魔法科高校の禁書目録   作:何故か外れる音

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入学編 Ⅷ

 結論から言えば、深雪との仲直りは失敗した。

 

 何を言っているのか分からないだろうが、深真もまたよく理解していなかった。

 

 深雪の事を知ろうと会話をしたら、深雪の事を殆ど知らないという悲しい実情が深雪に知られた。

 それが原因で「お姉様の事はもう知りません!」と宣言されたのが、もう一週間前の事だ。

 エリカや美月、レオたちにも呆れられてしまっているが、深真は深雪の態度の原因が分からずにいる。

 

 お陰様で、継ぎ接ぎだらけの箱の上で寝て、一人で食事する日常を送っている。

 棚に設けられたスペースに器用に寝る上海の気持ちが分かった様な気がしたが、気のせいだと思いたい。

 達也から深雪が後悔しているという情報が入ってきているので、いつの日かまた仲直りできるだろうと考えている。

 

(私から動いた方がいいのでしょうか……)

 

 忘れてはいけないのが、深真の対人関係の乏しさ。

 どうしたらいいのかと答えの出ることのない迷路を一所懸命に彷徨っていた。

 

『全校生徒の皆さん!』

 

 放課後になり、達也たちE組メンバーと別れて帰ろうとした所、ハウリング寸前の音声がスピーカーから響いた。

 主にレオが騒ぎ他の面々に窘められている中、音声の主が名乗りを上げた。

 ボリュームの調整不足だったようで、今回はハウリングの恐れは感じさせない。

 

『僕たちは、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です』

 

 名乗りを聞いた時点で、さっさと帰ろうと判断した。

 先日の真夜からの電話に関する話だと分かってしまったからだ。

 

「私は先に失礼させていただきます。達也は風紀委員の仕事を頑張ってください」

「この状況で帰る選択を取れる深真の通常運転具合よ」

 

 レオが突っ込んだ通りだろう。

 近くに居る普段余り接する事のない他のE組メンバーがうんうんと頷いている。

 

『僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場での交渉を要求します』

「私には関係の無い話のようですので。それでは」

 

 有志同盟の目的を一応聞いて、深真はあっさりと切り捨てた。

 深真に、マジかとでも言うような視線が集まるも長く続くことはない。

 

 ほぼ時を同じくして達也に風紀委員から出動命令が出され、達也を応援する流れに変わったからだ。

 

 放送室に走って向かう達也を見送って、深真は校門に向かうのであった。

 

 

 ◇  ◇

 

 

 有志同盟による放送室の占拠騒動は目的を果たしたと言えた。

 

 過激的手段に出る有志同盟に思う所はあるが、真夜から注意されている以上放っておくに限るだろうと考えていたが甘かったようだ。

 

 今回の一件は学校側から生徒会に一任される事となった結果、()()、公開討論会が行われる事になった。

 全校生徒の約半分が集まった講堂の中に、深真の姿はあった。

 

 深真の近くに座っている生徒全員が赤と青で縁取られた白いリストバンドを身に付けているのは偶然ではないだろう。

 舞台袖にいる達也と深雪に視線を向ければ、心配そうな視線を頂いた。

 

 良くも悪くも目立っている司波兄妹の抑止とする目的だと考えられる。

 そしてそれは悪手ではないだろう。

 深真が超能力を持っておらず、達也の様な戦闘技術を身に付けていなければの話だが。

 

 現状を踏まえて考えてみると、達也と深雪の周囲の面々は深真の超能力について言いふらさなかった事になる。

 達也と深雪があまり言いふらさない様にと言っているのかは分からない。

 

 だが、その情報を持っていないが為に、一学期早々に魔法実習を居残りするほどの低水準の魔法力しか持たない生徒だと判断されたとなれば、現状は理解できるというものだ。

 あの兄妹と比べられれもすれば、尚更見劣りして見えた事だろう。

 

 魔法師の基準に照らし合わせれば、深真が不出来な姉と評価されるのはなんら不自然ではない。

 

 見当違いの考察を元に虎の尾を踏もうとする彼らに呆れながら舞台袖を見遣る。

 お姉様なんて知らない、なんて言っておきながら心配そうにしている深雪の姿が見えた。

 小さく手を振ってみると達也の後ろに隠れられる。

 妹が分からず、頭を悩ませていると深真に向けられた嘲笑が聞こえた。

 嫌われているとでも思われたのだろうか。

 

 そんな深真の状況は兎も角として、パネルディスカッション形式で進んでいた討論会は佳境を迎えていた。

 有志同盟側に具体的な改善案がなかったことが大きく影響し、生徒会を代表して討論会に一人で臨んだ真由美の演説会へと変わり始めていた。

 それは有志同盟側が劣勢になったのを意味しているのと同じ事。

 深真は精神感応(テレパス)系の能力を起用して、達也に一方的に話しかける。

 

『私の周りは気にしなくていいですよ』と。

 

 普段あまり驚きを見せない達也が突然の事に驚いて見せる。

 何事かと舞台袖が騒がしくなっている気もするが、気にしない方向で行く。

 精霊の眼(エレメンタル・サイト)でも使って状況を理解したのかこっちを見た達也と視線が交わる。

 

『他は任せます』と頷きながらそう伝えると、達也もまた頷いて了解の意を示す。

 風紀委員長の摩利といくらかやり取りした所、深真の周囲にも手を伸ばせる位置にいた風紀委員の配置が変わった。

 何といって説得したのか気になる所だが、それを盗み聞くことはしない。

 そして真由美の演説は終わりを告げる。

 

 生徒会に残っている一科と二科を差別する制度の撤廃を公約に掲げ、可能な限りの改善策に取り組む  真由美はそう宣言した。

 

 満場の拍手が起こった。

 それは同時に始まりの合図。

 

 深真の妄想ではなく、轟音が講堂の窓を震わせた。

 動員されていた風紀委員が同時に動き出し、各々がマークしていた有志同盟を拘束した。

 窓が破られ放り込まれた紡錘形の塊は、その役割を果たす事なくビデオディスクの巻き戻し映像の様に排除された。

 

 深真を包囲していた有志同盟の面々は深真を人質にせんと動き出す。

 だが、その目論見が叶うことはない。

 

 深真を中心として電気が半球を描いた。

 無関係の生徒を巻き込まない様、手前で止まったりして歪な形を描いていた。

 放電が止むと有志同盟の面々は戦闘不能となっている。

 

 状況を理解して応援に駆けつけようとした勇気のある面々が手持無沙汰になっていたので、申し訳なさそうに一礼しておく。

 

 講堂の出入り口が乱暴に開かれ、マスクを被った闖入者が姿を現した。

 が、段差に躓く様にして崩れ膝をつき、飛来した雷撃の槍に撃たれ外に弾き出された。

 膝をつかせたのは摩利の魔法で、雷撃の槍については言わずともいいだろう。

 

「では、俺は爆発のあった実技棟の方を見てきます」

「お兄様、お供します!」

「気を付けろよ!」

 

 そんなやり取りが前方から聞こえてきた。

 二人を送り出したのは摩利だ。

 走り去っていく二人の背を見送って、深真もまた講堂を後にしようとする。

 

「どこに行く気だ?」

 

 深真の背に声が掛かる。

 振り向いて声の主を確認すると摩利であった。

 

「混乱を抑えるためにこの場から動かないで欲しいのだがな」

 

 もっともらしい言い分だ。

 だが、その言葉に深真が従うことはない。

 

「摩利ッ!正門から更に敵が入ってくるわ」

 

 真由美の言葉に摩利の意識が逸れた。

 遠隔視の魔法を持っているのかと疑問に思いつつも、その一瞬を見逃す事をせず講堂の外に出た。

 

「あっ、おいっ!」

「正門の守護はお任せください」

 

 深真は一度だけ振り返り、そう告げた。

 あまり関わらない様に言い聞かされているが、そうは言っていられない。

 

 気になった深真も遠隔視系の超能力を使い敵影を確認した。

 彼らの手には凶悪な武器が握られていた。

 

 

 ◇  ◇

 

 

 今更だが、魔法科高校には、魔法実技の指導を行う為に魔法師が常駐している。

 最高レベルの魔法科高校と目される第一高校となれば、教師陣もまた一流ばかりだ。

 それ故に、第一高校は小国程度の軍隊なら単独で退けるだけの戦力を有していると言える。

 だが当然の様に、外部からの襲撃を想定はしていても予想はしていなかったようで、予想外といえる外部からの侵入・奇襲攻撃にしてやられているのが、今の第一高校である。

 

 学内に侵入済みの敵に対応を追われているのか、正門から入ってこようとする敵の前に一高の人間の姿はない。

 これだけの戦力を有している魔法科高校を襲撃するのにたったこれだけの戦力で乗り込んできたとは考えにくい。

 

 そもそも何故魔法科高校を襲撃するのかという話だが、この学校に置かれているモノが目的だと考えるのが筋だろう。

 例えば、この国の魔法研究の最先端情報。

 

 国力と魔法が密接に関係している現代だからこそ、その情報には相応の価値がある。

 

 学内の状況を見渡した深真は、対峙している工作員の応援部隊に目を向けた。

 

  ハイパワーライフル

 対魔法師用に開発された、障壁魔法などの対物理防御魔法を貫く性能をもつ凶悪な武器。

 

 それを手に握る指には、独特な指輪が嵌められているのを確認する。

 記憶を探れば、キャスト・ジャミング  魔法の発現を阻害するサイオンノイズを放つことのできるアンティナイト。

 存在をしって、真夜に欲しいとせがんだが断られてしまったモノ。

 

(欲しい…あれ。一個ぐらい無くなっててもバレないよね…?)

 

 指が見える人間全員が身に付けているが、流石に全員が付けている事はないだろう。

 

 物欲が故に、超電磁砲(レールガン)天衣装着(ランペイジドレス)を採用し、深真は一直線に彼らの先端に突っ込んだ。

 常人からは到底想像できない速度で突っ込んだ深真が拳を突き出す。

 

「フッッ!!」

 

 大型トレーラーの衝突を凌駕する破壊力を持つ拳打が、一人の工作員を襲った。

 到底人と人がぶつかる事で響くことのない音が響き渡る。

 

 殴り飛ばすついでにサイドアームとして装備していたのだろう拳銃を抜き取っておく。

 金属製のアンティナイトは磁力を利用して指から引っこ抜く。

 

 対魔法師戦闘の経験があるのか、彼らはキャスト・ジャミングを我先にと深真に放つ。

 残念だが、深真にそのサイオンの波が届くことは無い。

 指輪を突き出すようにして固まってくれた事をいい様に、深真は奴らの物騒な玩具を壊すべく銃弾をバラまいた。

 

 と言ってもバラまける数は限られており、壊す事に成功したハイパワーライフルは七丁。

 

「このッアマァッ!!」

 

 悪手を選択したことを理解した工作員が何やら喚きながら殴り掛かってくるのを、使い物にならなくなった拳銃を投げつけることで退治する。

 常軌を逸した身体能力から放たれたその投擲で頭が割れた様に見えた。

 

(加減を失敗した…?)

 

 殺してしまうと別の問題が発生してしまう為、深真は殺してしまったかと動きを止めてしまった。

 

 ズドンッと重たい音が響いた。

 

 放たれた銃弾が深真の身体を貫く姿を、彼は幻視した事だろう。

 だが、現実は違った。

 

 深真の身体を貫くはずの銃弾が、跳ね返る様にしてハイパワーライフルの銃口に吸い込まれ、そして暴発した。

 一方通行(アクセラレータ)ではない。

 

  銃弾返し(カタパルト)

 銃弾の速度とほぼ同じ速度で、相手の銃撃による銃弾を右手に挟み込んでそのまま180度お返しする、某武偵が使用した技。

 

 ナンバーセブンや天衣装着(ランペイジドレス)といった超人的な身体能力有りきでしか模倣できない技が決まり、深真は笑みを浮かべた。

 ヒトの腕を吹き飛ばすような爆発を引き起こした人間が浮かべる笑みは、それは恐ろしく映ったことだろう。

 その笑みに、硬直した一瞬を狙い撃ちされた事への驚きが含まれていると気付くことはない。

 

 手近な所に居た工作員を殴り飛ばして、次はライフルを奪いとる。

 

(間違っても、殺してはいけない……面倒になるし)

 

 制限を再確認した深真は、間違って頭を撃ち抜かない為に距離を取る。

 

「撃てェ!撃てェッ!!!」

 

 誰が発したのかまでは分からない。

 だが、目の前の白髪赤目の悪魔を討伐するためには必要な行為だと工作員たちが判断するのは至極当然。

 

 深真が奪ったライフルを構えるのと、彼らが深真に照準を合わせるのはほぼ同時。

 一丁のライフルと数多のライフル。

 射線が通っていないモノを数に加えないとしても、深真がハチの巣もとい粉々に砕け散る未来が見えた事だろう。

 

 だが、またしてもそれは夢幻へと消える。

 

  銃弾弾き(ビリヤード)

 飛来した銃弾に自分の放った銃弾をぶつけることで逸らす技。

 これもまた変た…某武偵が使った技。

 

 深真に当たるはずの銃弾は火花を散らしながら逸らされ、一つも当たる事なく地に落ちる。

 超絶技巧と呼ぶべき技だが、深真の場合一方通行(アクセラレータ)という防御壁に守られている以上、失敗したとしても着弾地点は相手の肉体だ。

 深真の放った弾丸は何の因果か、ハイパワーライフルに着弾して見せる。

 

「冗談だろッ!?バケモンがッ!」

 

 深真の事情など分かるはずもない奴らからすれば、文字通りの化物として目に映っているのだろう。

 魔法らしき魔法を使っている様には見えず、ただただ技量だけで圧倒されているのだから。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」

 

 深真はどこぞのバーサーカーを思い出させる様な叫び声を上げる。

 特に理由はない。

 強いて言うなら、気合を入れる為に叫んだだけである。

 

 叫ぶと同時に深真は放電した。

 放たれた雷は深真の近くにいた工作員を飲み込む。

 

 それは一瞬の事で、黒焦げに近しい状態で倒れ伏した工作員の姿が現れる。

 よくよく見ると今の雷撃でライフル類も破壊尽くされているように見える。

 

 距離の関係から、深真の放電を逃れた後方の工作員たちが雄叫びを上げながらライフルを深真に向ける。

 だが、深真の放った雷撃の槍が着弾し、銃の担い手は次から次へと崩れ落ちていく。

 

 気が付けば、近接武器を手に握る工作員だけが深真と対峙していた。

 

「深真さんっ!!」

 

 講堂の方はいいのだろうかと思いながら、声の主を確認する。

 ハイパワーライフルの独特の音を聞きつけたか、自分の放電に反応したのか。

 そこまで考えて、この人は遠隔視系の魔法を持っていた事を思い出した。

 

 応援に駆けつけてくれたのだろう真由美に手を振って感謝の意図を伝える。

 

「危ないッ!!」

 

 真由美がCADを構えながらそう叫んだ。

 位置関係的に、深真の後方。

 装備は棒かナイフといったところ。

 

 動物に好かれることを犠牲にした超電磁砲(レールガン)の感知能力を舐めてはいけない。

 だが、深真が手を下すことなく脅威は排除された。

 

 曲がり形にも生徒会長、七草の令嬢といった所だろう。

 

「……これ一人でやったの?」

 

 唖然としているような空気を醸しているが、真由美の魔法は敵に照準されている。

 

「達也にも同じことができますよ」

 

 本当にできるかは知らないが、そんな法螺を吹きながら工作員の獲物を確認する。

 厄介な武器を仕込んでいる様な者は見受けられない。

 

 深真に支援者が現れたとて、深真の様な近接能力を有しているようには見えない。

 工作員が二つに分かれたのは当然か。

 

「きゃあっ!??」

 

 魔法を妨害する不快なノイズが真由美を襲った。

 それは、達也の様にノイズ構造を分解したり深真のようにサイオン波を反射できない者にとって致命的な一打となる。

 何をしに来たんだろうとか思ってはいけない。

 

「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 キャスト・ジャミングが深真の謎の咆哮にかき消された。

 そんな錯覚を覚えたのも一瞬の事、最短距離を最速で詰めて突き出されたストレートが工作員を一人戦闘不能にする。

 吹き飛ばされたのはキャスト・ジャミングを実行した工作員だ。

 

 人数割合で言えば、深真と対峙していた人間が多いにも関わらず、棒立ちしていた工作員が真っ先に狙われてしまった。

 余りある威力に宙を舞う工作員を尻目に、次の工作員の元へ移動する。

 

 だが、その道を邪魔をする様に、深真を包囲する者達が現れる。

 

 となれば、深真が取れる選択肢は一つだ。

 

神の裁き(エルトール)ッ!!」

 

 相手を殺すことはない手心がたぶんに加えられた雷撃が空から地に落とされた。

 犠牲となったのは、キャスト・ジャミングをするために棒立ちとなっていた部隊だ。

 座標が動かないが為に、狙いやすいというモノ。

 

「ひとぉつ…!」

 

 先の雷撃で理性を取り戻したかの様に数を数えながら工作員を殴り飛ばした。

 忍びの掟など無いので、それを口にすることは無い。

 

 ふたぁぁつ、みいぃっつと数えながら手近な所を文字通り殴り飛ばしていく。

 殴りに行くのも面倒に感じる距離感を保っていた彼らには真由美の魔法が襲い掛かっている。

 

 ナイフを振り下ろしてきた工作員に葦名流ダイソンをお見舞いしたりもする。

 それから投げ技の練習が始まったりもしたが、二人を止めることのできる工作員は存在しなかった。

 

「こういった事を聞くのはマナー違反だとは思いますが、聞いてもいいですか?」

「なんでしょう?」

 

 敵を掃討し終えると、真由美が問いかけてきた。

 何となく予想はできるが、一応答えておこうというスタンスを取る。

 

「深真さんの超能力は……」

「能力名『超電磁砲(レールガン)』。電撃系最強の能力です」

「レールガン…って…。それに最強を自称するのね」

 

 言い淀んだ真由美に聞きたかったのであろう答えを提示すると苦笑しながらそう返された。

 

「レールガンって物体をローレンツ力で加速して射出する装置のことじゃなかった??」

 

 引っかかったのだろうか、真由美が更に問いかけてきた。

 何故、その名前を名乗っているのか気になったといった所だろうか。

 どう答えようか悩んでいた所、ちょうどいい的が姿を現した。

 

「なにっ!?」

「考えてみれば、彼らを運んだ車両が待機していても可笑しくはなかったですね」

 

 トラックの運転席に座っている男の恰好はここで伸びている工作員と同じものだ。

 もしかしたら、一足先に撤退していた男が自暴自棄になって突っ込んできたのかもしれない。

 

 理由が何であれ、都合の良いタイミングで都合の良い的が現れたのは確かな事だ。

 

「面白いモノを見せてあげましょう。能力名の由来となったその理由を」

 

 深真は懐からアンティナイトの指輪を取り出した。

 本当はこのまま貰っておきたいところだが、代わりの弾を保有していない。

 

「深真さんそれをどこから?」

「工作員の人から貰いました」

 

 一方的に貰ったとも言えなくもないので嘘は言っていないはずだ。

 真由美から白々しいとでも言いたげな視線を頂きつつ、深真は指輪を宙に放る。

 

 放物線を描いた指輪が、突き出された深真の手の先端に届き、そして。

 

 青白い光がトラックを貫いた。

 

 

 

 トラックの運転席に座っていた男は無事であった。

 転がり落ちてきた所を雷撃で撃ち抜かれたのを無事と言っていいのかは疑問ではあるが。

 

「深真さん、何をしているのですか?」

 

 手近な所にいる工作員の手に嵌められた指輪を回収しようとしていると真由美に声を掛けられた。

 何も反応せずに指輪を回収してもいいのだが、肩に置かれた手の握り具合とその声音から、そうすることを躊躇わせた。

 振り向いてみると、若干の青筋を立てた真由美の姿がそこにはあった。

 

「アンティナイトは高級品であると同時に軍事物資です。そして、ここにあるのは重要な資料でもあります」

「貰っちゃダメ…?」

「ふふふっ……駄目です」

 

 余程欲しかったのか退行してみせた深真に笑いを隠せなかったようだ。

 それでも、深真の要求を呑む事はなかった。

 

 

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