。
だが、少女に関しては分かっている事がある。
達也と同様に超能力を宿しながら、膨大な情報量を演算領域に抱えているという事だ。
そんな状態にありながら、魔法演算領域に空き容量がある事を期待するのは無理があった。
二人を四葉家の人間として居させる為かは知り様が無いが、四葉真夜が人造魔法師実験を計画し、真夜の姉である司波深夜が人工の魔法演算領域を植え付ける手術を行う事となった。
達也は「兄妹愛」以外の強い情動を消失し人工の魔法演算領域を手にし、そして、少女は。
深夜の精神干渉系魔法を正面から打ち破っていた。
怪しく赤い光が瞳に灯り、瞳の動きに合わせて光線を描く少女の額から電気が飛び散った。
正面から弾かれ驚きを隠せない親たちを他所に、痛そうに額を摩る幼女の姿がそこにはあった。
手術後、達也は今まで通りの生活に戻り、少女は四葉家本邸の離れに軟禁されることに決まった。
少女が無意識に展開する障壁を超えられず、手術することが叶わなかったのもあるが、何より、二〇六二年の事件が大きく影響した形だ。
色濃く四葉の血を継いだ少女を野放しすることは出来ず、その身に宿した力の調査と制御を身に付けさせるという苦肉の策が取られることとなった。
その決定に、少女は人知れず喜んだという。
これは、奇しくも司波達也の姉、司波深雪の姉として、俗にいう神様転生(TS)を果たした彼、いや、彼女のお話。
司波深夜の娘として、四葉真夜の娘として造られた、四葉