魔法科高校の禁書目録   作:何故か外れる音

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入学編 Ⅸ

 超能力と同じ尺度で魔法を大まかに分類すると、大体二〇~三〇種類となる。

 これを更に細分化して、数十種類の魔法を操るのが現代の魔法師と呼ばれる者達。

 

 圧倒的な多様性を得た彼らと張り合う様にして。

 手放せない力を隠すようにして。

 

 手数の多さを真骨頂として、傍目から見ても分かりやすくて。

 何より、限りなく魔法に近い。

 

 そんな異能を選んだことを後悔していない。

 

 そう胸を張れたらどれだけ良かったのだろうか。

 

 

 比較的傷の少ないハイパワーライフルを分解して元に戻してと遊びながら、深真はそんな事を思う。

 目まぐるしく変化する環境にストレスでも溜まっていたのだろうか。

 久々に超能力を解放して発散した深真の精神状態は冴え渡っていた。

 

 真由美は、真由美を追いかけて来たのだろう生徒に指示を出し、襲撃者らを縛り上げている。

『会長が駆けつけてくれてよかったわね』と彼らの内の一人に言われた際には、笑いそうになった。

 彼らの中では、この現状は真由美が作りあげた事になっているようだ。

 七草のご令嬢がやったことにした方が、何かと都合が良い場面であったが為に、訂正しようとした真由美を制して、その思い込みを利用する事にした。

「秘密です」と不満そうな表情を浮かべていた真由美に耳打ちすると、コロコロと表情が変わった末に何故か喜ばれる結果となったが、真相は謎である。

 

「深真さん、こちらは大丈夫そうなので移動しましょうか」

 

 その声の主は言うまでもなく、真由美であった。

 何処へ、とは聞かず、一つ頷いて彼女の声に従い立ち上がる。

 

「皆、保健室に集まっている様です。行きましょうか」

 

 恐らく、生徒会のメンバーや達也たちの事を指しているのだろう。

 当然、深雪の姿もそこにあることだろう。

 

「……先に寄り道してもいいですか?」

「えぇ、いいわよ」

 

 簡単に同意する真由美に、深真は少し不安になる。

 遠回りして時間を稼ごうとしている深真の思惑に気付いたのだろうか。

 彼女の同意の言葉には、付いて行くという意思が感じられる。

 単に、別々に行動するという選択肢が存在していないだけなのかもしれないが。

 

「どこに行くの?」

「忘れ物を取りに」

 

 案の定、真由美は付いてくるようである。

 素っ気なく簡潔に返された言葉を考えて、真由美はポンっと手をたたく。

 

「教室ですね。最後に一年生の教室に行ったのはいつだったかなぁ」

 

 一段落つき、落ち着きを取り戻しているとはいえ、感慨深そうに過去を振り返る真由美に感心する。

 自信の表れかは知らないが、真由美が導き出した答えは間違いである。

 

「いいえ、事務室です」

 

 過去に帰っていたのだろう真由美がパチパチとまばたきをする。

 変な事を言った覚えはないので、深真もまた不思議そうな反応を返してしまう。

 

「えーっと、何しに行くの?」

「預けている長杖を回収しに行くんですよ」

「長杖…?そう言われてみるとあの白い杖持っていませんね……でも、歩行補助の道具なら、あれ…?」

 

 関りが薄い余りに忘れられていたのだろう。

 登下校以外で杖を持ち歩かない以上忘れられても無理はない。

 が、歩行補助の道具を学校に預けなければならない理由もない。

 深真の様な特殊な例を除けば、の話だが。

 

「他の人にとってはただの杖ですが、私にとってはCADになりますから」

 

 

 ◇  ◇

 

 

 事務所への道すがらに出た話題は超電磁砲(レールガン)の事だった。

 と言えど、超電磁砲(レールガン)の事を詳細に答えることはない。

 真由美の前で見せた電撃技について、少しだけ触れる程度のものだ。

 必殺技に位置する超電磁砲(レールガン)についても聞きたがっていたが、それが話題に出ることはなかった。

 

「危険だッ!学生の領分を超えている!」

 

 事務所に残っていた職員から杖を受け取って保健室に向かい扉を開けるとそんな言葉が飛んできた。

 

「真由美ッ!無事だったか」

 

 深真を追いかけた真由美が登場した事で話が途切れたようだ。

 摩利の声音に安堵の感情が乗っているは気のせいではないだろう。

 

「えぇ、無事よ。精々、キャスト・ジャミングの大波に晒されたぐらいかしら」

「それは…大丈夫なのか…?いや、五体満足で帰ってきているのを見れば問題なかったのは分かるんだが」

「そ・れ・はぁ……」

 

 何故かそこで溜を作った真由美を見て、深真は話を戻す事に決めた。

 

「それで、何が危険なんですか?」

「アンティナイトとハイパワーライフルを持った襲撃者数十名を一人で相手取った超能力者ですっ!」

「貴様もアンティナイトにしてやろうかッ!!!」

 

 話を戻そうとした矢先、危険人物とされた深真は反射的に真由美の頭を片手で鷲掴みにした。

 よく分からない事を口走った気がするが、今はそれどころではないと真由美を掴んでいる手に力を籠める。

 真由美の悲鳴が上がる中、状況を先に進めたいのだろう達也が説明する。

 淡々と流す達也に、レオやエリカたちがドン引きしている。

 

「つまり、壬生紗耶香先輩を強盗未遂による家裁送りを防ぐのを名目に、ブランシュの残党狩りをしたいわけですか」

 

 ぎゃああと淑女が出さないような悲鳴を上げる真由美を他所に、深真は達也の主張を簡潔に纏めた。

 

「家裁送り…か。確かにそれは避けるべきだな。………七草の頭を離す気にはならんか?」

 

 深真の言葉に含まれていた単語に反応したのは、巌の様な男子生徒だった。

 

 部活連会頭・十文字克人。

 十師族が一つ、十文字家の当主代行。

 

 深真が知っている情報はそれぐらいのもの。

 だが、これだけの情報でもこの巌が持つ権威は相当なものだと分かる。

 

「頭が割れるかと思ったわ………」

 

 巌の言葉を聞き入れて真由美の頭から手を離すと、そんな声が聞こえてきた。

 そんな真由美を気遣う者はおらず、話は本題に戻っていた。

 

「相手はテロリストだ。俺達は当校の生徒に命を掛けろとは言えん」

「当然だと思います」

 

 馬鹿が馬鹿をやっていた場とは思えない克人の視線が達也を貫くも、達也は淀みなく答えた。

 

「……一人で行くつもりか?」

「本来ならそうしたいところですが」

「お兄様、私もお供します」

「あたしも行くわ」

「俺もだぜ」

 

 深雪が参戦の意を示せば、エリカとレオもまた意志を示す。

 自然と深真の方にも視線が集まってくる。

 

「……???あぁ、行ってらっしゃい」

 

 心底不思議そうにしながら、深真は残党狩りに出掛ける彼らを見送る意思を示した。

 

「………ちょっと待って」

「はい?」

「今の流れでそれは無くない…?」

 

 ごもっともな意見をエリカから頂き、深真は少し考える。

 自分が付いていく理由はあるのかと。

 

「十文字さんも一緒に行きますよね?」

「無論だ。十師族に名を連ねる十文字たる俺が、下級生にばかり任しておいては話にならん」

「えっ…?十文字くんも行くの?」

 

 参戦の意志を表明した克人に真由美が驚いて見せ、自分も参加したいと言いだそうとするも、真由美の参戦は却下され、その流れで摩利の参戦も見送られた。

 

「待って待って。それで、深真は行くの?行かないの?」

 

 残党の所在地の話に移行しようとしたところで、エリカが声を上げた。

 忘れてたとでも言わんばかりの反応が周囲から現れる。

 

「行きませんよ……私は。推測が正しければ、残党に魔法師を相手取る戦力は残されていないでしょう」

「そんなの、わかんないじゃない」

 

 学内に派遣された工作員の戦力と、真夜から与えられていた資料を元に立てた推測を話す。

 勿論、真夜の事を話に出すことは無い。

 エリカから拗ねたような反応が、深雪が何処か残念そうにしているのが分かる。

 

「……あぁ、エリカは私と離れたくないのですね。すいません、気が付きませんでした」

「そんなことは言ってないでしょ!!?」

「なら、問題はないですね」

 

 明後日の方向に解釈した深真を否定したエリカだったが、その否定が、深真の参戦を見送る事に繋がってしまった。

 これ以上長引かせると夜になってしまうので、この話題が続くことは無い。

 

 どういうわけか保健室の扉前で待機していたカウンセラー・小野遥先生から、ブランシュの居場所を聞き出して、克人が準備した車に乗り込み出発した彼らを見送り、深真は一足先に家に帰るのだった。

 

 

 ◇  ◇

 

 

 事件の後始末は、克人が引き受けたようだ。

 十師族の権勢が司法局を凌駕している事もあり、達也らが残党狩りでやったことは御咎め無しとなったようだ。

 何をしたのか気にならないわけではないが、十師族の恩恵に預かる程の事はしたのだと予想はできる。

 

 ただ、ブランシュのアジトに向かう車中にて、深雪とエリカの間でひと悶着あったようだ。

 

 深真の超能力については、真由美が言いふらしていないようで噂になることもない。

 校門での一騒動が真由美の武勇伝に変わっていたのは笑ってしまったが、本人はいい迷惑としているようだ。

 それでいて、真実を話さずに深真を庇うような姿勢を見せてくれている真由美には感謝しかない。

 

 深真は関りがない為、よく分からない話だが、壬生紗耶香のスパイ疑惑は最初からなかった事となった。

 ただ、マインドコントロールの使い手が絡んでいた関係で、入院することとなったそうだ。

 

 達也と深雪も平穏で静かな生活を取り戻しつつあり、喜んでいるようだ。

 

 だが、深真の抱える最大の問題である『深雪との仲直り』は五月に入った今でも解決しそうにない。

 

 





入学編は終わりです。
言葉足らずな部分を補正しつつ、九校戦編に入りたいと思います。
入学編の話の流れは変わらないので、そこはお気になさらず……

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