魔法科高校の禁書目録   作:何故か外れる音

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入学編 Ⅵ

「達也くん、この模擬戦は()()()でしたか?」

 

服部刑部少丞範蔵生徒会副会長が第三演習室から退室したところで、真由美が問いかけてきた。

 

放課後、深雪と共に生徒会室に赴くと副会長と模擬戦をすることとなった。

副会長の言動に難があり、深雪との口論に発展、深雪一人を悪者にはせんと達也が副会長に模擬戦を吹っ掛けた結果である。

模擬戦は達也の瞬殺で終わり、達也が使用した魔法技能の解説会が開かれ、そして、今に至る。

 

真由美の質問は、達也の姉が生徒会室で行った発言に関するものだ。

姉の発言は決していいモノではなかった。

その発言が問題にならなかったのは、ひとえに上級生の方々の心の広さが大きかったからだろう。

 

それは兎も角として、真由美の中々に意地の悪い質問に、達也はどう答えようか悩んでいた。

深く悩んでいる訳ではないが、わざわざ昼休みの一件を持ち出してきた問いに答えを悩んでしまうのは無理はないだろう。

 

「別に意地悪で聞いている訳じゃないのよ?ただ、入学から一度も負けていないはんぞーくんを一瞬で倒してしまったんだもの。生徒会室で深真さんが言った通り、達也くんにとって高校生の魔法能力はお遊びなのかなって」

 

答えあぐねていた達也を見かねて、真由美が補足を入れた。

 

「そんなことはありませんよ………少なからず副会長は油断されていたでしょうし」

 

真由美の補足込みで否定の意志を告げた。

魔法師同士の戦いで初見殺し云々の話は無意味である以上、達也はそう答えるしかない。

 

「深雪が言ってくれましたが、俺の場合魔法実技の評価方法に適していないだけで実戦能力が低いわけではないですので」

 

達也がそう付け足すと、各々はそれもそうかと納得した様子だ。

このまま解散となるだろう、そう考えて第三演習室から退出するときだった。

 

「では、深真さんも司波くんと同じ…?」

 

それなら生徒会での発言も分かると続くように梓が呟いた。

その呟きは生徒会の面々に聞こえていたようで、どうなの?と尋ねるような視線が達也に集まった。

真由美の問いかけからこの話に繋がらないことを人知れず望んでいた達也は心の中でため息を吐いた。

 

「姉上の場合は単純に魔法力が低いだけです」

 

投げやりに達也はそう答えた。

答え方も投げやりそのもので、呆れた様な、はぁ、と抜けた反応が返ってきた。

 

「お兄様、肝心な部分が抜けています。お姉様は超能力者で、そちらに傾倒しているのです」

「なるほど……そういうことですか」

 

深雪が示した答えで各々納得したようだ。

 

一人の人間が魔法と超能力を併せ持つことはできない。

 

魔法業界における常識である。

しかし、超能力として遠隔視系知覚魔法を宿しながら高い魔法力を有している七草真由美が例外として存在している以上、他に居ない理由はない。

司波深真が真由美と違う、魔法力が低い魔法師だと考えれば、何ら不自然ではない。

深雪が付け足した様に、超能力に偏っているとなれば、尚更納得がいくというものだ。

 

魔法と超能力を両立させる存在が現れれば、驚愕したりするのが普通の反応だろう。

だが、七草真由美という前例が目の前に居る事が()()という薄い反応を示すに留まるに繋がった。

 

「それであの言い草ということは余程、自信のある超能力なんだろうな」

 

摩利がそう呟いた所で深真の話題は終わり、達也は摩利に連れられて風紀委員会本部へ、深雪は生徒会の面々と共に生徒会室へと消えていった。

 

 

  ◇  ◇

 

 

生徒会副会長との模擬戦を完勝し、達也は風紀委員会に正式に入った。

その話を聞いたのは夕食後の事だった。

荷解きを優先し一足早く帰った結果、魔法師同士の戦いを見逃した事を悔いた。

深真自身、四葉家の方針で魔法師との戦闘経験があるとはいえ、あれは超能力者と魔法師の戦いだった。

魔法師同士の戦闘がどんなモノか気になっていたのが実情だ。

 

それは兎も角として、クラブ活動の新入生勧誘期間が始まる今日から、本格的に風紀委員として活動するそうだ。

勧誘が激しすぎて学業に支障がでたこともあり、期限を設けられたようだ。

魔法科高校という特殊な土壌であるため、基本的に一科生に勧誘が集中する。

そのお陰で、深真は非魔法系クラブの勧誘を数件断るに落ち着き、今日も又、一足早く帰路についた。

 

相も変わらず、やる事は引っ越しの荷物の荷解き。

深真の長い後ろ髪に絡みつくという可愛らしい妨害を行う上海の相手をしながら、一つ一つ整理していく。

 

「シャンハーイ」

 

いつの間にか後ろ髪から脱出していた上海がとある箱の上に乗っていた。

小さな身体を懸命に動かして箱をペシペシと叩いている。

 

「その箱を開けて欲しいのですか?」

 

そう尋ねると、うんうんと頷きながら鳴いて肯定された。

今となっては昔のゲーム機の整理を取り止めて、上海の元へ向かう。

すると、上海はふわりと浮遊して深真の頭の上にもたれ掛かる様にして乗っかる。

反射しようかと意地悪な事を考えつつ、上海が乗っていた箱を手に取る。

 

「これは……?」

「シャンハーイ?」

 

じっくりと外装を見て。引っ越しに使用した箱ではない事に気が付いた。

荷物を引き取った際に紛れ込んだのだとすぐに思い至った。

となれば、考えられる人間は四葉真夜一人だ。

 

「上海、これは後にしましょう」

「シャンハイッ⁉」

 

深真の予想は正しい。

真夜に真摯にお願いされた上海は、そのお願いを叶えるため深真を説得する。

しかし、口から出る言葉は一つだけ。

上海は顔面にしがみついたり、片付けを再開しようとした深真の荷物を分捕ったりして邪魔をする。

深真の注意が上海に向く度に、先程の箱を指さすのだ。

 

「はぁ…分かりました。こっちを先にしましょう」

「シャンハイッ」

 

何がそうさせるのか分からないが上海の説得に負けて、深真は真夜が紛れ込ませたであろう箱を開封することにした。

封を開けている時も小さい溜息をついたのは仕方ないのかもしれない。

 

「………服と…手紙…?駄菓子でも家庭用プラネタリウムでもなく…?」

 

因みに、四葉本邸の離れに家庭用プラネタリウムを十五個置いてきている。

深真は未使用のプラネタリウムたちを思い出しながら服を手に取り広げてみる。

そして一目見て分かった。

 

「この服、深夜さんからですね」

 

司波深夜。

今は亡き、深真の片親にして達也たちの母親。

 

箱に一緒に入っていた他の衣類も確認するも深夜のセンスが現れていた。

よくよく考えてみれば、深夜からは服や雑貨の類を度々頂いていた。

 

自然と一方通行の服飾に寄って行った深真を見かねたのだろうか。

 

「という事は、この手紙は深夜さんからのものですか」

 

真夜からのであれば無視したのにと内心思いつつ、深真は手紙を開いて中身を確認した。

 

 

  ◇  ◇

 

 

「やっぱり、深真さんの制服姿はいいわねぇ……あっ、ちょっと、切らないで!?」

 

開口一番、変態的な言葉を紡いだ真夜を見て、無意識のうちに終話ボタンに手が伸びる。

真夜が制止する事がなかったら、このまま通話は終わったことだろう。

時代が進むと同じく技術も進み、テレビ電話もまた高性能となっている。

真夜の表情や動きをより正確に綺麗に届けられる為、深真がひいてしまった部分があったのかもしれない。

 

「……姉さんからのプレゼントを確認したのですね?」

 

一呼吸ついて真夜がそう口にした。

深真にとって親に当たる深夜は真夜にとっては姉のままだ。

真夜と深夜の二人の遺伝子を元に生まれた深真が居ても尚、その関係が変わる事はなかった。

二人ともに深真の事を娘として見ていた事に変わりはなかったのは、深真にとっては幸運だっただろう。

 

「はい、ありがとうございます。真夜さん」

 

駄菓子とプラネタリウムではなかったことに安堵した件については伏せて、礼を言っておく。

深夜が真夜に託していなければ、深真が深夜から入学祝を受け取る事はなかっただろう。

達也と深雪が受け取ったのかまではわからない部分ではあるが。

 

「喜んでくれて何よりだわ。姉さんに無理を言った甲斐がありました」

 

笑顔で無理をさせた事を教えてくれた真夜に、何とも言えない気持ちになる。

無理をさせたという事は死が近い時期に用意させたという事だろう。

深夜からの贈り物を用意してくれた事に喜ぶべきか、無理をさせた事に怒るべきなのか、分からずにいた。

 

「今年の誕生日プレゼントは楽しみにしていてくださいね。今年初めに発売された最新の家庭用プラネタリウムを入手しましたので」

 

その追加の情報で深真の心は更に混沌と化し、そしてどうでもいいやと放り投げてしまった。

深真のその性格を知ってか知らずか、真夜は深夜に無理をさせた件も流させることに成功した。

そんな気は一切なかったが。

深真が礼を言うと真夜が喜んで見せた所で、いよいよ本題に入った。

 

「深真さんは『ブランシュ』、もしくは『エガリテ』という名に聞き覚えはありますか?」

「私はビアンカ派です」

「……聞き覚えは無い、ということですね。反魔法活動を行っている政治結社とその下部組織の名前になります。彼らは『魔法による社会的差別の撤廃』をスローガンに掲げています」

 

差別の撤廃。

魔法に纏わる場所で差別が発生している事を知らなかった深真は驚いて見せた。

その様子を見て、真夜はもっと魔法に関する社会事情を教えておくべきだったかと思う。

 

「彼らの主張を簡単に纏めると、魔法師は無償で社会に奉仕しろ、といった所よ」

「差別を撤廃したい団体の主張とは思えませんね……」

「彼らの後ろについている者達の事を考えれば当然の主張よ。この国から魔法と言う社会的価値を、意義を失わせて得をする存在なんて限られているでしょう」

 

断片的にしか情報を教えてくれないが、それだけでも数日前まで安全・安心な環境で生活していたのだと思わされた。

絶対能力進化(レベル6シフト)染みた能力検査を行うことはあったが、それは超能力で蹴散らすだけで済んだ話だ。

 

「先程上げた『エガリテ』の構成員が第一高校に在籍しています。最近、活動を活発化させている様ですので、もしかしたら深真さんの身の回りで何か起こるかもしれません」

「気を付けろ。ということですか」

「えぇ、そうしてもらうためにこの話をしたわけですから当然です。………約束したように、人前では超電磁砲(レールガン)以外の超能力は極力使わないでくださいね」

「余程の事が起こらない限り大丈夫ですよ」

超電磁砲(レールガン)だけでも過剰な気がしますけど」

 

苦笑しながらもっと力を隠したらどう?と尋ねてくる真夜に、それはないと深真は間髪も入れず拒否するのだった。

 

 

  ◇  ◇

 

 

真夜の本題は、周りに注意してね、に限られた。

第一高校に七草と十文字の両名が通っている事が大きく、四葉が干渉するには無理があるのかもしれない。

そのあたりはよく分からないが、関東を守護する両家の子が揃っている以上、道理と捉えるべきだろう。

 

雑談の最後に、真夜からの入学祝も隠れているという要る様で要らない情報も手に入れたが、それを開封するのは最後になる事だろう。

 

そんな真夜からの電話があって早一週間。

真夜からの注意に素直に従い周囲に気を張って過ごしていたが、これと言って何も起こらなかった。

その代わりとでも言うように、達也の周りは賑やかな様相を醸しているが、それを羨ましいと思うことは無い。

 

初日に剣術部十数名を相手に大立ち回りしてそれ以降は、遠隔から魔法による攻撃が行われる事があるそうだ。

 

「昨日、二年の壬生を、カフェで言葉攻めにしたというのは本当かい?」

 

いつものように生徒会室でお昼にしていると摩利がそんな話題を切り出した。

完全に置いてけぼりにされる話題なのは確定した様なものなので、深真は深雪の手作り弁当に意識を集中させる。

初日に大活躍したダイニングサーバーは活動を休止し、今は全員が手作り弁当を持ち寄っている。

達也と深真の分は深雪が用意しているので、実質的に生徒会の女性メンバーによる弁当持ちより会になっていた。

一応、深真は自分の分を自分で用意しようとしたことがあったのだが、深雪に止められてしまった経緯がある。

朝から二人別々の弁当作りするよりはマシか、と思い、深雪の美味しい弁当を食べることになったのだ。

 

「………深雪さんの作った卵焼き、美味しいですね深真さん」

「梓さんの卵焼きも美味しいですよ」

 

恐らく話題に入りたくなかったのだろうあずさとそんな話を小声で交わす。

どういう訳か、三年生組と一年生組と深真とあずさの二人組と分かれて席に着いている結果だろう。

CAD関連の話でテンションがハイになるあずさの姿は何処にもなかった。

 

「壬生が顔を真っ赤にして恥じらっている姿を見た者がいるんだが」

「お兄様……?一体何をされていらっしゃったのですか?」

 

摩利の言い分に否定していた達也だったが、摩利が追加で投下した爆弾で深雪の方が爆発した。

物理的かつ局所的に室温が低下するオマケ付きだ。

特に冷え込んでいるのは深雪の周囲。

被害を一番受けるのは達也だろうなと他人事の様にウインナーを口に放り込む。

 

「ま、魔法…?」

 

隣から怯えの混じった呟きが聞こえてきたので、安心させるように頭を撫でておく。

梓の涙目が心無しか増した。

その原因は、考えるまでもなく分かる事となる。

 

「お姉様も何をされておられるのですか?」

 

深雪の怒気が増幅し、生徒会室の温度が更に下がった。

それが間違いだった。

 

深真を中心として電気が飛び散る。

三つ編みを纏めていた髪留めが弾け飛び、長い後ろ髪がメデューサもかくやともばかりに逆さ立ち乱れて見せる。

迎撃の術式も仕組まれていたのだろう。

こめかみ付近から射出された雷撃が深雪の手元に置かれた弁当箱を撃ち砕いた。

 

その冷気が深真の体温を著しく下げる恐れがあると無意識的に判定されたのだろうか。

 

突然の出来事に驚きを隠せないのは全員の事で、深真も同様に驚いていた。

 

「深雪も姉上も落ち着けッ!!」

 

弁当箱を撃ち抜いた時と達也が声を上げたのは同時だった。

だが、それは少し手遅れであった。

思いがけない深真の実力行使を受けて、深雪が涙目になっているのが分かる。

赤黒く変色していた深真の左目が正常に戻る。

 

「すみません」

 

深真はただそれだけ告げて生徒会室を後にする。

深真が座っていた席には食べかけの弁当だけが残されていた。

 

 

  ◇  ◇

 

 

現代魔法は超能力の延長線上に存在する。

深雪が無意識的に室温を下げたのがこの例に挙げられる。

そして本来ならあり得ない事だが、無意識的に魔法式を構築し処理してしまったのは深雪の才能を表しているに過ぎない。

 

だが、深真のあれは違う。

傍から見れば、超能力の暴走とも取れてしまうモノだ。

しかし、暴走ではないことを深真は自覚している。

 

自分で設定した演算式に従い超能力が発動しただけだ。

お姉様と慕ってくれている妹に攻撃する意志は微塵もなかった。

 

だからと言って、簡単に許される様なことではない。

深真は一人、外で反省していた。

 

 

 

 

「お姉様……」

 

深真が退室した生徒会室に悲し気な深雪の言葉が響いた。

和気あいあいとしていたお昼時間が一瞬にして変わり果てていた。

電撃を受けて燃えていた弁当箱はそのままの流れで深雪が鎮火した。

 

「俺が言うのは違うだろうけど聞いてくれ。姉上は害意を持って深雪に雷撃を飛ばしたわけではなかった、と思う。撃ち出した雷を無理やり曲げて深雪から逸らしたところを見ると、姉上にとっても予想外のことだったんだろう」

 

達也は眼で観た情報を元にして、深雪を慰めるように口にした。

深雪の心中を察して鬱陶しいと思われたわけではないとも。

達也自身、深雪への攻撃を許してしまったことを少なからず悔いていながら、深雪を思いやる。

姉の超能力が一味違う事は知っていたが、自分の警戒網をこうも容易く抜けるとは思っても居なかった。

普段の生活の様子から姉が深雪を攻撃することはないと勝手に思い込んでいたのかもしれない。

 

何より、意図が介在しない攻撃の厄介さを身を持って知った。

今回の経験をもとに、深雪の守護の仕方を考え直そうと達也は心に決めているところで摩利が声を上げた。

 

「それにしても、凄まじい超能力だったな」

 

生徒会室の空気が微妙なモノとなる原因を作った摩利が気まずそうに話題を変えようとした。

完全に明後日の方向に飛ばせないあたり、摩利らしいというべきか。

 

「超能力に迎撃のシステムを組み込んでいたのでしょう。もしくは、無意識に発動してしまう可能性のある超能力に方向性を定めている、といった所でしょうか」

「えーと…つまり、深雪さんの魔法の暴走を受けて、超能力が暴走したってこと?」

「そういったところではないかと。仮に、深真さんの超能力の出力が深雪さんの魔法力に匹敵すると言うのなら尚更考えられる事ですね」

 

ずっと様子を見ていた鈴音がこの一件の考察を口にした。

深真がこの場にいないため真偽は分からないが、大正解である。

 

「お兄様、わたし…」

「大丈夫だよ、深雪。ただ、今は時間を置いた方が良いと思う」

「でも、お姉様は大丈夫でしょうか」

「あの環境に身を置きながら今の様に育った姉上には要らぬ心配だとは思うが…」

 

一緒に居る時間が乏しかったためか、深真の事はよく分からないと言うのが現状である。

話題の転換に失敗した摩利の代わりに、真由美が元の話に戻したため、壬生紗耶香なる人物の話題へと移り変わって行った。

 

それで、深雪の気持ちが晴れることはなかった。

 

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